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水晶竜が見る夢  作者:
14/29

悪夢の息遣い 05

後半に少々グロテスクな表現が入っております。

苦手な方は読まないことをお勧めします。

 「――……うむ、その案を採用しよう」


 その頃、王たちはやっと結晶竜の使い道を定めたところだった。

 貴重な結晶竜が2頭も手に入ったのだ、その会議は困難を極め1週間時間があったとしても終わることは無いかと思われた。


 ――国家の為、自分の為にと欲望渦巻く会議。


 しかし、異例の事にその会議時間はたったの5時間で終了の兆しを見せた。

 

 その原因には2つの事が絡んでいた。

 1つ目は、貴重な結晶竜を長時間手元に置く事によって第3者の手に奪われてしまう事を恐れたこと。

 2つ目は、睡眠薬と魔法によって眠らせている竜が起きることを恐れていたから。


 以上の要因により、彼らは驚くべき速さで会議をまとめたのだった。

 また以前より秘密裏に進めていた結晶竜捕獲計画の内枠に、捕獲後の有効活用について話し合いが行われていたことも一躍買っていた。


 「しかし、本当に結晶竜を捕獲できたとは……未だに信じられん」


 グランテ王は椅子に深く腰掛け直しながら目の前に座るロマロを見据えた。


 「実は私自身も信じられない思いで一杯です。しかも番を確保できたことは奇跡と言えましょう。森の民たちが独占しているこの世に30頭しか存在しない結晶竜……我が目で確認してきましたが、その美しさはこの世の物とは思えませんでした」

 「ほほぅ、そなたにそこまで言わせるとは。我が娘カテラと比べると、どうだ?」

 「陛下!カテラ様に勝るものはございません!!それはこの国の誰もが知っていることでございます」


 顔を真っ赤にさせながらロマロは王に答える。

 その際、彼は机を強く蹴り上げており、それが彼の動揺を表していた。

 会議に参加していた宰相たちは彼らのやり取りを笑いながら見ていた。

 その顔にはまた始まったか、と若干呆れたような親しみを浮かべている者までいる始末だ。

 王がロマロをからかうのはロマロがカテラ姫に恋慕している事を知っているからである。


 ロマロは若干29歳にして、このタルクリス王国の軍部最高指令長にまで上り詰めた秀才であった。

 今は周りの反応にアタフタと慌てているが、一度戦場や作戦会議に立てば斬新な戦略で自国の軍を何度と無く勝利に導いてきたのだ。

 これらのことかもあり、王も彼を高く評価していた。

 息子がいない王にとって才能溢れる彼を自分の跡継ぎにしても良いとまで考えているのだ。

 そう、自分の娘であるカテラを嫁がせても良いとまで考えている。

 もちろんカテラの意見も聞くつもりだが、カテラ自身も満更ではない様子だと侍女長に聞き及んでいた。

 彼らの周りは勝手に2人を婚約者同士だと思う者まで出てきている始末。

 これは早く話を進めなければ、とグランテ王自身考えていた矢先に結晶竜の捕獲成功の功績。

 この機を逃すべきではない。

  

 「時にロマロ……おぬしそろそろ婚約者を持ってみてはどうだ?」


 王の突然の申し出にロマロは顔を硬くした。

 彼は自分の恋心がついにバレてしまったのかと思ったのだ。

 貴族の出でない彼にとってカテラは高嶺の花、身分違いも良い所だ。

 しかも王が婚約者を勧めると言う事は、断ることが出来ない縁談。

 

 「……陛下、私の事をそこまで考えていて下さるとは感無量でございます。しかし私自身、家庭を持つにはまだ早いと考えております。もし陛下が許してくださるのであれば、もう数年軍部にて力を発揮したいと思っております」


 硬い顔と声で断りを入れるロマロに王は小さく笑った。


 「早合点するなロマロ、何も望まぬ縁談を勧めているわけではない。なに我が娘であるカテラをお主に勧めておるだけだ」

 「なっ!?」

 「よもや、要らぬとは申すまい?」

 「えっ!?」

 

 にやりとからかいを含んだ笑みを浮かべ、王はロマロに問い質した。

 当のロマロは先ほどとは比べ物にならないほどの慌てようで、何を話しているのか誰にも理解できなかった。

 笑い声が室内に響く。

 ロマロは漸く自分の思いが隠しきれて居なかった事を悟った。

 その上での縁談。

 パニックに成りながらもロマロは言わなければ成らない一言を発した。

 つまり「……お受けいたします」無意識に答えたのが。

 ぽかんとした顔で、しかしハッキリと答えたロマロにまた周囲が笑った。


 彼らは確かに幸せだった。

 そして、その幸せが続くと信じていた。


 今、この時は……


 

 ***  

 


 マリアの見た目はそれは酷いものだった。

 両手は直視出来ないほど傷ついていた。

 また、その手をジックリと見たとしても、それが本来少女の手であったなど誰にも理解されないであろうところまで来ていたのだ。

 そしてその顔に付いた血痕は腕や手だけに留まらず、少女の着ている服にまで及び本来の色を失わせていた。

 そんな悲惨な姿をしているマリアは鼻歌を歌うほど上機嫌だ。

 ここまで機嫌が良い彼女を見た者はいない、もちろん彼女自身も含めてである。

 今現在の少女の腕力は、ほっそりとした腕を振るうだけで竜の背から楽々と結晶を奪い取るこを可能としていた。


 「ふんっふふんっふふふふふんっ」

 

 もう最初に聞こえた狂気染みた笑い声は聞こえない。

 今この教会内に響いているのは明るい鼻歌だ。

 しかしその歌声は何処か薄気味悪さを感じさせるものだった。

 未だに竜は目覚めない、そして王たちもこの異常事態に気づかない。

 マリアの暴走を止めるものは、現れない。

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