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ただの、二人の、物語。

作者: トーキョー・イケダ



ここは小高い丘の上。俺たちの控えめな街が一望できる。

ほんとによくこんな場所見つけたなと思う。

この場所には俺たちしかいないといっても長居は出来ない。



「次はいつ来れるかな」



俺のつぶやきを心地よい風たちがさらっていく。









それはきっと、運命であったと思いたい。

少なからず俺はそう信じている。



五月、クラスの立ち位置的なものもだいたい決まって皆それぞれの居場所を確保する。

俺はその戦いに成功し、それなりというか、かなり楽しい高校生活を送っていた。

中学生の時も別に悪くはなかったけど、高校は良い。そう断言出来た。



そして席替え、周りのみんなは楽しみにしていたようだったが、俺は正直嫌だった。

周辺の男子と普通に会話もできるようになって、趣味が合う人もいて。

それが崩されると思うと嫌だった。



結果は一番窓側の席の後ろから二番目。

隣には、話したことのない女子。

でも、周りには喋れる男子もちらほらいて、まあ結果として良かった。



隣女子の名前は藤原さん。藤原さとみさん。

藤原さんはそんなに積極的に話すタイプではないと思っていたのだが、割と話しかけてくる。こちらに目を合わせてくれることは無いのだが...。



それからしばらく経った。

相変わらず、藤原さんは何かと話しかけてくる。最近は目を見て話そうと努力しているようだ。



五月の終盤、その日は雨が降っていた。

朝から雨は降っていなかったので俺は傘を忘れてしまった。

昇降口でどうしようか迷っていると、藤原さんがやってきた。

藤原さんは何も言わずに俺に傘を渡し、走り去っていってしまった。

俺は唖然として、何も言うことが出来なかった。

その日は藤原さんの傘を使って帰った。



六月に入った。

藤原さんと連絡先を交換した。

藤原さんの顔は真っ赤に染まっていた。



ここまでくれば流石に俺でもわかる。

彼女は俺に好意を持ってくれている。

俺は素直に嬉しかった。



それから少し経ち、再び席替えがあった。

藤原さんとは離れることになった。

そのため藤原さんと話す機会は少なくなったが、ないわけではない。



七月、文化祭の実行委員を決める話し合いが行われた。

男子は推薦によりなぜか俺に。

女子のほうは立候補した藤原さんに決まった。



それからまた藤原さんと話す機会が増えた。

このころになると俺も藤原さんと話すときに気を遣うことは無かった。

藤原さんも目を合わせてくれる。たまにだが。



それから夏休みに入った。

藤原さんと会うことは無かったが、連絡は取りあった。

文化祭の話をしたり、学校の話をしたり、他愛もない話をしたり。



夏休みの終わりが近づいたころ、地元の夏祭りが行われた。

藤原さんから誘いがあった。

だけど、親戚の集まりがあり、断った。

申し訳なかった。



九月、学校が再開した。

久しぶりに藤原さんに会った。

少しどことなく元気がないように思えた。

この前、誘いを断ったからだろうか。



しばらく経った。

やはり藤原さんの様子は少し変だ。

謝ったほうがいいのかもしれない。



十月に入り、二週間ほど経った。

その日、俺は藤原さんから呼び出しを食らった。

よし、いい機会だ。しっかり謝っておこう。わだかまりはなるべく早く無くしたい。



放課後、屋上に向かった。

既に藤原さんはいた。

俺は早く謝りたかった。

だけど、二人で向かい合って、沈黙が続く。

なかなか切り出せないでいると...。



藤原さんから告白された。

最初は何が起ったのかわからなかった。

俺はその告白を承諾した。

良かった。藤原さんは怒っていたわけではなかったらしい。

こうして俺は、藤原さんと付き合うことになった。



学校での生活はたいして変わらなかった。

ただ、たまに一緒に帰るようになった。

藤原さんは、前にも増して、よく話してくれる。



十一月、文化祭の本番があった。

うちのクラスでは、チョコバナナを販売した。

実行委員だったのでほとんど店にいたので文化祭を回ることは無かった。



なんとか文化祭は問題なく終わった。

その日、藤原さんと一緒に帰った。

きっかけは忘れたが、二人で写真を撮った。



一週間が経ち、その週末、藤原さんと出かけることになった。

文化祭の打ち上げというかデートだ。

藤原さんはなんとかデートという言葉を出さないように頑張っていた。

情けないが、プランは全部藤原さんが考えてくれた。

前日の夜にいろいろと調べてくれたらしい。

おかげさまでとても楽しかった。



十二月に入った。

だいぶ冷え込んできた。

藤原さんは寒いのが苦手らしい。

このころから俺と藤原さんが付き合ってるのを周りが知り始めた。



クリスマスがやってきた。

お互いにプレゼントを交換し合った。

俺は藤原さんにネックレスを。

藤原さんはニット帽と手袋をくれた。



冬休みに入り、正月。

藤原さんと一緒にお参りに行った。

藤原さんにもらったニット帽と手袋をはめていくと、藤原さんは喜んでいた。



家に帰ると、藤原さんから年賀状が届いていた。

イラストまで描いてありすごかった。

俺が送った年賀状はかなり物足りなかったかもしれない。



一月下旬、藤原さんと遊園地にいった。

藤原さんは絶叫系やお化け屋敷などは苦手らしくちょっと疲れていた。

でもとても楽しかったらしい。



二月、バレンタインデーが訪れた。

藤原さんから朝、チョコをもらった。

目にクマができていた。

夜遅くまで頑張ってくれたのだろう。

とてもおいしかった。






もうすぐ高校一年生が終わるそんなころ。

俺は幸せすぎたのかもしれない。






藤原さんが事故にあった。

トラックの衝突事故に巻き込まれた。

俺は病院に向かった。



藤原さんは意識不明の重体だった。

藤原さんの両親と初めて会った。

情けない顔を見せたと思う。



俺は一日中病院にいたが、藤原さんの意識が戻ることは無かった。



藤原さんの両親に勧められ、俺は自宅に戻った。







それから、三日たった。







藤原さんは亡くなった。







俺はどうすることもできず、自分の部屋に閉じこもっていた。






何も考えることが出来ることが出来ない。

そんな日々が一週間ほど続いた。








一週間がたち、藤原さんのお母さんから封筒が届いた。

その中には、写真と手紙が入っていた。

写真は文化祭の時に撮ったものだった。

手紙の内容は...




〇〇〇〇様へ


短い時間だったかもしれませんが、娘と一緒に過ごしてくれてありがとう。

あなたと娘がどう過ごし、どんな日々を送ったのかは詳しくわかりませんが、娘は幸せそうでした。

高校に入ってからはずっと楽しそうでした。十月ごろになるとずっと、ニコニコしていて、十一月の文化祭が終わると、その写真を見てずっとニヤニヤしていました。彼女は私たちの前でも幸せそうでした。

その原因は恐らくあなたです。娘がこうして亡くなってしまったのは非常に残念です。

しかし、あなたは娘だけでなく、私達にまでも幸せを与えてくれた。本当にありがとう。

あなたは娘のためにも前を向いて歩いてください。




という短いものだった。




俺は何もしていない。

幸せをもらったのは俺のほうだ。

彼女が幸せをくれた。





俺は、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いた。












俺は、藤原さんのお母さんにお墓の場所を教えてもらい、毎月ここにきている。



お墓を軽く掃除して、花を活ける。

そして街を一望する。


俺は藤原さんにさよならをいってお墓をあとにした。





最後まで読んでいただきありがとうございます

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