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足りない能力者達  作者: 十英
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No.1 愛川 泉

僕は初めから1人だった。



狭い一室にガツンと頭を殴る音が響き、その音で今日も現実に引き戻された。

「いつまで寝ているの?早く起きなさい」

「はい」

痛む頭を気にしていないように笑ってみせる。

起床、学校、帰宅。すこしでもずらすと怒られるから早く終えてしまわなければならないのがいつもの僕の『にちじょう』だ。

辛いときこそ笑顔でいなければ母や父に余計嫌われてしまう。

僕は嫌われるということがどうしても嫌だった。

「おはようございます」

「おはようございます、泉さん。」

学校の先生には怖くて言えない、僕のにちじょうが壊れてしまうと思うと自然に作り笑いを浮かべていた。

「泉ー!今日皆で俺の家で遊ぶんだけどお前も来ないかー?」

「ごめーん!僕今日は用事があるからまた今度ー!」

「そっか、じゃあまた明日ー!」

「…」

本当は行きたかった。

皆と遊びたかった。

けどそんな権利は僕にはないんだとばかり自分の脳みそに言い聞かせて、今日もまっすぐお家に帰るんだ。さぁ、母さんと父さんがまってる。

そのとき急に後ろから思い切り肩をつかまれ、ついバランスを崩ししりもちをついてしまう。

そのことが想定内だったかのように笑いを零した、僕よりいくらか背の高い細身の少年は嬉しそうに口を開いた。

「…よぉ、泉」

「お兄ちゃん。先に帰ったんじゃ」

「見てたぜさっきの会話。まさかとは思うが遊びに行きたかった、なんて思ってないだろうな?」

「えへへ、思ってないよ。」

「まぁ行けるわけねぇか、お前は化け物だもんな?」

「!」

何故だかその言葉には反応してしまった。

昔から僕には変な力があったから化け物と言われればそうかもしれない。

けどそれを言われるのはどうも気に食わなかったから

「違う」

「あ?」

「違う違う違う!僕は化け物じゃない!!!!!」

僕はつい…その力を使ってしまった

「あ…うわぁぁぁぁぁ!!!苦しい、あぁァァ」

「兄ちゃん!?」

その後兄は病院に運ばれ、一命は取り留めたが僕とは一切話さなくなってしまった。

「あの子に何をしたの!!!?」

「何もしてないよ」

「また笑って…一体何がしたいの?気味が悪いのよ、あなたは!!」

「ごめんなさい」

「いつもにこにこにこにこして!!!」

「正直目障りなのよ!!!!」

「ごめんなさ「あんたなんか産まなきゃよかったのに、この疫病神!」」

「…ごめんなさい」


いつも笑っていようと、そう決めたのはどうしてだったっけ







ある日僕は両親に何も教えられないまま『おでかけ』に出た。

右には母さん、左には父さんが僕の手を引っ張りながら歩いた。

「母さん、父さん。僕はこれからどこへ行くの?」

知っていた

「皆幸せになれる良いところだよ」

そこがどんなところかは知らないけれど

「そこには何があるの?」

その先に何があるのか、母も父も答えなかった。

僕は知っていた。この先へ進んでしまうと、もう二度と僕のにちじょうは返ってこないと。


それからどれだけ歩いたことだろう、最後まで進むと見たことのない大きな建物が見えた。出迎えには男が立っており、笑顔で一瞬僕の方を見ると両親に向けて深々と礼をし会話を始めた

『今回はご協力いただきありがとうございます』

「いえいえとんでもない…」

「うちの子をどうか宜しくお願いしますね」

『もちろんですよ』

僕の意思は完全に無視して進む会話を聞き流しながら更に歩いた。

まぁ途中から両親はいなくなってしまったのだけれど。

『君、大人しくしててえらいね。』

「えっ。あ、ありがとう…ございます」

ほめられるのには慣れてなかったから少しテンパってしまったのだが、なんとかいつも通りの笑顔で返すことができた。

『ここが今日から君の部屋だよ』

そう言われて案内されたのはとても清潔感の溢れる落ち着いたかんじの部屋だった。

窓はないけれど、おもちゃやベットもちゃんと用意されていて…

「…僕の…部屋……?」

『そう、君の部屋。』

「僕、ここに住むの……?」

『あぁ。欲しいものだって揃えてあげるからなんでも言いなよ』

ここまできてやっと理解した。

僕はあの両親に『捨てられた』んだと

「…本当に欲しいものはくれるの?」

『もちろん。』

「お、お菓子とか…」

『お菓子、そんなものでいいのか?分かった。次までに用意してこよう』

この優しい態度に、僕は違和感を覚えた。

僕は化け物とまで呼ばれた存在だ。なのになんで、

「なんで」

『?』

「なんで優しくしてくれるの…?両親から僕は化け物だって、そう言われて捨てられたから僕がここにいるんじやないの…?なんで……?」

『そんな子だから優しくするんだよ。』

「え?」

『おじさん達は何も悪いことはしない。君のその力を貸して欲しいだけなんだ。分かるかい?』

「この力を?」

『あぁ。おじさん達の言うことを聞いてくれれば痛いことは何もしないよ。良いことしかないから安心して』

こうしてあっさりとこの謎の場所を受け入れてしまった僕は今まで望んできた“愛”に触れた気がした。





「待って」

しかしそれだけでは終わらなかった。

それはすっかりなじんでいたある日の事、突然にやってきたのである。

「今何をするって言ったの?」

『実験体になってくれるよね?って聞いたんだよ』

「実験体、って何、僕、」

『そのままの意味だよ』

「でも」

『いいからぐだぐだ言わずついてこい!!!!!』

全身に立った鳥肌が訴えてきたのは『これは嘘だ』ということだった

『実験体になれ。拒否権はない。』

怖い顔をしてこっちを向く。その顔にいままでの面影は何一つ無かった

「やだ、痛いことしないって言ったじゃん!!!!」

『嘘に決まってるだろ。お前らはただの実験体なんだよ。猫被ってれば軽々信じてさ、』

「やだ……やだ、やだ、やだ、やだ、やだあぁぁぁぁーーー!!!」




それから何日たったことだろう。

僕はもう人を信じられなくなっていた。

自分で自分の本性を偽るようになっていた。

これ以上裏切られるのはもうイヤだ、そう思うと自然に足は僕を騙した男の方へ向かっていたんだ。

そして______








「Mr.歩鷹。君の新しい生徒を連れてきたよ」

「またか…で?今回の生徒の詳細は」

「愛川泉。毒を操るカクロスだから少し注意が必要かな」

「どんな状態で連れてきたんだ?」

「血塗れで組織の近くでふらふら歩いてたよ。実験体にされたんじゃないかと思われる。詳しい事は語ってくれなかったからよく分からないけど」

「今はどこに?」

「そこにいるよ。それじゃ、宜しくお願いしますね」

ふりかえるといつの間にか橙色の髪と少女のような外見をした少年が立っていた。

「…貴方が先生?」

「あぁ。来る仙人に歩む鷹と書いてらいせんほだか、だ。」

「歩鷹センセね!よろしくお願いしまーす!」

元気な挨拶をした彼の目は、ありえない程の憎しみに燃えていた





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