一章 第2話 辺境の村の日常
「そして人類は歌姫とイベール連合軍の力により魔人に勝利し、平和を手にいれました。おしまい」
金髪の修道服をきた若い女性はそう言ってこのお話を終えた。何故か話を読んだ本人が「はぁ~……」と息をつき自ら感動している。この物語の歌姫がシスターだったということもあり、きっと己を重ねているのだろう
そんな様子を見ながら話を聞かされていた子供が三人、白髪で勉強熱心な少年ディア、茶髪でちょっとおバカさんな少女レナ、青髪で半分うとうとしながら聞いていたドール
神聖歴985年 ここはイベール大陸東にあるクロノア国の辺境の村の教会。この三人は孤児でこの教会で育てられていた
人魔戦争が終わって数百年、平和の世が永劫に続くかと思われていたが人と魔人の戦いが終わった後に人と人との争いが始まってしまった
魔人と戦うために一時は連合国と化したイベールの諸国が大陸の覇権を巡って現在も争い、世界一の広さを誇るエレボニア大陸の覇者エレボニア帝国もこの地を狙っているという噂も最近では聞くようになってきた
魔人大陸と繋がるイベール大陸は神に挑んだ反逆者が生まれたいわくつきの地でもあり、資源が豊富な豊かな地でもあり、初代歌姫が生まれた聖地として他大陸からも一目置かれている
そんな紛争の絶えない地では孤児は特に珍しいものではなくなってしまった、と金髪の修道服をきた若い女性エレナは嘆く
自分の世界に入っていたのだろう、やっと現実に戻ってきたシスターは「オホン」と咳をつき「では、今日はこれから自由時間です。お外で遊んでらっしゃい」笑顔で子供達に声をかけた
「はぁ……今日も長かった……」
ディアはエレナに聞こえないような小さな声でそうぼやき、部屋から出ていった。ディアは基本的には勤勉で努力家でありどんな話も真剣に聞く真面目な少年である。だが、ことエレナの語る人魔戦争においては聞いているフリをするようになってしまった。なぜならこの話はディアがこの教会に来た頃から何百度と聞かされており、最後に必ずおとずれるエレナの妄想タイムがセットなのも相まって聞くことすら苦痛になってしまったのである
レナとドールも彼の後を追ってそのまま部屋を出ていった。彼らは今日はどんな遊びをするか教会前で相談している
ディアだけは教会前に置いてあるベンチに座り今日の遊びが決まるのを待機していた。彼は他の二人より知識欲が強く多くの大人と接する機会が多いので他の二人よりは少し大人びた性格をしていた。そのため子供同士の遊びを決めるという行為をするのが苦手であった
「はい、じゃあ今日は魔人ごっこやるよー」
どうやら遊びが決まったようでレナが声をかけてきた
「魔人ごっこかぁ、やめない?」
ディアは魔人ごっこが苦手である。なにしろこの遊びは魔人役に触れられたら「歌姫様、御救いくださいぃぃぃぃいいい」と大きな声で断末魔を上げないといけないことになっている。精神的にも大人に近づいているディアにとってはとても恥ずかしい遊びである
「じゃあ魔人役はドールね」
「うん!」
よくあることでもう慣れてしまったがレナは人の話を聞かない抜けた子でもある。厳密には聞いてはいるのだが、本当はやりたいくせにやりたいって言えないんだねと勝手に解釈している。そして彼女は勝手に配役まで決めてしまったのでディアはもう付き合わざるをえない
こうして自由時間を恥ずかしい遊びで半分過ごすことになり、どっと疲れたディアはいつものようにじーちゃんに呼ばれているからと宣言し、この遊びから途中退場して村の村長のところへ行くことにした
この村長は元魔術師でディアはある事件をきっかけに魔術を学ぶ約束を取り付けることに成功した。人魔戦争の影響もあり魔術は人が生きる上で切っても切れないものとなっていた
「おおう、ディアよ。今日もわしの華麗なる魔術を学びにきたか」
村長は結構な高齢となっているがまだまだ現役気分である
「華麗なる魔術っていってもじーちゃん幻術しか使えないじゃん」
ディアは冷静に突っ込む。ちなみに幻術には相手を傷つける攻撃魔術が存在せず、魔術の中では地味で安全。つまり魔術界の中でも最下層として扱われている
「バカもん!幻術はな、極めればどんな魔術よりも強いんじゃ!幻術の上位術があるという話もどこかで聞いたことがあるんじゃぞ!……その昔な、人魔戦争が終わった後に」
「はいはい、その話はもう何度も聞いたよじーちゃん。それよりさ今日は見てもらいたいものがあるんだ」
ディアがそう言って幻術の初級魔術の一つ「蛍火」を発現させる。蛍火は幻術というよりは生活術に近く、ただ周りに蛍のような光が浮遊するだけの夜道に便利な人に一切害のない安全な術である
「よく見ててよ!じーちゃん!」
ディアが手をかざし集中すると蛍火がただ浮遊する光から輪のように集まったり一つの棒のような形に集まったりしている
「おお、形状変化か!これは驚いたわい!形状変化は応用術で出来るのは才能がある人間だけと聞いておったが、まさかおぬしのような小僧が出来るようになるとは……ぐぬぬ!」
村長は年甲斐もなくディアの才能に嫉妬しているようだった
「じゃがこれはできまい、まだ教えてないからな。フォフォフォ」
村長は人差し指を立ててその指の先に白い炎のような玉を出した
「えっ、幻術って攻撃用の魔術ないんじゃなかったっけ!?」
ディアの純粋な驚きにどうやら村長は満足したようだ、村長は自慢げに言う
「これは狐火といってな、炎自体には燃える効果もありはせん。ただし、これを当てた相手にはまるでそこが燃えているような錯覚を味あわせることはできるんじゃ。どうじゃ、すごいじゃろ?」
「じーちゃん!!」
「わかっておる、今から教えるからそこに座れ」
「いいか、この狐火はな……」
こうしてディアの日課の幻術修行はまた一段階進んだのである
もしかしたら変更するかもと思い書いてませんが、子供達の年齢は3人とも10歳仮定しています