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another:四月一日なので現代ラブコメ小話。

ファンタジー→現代/学園もの/学生/、の設定にしたら…。/ゆるい/ほのぼの/短くて、山もなくさらと終わります。

「おおかみくん、おおかみくん!」

 彼を見つけ、私は駆け寄った。

大きな背中に近付くと、彼――大上おおがみ 琥太郎こたろうが振り向く。

「おおかみじゃなく、おおがみ (・・・・)だって言っただろ」

「うん。でも、おおかみの方が呼びやすい」

 私が、にっこり笑顔で返せば彼は溜息をついた。


 渡り廊下で立ち止まっているので、近くを下校する人が通り過ぎる。

窓からは春の日差しが降り注ぎ、彼の髪がキラキラと輝いていた。

はちみつとオレンジを混ぜたような髪。

触れたことはないけど、きっと柔らかいと思う。風にふわふわと揺れる髪を見ると触りたくなる。

やっぱり似てる。気付いたところで、どうしたら触らせてくれるのだろう。

 つり上がった蜂蜜色の瞳がこちらを見る。おおかみくんはつり目なので、怒っているように見えると彼は気にしていた。

「お前のこともうさぎ (・・・)って呼ぶぞ」

 阿佐美うさみ あおい。それが私の名前。

「いいよ」

「いいのかよ」

 小学校のとき散々呼ばれてきたし、今更だ。

「おおかみくん」

「おおがみ」

「琥太郎くん!」

「お、おぉ……」

「頭、触らせて!」

「……は?」

 ぽかん、と彼の口が開いた。

 じっと見ていると意識を取り戻した口がゆっくりと動いた。

「一応聞くが、なんでだ?」

「昔、飼っていた犬に似てるから触りたい」

 彼は戸惑ったような怒ったような、複雑な表情をした。

「狼の次は犬か」

「おおかみくんって呼んだのは、呼びやすいからだよ。狼だなんて思ってないよ」

「一文字しか変わらないだろ。覚 え ろ」

 おおかみくんの手が伸びてきて私の頭を掴んだ。

 ずるいよ。身長差があって私は触れられないのに。

「最初に覚えやすい方で覚えちゃったんだもん」

 言い返すと、頭にじわじわと力が加えられた。

「いたた。おおかみくん、力強い」

「この間、話し始めたばかりの相手によく図々しいお願いができるな」

「だめ?」

 見上げたら、彼の視線とぶつかった。頭から手が離れる。

 きゅっと彼が眉を寄せた。

「だめ」

「えー。うちのワンコは初対面でも触らせてくれるのに」

「犬といっしょにするな」

「でも、似てるから」

 唇を尖らせていると、頭を小突かれた。

「俺は狼でも犬でもない」

 きっぱりと宣言して距離をとられる。


「……琥太郎くん」

「……なんだよ」

「この呼び方は嫌だって言ってないよね」

「勝手にしろ」

 機嫌が悪いまま、話は終わったという風に歩き出してしまった。

「まって、琥太郎くん。もっとお話しようよ」

 慌てて後ろを追いかける。琥太郎くんの口が僅かに動く。

 ぶつぶつと文句のように言われた言葉は私の耳に届かなかった。

「なにか言った? 琥太郎くん」

「なんにも」

 追いついて隣へ並ぶ。始めは早足で歩いていた琥太郎くんが私に歩調を合わせてくれている。嬉しくなって頬が緩む。

「琥太郎くん、犬好き?」

「好きでも嫌いでもない」

「じゃあ、兎は?」

「兎?」

「さっき、うさぎって言ってたから」

「あー。……普通」

「そうなんだ」


「葵」

 名前を呼ばれて驚いていると、彼の言葉が続けられる。

「お前も名前で呼ぶんだから、俺も呼んでいいだろ」

 ぱちぱちと瞬きを繰り返して彼を見る。何度瞬きをしても彼の頬はうっすらと赤かった。夕焼けの色が顔についているのか判断できずにいると、彼が口を開く。

「……駄目だったか?」

「ううん、嬉しい。仲良くなったら頭触らせてくれる?」

「それは駄目だ」

 琥太郎くんの言葉に、がっくりと肩を落とす。対照的に彼はおかしそうに笑っていた。

 彼の髪は夕焼けに照らされても綺麗だった。

エイプリルフールでした。

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