テーマ『底』 タイトル未定
無邪気な巨人が、机に置いた小さな木槌を片手で振りかぶり、狙いを定めて勢いよく薙いだ。最下段で踏ん張っていた『緑』が、軽快な音を立てて吹き飛ばされると同時に、世界がまた一段低くなった。そして残されたのは『赤』と私だけだった。
『赤』の怯えが伝わってくる。繰り返される落下に耐え、私を直で支えてきた彼の全身が、恐怖で震えている。
澄んだ大きな瞳が、私達の眼前まで迫る。頭を上下左右に傾けて、最後のコマをどこから吹き飛ばしてやろうかと真剣に考えているのだ。だが、その瞳は既に勝利を確信していた。
そして、唐突にその瞬間は訪れた。『赤』は勢いづいた小槌にあっさりと打ち抜かれ、私は文字通り地に落とされた。
するとどうだろうか。なんともいえない安心感が私を満たした。
不思議だった。私は恐ろしかったのだ。幾つものコマに支えられて、高みから眺めていた景色がいとも簡単に低くなっていく。地の底から伝わってくるコマ達の苦しみや恐怖が私に伝染する。落ちたくない、ここに居たいと願っても、やめてくれと叫んでも、無情に振り抜かれる小槌。変わっていく世界に、私の意思は不要だった。
それがどうだ。広大な地は、私を大きく頑丈な体で受け止めた。揺らぐことも歪むこともない、平坦で大きな体だ。
自身が底まで落とされて気付く。これ以上落ちることがないことを。これ以上変わることがないことを。
辺りを見渡せば、苦しみと恐怖に耐え、痛い思いをしてまで役目を果たしたコマたちが、あちらこちらに転がっている。もう彼らは必要なかった。頼りない足場の上で立ち続けるよりも、いっそ底辺まで落ちてしまえば、ずっと楽だと知ってしまったのだ。
張りつめた緊張の糸がふっと緩んだ。息を吐き、何気なく少年を見た。心臓が止まるかと思った。彼はまだ、小槌を手放していなかったのだ。その時悟った。安心できる場所など、どこにもないことを。
無邪気な巨人は、机に置いた小さな木槌を片手で振りかぶり、狙いを定めて勢いよく薙いだ。
実はタイトルありました。
時間がなかったので安直に「達磨、落ちる」とつけて、やはりネタバレ防止しようということで未定と書きました。