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擬似温度 × ***

擬似温度 × 未来の恋人

作者: 奈々月 郁

苦しい。

……苦しい。


あぁ、なんでこんなに。

苦しい、苦しいよ。


嘘でもいいから、

嘘でいいから。

好きって言ってよ。




引きずるように一歩離れた位置から抱きすくめられて、その力強さに、う、と一瞬息が詰まる。

何?と聞くと、物欲しげな瞳がこちらを見ていた。

何、と詰問する前にキスを落とそうとするので、彼の唇を指で遠慮なく摘まんでしまう。


「なに」


口を摘まんだままでいるので、「なに」より「ひゃに」のほうが近かったけど。

不機嫌さはまんべんなく詰め込まれている声。


会うなりいきなり、キスってどうなの。


彼の眉が片方だけひょいっと上がる。私を腕の中に閉じこめていなければ、肩をすくめていたんだろうな、だなんて、どうでもいいことに僅か意識が向く。


「嫌なの?」


そうじゃなくて。がっつかなくてもいいじゃない。


別に、逃げようっていうんじゃないし……とまでは言わずに、ほっぺたをぺたぺたと叩きながら訴えてみる。どこまで効果があるかはわかんないけど。

イマイチ納得がいかないのか、本気でがっつく心算しかなかったからなのか、困惑したように瞳が細くなったのは少し面白かった。ざまみろ。

ゆるゆると私の頭を撫でながら、ううん、と彼が言葉を探しているのも、手に取るようにわかる。こういうところは可愛い人だと思ってる。普段は大人っぽいうえ、それを私が認めているから、彼は私がそんなことを思っているなんて、露ほども気づいちゃいないだろうけど。


「ダメ?」


ダメって……言ったらどうするんだろうね?


その聞き方はずるいよ。


ダメ、という聞き方は、相手に拒否させない聞き方だ。

ダメ、から始めると、不思議とダメだとは言えないものなのだ。小難しい話はわからないけれど、心理的に作用するものがあるらしい。

知ってか知らずかそんなことをしてくるこの男は、たぶん自信さえあれば女ったらしになれるだろう。なってほしくはないけど。


「う~ん、そうかな」


そうだよ。


言いながら、だんだん哀しくなってくる自分に嫌でも気づく。

相手の体温を感じながら、いったいなにしてるんだろう。

キスが嫌なわけじゃないのに。もっともっとそばに行きたいのに。


「じゃあ、ズルくってもいいや」


頭の後ろを手のひらでやんわりと抑えられて、それ以上の抵抗は諦めてしまった。

降ってくるキスの直前、満足そうな彼の笑みが滲んで、歪んだ。




いいよ、いい、許してあげる。

好き、だなんて言葉を聞くことはないのでしょう。

そのまま、いつかあなたが心から愛する人と出会えば、あなたは離れていくのでしょう。


いいよ、許してあげる。

そのかわり、今はまだこのままで。

寂しがりなあなたを、

愛して、あげる。



Fin

ねむねむ……奈々月です。

このシリーズ、前回の話とは打って変わって、切ない話を目指してみました。

前回のものよりも、今回の話のほうが、実は先に書いていました。

切ない恋愛話、どうにも好きなんですよね……!

手を伸ばしたい、怖いから手放したい、その狭間で揺れる恋ゴコロは、なかなかまだ上手く書けませんが……人間的に、もっと成長したいと日々思います。


それでは、おやすみなさいませ……。

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