血溜りの中のワルツ03
カテラを投獄したと報告を受けたマリアは直ぐに牢へ向かった。
牢へ向かう途中で出会う侍女からは軽蔑の眼差しを受け、文官や兵士からは尊敬の眼差しを受けていた。
その矛盾した視線をマリアは馬鹿にしたように受け止めた。
何故、誰もマリアが若い姿なままであることに気づかないのか。
何故、カテラの息子や娘に王族特有の能力が備わっていないのか。
何故、男女によってマリアへ向ける考えが違うのか。
何故、何故、なぜ――……
「ふふん、ふん。相変わらずな間抜けども~何が真実かわっからっない~」
疑問を持つことなく、ただ生きる間抜けども。
さぁさぁこれから新しい世界の幕開けよ。
次第にマリアの足はステップを踏む。
タン、タタン。
タン、タン、タタン。
離宮を離れておよそ20分後、マリアは牢獄に到着した。
そこを警備していた兵から最上級の礼でもって迎えられた彼女は「ご苦労様、私が出てくるまで誰も中に通さないで頂戴」と楽しげに一言伝え、足取り軽く階段を下る。
牢の階段は窓が無い為か、まだ朝だというのに薄暗く空気が淀んでいた。
そして狭い階段を下りきったところは少し広い部屋があり、その奥から牢屋が連なっている。
牢屋と牢屋の仕切りはコンクリートの壁ではなく、鉄の棒で仕切られているだけなので当然隣の住人の顔が丸見えである。
双方が手を伸ばせば触る事も出来るし、脱走を目論んだ際の話し合いも看守の目を盗んで行える。
タルクリス王国が何故このような牢を設計したのかというと、罪人に無駄な希望を抱かせない為だ。
盗賊等を一網打尽にした場合、彼らは1人1人隔離されて投獄し、その際隣りの部屋に入れるのは死刑を待つばかりの罪人や、脱獄に失敗し罪を重くした者を入れておく。
盗賊等は顔が見え話も出来る隣人に只管話しかけるだろう、上手い話がある、俺と手を組まないか?と。
しかし長年この牢に入れられている住人は希望を抱くことさえ忘れている、むしろ話をする事さえ出来ないほど憔悴しきっているのだ。
何度も何度も話しかけても、まともな返事が返ってこない。
それだけでなく、自分もいつか彼らのようになるのではないか……食事を抜かれ、看守さえ訪れる事のない牢内で彼らは精神を擦り減らしていくのだ。
そしてまだ投獄されてから日の浅い者たちの横に入れる、特別な事例もあった。
それが、今回の様な時だ。
マリアはある1つの牢の前で足を止めた。
その牢では、隣接する2つの部屋に投獄されている汚らしい格好と顔の男たちが下品な言葉と共に頻りに手を伸ばしている。
手を伸ばされている部屋の住人は、少しでも離れようと体を縮め耳を両手で押さえ部屋中央奥で蹲っていた。
「おいおい、そのお綺麗な顔と体を少し貸してくれるだけで良いんだって、なぁ?」
「ひひっそうだぜ。俺たちゃーその手のベテランだ、お前さんは黙って身を任せれば天国につれてってやるよ。ひひひっ」
「バッカ、お前のテクなんかで天国に行けるかよ!俺だよ、俺!!」
「っんだとテメーやんのか?あぁん!?」
聞いていれば耳が腐りそうな台詞ばかりである。
今まで王宮で大切に育てられていたカテラにとっては、牢に入れられた事実よりも下種な男たちと同じ空間に居る方が耐えられないのことであった。
どうして?何があったの?これは現実?
考えても答えなど出るはずが無い、しかし考えずにはいられない。
部屋を出て直ぐに子供たちからも引き離されたカテラは、ただ無駄に時間が過ぎるの待つばかりである。
そして、そんな彼女に声が掛かる。
「お久しぶりです、お姉様。ご機嫌いかが?」
この場に不釣合いなほど、上機嫌な可愛らしい声。
そして今の今までその存在すらカテラの中で忘れていた者。
カテラは唖然と顔を上げた。
「お前は……マリア?」
彼女の口から擦れた声が出た。
その目は信じられない者を見てしまったかのように見開かれている。
その姿に、その態度に……なにより、何故今この場にいるのか。
カテラの疑問は尽きない。
「生きていたの?それよりも……その姿は……」
「ふふふっ私の若々しい姿が羨ましいの?私は死んでいないんだから生きていて当たり前でしょう?それとも私が死んだと言う報告でも受けてたのかしら?」
カテラの目の前でコテリと可愛らしく首を傾げるマリアは20代後半の若さを維持している。
カテラの記憶が間違いでなければ、マリアは今年60代後半だったように思える。
それが何故?いや、それよりも今までその存在を消して生きていた妹が何故この場にいるのか、今まで何処で生きていたのか。
聞きたい事はたくさんあるのに、言葉にできない。
「起きてらっしゃるの?もしかして目を開けたまま眠ってらっしゃるの?もうお歳ですものね。あぁそうですわ、これを期に王妃を降りられたらよろしいと思います。後任を心配されておられる様ならば大丈夫ですわ、私が責任を持って勤めさせて頂きます。もともとロマロも嫌々結婚していたようですし問題無いですわよね?私は心が広いので例え、お姉様が不義理を働いて出来た子供だとしても奴隷になどせず教育を施して将来然るべき所に出しますわ」
ロマロが私を愛していない?
私が不義理を働いて出来た子供?
マリアは一体何を知っているの!?
「お前は何を知っているの?!答えなさい!」
「まぁ恐ろしい。お姉様お顔が崩れていますわよ?」
「何をふざけているのです!?お前は私の質問に答えれば良いのです!それぐらいしかお前の価値は無いのだから!!」
カテラの命令口調がマリアの耳に入った瞬間、それまでゆらりゆらりとカテラをからかっていた彼女の顔つきが変わる。
そして微笑みを無くしたマリアから語られる真実にカテラは――……
お待たせしました、なかなか執筆が進みません。
そして逃げて、別の小説も書き始めました(汗
「来たれ!背後霊様!!」です。
こちらもよろしければどうぞ。オールギャグで書いてます。




