母親として…… アークライト目線
ご心配をお掛けして申し訳ございません。
応援してくださった皆様のためにも、頑張っていこうと思っています!
マクス氏を城で見かけたのは偶然だった。
父である宰相の部屋に向かう途中で父の部屋から出てきたマクス氏を見かけたのだ。
「マクス氏」
僕の言葉に彼はゆっくりと振り返った。
僕よりも少しだけ目線が上の彼が小動物に見えるなんて小鳥の目はどうかしている。
「………何でしょうか?」
「貴女が小鳥を特別に思っていると言うのは本当ですか?」
「………それが何か?」
マクス氏に警戒した獣のような目で睨まれた。
やはりお互いに小鳥想い、手に入れたいと思っている相手は解るのだろう。
「最近小鳥に告白されてね」
マクス氏の顔色が青くなったのが解った。
苛めては小鳥に怒られてしまうか?
「愛の、ではないです」
「………それで?」
「正直に言うと僕はフラれたんです小鳥に」
「………」
マクス氏は複雑そうな顔をした。
喜んで良いのか、喜んではいけないのか解らないのだろう。
「それは置いておいて、小鳥にキスしたって言うのは本当ですか?」
「小鳥様が言ったのですか?」
「いいえ」
マクス氏は呆然とした顔だ。
「小鳥はきっと貴方が好きだ」
「えっ?」
「だが、貴方が小鳥に下手なスキンシップなんかしたから解らなくなっている」
「………」
「僕はそれにつけこんでも良いだろうか?」
マクス氏は無表情のまま僕に近づいてきた。
「小鳥様は苦しんでしまってるんですか?」
苦しんでる?
「自分のせいで小鳥様が苦しんでいるのであれば、記憶を消すことも考えなければいけない」
マクス氏は今にも倒れてしまいそうな顔をして辛そうにそう言った。
ああ、後悔しているんだ。
小鳥のためなら記憶を消すことも考えるんだこの男は。
「マクス氏、貴方は小鳥の幸せを第一に考えるの事ができますか?」
「それは勿論」
「それが聞けて良かった」
僕が一人で納得していると、背後から足音が近づいてくるのが解った。
振り返れば、小鳥が走って来るのが見えた。
城の中を爆走する小鳥は珍しい。
「アーク様、助けて!」
小鳥は慌てて僕の腕に抱きついた。
男ではなくて母親だと、こんなことまでしてくれるのか?
「ハニー、何で逃げるの?」
「東雲さんが抱き付いて来るから!」
小鳥はつかまった手をギュッと強く力を込めた。
「だからってライバルにしがみつく事なくない?泣いちゃうよ俺」
「泣いても可愛くないから!」
小鳥の好みの基準は可愛いなんだと最近気がついた。
背後に居るマクス氏がかなり驚いた顔をしていることを小鳥は気が付いていないだろう。
「君は小鳥に触りすぎだ」
「あんたには関係無い!俺のハニーを返してくんない?」
「君のじゃない」
まあ、僕のでもないがね。
「浮気だ!」
「付き合ってないし!」
「何で!こんなに愛してるのに」
小鳥は僕から離れると真顔でいい放った。
「ごめん。眼中にない」
あっ、ああ、小鳥はこんなにも簡単に人をフルのか。
何だか、悩んでくれただけでも特別扱いされていたんだと解って優越感が浮かぶ。
「そりゃないよハニー!」
「ハニーじゃ無いから!それに、東雲さん顔は良いからモテるでしょ!」
「強い女が好きなの!」
「お母さんは?」
「怖い」
「矛盾!」
「小鳥が良いの!もう風呂をのぞこうとしないから!」
その時、背後から殺気が立ち上がった。
小鳥も殺気に気がついて僕の後ろに居るマクス氏を見た。
「マクスさん?」
「その人は危険なので排除します」
マクス氏の手がバリバリと音をたてて稲妻をまとった。
あれ、くらったら死ぬな。
「ま、マクスさん落ち着いて!」
小鳥は躊躇わずにマクス氏に抱きついた。
僕は腕にしか、しがみついてくれないのにマクス氏には躊躇いもしないで抱きつくんだな。
「マクスさん!」
「小鳥様は自分が守ります」
「大丈夫!家の結界は最強ですから!」
マクス氏も稲妻が小鳥に当たらないように腕を高々と上げている。
ああ、想いあっている。
僕は思わず笑ってしまった。
「アーク様?」
「小鳥、マクス氏の好きなようにやらせてあげなさい」
「無責任!鬼エルフ!」
「怒っても良いんですよ」
「ごめんなさい!」
小鳥は慌ててマクス氏から離れて僕に近づいてきた。
そんな僕と小鳥に、マクス氏が不思議そうに僕を見た。
僕は笑顔を作った。
「貴方方は国の中でも力のある実力者だ。共倒れしてくれれば僕も小鳥を手放さなくてすむからね」
僕の言葉に東雲氏が顔をひきつらせた。
「もう相手が居るのかよ!小鳥の馬鹿!泣いちゃうからな!」
小鳥が反論しようとするのを口を押さえて止めると僕は東雲氏に笑顔で言った。
「強い女性が好きなら小鳥ほどでなくても居るよ。紹介してあげよう」
「はぁ?」
「大丈夫。エルフは美人ぞろいだから」
「………ボッキュボンを要求する!」
「解ったよ」
東雲氏はニシシッっと笑うと姿を消した。
「私は鬼エルフのものじゃないよ」
「母親扱いしたのは君でしょう。お母さんはあんなチャラい男は許しません」
「………はーいママ」
僕と小鳥は同時に吹き出した。
殺気をおさえたマクス氏はやはり不思議そうに僕らを見ていた。
「小鳥様……」
「ああ、ごめんなさいマクスさん。私のために怒ってくれてありがとうございます。でも、お父さんが簡単にお風呂を覗かせる訳がないんです!だから安心して下さい」
「………はい」
納得していない感じのマクス氏に僕は笑顔で言った。
「小鳥と付き合いたいならスキンシップは控えた方が良いですよ」
「?」
「小鳥の頭は子供ですからね」
「本人目の前にしてなに言ってるの?」
見れば小鳥の顔は真っ赤に染まっていた。
ああ、なんて可愛い顔をしているんだ。
僕はなぜかやっぱり母親のような気持ちで苦笑いを浮かべてしまうのだった。
読んで下さってありがとうございます。
幸せです。
 




