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気狂い博士の講釈③

 ◎◎◎◎◎


 子供たちは母親そっくりだ。

 なんでも知りたがるし、なんでもやりたがる。容姿は父親に似る傾向にあり、性格はいろいろだったが、その底知れない好奇心だけは母親譲りである。   

 幾名かは、この研究そのものに興味を示し、一人の優秀な研究員として雇い入れた。

 我が子が育つことは嬉しい。



 1970年代、わたしはこの組織を製薬会社として、アメリカに移住する。

 1980年の夏、アラン博士もまた、日本に移住した。数名の研究員と、もちろん妻である彼女も連れて。

 不老である博士は人との付き合いを切ってきたが、それでも数年に一度は引っ越しをするし、数十年に一度は国も変える。ここ200年ほどは長くヨーロッパを転々としてきたそうだが、今回は成長著しい最果ての小さな島国に白羽の矢を立てたのだった。

 研究は、海を渡ってのやり取りとなった。

 1985年、年明けに、四名の女性研究員が姿をくらますアクシデントが起きる。女性研究員というのはもちろん、魔女の研究を担っていた女性たちだ。中には数名の実験体も含まれる。

 それからすぐ、ほんの二日遅れで遙か東より絵手紙が届く。黄色のヒヨコの絵柄が添えられたそれは、なんと博士からのものだった!

 アクシデントを知っての事かと思いもしたが、違った。まさかの幸福の報告である。

『子供が生まれた』というもの! なんてこと!

 つまりは、この可愛らしい絵柄もそういう意味のある絵なのだと思うと、どんな顔をしてこの絵手紙を選んで、この文字を綴ったのか……いや、想像するのはよそう。疲れるだけなのだから。

 文字の上だとしても、ぼくが言うのは不敬だろうけれど、あの夫婦がまっとうな『子育て』をするのは難しいのではないのだろか。


 消えた研究員は、研究所で生まれたキャサリン、日本人の美嶋陽子、ドイツ系のロジャー・オットー、カミラ・グリムの四名。キャサリンとオットーは、オットーの故郷で比較的早く確保できた。この件で分かったことだが、オットーの故郷はキャサリンの父親の故郷でもあった。この偶然が、今回のことに重なったのだろうか。持ち出した実験体331と292は、逃亡中の環境の変化に耐えられなかったようだ。

 日本にいる博士に応援を頼もうかとも思ったのだが、今の時期を邪魔はしたくはない。断念する。

 年々、懸念が増えていく。老いていくからだろうか。

 カミラは遺体で見つかった。美嶋陽子と実験体306だけが、消息を掴めない。


 ◎◎◎◎◎


 俺は考える。ひたすら考える。

 もし、アリスが生き延びているとして、その方法はやはり『精神干渉』だろう。アリスは直前に『同期』して、自身の意識をどこかへ逃がしたのだ。

 それはどこへ?

 とっさに『同期』するとしたら、それは確実に『同期しやすい誰か』に限られる。『同期しやすい誰か』……アリスは得ている対象の情報が多いほど、その能力を発揮することが出来る。思い出や血縁も、その『情報』には含まれるのだ。

 諸々の理由からクイーンを除き挙げられるのは、同じ『魔女』の血を引く実験体の中でも、その血が濃く、さらには親しい間柄でもある俺たちの中の誰かだ。

 可能性が高いのは、白ウサギか俺。もちろん、俺自身にはその自覚は無い。

 そこで、別の可能性も考える。俺たち以外で同期しやすいのは、やはり同じ魔女の血を引く実験体。それも、俺たちとおなじくらいに魔女の血が濃く、逃げるのに都合がいい体……。

 俺は、ジェイムズの手帳の文字を、目を凝らしてめくる。そう……確かに読んだ覚えがある。『外』にいるかもしれない実験体の話である。

 十四年前、研究員の大規模な脱走騒動があった。四名の研究員が脱走し、うちの一人は、いまだ見つかっていない。アリスが生まれる三か月前のことで、俺の母体になったカミラが死んだ事件だ。

 行方不明になったままの研究員は、美嶋陽子。日本人の科学者であり、実験体306の母体になった女である。

 そして実験体306は、俺とアリスにとっては特別な実験体だった。幼いころ、俺は何度祈るように306が死んでいることを願ったか。

 しかし今は、俺のわたし情なんて関係無い。306が生きていることが、俺たちの希望になるかもしれないのだ。

 魔女は東にいる。ジェイムズから確実に逃れるとしたら、彼女のところしかない。アリスは無意識に、自分の原点になる彼女も『検索』しただろう。そして知ったのだ。306の居場所を。

 アリスは生きている。俺はそれだけで、どんなことでもやってのける自信がある。

 俺がやるべきことを、確信した瞬間だった。


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