慌しい目覚め05
「さて、2人とも。私に言いたい事はありますか?」
タマユラの目の前には頭にタンコブを盛大に携えたアーノルドと、おまけのような小さなタンコブを携えた桜が正座をしてた。
そして3人がいる部屋は台風が通り過ぎたかのように荒れ果てていた。
「……なんで俺の方が怒られるんだ。俺はサクラを止めただろ、褒められることはあっても怒られる謂れは無いはずだ!」
「まぁまぁまぁ、役立たずが一丁前に反論ですか?しかたないので、優しい私があなたに言葉を教えてあげましょう。サクラちゃんを止めるために何故私の部屋をここまで荒らす必要があったのですか?彼女が竜化したのならばそのまま攻撃対象である、あなたが、外に出れば問題は解決だったはずでしょう?この場合被害は窓一つで済みます。しかし、何か大切な理由があったのでしょう……私には考えられませんが、よりにもよってあなたは、この部屋で、彼女を抑える事を選んだ。そうですね?えぇ結構です。私の小さな脳みそではあなたの盛大な理由など思いつかないので、大丈夫ですよ?その結果が、此れです。アル、視力は大丈夫ですか?見えてますか?ふふふっそういえば熊は視力が悪いのでしたっけ?え?何ですか?悪くない?あぁすみません悪いのは頭でしたね」
「すまん、本当にすまない。俺が全て悪かった。反省している、本当だ。心の底から反省している、許してくれ」
「あなたからその言葉何回聞いた事か……覚えていますか?あれは確か7歳の頃でしたね。まだあなたも小さく可愛げがあった頃ですよ、その時からあなたは――……」
「ごめんなさい!お願いだから許してくれ!!」
アーノルドが反論した瞬間から止まらないタマユラのマシンガントーク。
彼が笑いながらアーノルドの頭をこんこんと軽く叩く仕草など、ホラー以外の何者でもない。
桜など可哀想な程震えている。
プルプル震えているその様は、まるで産まれたての小鹿。
タマユラはチラリと桜を眺め、次なる問題点を指摘する。
この駄目駄目コンビの為に今一匹の狐は鬼になる事を決心した。
「さて、アル。あなたは此処に来るまでに、彼女に何を教えていたのですか?一度竜化しているのならば、彼女が竜族であることは明白。それならばその力をコントロールさせるのは保護者の役目です。何故それが出来ていないのですか?力が制御できていない者ほど危険な者はいないのですよ?」
「いや、俺もそれは考えたんだが。それよりもサクラには一般常識がなくてな、言葉も上手く話せねーし……そっちから教える事にしたんだ」
「その結果が、これ、ですか」
タマユラは、チラリと被害にあった部屋を見た。
そんな彼の様子にアーノルドは慌てた。
「サ、サクラの人見知りも激しかったし、それに移動中すぐ気絶したように寝るから、一般常識自体もあんまり教えれてねぇんだ!」
「人見知りは見ていれば分かりますが、気絶ですか?」
「おう。飯食った後いっつもだ。俺は病気か何かだと思ってる、ちょっと調べてやってくれ」
「今なんて言いましたか?私の耳が悪くなければ食事の後、と?」
「あぁ食後だ。それも毎回なんだ……ぜったい何かおかしな病気にかかってるんだ、まだ幼いのに……」
タマユラはすかさずアーノルドの頭を殴った。
本当は弓矢を番えたかったが、畜生と手元に無い。
「原因はお前だ!まさか毎回あなたが作っていたなんて、そんな恐ろしい事言いませんよね?」
怒りながら、しかし事実を確かめるのが恐ろしい。
そんな表情を貼り付けたタマユラの心情を知らないアーノルドは無情にも「俺が作ってたに決まってるだろ?俺以外誰が作るんだよ」と返した。
しかもなんだか得意げだ。
「馬鹿ですか!?そんな危険物を毎回、彼女は口に――……?」
「一口は必ず食ってたぞ。な?」
「ん」
アーノルドが桜に確認を取ると、桜も素直に返事を返した。
そして2人の間に流れる、ほんわかとした空気。
「……よく、今まで竜化しませんでしたね」
タマユラはそれ以外の言葉を紡ぐ元気が無かった。
***
タマユラはこの遣る瀬無い気持ちを、一心に料理につぎ込んだ。
また、今までアーノルドの生物兵器しか口にしていない桜の不憫さに涙が流れそうだった。
――もしかしたら、アーノルドの料理のせいで記憶が無くなったのかもしれない……
その捨てきれない可能性。
それが真実だったら、この熊の友人としてどうやって償えばいいのか。
やはり、熊に子育ては無理だ。
私が舵を、いや家事をしっかり取らねば!
タマユラは美味しそうな匂いを漂わせる料理を両手に居間へ向かった。
「料理を食べながらで良いので、これからのことについて話し合いましょう」
「おう」
「ん、ん」
桜はいくら思いだけを摂取していれば良いと言っても限度がある。
今までの名残なのか、やはり口に入れたい。
そしてそれが美味しければ、美味しいほど良いと思うのは人として――いや、竜として当然だ。
「まず、サクラちゃん。あなたは自分のことをどれくらい知ってますか?」
「桜、りゅう」
「それ以外には?」
「りゅう、いない。ごはん、想い」
「そうですね、サクラちゃん以外の結晶竜は絶滅しています。しかし、ご飯が想いとは?」
「俺も吃驚したんだが、どうやら結晶竜は栄養を食料から摂取すんじゃなくて、人が料理に込める想いから取るらしい。だから、食べなくても良いんだがサクラは食べることが好きらしいから、一緒に食ってんだ」
タマユラと桜の会話で補えないところをアーノルドが補足する。
タマユラは思う、何故よりにもよってアーノルドの手料理を好んで食べる。
しかも聞いた話によると、毎回気絶しているというのに。
「サクラちゃん、別にこの熊に恩を感じているからといって料理を無理やり食べる必要はないのですよ?」
「がう、アル、すき」
「好きと料理は別物です。むしろ好きなら食べてはいけません、死にますよ」
「たべる」
「どうしてもですか?」
「ん、きめた」
何故よりにもって……口から出そうになった言葉を飲み込んだ。
彼女の横で暢気に料理を食べている熊の胸倉を掴み、力一杯殴りたい。
一般常識の前に、お前の常識を改めろ!と。
「わかりました。料理のことはこれから私に任せてください。大丈夫です、この熊は絶対台所に入れさせません」
「何で俺が台所云々になんだよ、関係ないだろ?」
「あなたは黙っていてください、熊に子育てが出来ないことはもう分かっているのですから」
「なんか、俺の扱い酷くないか?」
しきりに首を傾げる、熊のことなど元から眼中に無い。
桜がコクコクと頷いているのを確認してこれからの計画を話す。
題して「桜改造計画」である。
残念な事に昔に幼馴染と結束して行った「熊料理改造計画」は座礁してしまっている。
桜の場合はまだ、助かる余地がある。
その希望に懸けた。
「サクラちゃん、あなたが今やらなければならない最重要事項は竜化のコントロールです。これが出来れば、ほぼ力の制御ができる事になります。そして我々はこれが出来て初めて一人前になれるのですよ?頑張りましょうね。次に意思疎通が行えるように言葉の訓練、読み書きは当たり前、出来れば人見知りも治していきましょう。そしてこの熊と行動を共にするならば料理は必ず出来なければ、変な事に巻き込まれたときに対処できるように必要最低限の護身術も教えます。大丈夫、時間はたっぷりありますからね」
タマユラはこれからの計画を一息に言った。
もちろんこれを1人でするつもりは無い。
狼と虎に協力要請するつもりだ。
今夜にでも手紙を書かなければ。
やる事はたくさんある。
当の桜は、行き成りの事に目を白黒させていた。
「お、美味いなこれ」
そして熊は「やっぱりユラに任せて間違いなかった」と満足げに頷き、美味しい料理に舌鼓を打っていた。
明日から新しい章に入ります!
こんにちわマリア様の章です。また怖くなるかも……




