悪夢の息遣い 04
少々グロテスクな表現があります。
苦手な方は、読まれないことをお勧めします。
「み~つけた」
にたりと微笑むマリア。
「ふふふっ私の物だわ。素敵、なんて綺麗なの」
指の腹で虹色に光る滑らかな鱗を優しく撫でる。
そして彼女は唐突にその鱗の出っ張りに指を掛けグッと力を入れた。
しかし人間の、たかが12歳の子供に竜の鱗を剥ぐ力があるわけが無い。
案の定、彼女の爪が割れそこから血が滲み出てきた。
マリアは自分の爪から流れる血を数秒眺めていたが、その血が手の甲を流れ落ちそうなのを見て、ねっとりと舐め上げた。
「……あははははっ」
彼女は笑顔のまま自分の指を数回舐め、目を建物の隅々まで走らせた。
その目に目標物を発見したのか、窓際まで移動し何かを拾い上げる。
可愛らしい手が拾い上げたのは木の枠に残っている窓ガラスの破片。
それを手にしたまま竜の元まで戻ると、今度は竜の尾に近寄り比較的小さな結晶に狙いを定め、彼女の獲物を大きく振り下ろした。
しかし、一度では上手く行かないのか何度も、何度もマリアは狂ったようにただの窓枠を振り下ろす。
その間彼女の笑いが耐えることは無い。
手のひらの肉刺が出来、そしてそれが潰れる。
それでも止まることのない彼女の手のひらからは血が涙のように、流れ続けている。
数十分続いたその行為はコロリと零れ落ちた小さな結晶によって終わりを迎えた。
いや、終わりではない。
それが始まりの合図であった。
マリアは振り上げていた窓枠放り投げ、その結晶に飛びついた。
ふー、ふー、と荒い呼吸を繰り返す彼女の目は血走り、拾い上げた結晶には彼女の血がべっとりと付着していた。
だが、当の本人は気づいていないだろう事は、誰の目にも明らかだった。
そして、彼女はその結晶を拾い上げた時とは逆に、虹色に光るそれを両手で掲げ慎重に口の中に入れた。
その様は、まるで最上の食べ物を口に入れるかのようだ。
結晶は彼女の口の中で柔らかく融け、つるりと彼女の喉を通過した。
その瞬間、彼女は目を閉じ願う。
人知を超えた腕力を今此処に、と。
開眼した後すぐに血に濡れた手の平を二度三度、開閉した。
血が未だに滴る手には何の変化も見られない。
「だいじょうぶ。だって……目の前にはまだ、い~っぱいあるもの」
にこり、と彼女は目の前に聳え立つ大きな結晶に目をやる。
マリアは投げ捨てた窓枠には目もくれず、血を拭う事もなく、結晶竜に近づく。
そして、今度は自らの拳をその結晶にぶつけた。
彼女が結晶を殴るたびに、飛び散る血液。
彼女の頬へ、服へ、地面へ、その血が付着する。
しかし彼女は止まらない、やがて彼女の肉片までも飛び散り始めた。
手の甲の骨が見え始めたころ、結晶がポキリと折れた。
「あはっ!ふたつめ~」
今度はすぐに口に入れた、しかし一度では口に入らず二回に分けて食べた。
願うことは一つ。
人知を超えた腕力を私に、と。
彼女の行為は続く。
マリアは飽くことなく、目の前の結晶を殴り続け、そして結晶が手に入るたびに人知を超えた腕力を願い続けた。
「あれ~?おかしいなぁ」
やっと数回の打撃で結晶を取ることが出来ていた彼女は首を傾げる。
上手く殴れないのだ。
それは当たり前だろう、その頃にはもう彼女の手は骨が剥き出ているだけではなくボロボロに折れていたのだから。
結晶竜の結晶は半分程なくなっている。
しかし、そこで彼女が止まるはずがない。
「ま、いっか。もう少し、もうすっこし~」
狂気宴はまだ続く。
もう少し狂ったマリアにお付き合いください。




