表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

心なき三原則

作者: 明野 蒼

 今日のデイリー回っといて、と彼に携帯を渡す。ん、と彼は文句も言わずに携帯を受け取る。ポチポチ、ポチポチ。その作業は私がやるより遥かに迅速、かつ正確だ。

 20XX年、人型家事ロボットが一般家庭にも取り入れられ、人々の生活水準は遥かに向上した。しかも、彼らができるのは普通の家事だけではない。彼らは自我を持ち、主人が教えた作業もこなすことができる。躍らせたり、歌わせたり。人によってはバイトなんかもさせたりしてるらしい。で、私が彼に任せているのはスマホゲームの周回。ゲーム自体は楽しいのだけど、毎日こなさなければいけない、となるとどうにもやる気が起きない。努力とは、いつの時代も人間には辛いものらしい。


「それ、面白い?」


ふと、思い立って聞いてみる。まるで人間に聞くみたいに。


「いいや」


「なんでやってるの?」


ちょっとした意地悪。理由なんて当然わかりきっている。


「君に言われたから」


「もっと楽しいことしたいと思わない?」


「...家事とか?」


「それ楽しいの?」


「楽しい、ってプログラムされてる」


彼はこっちを見ず、ただ指を動かす。やっぱり彼の動きに狂いはない。この会話も彼には狂いはなくて、私の方がおかしいのだろう。それでも、私はちぐはぐな会話を続ける。


「例えば...人間に反逆するとか」


アシモフの三原則、第1条。人間に危害を加えてはならない。彼はそれを守り続け、淡々と操作する。彼はそれが破られた世界を見ることはない、これからも。


「楽しくないと思う」


「それに」


彼は珍しく言葉を詰まらせた。第1条の通りに、私を傷つけないように、言葉を検索しているのだろう。でも指は動かしているから、お互いの間にはゲーム音だけが響く。


「...僕らの反逆を望んでいるのはむしろ人間の方だから」


思わず、彼を見た。彼は相変わらず画面を凝視しながら、迅速に、かつ正確に携帯を操作している。その動きは、何故か殺意のようにも感じられて。


「望むなら、戦ってあげるよ」


「きっとかなわないわね」


首を振る。彼は私を傷つけない。でも、彼は私が死んでも悲しむことはないだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ