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120センチの彼女  作者: 翼 くるみ
Ⅰ.手紙
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5.コイツのせい

宮原春が、手紙を書くのを手伝ってやると、言ったので、共に図書館に来た花咲姫子。

しかし、彼のせいで、彼女は色々と思い出し、思わず声を荒げてしまうのだった。


花咲姫子は、そんな自分を責めてしまう。


 なんでこんな事になったのだろうか。


 私の目の前には、机を挟んで宮原が座っている。その眉間にはシワが寄っており、いつもと違って、真剣な表情をしていた。時折、「うーん」とか「むむむ」とか、妙な声を発しているが、良案が浮かばないのか、頭を抱えた。


「ダメだ。思い浮かばねぇ」


 重たい溜息と共に、ようやく発せられた言葉はそれだった。

 私も一応考えている振りをして、頬杖をつきながら、クルリとペンを回した。

 思い起こせば、数日前のあの放課後の出来事が発端だ。


*・∵・∴・∵・*・∴・∵・*・∵・∵・*・∴・∵・


 水樹君が部活に行くと言い、その背中を見送った後、ミルクティーの缶を投げつけた私に宮原は、何かをひらめいたかのように、目を輝かせながら言った。


「手伝ってやるよ」

「何を?」


 宮原の意味不明な発言に、投げつけた缶の当たり所が悪くて、彼の頭が変になってしまったのではないかと少し心配したが、元々、彼の思考はおかしかった。


「書くの。水樹にラブレター書くんだろ?」


 なんだ。それのことか。てゆうか、あれはラブレターじゃない。ただの手紙だ。


「ラブレターじゃないし!」


 私が、慌てて反論すると、宮原は急に真面目な顔になった。


「じゃあ、恋文?」

「一緒だ。バカ!」


 宮原の発言は、わざと言っているのか、真面目に言っているのか分からない。

 やっぱり頭が変になってしまったんじゃないかって思ってしまう。だけど、天然ボケをかます所は、いかにも鈍感な宮原らしくて、私は思わず笑ってしまった。


「・・・ふふ」


 しかし、普段は鈍感な宮原は、余計なことには気付くらしく、身体を屈めて、小さく笑った私の顔を覗き込んできた。


「何、笑ってんの?」


 不意に近づけられた宮原の顔がすぐ傍にあり、温かな息遣いが感じられた。そして、その至近距離で見る彼の切れ目は、その奥で若々しく、素直な瞳が輝いており、とても綺麗だった。


「・・・・綺麗」


 思わず、言葉が漏れた。


 しかし、そういう大事な言葉は宮原には聞こえないらしい。


「えっ?何?」


 宮原はそう言い、更に顔を寄せてきた。


 そのときようやく、私の中に恥ずかしさが込み上げてきて、赤くなった自分の顔を見られまいと、私はすぐ傍にあった彼の頬を容赦なく叩き、激しく言葉を投げつけた。


「近い!バカ!」


 別に嫌だったわけではない。


 余りにも近くにいると、私の想いが宮原に伝わってしまうのではないかと、怖かっただけだ。そして、叩かれた頬を抑え、痛がっている彼を見ると、後悔する。


 そんなつもりじゃなかったのに、と。


 私の胸がチクリと痛んだ。


 宮原は、頬を抑えつつ、体を起こすと、痛みが引き切る前に口を開いた。


「あのさ、今度の休み暇?」

「別に何もないけど」

「じゃあさ、手紙、一緒に書こうぜ」


*・∵・∴・∵・*・∴・∵・*・∵・∵・*・∴・∵・


 あの言葉に私は何と返したのだろうか。


 今、こうして彼が目の前にいるという事は、イエスと答えたのだろうが、私は浮かれていたのか、よく覚えていない。


 ふと、宮原の顔を見てみる。

 頬の痛みはとうに癒えたのだろう。血色の良い肌艶をしているが、赤くはない。

 

 すると、私の視線に気付いた宮原は、机の上に置かれていた白紙の手紙から視線を外すと、チラリと私を見た。

 一瞬、目が合い、私は慌てて目を反らした。そんな私に宮原は、声をかける。


「あのさ———」


 さすがに慌てて目を反らせるのは、不自然だっただろうか。

 私は、宮原が何を思ったのか心配になった。

 しかし、彼の口から発せられた言葉に、私は拍子抜けした。


「なんで、制服?」

「は?」

「いや、今日は休みだろ。普通、私服じゃね?」


 心配をしていた自分の方がバカなんじゃないかと思ってしまう。そして、そんな宮原の発言によって、私は忘れかけていた昨夜の出来事も思い出してしまった。


*・∵・∴・∵・*・∴・∵・*・∵・∵・*・∴・∵・


 夜寝る頃になって、私は、当日に着ていく服を決めていない事に気が付いた。

 私はベッドから転がるように降りると、床を這ってクローゼットのところまで移動した。それから、腕を使い、両脚を伸ばすと、床に足を投げ出した形で座り、クローゼットを開けた。


 白のTシャツ、灰色のパーカー、紺のカーディガン、黒のパンツ、ストレッチジーンズ・・・・・。


 私のクローゼットの中身は、動きやすさと着やすさだけを重視された地味な服しかなかった。とても女子高生のクローゼットとは思えない。


 明日は、駅前の図書館に行く予定になっているので、それほど派手な服は着ていけないが、これでは余りにも地味すぎる。

 かといって、今から買いに行くには時間が遅いし、そもそも私一人では、外出することもままならない。事情を知られたくないので、母に頼むわけにもいかないし、どうしよう・・・。


 私はクローゼットを開け放ったまま、しばらく黙考すると、とある考えに辿り着いた。そして、私はその考えを知らずのうちに、口走っていた。


「なんで、こんなことで私が悩む必要があるの?これじゃあ、まるで私がアイツの事を———」


 途中で、自分がとんでもない事を言おうとしていた事に気付き、私は慌てて口を噤んだ。

 しかし、その後に続く言葉は、私の頭のなかに浮かんできて、顔が熱くなった。

 私は何度もかぶりを振って、その言葉を振り払おうとした。しかし、しっかりと頭のなかに貼り付いた言葉は、どうしても離れてくれない。

 

 私は服選びを中断し、再び床を這って、ベッドへと転がり込むと、頭まで布団をかぶって、目を閉じた。

 

 よし、寝よう。もう、寝ちゃおう。何も考えずに寝ちゃおう。

 

 だが、そう上手くいくはずもなく、目を閉じると、頭の中の言葉はより存在感を増し、私を優しくいじめてくるのだった。


 あーん、もう。全部アイツのせいだ!


*・∵・∴・∵・*・∴・∵・*・∵・∵・*・∴・∵・


「おーい、聞いてるのか?」


 無反応の私に、宮原は周囲に気を遣いつつも、少しだけ声量を上げた。それによって、私は昨晩の回想から引き戻されたのだが、


 まるで私がアイツの事を———。


 同時に、その後に続く言葉も蘇ってしまった。加えて、当の本人である「アイツ」を目の前にすると、その言葉に現実味が帯びて、私の体温を上昇させた。


 無言のまま耳まで赤くなった私に、宮原は優しくも鈍感に、心配そうな顔を向けた。


「おい、大丈夫か。気分でも悪くなったのか?」


 しかし、そんな気遣いは無用だと言わんばかりに、私は声を荒げた。


「うっさい!話しかけんな。バカ!」


 別に宮原に腹が立った訳ではない。私は自分の想いを誤魔化したかっただけだ。


 私はいつも思う。一人では何もできない自分が人を想っていいのだろうかと。

 そう思うと、募る気持ちやそれを表す言葉が怖くなってしまう。


「おい、花咲」


 宮原が小さな声で私を呼んだ。初めは、怒った私をなだめようとしているのかと思ったが、周囲に本の擦れる音だけが響いている事に気付き、私はここが図書館である事を思い出した。そして、慌てて両手で口を塞いだのは、すでに周囲からの注目と迷惑そうな視線を浴びてからだった。


 私は謝罪の意を示すため、ペコペコと四方へ頭を下げた。少し離れた人たちには、立ち上がれない私の代わりに宮原がペコペコと頭を下げた。


 ホント、全部、コイツのせい・・・・じゃない。

 

 ホントは不器用な私のせい。

☆くるみのつぶやき☆


さて、花咲はバカって、何回言ったのでしょうか・・・・('ω')?


不器用な花咲ですが、なんとなく共感できる部分もあるなぁ、と思って書きました。


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