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レイン

 トーリこと徹は、仕方なしに「変な帽子」を被って佐竹植物園を訪れた。

 トーリは植物が好きで、ここは彼にとっては癒される空間で一人でたびたび訪れている。帽子が邪魔だが、鼻歌交じりに園内を散策する。南方系の花、極寒で咲く花が同じ空間に咲いている。このシステムは、やはり佐竹優介の考案らしいが、特許は申請していないらしい。優介いわく、「自分の趣味のために工夫を凝らした物は発明ではない。自己満足のための道具にすぎない」と言う事らしい。トーリにはその理屈は理解できなかったが。


 トーリはフィリピン・ルソン島原産のジェイドバインの花を眺めている。この翡翠のような独特な色合いの花がトーリは好きだった。花の下から見上げてみたり、少し離れて眺めてみたり、飽くる事などなかった。


 「トーリ~! どこにいるの~?」


 誰かが呼ぶ声が遠くに聞こえる。

 やがてトーリの元に白衣姿の女性が走り寄った。彼女の名は「水田まり」、佐竹優介には「レイン」と呼ばれている。理由は優介にしか分からない。

 レインは身長180cm、モデルのような体形で、容姿も美しい。街を歩けば男どもが振り返る。


 「トーリが遅いから、様子を見て来いって先生に言われたのよ~」


 「あ、ああ、花が綺麗で眺めていたら少しのんびりしすぎたかな?」


 「先生は早く戻って来いって言ってるわ。戻りましょう」


 レインはそう言うと白衣を翻してトーリを先導する。

 不思議な事にレインは佐竹優介を尊敬している。彼女いわく、本当の才能というのにはじめて出会ったとのことだ。トーリも優介の才能は素晴らしいなと感じてはいるが、彼女のように手放しで尊敬するほどではない。トーリは優介の発明品の実験台になる事が多いからだ。


 「それで、どんな感じ?」


 前を歩いていたレインは立ちどまり振り返って興味深々の面持ちでトーリに聞く。振り向いた時にサラサラの長い髪が靡き、ほのかなシャンプーの香りがトーリの鼻孔をくすぐった。トーリは研究所のマドンナであるレインに好意を寄せている。


 「う、うん。はじめはちくちくして気になったけれど、すぐに気にならなくなったよ。不思議な事に被っている事すら忘れそうな感じで、見かけよりずっと被り心地はいいね」


 「さすが、先生ね。先生の発明は見た目より中身重視なのよ。世間の人はそこが分かっていないのよね~ 」


 レインは自分の事のように嬉しそうに話すのだった。トーリはレインの美貌に見とれながらも、半分は面白くなかったりした。


 二人は揃って優介の元へ帰ってきた。


 「おお、戻って来たか。どれどれ、早くこちらに寄こしなさい」


 優介は待ちきれないと言った姿勢を隠そうともせずに、トーリから帽子をひったくるように受け取ったのであった。


 さあ、初撮影の試写会がはじまる。


 

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