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水晶竜が見る夢  作者:
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まどろみに誘われ 01

2013年7月30日に書いたものを2013年8月20日に書き直しました。

 桜は毎日幸せに暮らしていた。

 いつからここで暮らし始めたのかは覚えていない。

 でも虹色に輝く半身たちは、その姿を鮮明に映しいつものように桜に語りかけてくる。

 みんなで笑いあって過ごした。

 彼らを奇異の目で見つめるものは誰1人存在しない。

 夢のような世界。


 「あははははっ!」


 笑い声が一面の花畑に響く。

 しかし、言葉と言うものが一切聞こえない。

 なぜなら彼らに言葉は必要ないから。


 「くすくすっ!」

 「ふふふふっ」


 心に思い描く全てのことがお互いに伝わる、嘘がない世界。

 嘘をつく必要がない世界。


 そこでは全てあるがままを曝け出せる、世界。

 そこは桜にとっての楽園だった。

 そこは桜が見つけた居場所だった。


 しかし、その世界は簡単に崩れ、壊れる。

 だってそこは彼女の――桜の、夢の世界なのだから。

 そしてそんな桜の世界は、彼女の与り知らぬ所で刻々と終わりの時を刻んでいた。


 サクリ、サクリと段々大きくなる大型の獣の足音と共に。

 桜には聞こえない、その音とは彼女に近づいてくる。


 そして……



 ――パリンッ!


 

 世界に大きな音が響いた。

 まるで窓ガラスが割れたような、そんな音。


 世界に満ちていた光が消えた。

 桜の半身たちの声も消えた。

 虹色の光も消えた。

 彼女の中にあった彼らの記憶も、消えた。

 そして桜の世界は、いとも簡単に崩壊した。



 ***


 

 心にポッカリ穴が開いたまま彼女は目覚めた。

 その喪失感を抱きながらの目覚めは、何だか獣臭かった。

 桜はスンスンと鼻を鳴らす、やはり獣臭い。

 それになんだか獣の息遣いも聞こえるような気がした。


 ――なんでだろう?


 ボーっとした頭が少し動きだす。

 何かが桜の近くに居る。

 そしてその何かは彼女を優しく包み込んでいた。

 それは何だか彼女が幼い頃に無くした母親の温もりの様だと、桜には感じられた。


 ソッと目を開ける。

 そこは見えるのは漆黒の世界。

 いや違う――……桜は全容を見出せないほど大きな獣に抱え込まれていたのだ。

 獣はその巨大な体を横たえ、桜が目覚めたことに気がついたにも関わらず何も行動に移さない。

 桜は顔を首が痛くなるほど上に仰いだ、獣の目と視線が合った。


 しかしお互い何も行動に起こさない。

 時だけだ悪戯に過ぎていく。

 

 未だにボーっとする頭を抱えながら、桜は目の前の漆黒の毛にゆっくりと手を伸ばした。

 月明かりを浴びたその毛は光沢を放っており、時々吹く風が優しく毛を撫ぜる。

 獣の毛は桜の予想に違わず柔らかかった。

 その毛の柔らかさが、その獣の温もりが、安心感を生み穴の開いた桜の心に沁み渡る。

 その安心感が、桜に睡魔を呼び寄せる。


 「ふ、わふわ……」


 それは小さな小さな言葉だった。

 ポツリと呟かれたその言の葉を桜ではなく獣が確りと聞きとがめ、彼女はまた眠りの世界へと旅立った。

 

 ――桜の顔には、幸せそうな笑顔が浮かんでいた。



 巨大な体と漆黒の毛を持つ獣は、彼女の行動を動かずただ見つめていた。

 

 獣の名は、アーノルド。

 彼は熊の獣人である。

 獣人とは人型と獣型の2種類の形態を持つ者を指し示す言葉であり、犬や猫の獣人に比べ熊や虎などの大型の獣人は人を嫌い森に生息していることが多い。

 アーノルドもそんな獣人の1人であった。

 そんな彼の日常はいつもと変わらなかった――……そう、森の中で無防備に眠る小さな少女に出会うまでは。

 

 その日の夜も、いつもと同じようにアーノルドは川で水浴びをする為に家を出た。

 季節は冬真っ盛りであったが、獣人の彼にとって雪の中での水浴びはなんの苦にもならない。

 獣人は野生の動物と違い、冬眠する必要が無い。

 しかし、全ての獣人に当てはまらないが動きが鈍る種族がいるのだ。

 そして熊の獣人であるアーノルドは、その数少ない種族であった。


 「熊なら熊らしく、大人しく冬眠していなさい」


 素直ではない彼の友人は、冬に動きが鈍くなるアーノルドを心配して、そう悪態付いた。

 そんな友人の事を彼は思い出していた。

 そう言えば、此処のところ会っていなかったな、と。


 いつもの道のり、いつもの景色。

 そんなアーノルドの目の前をフッと何かが横切った。

 虹色に光る何かがフワフワと漂っている。


 「……うん?」


 彼はパチパチと目を瞬かせる。

 初めは雪が月明かりに反射して光ってりるのかと思った。

 しかし、それにしては色も動きもおかしい。

 それは雪が降る様な上から下に動くのではなく、右から左へゆっくりと移動していたのだ。


 ――おかしい。

 ――確実に、おかしい。


 疑問を確信に変えたアーノルドは、その虹色に光る物体が何なのか見極めようと光の方へ慎重に近づいていった。


 自分の縄張りで、おかしな物が繁殖されたらたまったものではない。


 今彼の心を占めるのは、その一言のみ。

 しかし今までフワフワとゆっくり飛んでいた光は、アーノルドが近づけば近づけだけどんどん離れていく。

 しかもその速度も彼の速さに比例していた。

 隙を突いて瞬間的に近寄ってみたがそれは変わらなかった、ではとばかりにその場に留まれば、何で止まるんだとばかりにアーノルドに近寄り文句が言えない代わりなのか、自身の光を力強く点滅させる。 


 「お前……何がしたいんだ?」


 その発光体に言葉が通じるとは思っていないが、こうもおちょくられているとアーノルドにだって文句を言う権利くらい有るはずだ。

 もう何だか、面倒くさくなってきたアーノルドが足を止めかけた時、彼は発光体が1体だけではないことに気づいた。

 ハッとして周囲を確かめると、そこにはいつの間にか幾つもの光の玉が浮かんでいる。


 やばいとアーノルドが思った時にはすでに遅く、そいつらは集団でアーノルドに襲い掛かってきた。

 いや、アーノルドの背後に高速で移動し、グイグイと彼をとある方向へ強引に移動し始めた。


 「おいおいおいおい、ちょっと待て」


 何故自分が謎の発光体に拉致されなくればならないのだ。

 抵抗しようにも、発光体の方が一枚上手なのか、上手く抜け出せない。


 「面倒ごとは、ごめんだなんだがなー……」 


 彼らから敵意は感じられない、そして自分は逃げられない、ならば何がしたいのか様子を見るしかない。

 そう結論をだしたアーノルドが視線を上げると、そこには今までの比ではないほどの発光体が集結していた。


 その光の世界があまりに非現実的であり、また何処と無く神秘的だった為アーノルドはその中心に横たわっている小さな女の子に気づくのが遅れてしまった。


 その少女が小さなクシャミをしたことで、彼は少女の存在に気づいた。

 いつの間にか発光体からの拘束も解かれていたが、慌てて近寄った彼は気づかなかった。

 少女を保護しようしたが、虹色の光に阻まれて半径1m以内に入ることが出来ない。

 彼の周りでは、相変わらず虹色の光が揺ら揺らと漂うばかり。

 どうやら手を貸してくれる様子はない。

 

 そこから導き出せる答えは一つ……


 「お前ら!いたいけな少女まで拉致監禁してたのか!?犯罪だぞ!!」


 アーノルドがグワッと周りに、若干引いた目をして説教をした。

 その瞬間、発光体が「このアホたれが!!」と言わんばかりに彼へ体当たりと言う名の一斉攻撃を開始したのは仕方が無いことだったのかもしれない……

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