外伝1・気休めクイズ大会《1》
ちょっとした気休めのつもりのお話です。
瞬の萎縮ぶりに(笑)とか駄目ですよ?
不死体駆逐作戦が成功、完遂したその翌日、昼過ぎに御剣から隊長格会議の実施について、アリスに通知が来た。その主な議題内容は、昨日新たな不死体として、聖騎士団に緊迫の状況を持ち込んだ「影」の詳細について。また、前回の隊長格会議以降の格部隊の現状報告。その他、様々な事を報告したりする、つまりはお堅い集まりなのである。召集をかけられた隊長格の団員達は、各々時間が来るまでは自由な時間を過ごす。たとえば緒代は、確定射撃の精密度を増すために銃撃専用訓練施設に一人行っている。おやっさんは、救護部隊の救護施設にとある人物の見舞いに行っていたりする。そして同様に、例の隔離能力者も有意義な時間を過ごすのであった。
「あ、あれ?カメラ回ってる?え!?もう始まってるの!?あ、えっと……」
ふう、と一息つく。そして、今度はゆっくりと息を吸い、心を落ち着かせる。
「聖騎士団恒例?第何回か分からないけど騎士団内クイズ大会!始まるぜー!!」
聖騎士団気休めイベントの一つ、騎士団内クイズ大会が、神崎瞬の一声で幕を開けた。このイベントは、主に隊長格会議の前に行われるもので、毎回、騎士領から固有電波を飛ばして人々のアリスを通して放送されている、云わばテレビ番組のような感じだ。もちろん、その電波は城下全域にも伝わっており、騎士団が直接運営している番組ということで、視聴率はかなり高い。ましてや、瞬を始めとした騎士団の実力者を主演として出演させているから、尚更いい。中継は全て生中継で、その中継場所は、騎士領の大体育館だ。一番最初に瞬が昇格試験を受けたあの場所である。あの時は、体育館内を何分割かに分けていたため、少し狭さを感じたが、実際にの広さは、三階までのスタンド席があることに加え、総合で入る人員は合計で二千人弱というかなりの面積を持ち合わせている、聖騎士団の中でも五本の指に入る巨大建造物である。ちなみに一番大きいのは教会だったりする(約三倍の面積)司会はいつもくじ引き的なもので決められているが、今回の司会は瞬と、天真爛漫がぴったり合いそうな少女、如月弥生である。
「じゃんじゃんじゃーん!!始まりましたよ神崎せんぱいっ!」
如月は元気いっぱいに飛び上がると全開の笑顔で瞬に呼びかける。一方瞬も、それに答えるかのようにカメラに微笑する。もちろん、体育館内には巨大ディスプレイがあるため、その顔は大画面で映される。
『きゃーーーーー!!!神崎くぅんっ!!!』
女性ファンが、一斉に興奮する。実を言うと、瞬は聖騎士団の男性騎士団員ランキング上位に常に君臨する、大人気の少年なのだ。
「それじゃまず始めに、今回の挑戦者の紹介するぜ。今回のゲスト、一人目は!戦場に凛として咲き誇る一輪の気高き薔薇。手を出せば、その鋭い棘で手を怪我するかもね!!特攻部隊副隊長、藍河静理さーーん!!」
「おい神崎っ!なんで私がこんなものに参加しなくてはならないんだ!!」
体育館ステージに置かれた三つのボックス。その一番右端のボックスから出てきたのは、泣く子も黙る副隊長、藍河静理であった。聖騎士団騎士学校用の制服を身に付けた静理は登場と同時に、瞬に罵声を浴びせる。が、その声は届かない。なぜなら
『きゃーーーー!!静理様ーーーー!!!!』
女性ファンが、静理に対しても、興奮しているからである。彼女の初登場時にも一度言ったと思うが、彼女は、男性ファンからの人気が高い上に、付け加えて、女性ファンからも絶大な人気を得ている。それゆえ、瞬に退けを取らないくらいに女性ファンは興奮するのである。
「まあまあ落ち着いてよ静理さん。気休め程度だからさ」
「な、何を言っている!!私は暇ではないんだぞ!それに、なんで制服を着なければいけないんだ!?」
静理は、とっくに騎士学校を卒業しているから、制服を着る必要がないのだが、着せられている。すると、ステージに上がってきた瞬が、静理の耳元で囁く。
(この方が見栄えがいいんだってさ。今度城下でなんか奢るから、協力してよ)
(何?そ、それは本当か?なら、いいだろう。協力する)
あっさりと条件を飲んだ静理。瞬は心の中で、軽いな、とか思ってたり思ってなかったり。ついでに言うと、静理の顔が少し赤くなっていて、まんざらでもないような表情をする。
瞬は、次のボックスの前に立つと、少し顔を強張らせる。理由は、あの総合部隊副隊長のお方が出演者であるためだ。
「え、えっと、次のゲストは……聖騎士団が誇る沈黙の姫君。かわいい見た目に悪魔の心!総合部隊副隊長、緒代孤影だ!!」
名前を呼び、登場を待つが、すぐには出てこない。瞬はボックスを軽くノックして本人がいるか確認する。あの能力を使う以上は、逃げられる可能性が高い。そうやって逃亡されれば、番組的にいかがなものかと、瞬は少し焦りの表情を浮かべる。
「あ、あの……孤影?逃げてないよね?」
「……大丈夫。いる。今から出る」
中から声が返ってくる。どうやら、逃げられてはいないらしい。瞬は、少しだけ安堵の表情を浮かべる。それと同時、孤影がいるはずのボックスが、突如黒い波動に覆われた。
「うお!な、なんだ……?」
バッと、体育館の照明が落とされる。突然の事態に、瞬だけでなく、静理や観客も困惑する。だが、すぐにまた照明は蘇る。そして、まず最初に孤影の静かな声が、同じく静かな体育館内に響いた。
「……どうかしら?この登場方法。題するなら闇からの聖誕と言えるかも」
瞬が孤影の姿を確認する。彼女は、なぜか玉座のような椅子に鎮座していた。だが、瞬は、彼女がいきなり座った状態で登場したことは気にかけなかった。
「うわ……なんでそんな格好してるんだよ?」
瞬が気にしたのは、孤影の格好であった。
「……何か問題?」
鎮座している彼女が身に纏っているのは、真っ黒なフリフリの衣装である。いわゆるこれは、ゴスロリ衣装と言うやつだろうか。しかも、頭にはカチューシャを付け、右目に蒼いカラーコンタクトなるものもつけている。
「しょ、正直……目立ってるぞ」
ディスプレイに映されたゴスロリ姿の孤影。正直、普段のイメージに似つかわしくないので、観客は硬直しきっている。しかし孤影自身は、特に何も気にして無い様子で、首を傾げるだけだ。
「……おかしい?」
やや呆れた感じの瞬は、苦笑する。
「いや、大丈夫だよ……」
いつもならもう少し深く話に入り込む瞬だが、何故か引き下がる。それをみた如月が不思議そうに瞬に話しかける。
「あれ~神崎せんぱいいつもならもっと色々言いますよね~?」
如月の言葉を聞いた瞬は、虚を突かれたように、びくっとする。その様を見ていた静理が慌てて如月を自分のところに呼び寄せて、耳打ちする。
(き、如月!忘れたのか!神崎のどうしようもない性格を)
しばらくの沈黙のあと、如月ははっとなって両手を合わせる。
(そ、そういえばそうでしたね~!神崎せんぱいの性格上、へたにいろいろ言えないんでしたね!)
如月は瞬の下へと駆け寄ると、なんでもないですぅ、と何もなかったかのようにその場を取り繕う。瞬は、その言葉を聞いてあっさりもとに戻る。
瞬は、どうしようもない性格、いや癖の持ち主である。普段から楽観的で、誰に対しても平等に接する事の出来る優しい心を持った瞬は、それゆえに、変な癖を持っている。それは、自分よりも実力がある人間に対する接し方が、妙に違和感があることだ。たとえば、御剣と話す時は、絶対に使うはずのない敬語を使って話したりしているのだ。単に、立場が上であるから、という理由であった場合、孤影に対しては敬語では話していないため、それは成立しなくなる。彼がこのような癖を持ってしまった理由として上げられるのは、恐らく小さい頃から聖騎士団に所属し、年上にさえ敬語を使われてしまうほどの扱いを受けていたりして、上下関係が曖昧になったせいであると考えられる。段々と成長するうちに、自分が周りより優れていることに気付き、自分よりも上の人間を見る機会が少なかったからであろう。そのため、孤影や御剣などの自分より圧倒的に上の力を持っている存在に対して、どうしても萎縮してしまうのだ。このことは、暗黙の了解となっている。
「そ、それじゃ、次のゲストは!その眼で透かせないものは無いと言っても過言ではないという能力、識別透視を携えた、聖騎士団のお姉さん的存在!細波誓歌!!」
最後のゲストは監視部隊隊長の細波誓歌だ。彼女もまた、静理同様に騎士学校の制服を着用している。ボックスからゆっくりと出てきた細波はなにやら不機嫌そうな表情で、こちらに来る。
「一つ聞いてもいいかしら?瞬」
声質が明らかに低く、冷たい。これは間違いなく、怒っている。瞬は、再び表情を強張らせ、何?と出来るだけ、彼女を刺激しないようにする。
「私、こう見えて昨日はろくな睡眠時間を取れていないのだけれど、なんで呼ばれなくてはいけないのかしら?」
言う細波は、確かに少々辛そうな表情をしている。
「ほんとごめん!予定が完全に無かったの細波だけだったから、いいかなって」
瞬は両手を合わせて謝罪の意を表す。細波は軽く息を吐き、肩をすくめる。
「はぁ……ちゃんと伝えるべきかしら?私の予定は、長時間の睡眠よ」
「ご、ごめん!だけど、頼む!出るだけでいいからさ、座って寝てていいからさ!」
瞬の言葉に、細波は返事も無く踵を返すだけで、自分の席へと着席した。というか、監視することが仕事の部隊の隊長ともあろう彼女が、監視部隊の業務を行っていない事が、瞬は一番気になった。がもちろん口にはしない。
「あ、あははは……今日のゲストは個性が溢れてるな~」
「せんぱい。どんまいです~」
如月だけが、その場で彼に優しくする人間だ。彼女がいなければ、今頃司会なんて投げ出して一人になっていただろう。
「はぁ……」
と、一台のカメラが瞬の顔を映しにきた。すぐ近くに、一人の団員もいる。その団員は一枚の紙を、カメラに映らないように瞬に見せる。瞬は、ちらっとその紙を見ると、ゆっくりと頷いた。どうやら、早く始めろという指示が出たのだろう。
「そ、それじゃあ早速始めたいところなんだけど、ルールを軽く説明するからよろしく!」
『はぁぁぁいっ!!!』
瞬の一言に、会場内の女性騎士団員は声を揃えて返事をする。正直、団結力が半端ではない。
「ルールは簡単なのかな?えっと、今から俺がジャンル不定の様々な問題を出すんだ。ゲスト、もとい回答者の三人は、その問題に対して早押し、または一斉回答形式で答えてもらうよ。ステージが二つあるんだけど、最初のステージは一斉回答、次のステージは早押しなんだ」
ここで一旦一呼吸。
「それぞれのステージで五問ずつ問題が出る。第一ステージの全問題出題後に中間発表、休憩を入れて、第二ステージに。その後、全ステージでの合計点を出して、一番点が優れている人が優勝なんだ」
そこで、選手交代。一通りの説明を終えた瞬と入れ替わりにカメラに映る如月は、手慣れた感じで次の説明に入る。
「優勝しょーひんは、城下にあるあらゆるお店で使える万能証券五万円分でーす。ちなみにゆうこー期限は十二月までですー!これで生計を立てればきっと、生活が楽になるはずですー!」
元気いっぱいにカメラに向かって話す如月。少なくとも、この満開の笑顔だけで、如月弥生ファンが増えたであろう。
「あ、あと、視聴者と観客者のみなさんにも、ゲストのサイン入りフリップを抽選でプレゼントしますよー!!」
会場は一気に活気に溢れ出す。もう普通のテレビ番組ではないのだろうか。気休めの域を超えている気がする。
「そんじゃ始めるかな!聖騎士団内クイズ大会!!」
『スタートーーーーー!!!!』
「ちなみに俺の独断で勝手に作った問題だけど気にしたらアウトだよ!第一問!!聖騎士団の特攻部隊隊長で有名な神崎瞬君ですが、彼の好きな食べ物はなんでしょう?」
「ちょっと待てぇ!!何でお前に関する問題なのだ!?」
問題文を読み終わった瞬間、静理から即行で突っ込まれた。彼女は席を立ち上がり、今にも迫ってきそうな勢いである。そんな静理に、瞬は敢えて冷静に対応する。
「あ、静理さん。バックのカメラに気をつけてね。制服のスカート短いから見えちゃうよ?」
「え?きゃっ……ちょ、映すな痴れ者が!!」
後ろからがっつりとカメラに写される静理のスカート。静理はそれを見て顔を真っ赤にすると、慌ててスカートを抑え、カメラマンを蹴り飛ばして席につく。その眼には、かなりの怒りを感じる。
「言ったじゃん。俺の独断で作った問題だって。許せ静理さん」
「神崎……!これが終わったら覚悟しておけ……!!」
「え……何で?」
どこにも、瞬が悪いところはないはずだ。静理が怒っているのは、きっと今のカメラのせいなのだろうが、どうやら頭の中で瞬が悪いことになっているらしい。瞬は、悪寒を体に覚えるのであった。
「と、とりあえず机の上にあるフリップに答えを書いてくれ!」
瞬の一言で、静理と孤影はフリップに答えを書き始める。いくら瞬に関わる問題とはいえ、好物くらいは皆に知れているものだ。二人ともサラサラと書き終える。だが、細波をちらっと見てみると、彼女は、自席で寝息を立てていた。
「ほんとに寝てるのか……」
起こすのもなんだか面倒なので、とりあえず放置しておく事に。皆のお姉さんも、疲れていると以外にわがままになるものだ。微妙に微笑ましい。
「それじゃあそこまでです~!」
二人が書き終えるのを確認した如月の言葉とともに、回答時間が終了した。静理は、少々自身ありげの顔で、自分のフリップを見直す。孤影は、いつもどおり無表情でフリップを見つめる。細波は、美しい顔を隠そうともせず、眠っている。
「それじゃ、静理さんからフリップをカメラに向けて」
瞬が指示すると、静理はやはり自身ありげにフリップをカメラに向ける。ちなみにこの場合のカメラの方向は、体育館ステージ前の観客の方向でもある。
「うむ。これだな、カツカレーだ。普段神崎は食堂でカツカレーばかり頼んでいるからな。これが妥当と言ったところだ」
答えを見せ説明までした静理に賛同するように、観客達は首を縦に振る。如月も同様に、なるほどですね~、と頷いていた。だが、隣に座る孤影は、無表情…いや少し嘲笑ったかのような顔でそれを否定する。
「……違うわ、静理」
「何?どういうことだ孤影?」
孤影の言葉に静理は食いついた。孤影はゆっくりと自分のフリップをめくり始める。ついでに言っておくが、静理は孤影より余裕で年上なので、普段は敬語で喋ったりしない。
「……答えはこれ」
めくられたフリップに書いてあった答え。それを見た瞬は、一瞬で、硬直した。その答えとはずばり。
「……女子」
「お前は問題文をちゃーんと聞いてたのかぁ!?」
さすがに瞬も、突っ込みを入れる。果たして彼女は問題文を理解できているのだろうか。そんな疑問に包まれた体育館内が、妙な空気に覆われる。
「……ちゃんと理由もある。聞く?」
「聞きたくないって!!その答えになった理由を聞いてしまえば、俺は社会的に死ぬだろうね確実に!」
瞬は全力で孤影の言葉を否定する。孤影は静かに、そう、と呟くと、そそくさとフリップをしまった。安心して胸を撫で下ろす瞬だったが、そんな安心は一瞬で掻き消された。
「つまり神崎。お前はそのような理由になってしまう心当たりがあるということだな?」
「んなっ!?し、静理さん、なんでそんな怒ってるの!?」
静理が、完全に怒っている顔で瞬を睨む。先程の怒りをそのまま、いや二十倍ぐらいにまでしたような彼女の怒りは、瞬の心を凍りつかせる。
「ち、ちがうって!常識的に考えてこういう反応するだろ?」
「常識的に考えて、か」
「は!?そういう意味の常識的じゃないから!」
いつのまにか、どこから取り出したかも分からない日本刀を片手に、静理が鞘を抜きながら相手を斬る、抜刀の姿勢をとる。瞬は、冷や汗をかきながら、後ろに引き下がる。この間ももちろんカメラは回っているのだが、別に放送停止にはならない。なぜなら、その方が見栄えがいいからである。
「何だ、上の説明!?最低な番組だなおい!!」
「覚悟しろ。神崎……!」
無情にも、静理が止まることは無かった。
「さて!次は細波の答えを聞いてみます!」
番組再開。先程なにがあったかなんて気にしてはいけない。もう一度言う。気にしてはいけない。
「うぅん?呼んだかしらぁ?」
「お前はなんでこの騒動の中、眠っていられるんだ……!?」
瞬が、放送禁止で放送禁止な放送禁止を静理にやられていたその時も、彼女は熟睡していらしい。皆のお姉さんは、お姉さんぽくなくなってきた気がする。目を擦り、あくびをした細波は、眠たげに答えを言う。
「瞬の好物?そんなの簡単じゃない。カレーよ」
「うむうむ。そうだなカツカ……うん?カレーなのか?」
静理が途中まで同意していたが、答えが違うため、聞きなおす。ここで言っておくが、ついさっきまでの怒りはどうしたの?とか聞いてはいけない。
「ええ。静理の言うとおり、確かに瞬は食堂で食事をする時、大抵はカツカレーを食しているわ」
「私と考え方は同じではないか。何故答えが変わる?というかそもそも、その時起きていたのか」
でも、と細波は薄く笑みを浮かべる。その顔はまるで、よからぬ事を考えている時の小悪魔てき顔である。その前に、起きていたのならせめて瞬を助けてやってほしい。そんな事を、観客は心の中で思っていたりする。
「よく考えてみなさい。騎士領にある大食堂。あそこには、カレーではなく、カツカレーしかないのよ?」
「なるほど。つまり神崎は本当はカツカレーではなくカレーを好きなわけだな?」
「そ。カツカレーは仕方なく食べているのよ。あくまで瞬はカレーが好きなの」
おぉ~、とスタンドやらどこやらか声が聞こえてくる。如月も、合点がいったように両手を合わせる。流石、聖騎士団監視部隊隊長である。考え方が鋭い。孤影も、珍しく表情を変え、興味深そうに、細波のほうを見つめる。細波は皆からのそういった態度に照れたように顔を赤くする。
「べ、別にそんなたいした事はしてないわ!普通に考えるとこうなるのよ。ほ、ほら答え合わせしましょ!」
細波にも男性ファンがたくさん増えること間違いなしであろう。どうやら彼女の性格は、お姉さん意識を強く持った弱ツンデレなのだろう。瞬は、優しい笑みを浮かべる。それを見た細波が僅かに頬を緩ませたのを見て、静理の表情が曇る。さらにそれを見た孤影が小さく呟く。
「……静理は独占欲が強い」
「は、はぁ!?な、何を言っている孤影!そんな訳ないだろう全く!」
静理は慌てて弁解する。孤影はそんな静理に対し、やはり無表情ではあるが、静かに言葉を発する。
「……そう。それならいい」
なぜだろう。不適な笑みが、孤影の顔に浮かんだ気がする。と、唐突に瞬が声をあげる。
「それじゃ、答え合わせするぜ。正解は……」
ダダダダダダダダダ……!
「正解は、静理さんの答え、カツカレーでした!」
太鼓の音が鳴り止むと、瞬が答えを発表した。そして、その答えを聞いて、細波が驚愕する。いや、細波だけでなく、周りの人間もまた、同じような反応をする。瞬は、ディスプレイに改めて表示された答えを確認すると、解説を始める。
「む。正解したな。だが、誓歌の答えはどうなるんだ?」
「確かに細波の考え方は、凄く良かったと思う。だけど、もしカツカレーではなく、純粋にカレーだけを食べたいと思ってたら、カレーをメニューに置いていない食堂でわざわざ食べる必要はないから、城下の料理店に行って食べるけどな、俺は」
瞬の解説は、細波の思考を大きく上回るものであった。観客達は、細波の時よりもおぉ、と感嘆の声をあげ、静理もなるほどと言った感じの顔で頷いていた。
「私としたことが……不覚だったわ。そんな考えもあったのね」
細波もまた同様に、瞬の解説に感心していた。
「正解者は静理さんだね。一点加点するよ。孤影と細波は無得点な」
正解者の静理は、微笑を浮かべて頷く。孤影は終始無表情であったが、少し残念そうな顔をしていた。一方の細波は、自分の考え方に欠点があったことを知ってか、再び寝息をたてていた。ディスプレイには、回答者の名前と顔写真が表示されており、その、顔写真の横に数字のゼロが映されている。そして、静理の顔写真の横のゼロが1に変わる。得点が入った証拠である。
「よし。まず一点か。このまま優勝させてもらおう」
静理が胸の下で腕を組んでうんうんと強く頷く。それほど自身があったということであろう。そんな静理を見て、瞬がとある疑問を投げかける。
「あれ?でもさ、静理さんって俺と一緒にご飯食べた事ないよね。なんで知ってるの?」
はぅあ!?と静理が大きく仰け反る。そして、顔を真っ赤にした後、フリップで顔を隠しながら、ぼそぼそと呟く。
「い、いや……その、あ、あれだ。あの」「ストーカーしたのよね?」
言葉の途中で突如細波が介入した。そしてその一言に、静理が激昂しながら反発する。
「なななな何を言っている!?誓歌!世の中には言っていい冗談と悪い冗談があるんだぞ!?」
そんな静理を見ながら、細波は薄く笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「冗談じゃないもの。現に、あなた一週間前瞬と訓練して別れた後に、その後の動向が気になってつい後をつけたのよね?」
うぐっ、と静理は表情を濁らせる。どうやら、細波の言っている事は、事実なようだ。
「な、なぜそんなことを知っている?」
大体、帰ってくる答えは予測できるのであるが、それでも、静理は恐る恐る聞いてみた。案の定、細波は小悪魔的笑顔を向けながらそれに答える。
「あら?忘れたのかしら?私は監視部隊隊長よ。あなた一人の行動くらい知り得ているわ」
さすがだ。と、納得する者がたくさんいる。だがしかし、当然ながらこんな事を思っている人間もいるわけだ。
職権乱用じゃね?
たまらず、瞬がその事を聞こうとした。
「なあ、細波。それって職権乱用」「何かしら?」
言葉の途中で、細波が美しき笑みを浮かべる。さすがは、聖騎士団でも人気がある程度はある人だ。その笑顔からは、恐ろしいほどに殺気が滲み出ている。瞬は、なんでもないですはいすいません、と早口で謝罪すると、肩からうなだれていた。
「せ、せんぱいっ!」
落ち込んでいると、如月が声をかけてきた。あぁそうか、と一言呟いた瞬は同じく近くまで来ていたカメラに視線を移すと、屈託のない笑みで笑い、司会進行を続ける。
「なんだか大分時間を消費した気がするけど、まだまだ聖騎士団内クイズ大会は続くぜ!!」
「でもでも、一旦コマーシャルに入ります~!」
「それじゃ、一旦さようなら!!」
まだまだ続く。
まだまだ外伝は続きます。
次回は第二問から再開!
優勝者の予想を立てておいてもいいと思いますぜ!
あ、ちなみに外伝終わったらA川君がモデルとなったキャラが登場しますよー