悪夢の息遣い 02
その噂をマリアが聞いたのは偶然だった。
マリアがいつものように人を避けながら廊下を移動している時のこと。
偶然前方からこちらに歩いてくる父親であるグランテ王とその重役の姿が目に付いた。
この長い廊下で姿を隠せるのは、すぐ横にある部屋しかなく、マリアは迷うことなくスルリと身を滑り込ませた。
そこで彼らが過ぎるのをジッと待っていたのだが、運の悪いことにバタバタと忙しない足音が聞こえてきたのだ。
「グランテ王!お待ちください!グランテ王!!」
「王を呼び止めるなど無礼にもほどがある、分を弁えろロマロ」
「申し訳ありません、ですが早急にお伝えせねばならないことがございます!」
何やら焦った様な声が聞こえてくる。
マリアはすぐ傍の扉に体を預け、耳を傾けた。
「よい、申してみよ」
グランテ王の声を聞いた時、マリアは一瞬身を硬くした。
なぜなら父親の声などここ4年程聞いたことがなかったからだ。
苦い感情が胸に染みる。
そんなマリアの心境など無関係に、会話は続く。
「は、先ほど我が軍より結晶竜の番を確保したとの報告を受けました」
「なんと!それは誠か!?」
思わず大声が出たのか、長い回廊に王の声が響く。
しかし次の瞬間には小さく舌打ちし、そんな自分を咎める様に声を潜める。
そう、まるで国家機密を話すかのように。
「その報告、嘘偽りは無いな?」
「もちろんでございます。また、それだけでなく睡眠薬を忍ばせた果実を罠に生け捕りにした為、外傷は一切無くその背に生えている結晶も大降りで――……」
「お待ちくださいグランテ王!この様な場所で話していい内容ではございません、ここは場所を移してからの方が良いかと」
「う、うむ。そうであったな、急ぎ執務室に戻るぞ!」
その会話を最後に、彼らは興奮冷めぬ様子で来た道を戻っていった。
「結晶竜……」
マリアは今聞いた竜の名前を無意識に呟いていた。
その竜の名前は、有名すぎた。
誰もが知っていて、誰もが手にしたいと望んでいた。
その竜が持つ結晶を、その竜が授ける恩恵を。
――胸の動悸が止まらない。
結晶竜があれば……冷静に成らなくてはいけない。
自身の体を抱きしめるが、その抱きしめる腕も小刻みに震えている。
そう、マリアは今までに無いほど興奮していた。
「ふふふっ」
彼女の口から小さな笑い声がこぼれる。
そして、それを合図に彼女が今まで押さえつけ蓋をしていた欲望がドロリと溢れ出す。
鈴を転がしたかのような笑い声を作り出すその少女の顔は、体の奥から溢れ出す欲望で醜く歪んでいた。
彼女の人生を変えることの出来る唯一の方法。
「だれにも、わたさない」
ゆっくりと紡がれた一言を聞いた者は、いない。
マリア怖い。
でもこれからドンドン怖くなる……




