一章 第12話 歌姫の噂
この時代に五人目の歌姫が誕生した
その話は数日で大陸中へと広まり、それは村長の意図するところとだった。
村へきていた商人たちが歌姫誕生の話を街へ持って帰り、聞いた人が歌姫誕生の話をまた広めることとなり、その声はクロノア国の国王にまで届くこととなった
クロノア国第十三代国王ヴァルド・フォン・クロノアはこの噂に悩まされることとなった
宰相マクレインと軍のトップである将軍ドルトスが歌姫誕生について毎朝の会議で揉めるようになったからだ
クロノア国はイベール大陸の紛争の中でも自主的に攻め込む侵略行為を一切行わず、専守を信条として国を運営してきた。事実その運営によってゴルドの蛇という問題は抱えているものの、他国ほど国土は荒れてはいなかった
しかし歌姫という力があれば現在紛争を繰り返しているイベール大陸の盤上をひっくり返すことができる、戦場において歌姫とはそれほどの存在なのだ。現在歌姫はエレボニア大陸の覇者エレボニアに二人、イベール大陸で弱小国を吸収し国土を広げているノルンに一人、そして魔人大陸へと逃げた歌姫が一人と言われている
そこへ新たな歌姫が生まれた、それがレナである
マクレイン宰相は歌姫の噂など信じておらず現在の専守を続け国内の事情を回復させることを優先と主張し、ドルトス将軍はすぐにでも歌姫を召還し軍へ組み込み侵略を続けているノルンに対抗すべきだと主張する
「何度言ったらわかるのだ!歌姫など生まれていない!あれは他国が我が国へ侵略するために流したデマだ!将軍は我が国を滅ぼしたいのか!」
マクレイン宰相は厳しい言葉で将軍を批難する、だが将軍も負けていない
「ならばなおさら軍に予算を割いてもらわねば困りますな!比較的膠着していた他国からの侵略が始まるというのならなおさら歌姫の力は必要不可欠となります。もしこのまま噂の歌姫が他国の手に渡ればそれこそ国が滅ぶ。宰相はその目で確認なさったのかな?」
将軍も歌姫の噂など話半分程度も信じてはいない、だがマクレイン宰相は軍縮してその予算を国内事情回復へ投資しようとしているのだ。それを防ぐためには噂だろうが利用する。もし本当だった場合は手遅れになる前に国で管理し、歌姫を運用する。軍縮傾向で押されていた将軍が歌姫誕生の話で巻き返すこととなった
「仮に本当の話だとして歌姫を運用するには教会の力がいる!歌姫は中央教会の協力がなければまともに使いものにならんという話ではないか!あなたは教会に我が国を売る気か?」
マクレイン宰相は将軍の一番痛いところを突くことにした、歌姫を使うとなれば初代歌姫が誕生したという中央教会の介入は避けられない。また中央教会は全世界で影響力があり、敵に回すこともまた国を滅ぼす行為に繋がるのだ
「そんなもの教会の人間を利用した後でなんとでもなる、今は一刻でも早く歌姫確保に動かねばならぬ!陛下、ご決断ください!」
ドルトス将軍は痛いところを突かれたが暴論で流し国王に話を振ることで回避をした
「ううむ……もし歌姫誕生が真なるとすれば他国に渡るのはたしかに不味い。ただでさえノルンが活気づいているのだ、彼の国とて歌姫の力で現在の国力を維持していると聞く。ただしもし歌姫が偽物だった場合我が国がかつてない戦火に巻き込まれる可能性があるな……まずは歌姫の真偽を確認せよ」
国王ヴァルドはこの話はもう聞き飽きていたのでまず真偽を確かめるよう動く指示をした
「陛下、騙されてはなりませぬ!こんな根も葉もない話で教会の干渉を受けてしまえば国政が立ち行かなくなります。まずは国内第一に考えてください!」
マクレイン宰相は悲痛な声で訴えたが一度下った勅令は覆らない。わかっていても叫ばずにはいられなかった
勝ち誇ったドルトス将軍の顔を睨み、宰相は国王親衛隊の隊長へ歯ぎしりしながら勅令を伝えることとなった
「歌姫誕生の真偽を確認し、本物であれば召喚し、偽物であれば噂を流した愚か者と偽物の歌姫を斬り捨ててこい」
「御意」
偽物であった場合どうするかは伝えられていなかったが宰相が付け加えることにした。彼のせめてもの抵抗であった
その頃、ディアとドールはリィンに剣術の修行をつけてもらえるように頼みこんでいた
「「おねがいします」」
二人は同じ速度で頭を下げた
リィンは村長の家のベッドで街で買ってきた本を読みながら答える
「ダメダメ、村の護衛は頼まれたが修行をつけてくれとは言われてないんだって」
リィンは契約外のことはしないと宣言した
「もう七日目だぞ?そろそろ諦めないか?」
リィンが本を閉じ、彼らに言った
「「お願いします、リィンさんしかいないんです」」
彼らは口を揃えて言った。何度も同じ言葉を繰り返していたらいつのまにか同調するようになってしまった
はぁ……まいったなぁと口走り、ちらりとその目でこの様子を見ている村長を見る
リィンはこう毎日頼みに来られて参っていた。こんなに熱心に学びたいのなら別に修行くらいつけてやってもいいと考えていたが、村長がそれを許さなかった
「はぁ……しかたないのう……リィン少々相手をしてやってくれ」
リィンは村長と前日の夜に話し合っていた、もし明日きたらこてんぱんにして二度と修行がしたいなんて言わないようにしてくれ……と
「よし、じゃあ軽く運動するか」
リィンが立ち上がり村長の家の庭へと歩いている
「「やったぁ!!」」
彼らはここでも同調していた、そのままリィンの後に続き庭へと出る
昨日の夜にリィンが雑木から斬り出した木剣が庭には置いてあった、ディアはまるで今日やることが決まってたみたいだ…と感じていた
「ほら、持てよ」
リィンは二本の木剣を持ち、ディアとドールへ投げた。自身も二本の木剣を持ち軽い調子で言った
「面倒だから二人同時にかかってきていいぞ、ディアは幻術使えるんだったな。使いたかったら使ってもいいし、使わなくてもいい」
ディアとドールは少しムッとした、やっと修行をつけてもらえると思ったのにまるで相手にしてもらえてないと感じていた
二人は顔を合わせ一泡吹かせてやろう……という意見で一致した
「さあ、早くきな。時間は待ってくれない……ってな」




