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佐竹発明研究所

変人と言われる発明家・佐竹優介。彼と彼の発明品が繰り広げるコメディー。

三話で完結予定です。

 佐竹優介は発明家だ。とはいっても売れるような発明品はない。世の中のためになるような発明もした事がない。

 誰もが知っている世界的に有名なデザイナーが祖父であり、世界的なアパレルブランドの創始者を父に持ち、祖父と父の他界と共に莫大な資産を手にした。亡父の会社は弟が継いでいる。父はアパレルブランドの会社の経営を皮切りに次々と世界の有名企業を傘下に収め、世界のセレブ十選に選ばれたほどだ。

 優介が手にした遺産の総額は驚くべき額で、小さな国の国家予算数年分を軽く超えるほどである。優介もまた世界で有数の資産家である。


 幼少のころから「発明王エジソン」を崇拝して、自らも発明家になる事を夢見ていた。父の援助を細々と受けながら好きな発明三昧の生活をしてきた。父の遺産を手にしたとて、その生活に基本的に変化はなかった。ただ研究施設を十数億もの資金を投じ建てたくらいである。と同時に数名の助手を大手企業の部長クラス級の給与で雇った。

 


 優介の取得した特許数は千を超えている。数だけ見れば一応、発明家と言えるが、実用化された物はない。


 『佐竹発明研究所』…佐竹優介の研究施設である。




 「先生。これは何なのですか? 」


 研究所で助手の一人の青年がいぶかしげな顔をして帽子をかぶっている。


 「ふふふ。見た目は普通の帽子だろう? だが、その帽子には驚くべき機能が備わっているのだよ 」


 優介は薄い胸板をそらし助手に得意そうに言う。

 その帽子、つばの所が五センチほども厚みがあり、頭部の後方部はこんもりとしていて、どうみても普通の帽子には見えない。いかにも仕掛けがあります的な帽子だ。


 助手の青年は「はぁ」とため息をついて、再び尋ねる。


 「見た目に関しては先生の感性は僕には理解できません。で? 今度はどんな発明ですか? 」


 助手の青年…名を「華湯(はなゆ)  (とおる)」という。有名私立大学の理系出身者だ。


 不安と困惑と諦めが同居した複雑な表情で問い掛ける助手に、優介は得意げに言う。


 「ふふふ。君も興味深々のようだな 」


 優介には人の表情を汲み取ることはできないらしい。

 優介の説明によると「帽子のような物」にはカメラが内蔵されているそうで、人の感性に反応して、その時の映像を記録するらしい。


 「はあ。そうですか。で、どうやってシャッターを切るのですか? 」


 「それはその帽子が勝手にやってくれるのだ。そこがこの発明のみそといえる。人の喜びや感動などのプラスの感情に反応してシャッターを切るのだ。これがあればシャッターチャンスを逃すことなく、自分がその時に一番興味を持った瞬間を記録できるのだ 」


 「なるほど。ということはこの帽子?をかぶっていると何か頭が『ちくちく』するのは、僕の脳の反応を探っているという事ですか? 」


 「おお、さすが、トーリだ。その通りだよ。慣れないので初めはちくちくするだろうが、直に気にならなくなるぞ。さあ、名誉ある初撮影に出かけてきたまえ 」


 優介は早く結果を知りたくて徹をせかす。ちなみに優介は徹の事を「トーリ」と呼んでいる。理由は誰も知らない。

 せかされた徹は仕方なく、研究所の隣りにある植物園に向かう。この植物園も「佐竹植物園」と言い、優介の趣味で造られた物だ。


 さて、初撮影の結果はどうであろうか?


 

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