悪夢の息遣い 03
それからのマリアの行動は早かった。
すぐに部屋を出て誰かに見つかるような事にならないよう十分に時間を置いた。
深呼吸を一つ。
焦れば全てを仕損じる。
「そんなことさせないわ」
冷静にならなければ、マリアは今一度自分に喝を入れる。
濁った瞳に少しだけ知性の色が戻った。
「結晶竜の大きさは5メートル……それが2頭。彼らが置かれている場所は限られているわ。最低10メートル以上間取りがある部屋であること、尚且つ人に見られることがない場所。この2つの条件が揃っているのは……」
必死に頭を働かせる。
他人から距離を置かれていたマリアは、本来王家の娘として必要な授業や礼儀作法等の時間が無くなっていた。
もちろん王の指示などではなく、嫌がらせの一環として行われていたものである。
その時間帯にマリアが部屋で待っていても誰も来ず、来たとしても侍女が嫌味を言いにくるのみいであった。
だから彼女はその時間帯部屋から逃げ出し、他の部屋へ避難していたのだ。
人を避け、ただただ1人になれる場所を探した。
そんな時、彼女は偶然隠し扉を見つけた。
それからはその時間帯を隠し扉を見つける事に費やした。
幸か不幸か今この城で彼女以上に兵が警備されている場所や人が通る時間帯、隠し扉を知っているものはいない。
マリアは不意に城の東に古びた協会があることを思い出した。
3年前に新しい教会を西に建設したことによって、東側の協会は今は使われることが無くなったのだ。
新しい建物を建築する話も出ているのだが、未だにその場所は人の手が入っていない。
その協会は3年前より人が寄り付いておらず、竜を二頭入れたとしても十分に余裕がある。
なんとも都合良い場所である。
「……ここだわ。ここ以外ありえない」
どろり、とまた欲望に溺れそうになるのを何とか留めながら、マリアは結晶竜が運ばれたであろう協会へ向かっていた。
王と宰相たちは執務室でこれからの事について会議をしているはずだ。
大丈夫、大丈夫、上手く行くわ。
マリアは協会へ続く道を1人駆けながら、何度も同じ事を自分自身に言い聞かせた。
***
弾む息を落ち着かせ辿り着いた教会。
もちろん誰かに見つかるようなヘマはしていない。
協会の外に兵が居る事を危惧していたが、その心配は杞憂に終わった。
普段から人がいないのだ。
もし、今此処に兵が居たらその不自然差が逆に目立つ。
マリアはもう一度周りに人が居ない事を確認し、協会の裏側に回り込んだ。
そこには丁度子供1人が通れるくらいの小さな、小さな抜け穴があった。
彼女が秘密裏に作った抜け穴である。
2年前に作った抜け穴だった為、今の彼女には少し小さいがそんなことマリアには関係なかった。
彼女は興奮で小刻みに震える体を勢いよくその穴に押し込んだ。
その際、尖った木が彼女の左腕を傷つけたがアドレナリンが回りきったマリアは一切気づかない。
そして彼女は見つけた――協会の真ん中に無造作に置かれている2頭の美しい竜を。
それは想像以上の美しさであった。
間違いなく、彼女が生きてきた中で一番美しかった。
――あれがもうすぐ私の物になる……
すぐに駆け寄りたい衝動を抑え、見張りの兵がいないか用心深く見渡す。
ここで見つかれば、今までの苦労が水の泡だ。
じっと身を潜め周りの気配を探ったマリアは、今この場に自分しか居ない事を確信した。
血の道しるべを残しながらマリアは一歩ずつゆっくりと歩む。
先ほどから止まらぬ震え、荒い息遣い、左腕から流れ続ける血、その全てが彼女の異常を表している。
彼女には結晶竜以外のものが目に入っていなかった。
彼女の震える指先が一頭の結晶竜に触れたその瞬間、彼女の瞳から辛うじて残っていた理性の色が消えた。
マリアを書いていると、アーノルドとは違った楽しさが芽生えてきた……
ちょっと危ないかな~って思うのは私だけ?




