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1.夢からワンコ

調味料など現代の単語を使っているので、設定も細かくないです。

ゆるっと読んでください。


 耳だった。犬みたいな耳が彼の頭から出てる。

驚いて後ずさるとシーツが足にまとわり付く。

誰かこの状況を説明してほしい。


 いま起きたつもりだけどまだ夢の中なんでしょうか。

とりあえず、深呼吸すー、はー。して、状況確認。

私、阿佐美うさみ あおいは目が覚めたらベッドの中にいた。

昨日は、前日にレポートを徹夜してたから家に帰って力尽きて着替えもせずにすぐに寝た。着ていた服もそのまま。だから、ベッドで起きるのは普通のことと思いたいけど知らない部屋にいる。ベッドにも私、一人ではなく知らないお兄さんがいる。


 閉じられた瞳。閉じられていても整っている顔だと分かる。はちみつとオレンジを混ぜたような髪はやわらかそうで、手を伸ばしたくなる。

身長もあるし、服がめくれて見えたお腹には筋肉もついてる。年齢は私より少し年上か、同い年ぐらいだと思う。


 男女が同じベッド。お酒で記憶が飛んでる……とか一瞬、考えたけど……昨日はお酒飲んでない。

というかこれ、人間じゃないじゃん。


「どうして、おにーさん犬耳ついてるの?」

「犬じゃない。狼だ」

 聞こえないひとりごとを呟いたつもりなのに、返事が返ってきた。

開かれた瞳は蜂蜜色だった。その釣り目がこちらを見ている。

「……腹減った」

 そう言って彼はベッドから起き上がりぺたぺたと素足で歩く。髪の色と同じ尻尾も動く。

数歩、歩いてドアに手をかけると私を振り返った。

「食べないのか?」

「……食べる」


 彼は部屋を出て洗面所に行った。あれ、ごはんは?と思いながらも洗い終わるまで待ってると、私も洗うように促された。手首に付けたままだったシュシュで髪をまとめて洗ったら前髪も濡れた。ヘアバンドを持ってないから仕方ない。

きゅっと蛇口の水を止めるとタオルが差し出された。お礼を言ってタオルに顔をうずめる。

顔を上げたら彼の手が伸びてきてタオルを取り、私の前髪にタオルをぽんぽんと押し付けられた。





 キッチンは寝室より広くて、テーブルも置いてある。リビングキッチンとでも言えばいいのか、洋風なんだけど少しレトロな感じがする部屋だ。


「あ、私も手伝う」

「じゃあ、これテーブルに持ってけ」

 二人分のサラダを指差していた。


 やっぱりこれは夢なんじゃないかな。昔、飼ってた犬を思い出してみてる夢とか。

殆ど人間にしか見えないけど、犬耳と尻尾は付いてる。あ、違った。狼だった。

慣れた様子で朝ごはんを用意する彼を見てそう考えた。


できあがった朝ごはんは、スクランブルエッグ、トースト、サラダだった。

グラスに入ったお水もちゃんと2人分ある。彼がトーストにかぶりついた。

ひとくちが大きいなー。もぐもぐと口が動きながら食べていない私に気付いて目を向けた。

 視線で促されている気がして私は口を開けた。

「あ、いただきます」

「んー」

 返事なのか分からない彼の声が返ってきた。

夢だし味なんて分からないだろうと思ってたのに、ちょうおいしかった!

超。すごく。すんごく。

スクランブルエッグはふわふわだし、トーストは薄く塗ったバターが溶けて色だけでもおいしそうで口に入れるとサクサク音を立てた。

サラダも新鮮でおいしい。夢中で食べ終えてお水を飲むことを思い出し飲んでみると、お水もおいしかった。

「ふはー」

 息を吐いたら変な声になったけど気にしない。些細なことなんて気にならないくらい幸せな朝ごはんだった。

そんな私を見て、おにーさんがおかしそうに笑いながら言った。

「お前、名前は?」

「阿佐美 葵。アオイね。おにーさんは?」

「ルミエール」

「じゃあルミエール、触っていい?」


 彼の目が見開かれる。私のことを怪しげに見て顔を歪めた。

「じゃあ、ってなんだよ」

 うっわー。そんな顔されると傷つくわ。

「触らせろや」

 あ。心の声のつもりが間違えて本音出しちゃった。


「アオイ、口調がおかしい」

「だって私、ずっと我慢してたんですよ。なんですかその破滅的に可愛い生き物は。耳は生き物なんですか。狼の耳は犬とは違うんですか」

「落ち着け。触らせてやるから落ち着け」

「わー。有難うございます。おにーさん身長高いからどうやって触ろうか考えてたんですよね」

「口調が迷子だぞ」

「まー、細かいこと気にしなさんな」


 座ってるおにーさんの後ろに移動して、立ったままそっと耳に触れる。思ったよりやわらかくないけど

毛並みはいい。

「ふへへ」

「変なものでも食べたか」

「ひどい!おにーさんと同じものしか食べてないよ」

「その、おにーさんってのやめないか」

「あ、そっか。ルミエールって呼んだらいい?」

「あぁ」

「ルミエール」

 名前を呼ぶと耳が反応するので面白い。でも、もふもふ部分が少ない。耳だけなので当たり前なんだけど……。

んー。どうしたら体全体で味わえるんだろう。

「ルミエール、しっぽも触っていい?」

 耳がOKだから、尻尾もいいかなって思ってたらルミエールはガタンと音を立てて飛び上がり尻尾を隠すように後ずさった。

わぉ。ずごい拒否られちゃった。驚いて血が上ってるのか顔が赤い。

「じゃあ、頭ぐりぐりしていい?」

「頭……耳を触るんだな?」

「うん」


 私の前まで来ると床に座った。

「もうちょっと、前かがみに頭下げれる?」

「こうか?」

「うん、おっけー。いいこ、いいこ」

 飼ってた犬にしたように、ぐりぐり頭を撫でる。もちろんこれだけじゃない。

上から覆いかぶさるように頬で耳に触れる。前からだと触れにくいな、と思う前に逃げるように後ろに下がられた。


「頭ぐりぐり禁止!」

「えー!なんで?!」

「胸に手をあてて考えてみろ」

 言われた通りあてる。あ、心臓ちょっとはやい。テンション上がりすぎちゃったかな。

ちらりとルミエールを見れば、彼はうろたえる様に顔を逸らした。考えろって言われても、どう考えれば正解に辿り着けるか分からない。だいたい、私は昔から国語は苦手なのだ。

登場人物の気持ちを考えろって言われても、もっとヒントくれよ。分かりづらいわ。って苦戦した。

胸に手をあてろって誰が考えたんだろう。心臓の鼓動しか分からないじゃん。胸。もしかしたら、私の胸じゃないとかひっかけだったりしないかな。しないよね。

さすがに、そんな間違いは。

「もしかして、胸はふさふさだったりする?」

 服で見えないだけで胸にもふもふの毛並みがあったりするのだろうか。

「は?」

 なんて想像は、想像でしかなかった。目の前の間抜けな顔を見て期待がしぼむ。


「ルミエール、ちょっと手貸して」

 困惑した顔でいる彼の手を掴んで、彼の胸へ押し当てる。

「心臓しか分からないと思うんだけど?」

「心臓って…おまえ、」

「お前じゃないです。アオイです」

「アオイ、意味が違うだろ」

「私に難しい言葉で言わないで」

「難しくないだろ」

「難しいから、胸見せてよ」

「はぁ? なに考えてんだよ」

「なにって、希望が少しでもあるなら確認したい。質問に答えてもらってないし見た方がはやいと思って」

期待はしぼんだけど、はっきり否定されたわけじゃない。もしかしたら胸はもふもふの毛並みかもしれないじゃないか。

「……」

「もふもふ見せてよ」

「なにに期待してるか知らないが、そんなものはってコラ。押し倒すな」

「いいじゃん。夢なんだから」

 にっと笑えば軽く言い返されるどころか、眉を寄せて溜息を吐かれた。

「これが夢だと思ってるのか。……だから」

 彼の瞳が揺れる。彼の手が、体が私に近付く。肩に手を置かれて引き寄せられる。

バランスを保たれなくて手放した体は彼にあずけるようになった。

「ルミエール?」

 彼の牙が光り、嫌な予感がして手をつっぱねるが掴まれた。

彼の手が私の手を掴み口元へと引き寄せられる。その動きはゆっくりと遅く感じられた。

狼の目だった。あ、と思ったときには彼の口が私の手をがぶりと噛んだ。


「いっ、」

 反射的に声が漏れる。歯形はあるけど血は出ていない。

「夢じゃないだろ?」

 噛まれたそこは痛かった。うん、驚いて夢だったら飛び起きてた。

夢じゃないなら、ここどこよ。

'16.3.11修正

'16.6.10修正サブタイトル

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