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一章 第7話 帰還

 三人が村へ戻った時、夜中だというのに大人達が村の広場に集まっていた


 どうやらディアとドールがいないことに気づいたエレナが青い顔をして村長の家へ行き、二人がいないことを説明すると村長は渋い顔をして村人を召集した


 松明で照らされてはいるが薄暗い広場の中央の壇上で村長は発言する


「どうやらディアとドールがレナを救いにいったようじゃ、あの馬鹿者め」


 村長はずっと渋い顔をしたままだ。孫のように可愛がっていた子供が死ににいったようなものだ、いくら村の安全が一番とはいえ沈痛な気持ちは抑えられない


 村人がざわざわと騒ぐが村長が「しかし!」と村人を黙らせるように切り出す


「一度話した通りゴルドの蛇に手は出せん、皆の衆もそれだけは理解してほしい」


 村人もそれぞれ思うところはあるのだろうが、首を立てに振り村長は安堵した。これ以上村人に暴走されてゴルドの蛇を刺激しては本当に村が無くなってしまう


「明日は豊穣祭じゃ、各々準備はできていると思うが戸締りをしっかりし……」


 村長が固まった


 村人はどうしたものかと思い、村長の様子をうかがっていたが依然固まったままだ。ふと村長の視線の先をエレナが追うとディアとドールがいた。ドールの背にはレナも背負われていた




「ディア!ドール!レナ!」


 エレナが走って三人の元へ向かう


「エレナさん、レナを取り戻してきたよ」


 ディアが疲れた様子でエレナへ報告した


 エレナは涙を流し……ディアの頬を叩いた


「あなた達、何をしたのかわかっているの!森に入ってはいけないってあれほど言い聞かせていたのに!それに盗賊相手に向かっていくなんて!」


 そういってエレナはディアとレナを背負っているドールを包んで抱いた


「本当によかった……あなた達が生きていてくれて本当によかった……」


 その様子を見ていた村人が歓声を上げる。村人も数人は盗賊相手に子供達が無事に戻ってこれたことに感激して泣いていた




 村長は壇上を降りゆっくりディアの元へ向かうとディアの前で立ち止まった


「じーちゃん……」


 ディアはこんな怒った顔をした村長を見るのは初めてだった。レナを助けるためとはいえ村を危険に晒したこともわかっている、だからといってレナを見捨てることなんてディアにはできなかった


「何があったか話しなさい、全部じゃ」


「その前にレナとドールを休ませてほしい、俺が全部説明するから」


「わかった、エレナ。教会へ二人を連れていきなさい」


 二人の話を聞いていたエレナはレナをドールから渡してもらい背負ってドールと一緒に教会へ帰っていった




 村長が聞きたいのはきっとゴルドの蛇の人数のことだろう、そう思ったディアは盗賊が二人だけだったこと、そして一人はバイリカ草の粉末で倒したこと、もう一人は逃亡したことを話した


「バイリカ草を使ったのか……考えたのう。アレは危険な毒物だと言っとったじゃろ、しかも勝手にわしの家から持っていくとは。あの量のバイリカ草は半分でも吸ったら廃人確定じゃ、貴重な草でもあるのに全く。しかし、もう一人は逃亡したじゃと?」


 村長は怪訝な顔をする。ゴルドの蛇の下っ端だったとしても子供二人程度は脅威とはなりえないだろう、いくらディアが幻術の天才だとしてもそもそも幻術は戦闘に向いていない。だがもし本当に逃亡したのなら異常な事態だ


「わしは全部話せと言っとるんじゃ」


 村長は依然と怖い顔をしたままディアへ問う


 ディアはあのことをどう話したらいいのかわからなかった、そしてこれを伝えたら何かが変わってしまう気がして戸惑っていた。ディアは村長の顔を一度見て隠すことはできないと思い、下を向きながら話した




「レナが……歌ったんだ」


「歌った……?」


「レナが歌ったら盗賊の攻撃が当たらなくなった、見えない盾ができてる感じで攻撃が弾かれてたんだ。それで何か焦っているような感じで逃げていったんだ」


「まさか……そんなことが……」


「嘘みたいに聞こえるかもしれないけど物語の中の歌姫みたいだったんだ。歌が終わる前に光弾みたいの現れて逃げた盗賊を追っていったし……」


 ありえん……と村長は呟くが、この話が本当なら少しは納得できる。そしてディアが嘘をつく理由もない。もしレナが伝説の歌魔法を使ったのなら敵対していた盗賊は生きてはいないだろう。魔術を携わる者なら噂くらいは聞く、あれは神の奇跡を起こす魔術だと




 村長は三十秒ほど考えているようだった、そして考えが纏まったのか広場の壇上へ上がっていき村人に事情を説明することにした


「森にいたゴルドの蛇はおそらくもう襲ってこないじゃろう、だが念には念を入れて皆の衆に負担をかけてしまうが冒険者を雇おうと思う。異論のある者は手を挙げろ」


 村長の意見に反対するものはいないようだった、村人も危険を感じて過ごすよりは少し負担が増えてでも安全に暮らしたいと今回の一件で強く思うようになっていた


「では、わしの伝手を使った冒険者を呼んでみることにする。それと明日の豊穣祭は特別な日にもなる、皆いつもの倍以上張り切るようにな!」


 そういって村長は笑い、壇上を降りていった




 村長が壇上を降りてディアの元へ戻ってきたとき村長はいつもの村長に戻っていた


「レナが歌姫だということは明日言うことにしたからの。隠しててもいずれバレてしまうじゃろう、皆を安心させるためにも必要なことじゃ。わかってくれ」


 村長がディアに優しく語りかける


 ディアは複雑な気持ちだった。もしかしたらレナはもう自分達の手の届かない存在になってしまうんじゃないのか? 村長の言葉を聞いてディアの疑念はより一層強くなっていた


「さあ、おぬしももう帰るんじゃ。明日はお祭りじゃからの」


「うん……」




 複雑な気持ちを抱えたまま子供達の長い一日は終わった

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