二章 第5話 王都騎士学校
王都騎士学校
王都騎士学校は王都内にある騎士になるための学校である。一年に一人だけ平民からも生徒として入学できるが騎士学校は基本的に貴族のための学校である。王都内にあるというのにその敷地はとても広くとられており純白を意識して作られた校舎は周りの建物と比べ高く作られてある。遠くの街から入学する貴族もいるため敷地内には寮も備えられており、貴族のために作られた学校だけあって学校前にはしっかりとした門もあり、そこには守衛として兵士も配置されていた
今ドールはその広大な敷地を持つ学校の門の前にきていた
「ここが騎士学校」
門から見える敷地と遠くに見える大きな校舎といくつかの建物に目を奪われていたが、ドールは自分の願いに向かって着実と進んでいることを確認する
あなたは私の騎士様。レナが言ったその言葉を思い出すだけで不思議と胸の奥から力が沸いてくる
少し横に目を移すと門の横に備えられていた守衛専用の小屋を見つけドールはそちらへと足を動かした
守衛専用の小屋には眠そうにして窓から門のほうをぼーっと見ている兵士がいた
「冒険者ギルドから推薦状を持ってきました、手続きをお願いします」
ドールが丁寧に窓から門を見ていた守衛へ近寄りギルド長から受け取った推薦状のカードを守衛に渡す
「おっ、今年もきたな。お前が街で噂の双剣の剣士か。本当に子供だったんだな」
カードを受け取って毎年見ているカードを確認した守衛はドールのことをそう呼んで小屋から出てきた
噂? とドールは今街で何を話されてるか知らなかったが昨日の武術大会のことか! とすぐに閃いた
「うおっ、近くで見るとちっちゃいな!本当に街で噂されてるようなとんでもない剣士なのかぁ?」
小屋から出てきた守衛はドールのことをまじまじと眺め双剣の剣士のいろいろな噂を思い出す、が本来の仕事を思い出したようで「ついてきな」と言い門から真っ直ぐに続く大きな校舎の方へと歩き出す。ドールは珍獣でも見られているようであまりいい気分はしなかったが守衛が動き出したこともあり彼の後に続き歩いていくこととなる
貴族の学校ということもあり、煌びやかな制服に包まれた生徒が校内を歩いておりドールとすれ違った生徒は守衛に先導されているドールを珍しそうに見ていた。学校にくるにあたって街の服屋で新品の綺麗な服を買って着てきてはいたが、周りの生徒は皆制服のため彼の姿はとても浮いていた
そのまま校舎内へと連れていかれたドールは校舎内の光景にも目を奪われることとなる。ゴミ一つ落ちてない純白の通路に様々な装飾を施された高価な美術品と思われるものが通路に置いてある。ここがスラム街ならこんな無造作に置かれている美術品など一つ残らず盗まれているであろう
校舎に入りそんな通路を十分ほど歩かれたたドールは一つのドアの前で止まることとなる
「ここが騎士学校校長室だ、遅くなったがようこそ王都騎士学校へ。優秀な戦士は歓迎するぜ」
校長室前で止まった守衛はドールへそういって校長室のドアを二回叩いた
「入れ」
中からやや低く威圧のあるような男性の声が返ってくる
守衛はドアを開けてそのまま部屋へと入っていき、ドールも彼に続き校長室へと入っていった
中には特別装飾もされてはいないが高級さを感じさせる大きな机と椅子に座っている老人の男性がいた。老人とは言っても老人と感じさせないような筋骨隆々とした若々しい体をしており、軍服のようなきっちりとした服をきていた
守衛が「君はここで待ってて」といい、ドールは入口から数歩歩いたところで止まり老人の顔を見ていた
なんだか怖そうな人だな……とドールが思っていた頃、守衛が校長にドールが守衛へと渡したカードを渡していた
カードを渡した守衛は失礼します、と言いそのまま部屋を出ていった
取り残されたドールがどうしたらいいものかと困惑しつつ、老人の顔を伺っていたがドールが困ってると感じた老人が口を開いた
「そこのソファーに座りなさい」
ドールは老人に言われるがまま指差されたソファーに座るが今まで座ったことのない物の感触に驚きソファーの感触を確かめるように手で二度ほど感触を確かめていた
老人はドールがソファーに座って驚いていたことに微笑ましい様子で見ていたが彼にも仕事も残されているため話を始めた
「私が王都騎士学校校長のマクマホン・ジュネールだ」
老人はそういってまず挨拶をした
「ド、ドールです。よろしくおねがいします」
ドールは校長が挨拶してきたためあわてて返事をした
「緊張せんでもいいぞ。ここは騎士学校という堅苦しいという言葉の塊のような場所ではあるが、私はあまり堅苦しいのが好きではないのでな」
校長は笑顔でそういって緊張しているであろうドールへと優しく語りかけた
「まずは騎士学校へ入学おめでとうと言っておこう、冒険者ギルドからの推薦枠は毎年非常に厳しい戦いを繰り広げられて傷つきながら入学してくる者ばかりであるが今年はどうやら一味違ったらしいな」
校長は鋭い目になりドールを観察するような様子で言葉を続ける
「毎年のことだが冒険者ギルドからの推薦枠で入学するものは途中入学となっているためなかなか生徒と打ち解けるのが難しい。何より貴族と平民という壁が大きく立ちはだかっていてな、私としてもなんとかするためいろいろ手は尽くしているのだがその壁は厚く未だに砕くことはできていない。君にはこれから不快なことも多く起こると思う、だが君も何か意志があってここへ入学することを決めたのであろう? だから何があっても騎士になることを諦めないでくれ」
校長の話を聞いてドールは頷いた。身分の違いが騎士学校内でどのようなことを生んでいるのかドールにはわからない、だが騎士になるという夢は誰にも砕かせない。彼はそう心で思っていた
「まぁ私もただ君達推薦枠の生徒を野放しにするつもりはなくてな、毎年平民への理解がある貴族の生徒を一人紹介することにしているのだ。マリア君、入ってきてくれ」
校長が左方にある扉のほうへ声をかけると扉から学校の制服をきた金髪碧眼の少女が入ってきた
彼女は校長の机の前を通りすぎ、いきなりドールの隣に座ってきた
「君が噂の双剣の剣士なのかぁ! 私はマリア・グレース。よろしくね!」
彼女はそう言ってドールの手を握りぶんぶんと上下に振った
「街でかなり噂になってるからずーっと気になってたんだよね! マクマホン校長に私から頼み混んで紹介してもらうことになったんだよ!」
彼女は少し頬を赤くしながら事のあらましを喋っていくがドールはただ困惑するしかなかった。そして彼は思う。一体街ではどんな噂になっているんだ、と
「よろしくおねがいします、マリアさん」
ドールは噂のことも気になっていたが頭を切り替えて丁寧に頭を下げて挨拶をした
「マリアでいいよ。歳も同じくらいでしょ? それにこれから一緒に騎士になるために学んでいく生徒同士なんだから遠慮しないでね」
マリアはまるで以前からドールが友達であったかのように軽く話していた
「貴族様を呼び捨てなんてとんでもないです。僕もちゃんと身分の違いくらいは理解していますので」
教会でエレナからきっちり身分などの違いも教育されていたドールはこの貴族の少女の対応に困っていた。エレナから聞いていた貴族とこの貴族の少女では大きく印象が違うからだ
もう、堅いなぁ……と少女は呟き「じゃあ少しずつ慣れていってね」と言ったところで校長が話しだす
「親睦を深めることはできそうだな。だがこれ以上ここで雑談されては私も仕事ができん。ドール君の家は王都ではないな? 君見たいな傑物がいればもっと早くから君の存在は王都で噂になっていただろうしな。寮に住むということでいいかね?」
校長がそう言うとマリアは黙り、ドールが答える
「はい、寮でお願いします」
「では、学費と合わせて金貨五枚になる。冒険者ギルドからの推薦枠とはいえ学費は必要だということは知っているだろう? 貴族の者は毎年支払いがあるが推薦枠の者は厳しい道を通ってきたからな。支払いは一回のみで少しは優遇することになっている」
ドールは校長の説明を聞き、袋から金貨五枚を取りだし立ち上がって校長の前まで行き金貨を渡した
「うむ、確認した。寮の場所や学校で必要な物についてはマリア君から聞いてくれ。では二人とも退室していいぞ」
校長がそう言うとマリアが立ち上がり「行こう」とドールの手を引いて校長室を出ることとなった
「あの、マリアさん。手を引かれなくても歩けますので」
手を引かれたまま廊下を歩いていたドールがマリアへと話しかける
「マリアって呼んで」
マリアはドールの手を引きながら歩いたままそう言った
ドールは困っていた。貴族を呼び捨てにすることなんてことはとてもできないからだ
「マリアって呼ばないと手も離さないよ。この様子を他の生徒に見られたら私達付き合ってるんじゃないかって噂になっちゃうかもね」
マリアはいたずらっぽく言った
ドールは覚悟を決めた。ドールの心にはレナという一番大事な人がいたからだ
「マリア、手を離してください」
ドールがそう言ったときマリアはようやく止まり、振り向いてドールから手を離して笑顔でドールへと話しかけた
「まだ堅いなぁ。私は仲良くしたいって思ってるんだけどドール君は私と仲良くするのは嫌?」
マリアがそういうとドールは冷や汗をたらしながら言う
「とんでもないです。とても光栄なことだと思っています。ただ今まで貴族様とお話することなんてなかったのでどうしたらいいのかわからないんです」
ドールは今の素直な気持ちを話していた
マリアはふぅん、と言いドールの目を見ながらどうやったら堅い態度を軟化させれるか手を顎に当てて考えている
ふいにマリアはあまり使いたくないがある一つの方法を閃いた
「私はね、親が国の偉い人だからこの学校の中でも結構影響力のある生徒なんだよ? それに女の子で騎士学校に通う人なんてあまりいないから目立ってるしね。ドール君が私を友達と話すような感じで話さないと私お父さんに頼んでドール君のことを退学にしちゃうかも」
親の力を使って脅すなんてみっともない真似したくなかったが堅い態度をいきなり崩すためにマリアは奥の手ともいえる手を使ってみた
いきなり脅されて青い顔をしたドールは必死に頭の中で今の状況を打破する方法を考える。が彼もまたいい方法は思いつかなかったため、ためらいつつもうんと自分の中で頷き話すことにした
「マリア、わかったよ。だから退学にしないで」
ドールは観念した。こんなわけがわからないことで夢を閉ざされるわけにはいかなかったからだ
「うん、それでよし! 私もこれからドールって呼ぶね! あと退学とかは冗談だから本気にしないでね」
マリアはいたずらっぽい顔で笑い不本意な方法ながらも態度を軟化させることができ満足していた
その後二人で寮の場所を確認し寮長へ挨拶して部屋を決めてもらった。寮の部屋は貴族が泊まる部屋にふさわしく部屋のドアと鍵はドールが街で泊まった宿と同じく魔道具となっており、中の部屋はとても広く中には魔術刻印の刻まれた浴場まで備えられておりまさに至れりつくせりであった
荷物を置いた後は学校の購買や食堂の場所を確認しに行き、ドールは必要なものなどをマリアの指示で揃え二人はわずかな時間ながらも親睦を深めることとなる




