五話隔離散弾
今回は少し内容を長くしています。
無数の不死体を前に、ついにあの二人が連携技を出します!!
異能力は無限に使えるわけではない。それぞれが持つ異能力には必ず使用限界というのがある。たとえば先程の消失の輝きなどは、元々の負荷が大きい事に加え、一度に広範囲の不死体の群れを滅したという事もあり、体には相当な負担がかかっている。それは緒代の確定射撃でも同じで、確定射撃の場合、発動する時間が長ければ長いほど負担がかかり、さらに、弾を撃つ時の計算でも負荷をかけるため、基本的に三十二発の弾を二回撃つのが限界である。瞬の隔離能力は、そもそも想定外の能力である。何の変哲も無い空間から突如隔離壁を造り出す、というのはとんでもなく体に負荷がかかるものだ。だが、瞬はそれを物ともせずに能力を発動するのでそう言ったところは素質があると言える。逆におやっさんのように、爆撃地帯を発動する時に無駄な計算を行わずに能力を発動するような者はこういう時、負荷を軽減させる事が出来る。
もしも、限界を超えてまで能力を発動すると、どうなるか。それは、つまり死を意味する事になる。行き過ぎた能力使用は体中の細胞を破裂させ、最終的には脳を破壊する。その結果、体が壊れに壊れ人体を形成できなくなり、死ぬのだ。
~分割配置Eブロック~
救護部隊と援護部隊が陣取る非戦闘部隊が集まった地点では、戦闘中に怪我を負った団員達がその怪我を治療するために集まっている。Eブロックは騎士領外に展開しているため危険に思えるが、問題は無い。なぜなら、Eブロックの範囲内は瞬の隔離により外界から切り離されているからだ。それによって、内部が襲われる事無く救護及び援護に力を入れる事が出来るのだ。内部に据え置かれた大張りのテント内で、御剣は呆れ帰った声を上げていた。
「全く驚きましたよ。発熱で倒れかけただけだったなんて」
「いやぁすんませんなぁ!朝からちょっと頭痛がしてたんスけどまさか熱があったとはねぇ!」
「笑い事じゃありませんよ?びっくりしたんですから」
あの時、奇声を上げた団員は御剣に襲い掛かってはいなかった。ただ、御剣から肩を貸してもらった際に強烈な頭痛に襲われ、つい奇声を上げてしまっただけらしい。なんとも迷惑な話だ。その迷惑な団員に対しても、御剣は優しく接する。こういったところが、彼のカリスマ性のあるところだろう。
「少しでも体に異常を感じた場合は、無理せず一度救護部隊に寄って診察を受けてくださいね」
「了解しやした!いやぁほんとすんませんね~」
頭を下げながら帰っていく団員を優しく微笑みながら見送る御剣。
「とにかく、異常が無くて良かったです・・・・・・」
いつの間にか、御剣の胸騒ぎは収まっていた。だが、完全帰還するまでは油断は出来ない。いくら瞬の力で危険地帯から切り離されているとは言え、騎士領からは距離が離れている。道中に不死体に襲われる可能性も低くはないのだ。
「とりあえず、外の空気を吸った方がいいですね」
そう言ってテントを出た御剣。テントの外では、帰還準備に勤しむ団員達が集まり、それぞれの荷を整えている。どうにも空気が重い。これでは力を抜こうにも抜けない。団員達は御剣に気付くと綺麗に一礼する。御剣はそれに対して先程同様に優しく微笑みかける。その御剣の顔を見て、団員達の頬が緩んだ。少しは力が抜けているといいが。
「今日の結果は充分でしたね。作戦は成功と言ったところでしょうか……ん?あそこにいるのは……」
しばらく敷地内を歩いていると、見慣れた顔の少年の姿が視界に映った。
「神崎君……あんなところで何をしているのでしょうか……」
一人暗闇に佇み、空を見上げている瞬。その顔はとても緊張感に満ち溢れている。なんとなく気にかかった御剣は、瞬の下へと駆け寄り、声を駆けた。
Dブロックでの戦闘が終わり、おやっさんと共に、怪我を負った団員の様子を見にEブロックへと来た瞬。おやっさんは怪我人一人一人のところに寄り、声を掛けていった。その度に本当にすまん!と頭を下げるおやっさんを、瞬は微笑を浮かべながら見守り、そして別れを告げた。テントを出た瞬は、する事も特にないので、外をブラブラする事にした。外では帰還指示を待つ団員達が、自分の荷を詰め待機している。瞬は自分の準備をとっくに済ませているため指示が出ればいつでも帰還する事が出来る。
「そういえば、静理さんがいないな……」
ふと、別のブロックで戦闘していた静理の事が頭に思い浮かんだ。
「大丈夫かな……」
最近、静理と瞬は同じ戦場で闘えていない。その理由は、戦力のバランスを取るためだ。特攻部隊は他の部隊よりも、戦闘能力に長けている。そのため、戦闘ではいくつかのグループに分けられる場合が多い。特に今回の分割配置方式での戦闘ならばより分けられる可能性が高い。ましてや、それが隊長と副隊長ならば尚更である。
「緒代が救援に行ったし、きっと大丈夫だろうな」
Cブロックには緒代が向かった。それならきっと大丈夫だ。それに、彼女自身剣術は聖騎士団内でもトップクラスだ。そう安々とやられたりはしないだろう。瞬は、そう心に言い聞かせる。
「それにしても……なんか、やけに胸騒ぎがする」
立ち止まり、空を見上げた瞬。いつもと変わらない夜の暗闇だけが視界に映る。だけど、違和感を感じるのだ。
「そうだ。血の臭いが濃いんだ……いつも以上に」
血の臭いが濃い……確かに彼は隔離圧縮により大量の血の臭いを体に浴びたが、いつもここまで濃くはない。今日は、はっきりと分かるほどに濃いのだ。
「神崎君。こんな所で何をしているんですか?」
不意に、声をかけられた。物腰の柔らかい言い方から、誰が声をかけてきたのかはすぐに判断できた。
「あ、御剣先生じゃないですか。先生こそどうしたんですか?」
「私は少し息抜きに来ただけですよ」
やはり御剣であった。御剣は瞬の下へと行くと、瞬が見上げていた空を同じように見上げる。瞬は御剣に続いて空を見上げ、自分の感じている事を話し始める。
「……今日は、やけに血の臭いが濃くないですか?そりゃ俺は隔離圧縮した後に血の臭いが充満した場所にいたけど、いつもこんなに臭いは濃くない。と、思う……それに、風があんまり吹いてない気もするんです。なんか、静か過ぎるっていうか……」
瞬は、先程の御剣と同じ事を考えていたようだ。言い切った瞬は、先程よりも緊張感に満ちている表情である。瞬がここまで固い表情を見せる事は滅多にない。つまりは、何かが起きるかもしれない予兆を、瞬は感じ取っていると言う事だ。
「私も、同じように思っています。神崎君の言うとおり、今日はいつもより風が吹いていません。それに、血の臭いも……」
御剣は瞬と同調した意見を言う。恐らく、この違和感に気付いているのは一部の実力のある人間だけであろう。
「御剣先生。念のため、隊長格の人間は遅れて帰還するよう指示してください」
瞬がそう提案した。御剣は提案した意図をすぐに察し、頷く。
「そうですね。緊急事態に備え、隊長格、いえ隊長は遅れて帰還するように指示します」
「ああ……確かにそうですね。副隊長を先頭に、帰還するようにした方がいいですね」
御剣が提案した内容は危機に備えるための安全策であった。隊長と並ぶ力を持つ副隊長は、敢えて帰還時に先頭に送り、前からの襲撃に備える。逆に、遅れて後ろから帰還する隊長は、後ろからの襲撃に備える。これならば、戦力が偏らずに帰還する事が可能なのだ。
「なら、その方向で行きましょう。そっちの方が危険度は低いかもしれ……うぅ!!」
「どうしたのですか、神崎君!?」
言葉の途中で瞬が呻き、倒れそうになる。御剣は慌てて瞬に肩を貸し、その体を支える。
「大丈夫ですか?」
心配する御剣から、大丈夫です、と一言言いながら瞬は離れる。その頬には一筋の汗が伝っている。
「とりあえず、騎士領に帰りましょう。御剣先生も、今日は疲れてるんじゃないですか?」
「はい。それでは、帰還しましょ……」
御剣が同意の言葉を述べようとした瞬間、ズウゥゥゥゥゥン!!と、辺りに激突音が響いた。加えてその直後に激しい振動がEブロック全体を揺らした。
「な、なんだ!?」
団員達が、その音と振動に驚き、周囲を見渡す。その間にも、音は響き、振動も発生する。
「何があったんでしょうか……?」
「突如とした腕の痛み、激突音に振動……まさか……」
「神崎君?」
心配そうに顔を覗き込む御剣。瞬はポケットに入れてあるアリスを取り出し、アドレス帳から細波の名を探し、連絡を入れる。
「先生、おかしくないですか?この激突音は間違いなく外界からの襲撃なはずなのに、細波から緊急連絡が入ってこないなんて」
「確かに……!細波さんは識別透視で常に外界の監視を行っているはずなのに……」
その言葉の途中で、細波が出た。
『もしもし。言いたいことは大体分かるわ。外から攻撃されてるのよね?』
細波はすでに外界からの襲撃の様子を知っていた。恐らく、他の団員からの連絡が先に入っていたのだろう。細波は瞬がアリス越しに頷くのを確認すると、言葉を続ける。
『今、私の識別透視と監視部隊の能力者全員での外界の様子を確認しているのだけれど、おかしいわ。Eブロック付近の外界を透視しても、不死体らしき反応が一切ないの。それどころか、むしろ異常が無いくらい』
細波の言葉に、瞬は驚く。明らかにこのEブロック内は不死体と思われる者から襲撃を受けているのに、彼女の識別透視が効いていないのだ。
「でも、明らかに襲撃を受けてるんだよ」
『分かってるわ。だから今そっちに向かってる』
そういえば、アリスの向こうの細波の声は若干ノイズ混じりだ。
「え!?こっちに来るって……どうやって?」
瞬は驚いて細波の言葉を聞き返す。細波は別段焦ることなく至極冷静に落ち着いてこう言った。
『私の識別透視を甘く見ないで頂戴。不死体のいないルートを完全に見透かして行ってるわ』
彼女の識別透視は敵の内部を原子レベルまで分解し透視するだけでなく、先の見えない暗い道をまるで見えているかの如く透視して進む事が出来るのだ。細波は今その力を有効活用して、暗い道のりを全力で駆け、Eブロックへと向かっているのだ。
「そ、そうか。なら問題ないけど、でも気をつけて?」
『そうね。確かに私一人でそちらに向かっている以上は危険ね。だから瞬。あなたは今から自分のいる位置から南西の方向に向かって。私はその方角から来るわ』
瞬は言われた通りに南西へと向かおうとする。だが、そこで御剣が瞬を止めた。
「神崎君。あなたは今から外界へ出ますよね?」
「は、はい」
「ならば、Eブロックにいる隊長を全てあなたと同行させて下さい。細波さんの援護をすると共に、不死体の駆逐が出来ます」
「分かりました。召集を掛けます」
瞬はそう言って、付近の隊長達に同時連絡を入れる。対象は、おやっさん、緒代である。
「緒代はまだEブロックから帰還していないはずだけど……」
すぐに、おやっさんと緒代は連絡に応じた。
『どーした青二才?』
『……何故いきなり同時連絡なんだ?』
それぞれの反応はとりあえず無視して、瞬は用件を伝える。
「二人とも!今すぐEブロック南西入り口に来てくれ!迅速に、だ。細波がこっちに来てるから、それを援護しに行く」
『丁度良かったじゃねぇか。今から俺も行こうとしとったぜ』
おやっさんからはすぐに反応が返ってくる。一方緒代は、少し思案してから、
『……そして同時に不死体も駆逐するわけか』
瞬が続けて言おうとした事を察してくれた。こういう時、緒代のように頭のきれる人間がいると助かる。
「そういうこと!じゃ!」
瞬は連絡を終えた瞬間にその場を駆け出し、南西入り口へと走り出した。御剣は、その姿を苦笑しながら見送る。そして、自分のやるべき事をするために隊長格以下の団員に召集をかけるのであった。
「神崎君。私もすぐに合流しますからね」
南西入り口では激突音と振動に恐怖している団員が、それでもその恐怖感に耐え、入り口に佇んでいる。瞬は、その団員の下へと駆け寄る。団員はすぐに神崎だと気付き、僅かながら安堵の表情を浮かべる。
「神崎隊長!」
「ん?まだ逃げてなかった?もう御剣先……総隊長が指示出してるぜ」
言うと、団員はすぐさまに御剣の下に走って行った。
「よし……んじゃ行くか」
瞬が入り口の扉を開こうと腕を伸ばした時、別の方向から低い声が響いてきた。
「あおにさーーい!!」
声の主はもちろんおやっさんである。と、よくみるとその隣には、不機嫌そうな顔をした緒代もいる。どうやらEブロックから帰還してはいなかったようだ。
「二人とも!ナイスタイミング!早いとこ行こうぜ」
「……そうだな。細波はもうすぐ着くかもしれない」
「早めに外に出て、少しでも嬢ちゃんの援護をしてやらないかんからな」
三人の隊長は出会ってすぐに合意し、Eブロックの外へと足を踏み出した。
「音の正体は、この付近じゃないんだな」
慎重に外へと出た三人は、まず最初に激突音の主がいないか周りを見渡す。だが、付近からはその音も聞こえなければ、気配すらない。
「……恐らく、ここじゃないんだろう。まあ、居たところで僕が撃ちぬくが」
「何を言うか小僧が。足を引っ張るなよ?」
二人はやる気充分と言ったところだ。
「お互い様な事言ってないで、まずは周りを片付けようぜ」
瞬がそう言うと、緒代が頭上に向かって一発の銃弾を放った。その銃弾はある程度の高さまで上がると、突然に光を放った。しかも、その光は一瞬のものではなく、持続するものだ。
「ほう。持続性の照明弾か」
おやっさんが感心したかのように言ったが、その感心は、一瞬で闘志へと変わる。
「こりゃ驚いたぞ。不死体共が群れてやがる」
「それを確認するための照明弾だろ?今のは」
「……あながち間違ってもいないな」
今までは暗すぎて全く気付けなかったが、今の照明弾の明かりにより、それは明らかになった。瞬達が出てきたばかりの南西入り口は、すでに周りが不死体の群れで覆い尽くされているのだ。これでは、細波が識別透視を使って安全ルートを見透かしても、数で圧倒されるだけである。
「細波がここに来る前に、数を減らすよ」
「おおう!」
「……貴様に指図されたくはないが、了解した」
散開!という瞬の合図と同時に、三人は別々の方向へと駆け出した。瞬は腰に掛けたガンホルダーからいつもの如く二丁の拳銃を取り出し、即座に不死体を撃ちぬく。戦闘方法はBブロックの時と同じように、不死体の中心に飛び込む戦闘だ。
「弾数はそこまで多くないからな……」
「隔離圧縮しねぇのか?」
瞬があっという間に一つの群れを一掃し、再び戦闘法を考えていると、おやっさんが「隔離圧縮」での駆逐を提案してきた。
「いいや、無理だと思う」
だが瞬はそれを否定する。おやっさんは何故!?と、不死体を殴り倒しながら聞き返す。否定した理由を答えたのは、瞬ではなく、緒代だ。緒代は至って冷静に答え始める。
「……考えてみろ。神崎は今、Eブロックを隔離している。もし下手に圧縮すれば、計算違いで間違えてEブロックもまとめて圧縮してしまう可能性がある。そんな事になったら、今Eブロックで帰還しようとしている団員は間違いなく死ぬぞ」
「緒代の言うとおりだ!今はちょっと隔離圧縮できない!」
なるほどのう。と、一撃で不死体を倒すおやっさんは、先程よりも顔が闘志に満ち溢れている。
「そんじゃあ、結構倒せるかも知れんなぁ」
瞬は苦笑しながら、よかったじゃん。と言って次の集団の下へと飛びこんだ。
「一直線に襲い掛かってくる敵なんて、相手にならないねっ!」
次々と不死体の頭に的確に銃弾を撃ち込む瞬は、余裕の表情で敵を駆逐する。が、当然の事ながら、銃弾は切れるのだ。
「……無駄に撃ちすぎだ」
緒代にそう言われた。だが瞬は全く気にした様子もなく、今度は無表情で暗闇に佇む。
「銃弾が切れたんなら補充する。たかが一回弾切れになったからなんだって?」
ー瞬間ー
瞬は自分の銃のトリガーを思いっきり引いて、空になったマガジンを銃から捨て、ガンホルダーを、銃を持った両腕で左右から軽くプッシュする。そして、胸の前で銃を交差させた状態で静止する。すると、ガシャン、という音を立てて、ガンホルダーに入っていたマガジンが、銃に吸い込まれるように入っていく。
「装填完了」
聖騎士団内を探しても、この装填方法を使う団員は瞬以外にいない。なぜなら、このやり方はには緻密な計算が必要だからだ。
「これが決まると非常に気持ちいいんだよねー」
左右のガンホルダーに入った二十発入りマガジンは、ガンホルダーに付いている小さなボタンを押す事で、射出する。これで、わざわざ取り出さずとも、銃にマガジンを装填する事が可能なのだ。これは、ただ純粋にやろうと思って出来ることではない。それほど、瞬には実力があると言う事だ。
「んじゃ、もう一回行きますか」
銃口を敵に向け、瞬は再び駆ける。
「……無駄に力は使いたくない。というかそもそも、僕を動かすな」
緒代はスネイクショットを右手にのみ装備して、不死体から少し離れた位置に立ち、悪態をつきながら銃撃を開始していた。
「……それにしても数が多すぎる。一体何故こんなに……」
確定射撃を発動せず、無能力で戦闘を行い、しかもそれに加えてスネイクショットを片手にしか装備していない状態の緒代の顔は言葉の割に楽しそうに見える。そんな緒代を見て、瞬はからかうように話しかける。
「お前、なんか楽しそうだな?顔に出てるよ?」
そして、三発ほど足元に撃たれた。いちいち言葉で言うのも面倒なので発砲する事で、伝えたのだろう。そんな事はない、殺すぞ。と。それを瞬時に理解した瞬は、すぐに自分の戦闘に戻っていく。
「……はぁ。下らん。貴様ら不死体如きが僕の前に立ち塞がるな」
ここで、確定射撃は発動される。だが、弾数は三十二発も無い。むしろ、その半分以下だ。
「……たかが細波の援護だ。無駄な力はいらない」
紅く輝く瞳は、すでに標的をロックしている。いつもよりも負担がかかっていないため、確定射撃によるオートロックの精度は上がっている。それに加えて、元々の緒代の実力も伴うので、尚更精度は増す。緒代は標的の頭を的確に撃ち抜き、確実に倒していく。弾のリロードも、もの凄く早い手慣れた手つきで行うから、全く無駄が無い。
「……標的までの距離、角度。弾の弾道及び拡散方向。加えて不死体の数とその群れ方……実に浅はかだ!!」
彼の顔は終止余裕に溢れていた。
「おらおらぁ!!数だけじゃ俺には勝てねぇぞ!!」
おやっさんは、制限無しで爆撃地帯を発動できる事を何より楽しんでいる。それに、おやっさんにとって多数勢力との戦闘は何よりも得意分野なのだ。
「必要なのは数じゃねぇ!それを超す質だ!!それがねぇ連中に、俺が負けるわけないじゃろが!!」
と、近くで闘っていた瞬の足元が爆発した。
「んなぁ!?お、おやっさん!!少しは考えてよ!!」
瞬は後方に飛びずさりながら、大声で文句を言う。だが、その直後に、今度は緒代が口を開いた。
「……邪魔だ、神崎!!貴様ごと撃ち抜くぞ!」
「うわぁ!ごめん!!」
そこで、三人の攻撃は止まってしまった。そのお陰で不死体は次々に現れて、照明弾の明かりに灯されながら、不気味に近づいてくる。一気に、周りは不死体に囲まれ、逃げ場がなくなってしまった。
「うわぁ。やばい」
「……分かってることをわざわざ言うな。考えがまとまらない」
「調子に乗りすぎたようじゃな」
流石の三人にも、焦りの表情が浮かぶ。これは万事休すと言った所か。そんな時、瞬の胸ポケットに入ったアリスが空気の読めない軽快なメロディを流した。
「……こんな時こんな曲を流すな」
「悪い悪い」
緒代に適当に謝ってから、瞬はアリスを取り出す。通話してきたのは、御剣だ。
「もしもし、こちら神崎でーす」
『もしもし。神崎君、朗報です』
アリスの向こうの御剣は、落ち着いた声で、瞬に用件を伝える。
『隔離されたEブロックにいた団員全ての帰還に成功しました。これで、心置きなく隔離圧縮できますよ。そして、それに加えて藍河さんと如月さんを含めたその他隊長格をそちらに向かわせました。なので、少しは形勢を立て直せますよ。もちろん、私も向かいます』
「御剣先生そりゃないぜ。形勢不利なわけないでしょ、俺達はいつも最前線で闘ってる隊長なんですよ?静理さんとか先生達が来る前に終わらせるって」
御剣の言葉に対して、瞬は自身満々に答える。それを聞いた御剣は、安心したように連絡を終えた。瞬は通話が切れた事を確認すると、緒代に顔を向けた。緒代は、何だ、見るんじゃない。とでも言いたげな顔をする。
「なあなあ緒代~」
「……」
「折角隔離使用自由になったんだしさーあれ、やろうよ?」
瞬がそう言うと、緒代は嫌々そうな顔をして、
「……面倒くさいから断る」
断った。
「っておい!そこは嫌々ながらも頷こうよ!何良い感じに期待を裏切ってるんだよ!?」
緒代の表情の通りの反応に、瞬は思わずびっくりする。緒代は不機嫌マックスの顔のままに冷徹にこう告げた。
「……嫌な物を嫌だと言って何が悪い?」
「子供か!!とりあえずやろう?このままじゃさっきの俺の言葉がまるっきり嘘になって皆に合わせる顔が無くなっちゃう」
「……ならば尚更しなくていいだろう。そして、神崎は救援にあっさりと助けられて、無様な様を僕に見せるんだな」
「鬼畜か!!お前には優しさの欠片もないのか!?」
「……何を言っている?僕の体の半分は優しさで出来ているんだぞ?」
「もういいよ!ありがとうございましたっ!!」
しばらくの二人の漫才チックな会話は、瞬の心が折れたところで幕を閉じた。
「……はぁ……仕方ない。一回だけ協力してやる」
だが、それと同時に緒代も呆れ帰りながら賛同した。
「よっしゃ。んじゃ行くぜ」
「……ああ」
その言葉と同時に、緒代はどこからともなく二つ目のスネイクショットを左に装備し、それぞれ一発ずつのみ弾を装填する。瞬はその間、隔離を使って空高く飛び上がって、身を翻しながら緒代のスネイクショットへと一直線に飛び込む。そして、逆さのままスネイクショットのトリガーに自分の指を触れる。
「見せてやるよ!不死体!!」
「……これが、僕た……僕の力だ」
わざわざ言い直して、緒代はトリガーを強く引く。
『隔離散弾ッ!!』
スネイクショットから放たれた銃弾は、最早銃弾とは言いにくい見た目だった。いや、最初は普通の銃弾ではあったのだが、それは敵へと向かう途中に突然変異する。銃弾は10mほど飛んだ後、突如壁へと変わった。付け加えて、その壁は次々に分かれていき、広範囲で不死体を殲滅していった。なぜこうなるのか、それは、瞬の隔離が原因である。瞬は、空中からトリガーへと触れた際に、指先に意識を集中させ、弾丸に細工をした。発砲される銃弾は、撃たれた直後に隔離壁となるように、だ。だが、それだけでは二枚の壁がひたすらに飛んでいくだけなので、ここで緒代の出番が来る。最初に一発の弾を装填する際、その弾を敢えて拡散弾にするのだ。こうすることで、隔離能力で隔離壁へとなった弾丸プラス拡散弾ということになり、「隔離散弾」となるのだ。
「だが、ここで終わりではない!なんちゃって」
瞬が言った直後、隔離散弾によって放たれた隔離壁は不死体の前で静止し、そこから同じ面積の面を新たに出現させ、最後には巨大な立方体を造り出す。拡散弾は四方向拡散となっているため、今視界には四つの巨大立方体が出現しているのだ。瞬は、右手をその四つの立方体の方へと向け、余裕の表情で本日二度目となるあの技の名を口にする。
「砕けろ。隔離圧縮ッ!」
好評につき、もう一度隔離圧縮が発動されました(笑)
最後もちゃんと読んでいただきましたでしょうか?説明をひたすら書いていたので、大変読むのが面倒かもしれませんが、覚えておけば、学校でのネタになったりするものです。
ちなみに僕は学校でA川君という友達に隔離隔離言われてます。最近はロストロスト言われてます。
こんな感じで心が痛みます。後には何も残りません。それでは次回も乞うご期待!