目覚めの足音 03
2013年8月12日に書いたものを2013年8月24日に書き直しました
そこまで考えていたアーノルドは、ある一つの可能性にたどり着いた。
それは……
「……サクラ、結晶竜って知ってるか?」
「りゅ、う?」
「そうだ、虹色に光る美しい竜だ」
人族を信用しきっている、桜。
しかし、それに反して言葉を上手く話すことが出来ない少女。
もし人族がいつか桜の結晶を手にしようと考えていたならば、果たして彼女の正体を正直に明かしていただろうか?
それよりも、黙っていたほうが後々都合が良いのではないか?
そう、殺すときに抵抗されない。
とても楽に結晶が手に入る……
「その竜はな。頭部から背中に掛けて大小様々な結晶が生えているのが特徴なんだ」
「みた」
「どこで見たんだ?」
桜が結晶竜の存在を知っていることに、少し安堵する。
しかし、この反応では自分自身がその竜であると知らないかもしれない。
そして桜から返ってきた答えに驚く。
「今、何て言ったんだ?」
「ゆめ、みた。りゅう、ない」
桜は素直に、繰り返す。
結晶竜は夢で見ただけであって、竜は存在しない、と。
アーノルドも桜の真意を正確に受け取っていた。
しかし、確かめずにはいられない。
「サクラの夢に出てきたのか?んで、竜は存在しないってことか?」
「ん、本いる」
「馬鹿な……」
竜はこの世で一番脅威になる存在だ。
そんなの赤子でも知っている。
それを、本の中に出てくるだけの存在だとでも言うのか……獣人の事と言い、竜の事と言い、この少女を知れば知るほどわけが分からなくなる。
桜の目の前でアーノルドが目を見開いたまま固まってしまった。
何故だろう?こてりと首を傾げる桜。
考えるが分からない。
それでも知りたいと思った。
思ってしまった。
虹色の発光体との記憶がない桜。
何故自分がここに居るのかわからない、今まで何処にいたのかも分からない。
そんな危機的状況の中でも、何も感じなかった桜が初めて持った感情。
――アルのことが知りたい。
彼らの出会いは偶然か、運命だったのかわからない。
けれど、それは2人にとって掛け替えのない出来事のはじまりだった。
***
「……お手上げだ。もともと俺に頭脳戦なんて向いてないんだよ、そうだそうだ。よし、ユラに会いに行こう。これはあいつ向きだな。うん、それが良い」
突然大声を出しウガーっと頭を掻き毟る熊。
その後、膝の上にいる桜を器用に片腕に抱き、拳を握り振り上げる。
森にアーノルドの大きな独り言が響き渡る。
「サクラ、ちょっと一緒に出かけよう。俺の友人のユラって奴のところに行こうと思ってる。そいつは根暗で嫌味ったらしい奴だが知識が豊富だし、何より面倒見が良い奴なんだ。サクラも気に入るさ」
「ゆ、ら?」
「そう、ユラだ。あいつも俺には劣るが、立派な毛並みだぞ?」
「ふわふわ」
「どっちかと言うと、もふもふだ」
「もふもふ」
アーノルドは常識云々よりも、桜と自分との間に何かとてつもない認識違いがあると考え直した。
竜を知らない者など存在しない。
なぜなら、この世界は天竜と呼ばれる竜が創設したといわれるからだ。
それだけでなく手紙のやり取りには小型の竜が、村から村への移動などには中型の竜が活躍している。
これらは人に慣れている、人と共存している竜だが、一番怖いのは自分の欲求のみで生きている竜だ。
彼らは他種族のことなぞお構いなしに、町を襲い、気紛れに森を焼く。
だから竜を知らないと言う者を、彼は見たことも聞いたことも無い。
「楽しみか?サクラ」
「ん」
「そうだ、旅の途中にいろいろな物語や暮らす為に必要な知識を話してやろう。ぜったい為になるぞ」
「ん」
結晶竜を知らないのならば、理解できた。
いや、理解はできないが、悪意有る人物により黙秘されていたのならば納得は出来た。
しかし、桜は竜の存在そのものを否定した。
それは完全にアーノルドの容量を超えていたことを意味する。
「あ、そうだ。嫌いな食べ物はないか?」
「ん」
「そうか、良い事だ。これからもいっぱい食べて大きくなれよ」
「……ん」
だから友人に頼ることにしたのだ。
頭脳派の友人に頼れば大丈夫だ。
人はそれを「丸投げ」という。
「食べ物」の時に、桜の返事が遅くなったことに気づくこともなく。
「さっ準備するぞ!」
1人アーノルドはスッキリと晴れやかな顔で宣言した。
次回から新章に移ります!
今度は結晶竜の過去編です。
これからもよろしくお願いします。