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理不尽だと思うんです

 部活動の話は直ぐに学園中に広まり、何だか難しいことをしているって事になったようだ。

 この部活に入るにあたって、私には課題があった。

 手を抜くのを完全にやめたのだ。

 優秀な生徒だから、この部活に入ったのも解ると思わせるためだ。

 この部活に入りたいっていう人が何人も居たが推薦が無いと入れないと断った。

 勿論、私はエリザちゃんからの推薦だと言っている。

 




 部室である王子の部屋に向かっていると部屋の前でルッカ先生が男爵令嬢に絡まれてるのが見えた。


「ルッカ先生、教科書のここが解らなくて」

「これは僕の教えてる教科じゃないから担当の先生に聞いたら良いよ。僕も部活の顧問で忙しいからね」


 さっそく部活をネタに使ってる。

 

「でも」

「悪いね」

「なら、ルッカ先生が部活の推薦してください!私はルッカ先生に教えてもらいたいんです!」


 ルッカ先生が忙しいって言ってるのにくい下がるとはさすが男爵令嬢だ。


「悪いね。僕が推薦したら他の人間も推薦しなくてはいけなくなるでしょ?エリザベート嬢とかエンジェリナ嬢に推薦してもらったらどうかな?女の子どうしだし良いんじゃないかな?」


 ルッカ先生は男爵令嬢がエリザちゃんに絡んでたのを知っていて言っている。

 女性メンバーに推薦してもらうのは無理だ。

 かなり不満そうな顔をした男爵令嬢を残してルッカ先生は王子の部屋に入って行った。


「なんなのよ」


 悔しそうな声が聞こえた。

 入りづらい。

 物陰に隠れて男爵令嬢が居なくなるのを待っていると、部活に来た零士君が一瞬怯んだのが見えた。

 零士君は王子の推薦で部活に入った事になっているが、男爵令嬢から逃げるためにお願いして入れてもらったみたいだ。


「零士様!」

「部活があるからまた今度にしてくれないか?」

「そんな寂しいこと言わないで!零士様と一緒に居たいです!」


 うわ、直球。

 零士君が若干引いた顔をしていたが、男爵令嬢は気がついていない。

 零士君はゆっくりとため息をついた。


「零士様」

「悪いが急いでいるんで」


 零士君もそそくさと部屋に入ってしまった。

 男爵令嬢が舌打ちしているのが見えた。

 怖。

 その時だった。

 王子の部屋の前にやって来たのはマクスさんだった。

 嘘、何でマクスさんが?

 私が慌てていると男爵令嬢がマクスさんに話しかけた。


「そこは王子様の部屋よ!」

「………そうですか」

「勝手に入ったら駄目なの!」

「自分はルッカに用事があって」

「ルッカ先生!」


 ああ、マクスさんに話しかけないでよ!

 何だかイライラする。


「私が案内してあげましょうか?」

「………大丈夫です」


 マクスさんは王子の部屋をノックしようとしてその手を男爵令嬢に掴まれた。


「私が一緒に居てあげます」


 さ、触らないでよ!

 私はそのまま二人のもとにむかった。


「マクスさん!」

「小鳥様」


 マクスさんの顔がパァーっと明るくなった気がした。

 たぶん、男爵令嬢に嫌気がさしていたのかも知れない。


「ルッカ先生だよね」

「………小鳥様にも用がありまして」

「私も?」

「はい、先日のお礼とお詫びを」


 お礼はクッキーだよね?お詫び?


「お詫びって?」

「小鳥様をガッカリさせてしまったようだったので」


 あ、リス食べすると思って予想を外したから。


「気にしなくて良かったんですよ!」

「………」

「ルッカ先生への用事をすませに行きましょう」


 私がマクスさんの手を握ると男爵令嬢が叫んだ。


「何で貴女が入ってくるのよ!」

「マクスさんと知り合いだから」

「私がこの人を案内するんだから!」


 知り合いだって言ってんのにしつこい。


「あの、ありがとうございます。ですが、小鳥様にも用があるので小鳥様にお願いしようと思います。すみません」


 マクスさんは丁寧に頭を下げた。

 マクスさんは頭を上げると私の手をキュッと握った。

 何事か?

 マクスさんを見ればニコッと微笑まれた。

 可愛いじゃないか!


「小鳥様、お願いします」

「………」


 私はゆっくりとマクスさんの手をひいて王子の部屋に誘導した。

 部屋に入り、ドアを閉めると部屋に居たルッカ先生と零士君と鬼エルフと王子にガン見された。


「ルッカ先生、聞こえてたよね?」

「うん」

「何で助けに来ないの?」

「僕、あの子から逃げてきたの。何でリリックのために出ていかないといけないの?」


 私はルッカ先生の前に立つと言った。


「マクスさんを助けなかったらあの男爵令嬢がマクスさんを案内するって名目でこの部屋に入ってくるんだよ?そのあと男爵令嬢が帰らなかったら部活の意味ないじゃん!」


 ルッカ先生は漸く気がついたみたいだった。

 ってか、マクスさんが手を離してくれないんだが、何故だ?


「そちらの方は?」


 鬼エルフが信じられないぐらいの営業スマイルで言った。


「お気になさらず。ルッカ、この魔方陣………」


 マクスさんは鞄の中から魔方陣の紙を出そうとして漸く私と手を繋いだままな事に気がついたようだった。


「……小鳥様、申し訳ありません」

「ああ、手ぐらい何て事ありませんよ」


 マクスさんは手を離すと鞄から魔方陣の書かれた紙を出してルッカ先生に渡した。


「何時見てもマクスさんの書く魔方陣は綺麗ですね」

「お誉めにあずかり恐縮です」


 ルッカ先生はあらかた魔方陣を見終わると言った。


「僕が作った魔方陣より良いもの書くの止めてくんない?」

「良くなるならその方が良いだろ?」

「そうなんだけど」


 同僚どうしの話は何だか研究所にいるときを思い出して懐かしくなった。


「ルッカへの用事は終わりました。小鳥様、お時間宜しいですか?」

「気を使わなくて良いですって!」

「自分が小鳥様をガッカリさせてしまったのは事実なのでこれを受け取って下さいませんか?」


 そう言って、マクスさんは魔方陣の書かれた紙を出して魔力を込めた。

 魔方陣の中から現れたのは、美味しそうなイチゴのショートケーキ。

 しかもホールだ。


「美味しそう~良いんですか?」

「はい。クッキーのお礼もかねていますので」


 マクスさんがそこまで言ったのを聞いていたルッカ先生がマクスさんの肩を掴んだ。


「クッキーって何かな?」

「小鳥様がこの前くれたんだ」

「リリックにだけ?」

「まあ、そうだ」


 ルッカ先生は口元にだけ笑顔をのせて言った。

 

「ぶっ殺すぞお前」

「無理だろ?」

 

 ルッカ先生が膝をついて項垂れた。

 それでも向かって行こうとは、しないのだね。

 

「マクスさんありがとう」

「いえ………あの、自分は何をガッカリさせてしまったのでしょうか?」


 マクスさんは少し困ったような雰囲気を出していた。


「いや~私が過度の期待をしたってだけで、マクスさんは悪くないんですよ」

「ですが」

「また、差し入れしますね」


 私が笑うとマクスさんは私の頭を撫で撫でした。

 子供あつかいされた。


「では、自分は仕事があるので」


 私は慌ててマクスさんの手を掴んだ。


「何か?」

「まだ、この部屋の外にはさっきの男爵令嬢が居るからちょっと待って」


 私は鞄の中から魔方陣の紙を出してマクスさんに手渡した。


「これは?」

「移動魔方陣。お父さんの所に直通」

「………要りません」

「帰るの一瞬だよ!」

「いや、それは局長にしぼられる直通切符です」

「そんな事」

「あります。それは局長が小鳥様が危険な時に使うように書いた魔方陣ですよね?局長の事ですから小鳥様がちゃんと腕の中に飛び込んで来るように設定されているはずです。自分がそれを使ったら………すみません。無理です」


 本気で困った顔のマクスさんは初めて見た。


「小鳥様の許しが出るのであれば姿を消して帰りますが」


 ああ、この人は私との約束をまもっていたんだ。

 

「じゃあ、姿を消して良いです」

「ありがとうございます」


 マクスさんはそう言うとシュルンと消えた。

 ドアも開かなかったが帰ったのだろうか?


「ルッカ先生、マクスさん帰った?」

「気配から言って窓から出たね」


 マクスさん、それ、姿を消す意味あったのか?


「あの人は小鳥の何なんですか?」


 鬼エルフが無表情で聞いてきた。


「………癒し?」

「はあ?」

「いや、あんなに大きいのにたまに小動物みたいで見てて癒される」

「ペット扱いですか?」

「………近いかも」

「………そうですか」


 鬼エルフため息をつくと言った。


「ケーキを食べるのであれば、紅茶を淹れましょう」

「アーク様の紅茶も癒しだよね」

「………そうですか?ケーキを切り分けましょう」


 鬼エルフは苦笑いを浮かべて紅茶を淹れに行った。


「小鳥、お前は悪い女だ」


 王子に突然言いがかりをつけられた。


「なんでよ?」

「天然悪女か………零士、ああいう女は止めておけ。振り回されてひどい目にあうぞ」


 零士君が苦笑いした。

 何なんだよ!

 私は理不尽に思いながらも鬼エルフがケーキと紅茶を持ってくるのを待つのであった。

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