まどろみに誘われ 03
2013年8月2日に書いたものを2013年8月20日に書き直しました。
もそもそと動き出した少女をずっと眺めていたアーノルドだったが、一つだけ恐れていたことがあった。
それは彼女の性格である。
自分を無茶苦茶に振り回した発光体が守っていたもの……何とかは飼い主に似る、と言う。
――まさか、この少女も!?
そんな事を怖々と考えていた時、少女が目覚めたのだ。
起きたならば何かしたの反応はあるだろうと、こちらからは何のアクションも起こさず観察していた。
そして少女は彼の予想を斜め上に行く答えを出した。
本来、自分の数倍大きい獣を見たら反応など限られている。
悲鳴をあげ逃げるか、気絶をするか、死んだ振りをするか、だ。
まぁ最後の選択は、熊にのみ通用するかもしれないが。
なのにこの少女と来たら――……
「ふわふわ、か。確かに俺は風呂好きだし、日々の毛並みの手入れは入念ぬしているさ……それに毛の輝きは獣人にとって命だからな」
暗に毛並みが良いと褒められて少し嬉しかったが、いや違うだろうと頭を振る。
「いやいやいや。如何考えても、この反応はおかしいだろう」
もしこれが自分ではなく本当に獣だったらどうするのだ。
親は何を教えている。
言いたいことは多々あったが、今はグッとこらえる。
そう、アーノルドは今一番言いたいことがある。
――よかった。この彼女の性格は、あの発光体とは似ても似つかない。本当によかった。
彼は厄日だ厄日だと思っていた今日一番の幸せを胸いっぱいに噛み締めた。
一頻り感動に打ちひしがれていたアーノルドだったが、ハッと正気に戻りそんな自分に落ち込んだ。
なんだか、発光体に合ってから良い事が無い。
それに少女の性格が気になっていて気づいてなかったが、先程まではどんなに頑張っても持ち上げることが出来なかったが彼女が今はアーノルドが少し力を加えるだけで面白いように転がる。
「もう考えるのは、やめだ。とにかく移動するぞ」
聞いていないと分かっていても、一度少女に断りを入れる。
グッと全身に力を入れ、且つ少女に負担が行かない様に彼は立ち上がるが、腕の中の少女は起きる気配が無い。
そんな少女を気に掛けながら、ゆったりと動くアーノルドが辿り着いた場所は、見た目が洞窟、中身も洞窟なアーノルドの家である。
今のアーノルドの姿は獣型。
服という物を一切見につけていないアーノルドは、残念なことに野生の熊との区別がつかない状態だった。
大きな熊がいそいそと大事そうに少女を抱え巣穴に戻る様は、保護というよりは誘拐である。
野生の動物では考えられない行動から、彼のことを獣人だと見抜くものもいるだろうが、それでも巨大な熊の獣人が幼い少女を巣穴に運び込んでいることには変わりない。
つまり、何が言いたいかと言うと……もし第三者がここにいたならば「おい待てそこの野獣」と直ちに止める光景であることをここに述べておこう。
今は幸いなことに、ここに彼らしかいなかった為アーノルドは無事少女を保護できた。
しかし彼の幸運は続かない。
この数日後、不幸なことにアーノルドは少女を浚った凶悪な熊として近隣で噂されるようになる。
羊毛を引き詰めた場所に少女をそっと下ろした彼は、素早く夕食の準備に取り掛かった。
水浴びは明日になるな、とぼんやり考えながら今朝方狩ってきた鹿肉の残りや野菜、果物を適当に切り鍋に入れていった。
そして子供が好きそうなお菓子も入れた。
「待ちなさい!今何を入れましたか?!確実に入ってはいけないものがありましたよ!!」
いつもなら彼を止める友人の声も、今はない。
そう、彼を止める友人はいない。
子供には栄養価が高いものを食べさせる。
子供には好きなものを食べさせる。
、
その考えから、今手元にある食料の中で栄養価が高いものなどを順番に選び次々鍋に投入していった。
固形物よりは液体物の方が食べやすいだろうと、簡単なスープを作ることにしたのだ。
それにしても、お菓子はおかしいだろう……
けっして駄洒落ではない。
――アーノルドの作ったものは全て毒。
彼と一度でも仕事を組んだことがある者は、口を揃えて訴えた。
奴に食事の手伝いを頼むな、むしろその時だけ奴を近寄らせるな、と。
何を隠そう、アーノルドは「お人好しな熊」と言う渾名の裏で「毒製造機」と呼ばれていた
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