一章 第4話 覚悟
二人が丘の花畑から村へ帰り、ディアは村長にドールはエレナに事情を説明するとすぐに村の広場に大人達が集められた
「森から出てきた盗賊か……厄介じゃのう」
村の広場で二人から再度経緯を聞いた村長は開口一番にそんなことを言った。エレナや周りの大人達も暗い顔をしている
「何いってんだよ、じーちゃん!レナが攫われてるんだぞ!」
ディアが周りの反応を見て信じられないと言った様子で村長に食ってかかる
「森から出てきた盗賊、そやつはおそらくゴルドの蛇じゃろう」
大人達がざわざわと騒ぎ出す
ゴルドの蛇、それはクロノア国では幅広く活動している有名な盗賊集団である。森を拠点とし各地に手下を配置することによって、クロノア国で人攫いから人身売買まで幅広く手を広げることに成功した悪名高き集団である。ゴルドの蛇が大きく成功している要因はイベール大陸の紛争によって国内外ともに荒れているせいであり、国が討伐隊を組む前に巨大な組織へと一気に成長し、国すら手をつけられなくなったということもある。またその独自の闇ルートによって国の重鎮と取引をしているなどという黒い噂すらある
そんな巨大組織を相手にただの村一つが対抗できるわけもなく、下手に手を出せば村一つなど軽く滅んでしまうだろう。孤児一人と村の存亡どちらが大事か、天秤にかけるまでもないのだろう
「そんな……」
ディアが項垂れる
「エレナさん!教会は!神様はレナを助けてくれないんですか!」
ドールがパニックになって叫んでいる
「ごめんなさい、ドール君……」
エレナは沈痛な面持ちで謝ることしかできなかった。周りの大人もずっと暗い顔をしたままだ
「ともかくこの件は隣村にいる騎士様に手紙を出す。だがわしらは手を出すことができん、すまんのう」
村長もそういって広場の人々に解散を命じた。ディアは地面に膝と手をつき絶望した、ドールは放心状態でその場にただ立ち尽くしている
「教会に戻りましょう、そして神様に祈りましょう」
エレナは二人を連れて教会に帰ることにした。ディアもドールもエレナに手を引かれ教会へと帰り、自室へと戻ることになった
「うぅ……神様……」
ドールは机にうつ伏せになりただ祈っている。ディアはひらすら考えていた、どうすればレナを救出できるか。村の人がレナを見捨てたことによる怒りもあったが、今はそんなことを考えている時間はない
何のために村長から魔術を学んだのか、こんなときのために使うためじゃないのか。レナを助けるための手段をひらすら模索する。ある一つの考えが頭の中に浮かんだ、そのためには彼が必要だった
「ドール、もう泣くな」
「ディアは悲しくないのか!レナがいなくなっちゃったんだぞ!」
「レナは助けにいく」
「えっ……だって村の人達は助けれないって……」
「だから俺達で助けにいく」
ドールが目を腫らしながらディアを見つめている
「俺達子供だけでできることなんてたかが知れてる。でもレナを助ける可能性が少しでもあるなら……できるだけのことしないか?」
「でもどうやって……ディアが魔術を習ってるのだって知ってる。だけど幻術って攻撃するものじゃないってのも知ってるよ。どうやって助けるの?」
「正直成功するのかもわからない、だけど一つだけ方法を思いついたんだ。 ……ドールはレナのために命を賭けることできる?」
「命……わからないよ……でもレナがいなくなるのは嫌だ。僕はレナが好きなんだ!」
「知ってるよ、あのペンダントはレナにあげるつもりだったんだろ?俺もレナが好きだよ、だから一緒に救いにいこう」
ドールはディアの急な告白に戸惑った、だがレナを救いたいという気持ちは一緒だ。むしろ負けないつもりだ
「レナを助ける!」
ドールの目に光がともった
「じゃあ俺の思いついた作戦を伝える……まず決行は今夜」
ディアは思いついた作戦をドールに語った
「……それってディアがものすごく危なくない?」
「危ないのは二人とも一緒だよ。たぶん失敗したらみんな死んじゃうかもしれない。それでも……やるんだ!」
「……わかった。三人一緒にここに帰ってこようね」
日が落ちて月の光が大地を照らし始めた頃、子供達の作戦が始まった