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水晶竜が見る夢  作者:
15/29

悪夢の息遣い 06

少々グロテスクな表現があります。

苦手な方は読まれないことをお勧めします。

 結晶竜1頭分の結晶を丸々腹に収めたマリアは、その全てを腕力に注ぎ込んでいた。

 そして彼女の願い通り、彼女の腕力は人間の少女の域を超えた。

 もう腕力は必要ない。

 そう考えている彼女の次なる願いはもう決まっている。


 「ふふふっ」


 血を滴らせながら、もう1頭の竜へ向かう。

 少女の後ろに倒れている無残な竜には目もくれない。

 雌であったと思われるその結晶竜は頭部から尾にかけて肉が抉れ、今も鮮血が流れ出ている。

 本来聞こえて来る筈の呼吸の音が竜の口から紡がれる事は無く、その代りにその口からは舌が力なく投げ出されていた。

 竜にとって唯一の救いはその目は硬く閉じられていたこと。

 つまり、死の瞬間まで睡眠薬が効いていた事実があったことであろう。


 「あれ?」

 

 それまでしっかりとした足取りで進んでいたマリアの体が急に斜めに傾いだ。

 グッと足に力を入れるが彼女は踏ん張ることが出来ない。

 血を流しすぎたのだ。

 しかし、ここで止まるわけにはいかない。

 やっと楽々結晶を竜の背よりもぎ取ることが出来るようになったのだ。

 彼女にとって、これからが本番なのだから。 


 「だめよ~こんな体じゃ、だめ……」


 ドサリと無様に倒れた自身の体を見渡しながら出た言葉。

 この一言では終わらなかった。


 「駄目よ、駄目――……だめだめだめダメダメ」


 壊れたレコードのように途切れることは無い。

 そんな中でもマリアの顔から笑顔が消えることはなく、その狂ったような笑顔を携えたまま彼女は思うように動かなくなった体を引きずり竜を目指す。

 

 滴の様だった血の跡が、川の様な跡に変わる。

 

 その速度は決して速いものではなかったが、確実に彼女は竜に近づいている。


 窓の外で何も知らない小鳥たちは、いつもの日常を過ごす。

 それは、愛の歌。

 それは、喜びの歌。

 どれほど美しく奏でようとも、マリアの耳には入らない。



 ***



 「ところで、結晶竜は何処に隠し置いたのだ?」


 カテラ姫とロマロの縁談が目出度く結ばれ、一通りロマロを弄くりたおしたグランテ王は次の目的に移った。

 それは結晶竜をこの目で存分に眺め、その後すぐに結晶を採取すること。

 特に、結晶の採取は早ければ早いほど良い。

 王は念願の結晶を自身の手で切り取ろうと考えていたのだ。


 「東の教会の中に隠しております」


 話題の移り変わりに、ロマロがすぐさま飛びついた。

 仲間からの祝福はとても嬉しいのだが、羞恥心のほうが勝るのだ。


 「そうか、良い場所を選んだな。あの場所ならば普段から人が寄り付かぬ……さて、これから我々の結晶竜を拝みにいくか」  

 「流石です陛下。執務も急を要するものはございません、皆で向かいましょう」


 1人2人と宰相が賛同した。

 しかし、ここで待ったを掛けたのがロマロだ。


 「陛下、それは安直でございます。我々が移動するとなると、どうしても周囲の目が向きます」

 「ふむ、それもそうだな……では、ロマロ。お主が我の共をせい」

 「陛下!!」


 宰相たちの反対の声を上げるが、グランテ王は意見を変えなかった。


 「お主等、わしと未来の息子の邪魔立てをするのか?」

 「それと此れとでは話が違いす」

 「いや、同じことよ。さてロマロ、行くとするか」 

 「陛下!」


 宰相たちは非難の声をグランテ王とロマロに浴びせたが、彼らは素早く身を翻し部屋を出て行った。

 向かう先は、東の協会。

 そこで何が起こっているのか知らない2人は足早に進む。

 計画が順調であることを信じて、幸せな未来に向かって。

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