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一章 第0話 死神と騎士

 神聖歴991年 クロノア国北西部




 その戦には戦場の歌姫と呼ばれる歌姫がいた


 数多の戦場に立ち、数々の神の奇跡を起こし多くの兵士を救ってきた彼らの女神だ。彼女がいる戦に負けはない


 相手国の兵士は二万、それに対し歌姫側はわずか八千だというのに兵士の士気は全く衰えておらず負けることを想像しているものは一人もいない


 戦場の歌姫がいる舞台では死人が出ない、そんな噂すら出回っていた




 加えて今回の戦には天才と言われている少年がいた


 彼は騎士学校時代から輝かしい成績を残しており、平民が持つことはありえないと言われていた騎士の称号を実力で得ていた


 この時代の騎士というのは一般的に剣と盾を持っていたが彼は盾を持たない。双剣使いという騎士では珍しい出で立ちが彼を一層目立たせていた


 盾を持たないのに鉄壁という二つ名を持ち、その二つ名を買われ彼はこの戦の出立直前に歌姫親衛隊へと出世した


 全てはたった一つの思いのために。彼が誓った約束を果たすために




 そして少し離れた同軍の陣地内には死神と言われていた男が立っていた。死神の名に相応しく彼はわずか一年で屍の山を積み上げてきた


 ローブで身形は隠しているが死神もまた少年である。彼は彼の目的のため今回も戦場に屍の山を積み上げるのだろう


 彼は傭兵達と冒険者の義勇軍の後方にいた。死神を見たことがある者は違和感を感じとっていた。彼らが見たことのある死神という少年は常に最前線に立ち、敵対する者の命を刈り取ることで有名だったからだ


 何かが起こる気がする……死神を知る傭兵や冒険者はそんな僅かな違和感を敏感に感じとっていた




 戦闘が始まった……


 戦闘行為が始まった直後、戦場に歌姫の歌が聞こえてきた。戦場には相応しくないとても優しい歌声が戦場中へ響き渡っていた


 戦場だというのに悲鳴や罵声、足音などより優しい歌声のほうがより大きく聞こえ歌姫側の兵士の心は高揚していた


 味方のみに神の奇跡を与えるという歌魔法が始まり、歌姫側の兵士には相手国の兵士の攻撃は一切通らなくなった


 歌姫側の兵士が活気づいていた。あらゆる攻撃を恐れることなく一方的に攻撃できるようになったからだ。歌魔法の効果に気づいた敵国の鋭い兵士は前線から下がり防戦を選んで時間を稼いだが、そのあまりに馬鹿げた力を理解できない兵士は一方的に蹂躙されていった


 歌は十分ほど戦場に鳴り響いていた、その十分間で歌姫側の兵士は相手国の兵数を逃亡兵も含め半分以上を削っていた。自軍の攻撃が通じずに一方的に攻撃されることに怯えた逃亡兵が続出しており、それは既に戦争の体を成してなかった




 歌が鳴りやむ直前に歌姫から無数の光の玉が発射される


 光の玉は上空へと舞い上がり敵国の兵士の指揮官と思われる者に高速で飛来していく。危険を察して避ける強者もいたが避けた方向へすら直角に曲がり追尾する高速の光の玉はそんな強者ですら葬った。逃げることもできず次々と光の玉は直撃しまるで彼らは最初からその戦場にはいなかったかのようにその場から消滅した


 その時点でもう勝負は完全に決まっていた。指揮官もおらず、統率された行動がどうしてとれようか? それを察知できた敵国の傭兵や冒険者は早々に脱出を図り、九死に一生を得ていた


 ただの虐殺の場となった戦場の勝敗はもはや語るまでもない




 そして歌が鳴りやんだ




 戦場の歌姫が一曲歌い終わった瞬間、義勇軍の中で比較的後方にいた死神は自陣の歌姫の方向へ向かい走り出す


 彼の進路上にいた者は斬撃で吹き飛ばされ、それを見ていた死神を知る者は誰もが彼は狂ってしまったと思い彼から大きく距離をとることとなった


 何があっても安全だと確信していたため多くの兵が前線へ出ており、自陣の防衛は薄くなっている


 彼の通る道には死が付き纏う。事実彼の前にいた先ほどまで仲間であったはずの兵士は容赦なく彼の斬撃で命を刈り取られていく


 全てはたった一つの思いのために。これは彼が一年戦場を転々とし待っていた絶好の機会でもあった




 死神が戦場の歌姫へと近づいていく


 後方に控えていた多くの兵士がそれを止めるために動いたが死神を止めるには至らなかった、彼は多くの屍を作り進んでいく


 


 歌姫がいる最後方の陣地まであとわずかという距離まで死神は接近する


 そこに鉄壁の二つ名を持つ天才と呼ばれる双剣の騎士が飛び込んだ


 死神は彼を骸と変えて進むかと思われたが彼の前で立ち止まる




「まさか……」


 天才と呼ばれる騎士は死神と相対して驚くこととなる


「お前はなんのためにそこにいる……!」


 死神はそう言って二本のダガーで、双剣の騎士へ攻撃を仕掛けていった


 二本の剣と二本のダガー、移動しながらだというのに目にも止まらぬほどの速度で二人の攻防が始まり、彼らが通った道はまるで嵐のようになっていた


 化物……彼らを遠くから見ていた一人の兵士はそう呟いていた




 嵐が一瞬止む、二人の間で剣が交差し火花が散っていた


「お前さえいなければ……」


 死神は呟く


「ここでお前が退けば俺は彼女を一生こんな場所には立たせないぞ!」


 死神は怒りをぶつけるように騎士への攻撃を再開した


 上下左右あらゆる角度から斬り付けられる嵐のような斬撃を双剣の騎士はその類稀なる才能で全て防いでいた。伊達に鉄壁の二つ名を持っているわけではない




「そんなことは不可能だ!もう国レベルなんて問題では済まない、世界が相手になる。君だってわかっているだろう!個人では彼女は守れない、僕の考えた方法で彼女は僕が守る!守りぬいてみせる!」


 双剣の騎士からそんな言葉を聞き、死神は怒る


「彼女にいくつの屍を作らせる気だ!お前の……俺達の願いを思い出せ!」


「それは……」


 双剣の騎士にも思うところはあるのだろう、しかし彼もやっと自分が彼女を守れる位置まで登りつめてきたのだ。今までの努力を無に帰すわけにはいかない




「次がくるまでもう時間がない、本気で行くぞ」


 次……というのが何なのか二人は理解していた。死神の作戦は時間との勝負だった、彼はもしかしたらこのような状況もあるかもしれないと想定していたがその可能性は低いと賭け行動に移していた


 本来なら既に歌姫の所へ到達していた。賭けには負けたが死神の意志は変わらない




 死神は両手のダガーを半回転させ逆手に持ち直し仕掛ける構えをとる


 これを凌げば死神は引く、双剣の騎士は確信した


 双剣の騎士は両肩と腕の力を抜く、剣をしっかり握ってはいるが剣先は下に向けてしまっていた


「「無型」」


 そういって二人の姿は戦場から消えた

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