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水晶竜が見る夢  作者:
23/29

血溜りの中のワルツ01

 マリア姫の元にその情報が届いたのは、アーノルドと桜が森を出て2週間経った頃だった。

 虹色の光の原因を調査する為にロマロが派遣した調査団は、彼女が十分に満足するに情報を携えて帰って来たのだ。


 「さぁ聞かせて頂戴。ふふっ何も無かったなんて無様な様を曝さないでよ?」

 「はい。近隣の村に調査団を派遣したところ、村人の8割が虹色の光を目視していました。現在、光が発生したであろう現場を押さえ、我々以外が入れないように結界を張っております」

 「それで?アレはいたの?」

 「いえ、日が経ちすぎたのかその姿を確認する事はできませんでした。しかし、現場に虹色の鱗が一欠けら落ちておりましたので、それを魔術師に渡し、只今確認を急いでおります」

 「村人への対応は?」

 「幸い目撃した者はおらず、彼らはその光の原因には辿りついておりませんので、適当な理由で誤魔化してまいりました」

 「そう」


 マリアは報告を聞いている内に上がる頬を止めることが出来なかった。

 まだ鱗の確認は出来ていないが、ほぼ100%それが結晶竜であることがわかる。


 「いつ確認が終わるの?」

 「早くて明日、最低1週間後までには確認が出来ます」

 「急いで、3日以内になさい。最後の1匹なのよ、待てないわ」

 「畏まりました」


 そう、最後の1匹なのだ。

 長かった……マリアは過去を振り返る。

 父であるグランテ王を殺害すると同時にロマロを手に入れた。

 最初の5年間で6頭の結晶竜を手に入れ、その願いの全てを異性を魅了することに費やした――マリア17歳。

 6頭だけでは結晶が少なかったのか全ての異性とはいかなかった、けれどロマロの部下10人の男性を魅了することに成功した。

 マリアは彼らを中心とて秘密裏に「虹色信仰」と立ち上げた。

 「虹色信仰」は結晶竜を最上として崇め称える集団とした。

 だから表向きは今現在何処に結晶竜がいるのかを調べるための調査とし、裏では次なる獲物を探す手足として動かした。


 虹色信仰創立10年後(父殺害から15年後)14頭の結晶竜の捕獲に成功――マリア27歳。

 採取した結晶を異性魅了と自分の不老に願った。

 そこからマリアの老化が目に見えるほどゆっくりと進み始めた。

 マリアは父の死より離宮へ引きこもり生活し始めていた為その事実に気づくものはいない。

 それに元々彼女を気に掛ける人物など存在しなかったため、離宮に行こうが行くまいが変化は無かったかもしれないが……


 また、魅了出来た人数は50人にまで増え、会う回数を増やせば精神が強い者も魅了できることを確認した。

 ただし、会うことを怠ると魅了の力が弱まるため定期的に集会を開く事とした。

 その頃から「虹色信仰」の方針が、結晶竜至上主義からマリア姫至上主義へと徐々に方向を変えて行った。


 この20年間の内に狙ったのは全て番の竜だ。

 これは、もともと結晶竜の生態が基本番で生息しているためであった。

 最初、マリアの手駒はロマロ1人だったが、それが苦になることはなかった。

 なぜなら父であるグランテ王を殺した直後、父の遺言となった最後の会議でロマロと女王カテラとの婚約が確定していたからだ。

 これはマリアにとって幸運であったといえよう……わざわざ、こちらから動かずに獲物が掛かったのだから。

 

 「ふふふっ」


 マリアは当時を思い出し、思わず笑ってしまった。

 そんな彼女の様子に気づいたロマロがすかさず問いかける。

 

 「どうされました?」

 「いいえ、なんでもないわ」


 当初ぎこちなかったロマロの口調も今では違和感を抱かないほど普通になっていた。

 現在ロマロはタルクリス王国の若き王として妻であるカテラ王妃の信頼のみでならず、王国民たちの信頼も勝ち取っていた。

 ロマロとカテラの間には2人の王子と1人の姫が産まれており、この国は幸先はとても明るい。

 と、皆が思っている――そう、その裏であは全て嫌われ者のマリア姫に操られているとも知らずに。


 マリアの2番目の姉であるルベアは40年前原因不明の病気に掛かり死亡。

 ルベアは当時30歳であった。

 王の娘として他国か家臣に嫁がなければならなかったが、周りの意見を蹴って死ぬまで王国に仕えた。

 そこにロマロへの恋心があったことを皆が知っていた為、強くいえなかったのも原因かもしれない。

 カテラもそんな妹の恋を応援することが出ないが傍に居たいのならば……とその事を黙認していた。


 しかし、その死さえもマリアの手の上だ。

 恋心を抱いている男からの結婚への示唆。

 嫌がらせの一環としてマリアがロマロに命じたことだった。

 不細工なしかし有能な部下の嫁へ、と。

 しかし彼女はその事に抵抗し、自分の意思を貫いた。

 ロマロから言われたときの絶望しきった顔は見ものだったが、それだけだ。

 当時そこまで力が無かったマリアには、ロマロ以外の男を動かせなかったのだ。

 だから、殺した。

 周りには突然死としていたが、実際は毒殺だ。

 彼女を診察した医師はマリアの手のものだったため、簡単に決着だついた。

 そして今はあの頃とは違う。

 王宮と国民の半数の男がマリアの手中に納まっているのだ。

 

 「そろそろ、良いかもしれないわ……どう思う?ロマロ」

 「マリア様のお心のままに」

 「そうね、お前ごときの意見など合っても無いようなものよね。


 長かった……本当に長かった。

 虹色信仰を立ち上げてから70年。

 そう、マリアは今87歳になっていた。

 しかしその見た目は20代後半、そして未だその事実に気づいた者はいない。


 結晶竜はこの世界に30頭しか存在しない。

 それは天竜が決めたこの世の法則。

 寿命を全うした場合、自然に次なる結晶竜が誕生する。

 しかし、もし何者かによって殺害された場合、もう二度と蘇る事はない――つまり、殺意を持って殺された頭数分だけ結晶竜はこの世界から数を減らしていくのだ。

 マリアは今まで何頭の結晶竜が殺害されたのか知らない。

 彼女が知りえるのは何頭の結晶竜を葬ってきたのかと言う事だ。

 この70年間の内に彼女が手に掛けた結晶竜の数は27頭。

 順調に狩っていた結晶竜が50年前から確認できなくなっていた。

 もし残っているとしたら3頭だが、もうその可能性は限りなく少ないだろうと諦めていたその矢先に、この情報である。

 50年間必死に探してきた。

 今回の竜が最後の1匹になるであろう。


 「もう、夢を見るのはお終いよ……お姉様?」


 最後の1頭を狩る前に、今まで残してきた最後の1人の復讐に手を掛けよう。

 何も知らない、幸せに生きてきた、美しいお姉様に現実を見せてあげよう。


 「あはは、あははははっ」


 マリアの笑い声が離宮に響く。

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