番外編 涙の代わりに、汗を流して
「ハァアッ!」
私の気勢が奔り、突き出した拳が空を裂く。この静かな道場には今、私の吐息しか耳に入らない。
息を切らし、汗が肌を通じて足元に滴るまで。私は――獅乃咲葵は、ここで型稽古を繰り返している。
「は、はぁ、はぁっ……」
それは精神統一だとか、鍛錬だとか、そんな高尚な理由によるものではない。
亜麻色の髪の毛先から、この細い手足から、頬から。絶えず汗を撒き散らし、私は突きや蹴りを放っているが――この心はいつも、ここではないどこかへと向かっている。
なんのことはない。ただ私は寂しくて、不安なのだ。
地球守備軍の名門たる獅乃咲家の子女でありながら――私は、許婚である殿方が戦場に赴く中、こうして道場で汗を流している。まるで、涙の代わりであるかのように。
私の許婚である日向威流様は、毎日のように宇宙を駆け抜け、凶悪な怪獣と戦い続けている。だが、16歳にも満たない私には、彼と共に戦う資格がなかった。
だから私は愛しい人が戦地に赴く中、ただこうして帰りを待つことしかできないのだ。
しかも彼は……英雄と称されるほどの活躍を繰り返している。それはつまり、英雄になってしまうほどの死地に立たされ続けているということに他ならない。
彼はいつも、何事もなかったかのように笑顔で帰ってくるけれど。
その裏にある苦しさが、分からない私ではない。彼は私を、そんなことも分からない子供だと思っている。
だから彼が出撃していく度、帰りを待つ私は……居ても立っても居られず、こうして屋敷の道場で汗を流しているのだ。
自分を押し潰す不安に、屈しない為に。
「……っ」
だが、最近はこうして型稽古に明け暮れるのも辛くなってきた。……胸が、きついのだ。
私が稽古着の胸元を僅かに開くと、封じられていた熱気がむわっと溢れ出し……今にも溢れてしまいそうな双丘が覗いてきた。しとどに汗ばんだ私の谷間には、滴る汗が地上を目指して集まっている。
……動く度に揺れて邪魔になるから、先程晒を強く巻いたばかりだというのに。私は昔から身長に対して、この辺りの発育が早すぎるきらいがあったのだが――威流様は、どんな胸がお好みだろうか。
「……っ!」
よりにもよって、神聖なる獅乃咲家の道場でそんな考えが過った自分を恥じて――私は胸元を直すと、身を清めるべく浴場へ向かった。
でもやっぱり……気になってしまう。認めたくはないけれど、それでもやはり……私はまだ、「子供」だから。
久々の更新! ……を、兼ねての続編のお知らせです(笑
来週からは、ド直球で王道なスーパーロボットもの「地底戦兵ジャイガリンG」をお送りします。
本作「赤き巨星のタイタノア」の世界観を引き継いだロボものであり、多数の作品ともコラボするお祭り的な作品となっております!(^^)
威流達の後を継ぐ新たなロボットヒーローものが、次週からいよいよ発進です。今後とも、拙作をチラ読みして頂けると幸いです!(^^)
ではでは、失礼しましたっ!٩( 'ω' )و




