四十八話黒白の欠片
前回、神崎対孤影戦の続きからですが、波乱の展開になるかもですワハハハ
「始式・桜花ッ!!」
能力エネルギーを基に生み出された桜の花弁。それが瞬の剣閃と共に螺旋を描き孤影の小さな体を直撃する。そこまでは、瞬が明らかに優勢であった。そう、そこまでは、である。
「な……に?」
驚愕する瞬の眼前には今この場所、この状況では決して有り得ない光景が広がっている。
「……あなたが驚くのも無理はない。あたしもここまでやるつもりなんて、なかったのだから」
桜花の剣閃を受けた孤影のその小さな体を後方から包むようにして、何か黒い波動が現れ、剣閃を受け止めているのだ。
「無に……還したはずなのに……」
有り得ないのは。
隔離世界において、瞬が無に還したはずの闇の力が発動されている事。それが有り得ない事だと分かっているからか、孤影は困惑する瞬に対して小さく呟く。
「……極地に辿り着いているのは、あなただけではないの」
その呟きを最後に、瞬の意識はぷっつりと途絶えた。
十年前。つまりは幻想黙示録が事件として起きた年に実質壊滅をした当時の騎士団。当時の隊長格は歴代最強ともで称されていたのだが、その中でも群を抜いて先頭に立っていた騎士がいる。それはかつての御剣幸人ではなく、唯と呼ばれた騎士でもなければ、今も隊長格を務めている者でもない。それでは、一体誰がそうなのか。
それは、先代聖騎士団総隊長にして、緒代智影と、その双子の妹である孤影の母。緒代御影である。彼女が扱っていた異能力の名は黒白の力。一言で説明するならば「圧倒的なまでな力」だ。例えば騎士領にある大図書館に残された資料には、
「他者を圧倒するだけの力」
だとか、
「その力の前には屈服するほかない」
などと抽象的に書かれているばかりだ。一言で説明はつくものの、それが主にどんな力なのか他の言葉で説明するのが少しばかり難しい。何せ、黒白に挑む者自体がいなかったのだ。挑む前には勝負がついているようなもので、そこで負けているから何か理解出来るわけでもなく、ただひたすら圧倒的。それが黒白の力。だが、十年前の幻想黙示録を最後に、二人の子供を残して緒代御影はその姿を消した。
ともかく、その黒白の力のおおよそ半分の力を継いだのが瞬の隔離世界すら踏破した緒代孤影なのだ。
「あ……」
瞬は、ゆっくりと目を覚ました。意識が断たれる寸前の記憶が段々と脳裏に蘇ってくる。
「あんなの……規格外すぎるよなぁ」
憂鬱で屈辱的な敗北であった。隔離世界は自身の持つ最大の力であり、隔離能力の極地。静理以外の誰にも見せた事もない力。それがほんの一瞬で、能力の理さえ超えて崩された。
「天才型騎士なのは、孤影も一緒じゃないか……」
「……慢心をしたあなたの負けよ」
忘れていた。と言えば馬鹿らしい。だが盲点であった。そう思って呟いた彼の後に続いて言葉を発したのは全くの無傷の状態で、いつもの無感情な目で見下ろす孤影。ゆっくりと体を起こした瞬は、何が起きたのか分からず硬直している会場全体を見渡す。
「……それと、付け加えるけど、あなたはランクSで、あたしはランクSS。それを忘れないで」
彼は。
神崎瞬は、特攻部隊の隊長にしてランクS。その実力は天才型騎士と周りに称されるほど相当なものであるが、緒代孤影は総合部隊の副隊長にしてランクSS。この時点で、とてつもない差があった。
「……強くなったつもりでは、強くはなれないの」
正論だ。とそう思えた。瞬はこの半年の間に自分が強くなったと錯覚していた。いや、実際に強くはなったのだろうが、それ以上に、孤影も強くなっていたのだ。
「結局、俺も唯さんも、緒代には勝てないのかな……」
そこで、彼は頬を伝い始めた涙と共に意識を失った。そこまでで、ようやく体育館内が歓声で騒々しくなった。瞬にはそれは聞こえなかったかもしれない。だからこそ、彼の呟きも誰にも聞こえなかったかもしれない。
「まさか、と言えばそれは間違ってるだろうが、まさか神崎が負けるなんてな」
選手控室。たった今終わった二人の試合を今まで見ていた秋川が独り言のように呟いた。
「……相手は『現状最強』だ。いくら神崎だろうと、そもそもの格上には勝てない」
秋川の呟きに反応したのは緒代智影だ。不機嫌そうに液晶画面を見るその目は、担架で運ばれていく瞬をしっかりと見据えている。
「一番警戒してた敵がいなくなっちまったなぁ」
秋川がそう言った。この二人は、元々瞬を超えるために総威戦に備えてきたわけだが、目標とした瞬が敗北してしまった以上、目標は無くなった。ではどうするべきか、その答えはすぐに出た。
「緒代孤影を倒す」
そしてその前に、
「今隣にいる敵を超える必要がある」
―騎士領・とある場所―
騎士領に生活していても、あまり人が来なさそうな場所。そこに、あまりにも場違いなくらいに綺麗に靡く銀髪の女性がいる。彼女の名はサクヤ・アルベリオス。イギリスにあった異能力部隊「イマージュ・フロント」で隊長を務めていた女性。西洋風の衣装を着た彼女は誰に話しかけるでもなく独り言のように呟く。
「……利用価値があるとは思えんな」
だが、そんな独り言に反応するように、何かが反応する。
『価値などに興味はない。ただ利用し、破壊しろ』
冷酷な言葉だ、とサクヤは心中で思う。
「私一人で片が付くようならそれで構わないか?」
僅かにある自分の良心を基に、自分だけで全て終わらせるという考えを述べたサクヤだが、帰ってきたのは、
『アルベリオス。貴様への指令はなんだ?自分一人で片付ける事か?違うだろう?聖騎士団の破壊だ』
「……了解した。指令を続行する」
聖騎士団の破壊。冷酷に告げられたのはこれで何度目なのか。サクヤは何かが消えてなくなるのを確認すると、深く溜め息を吐いた。
「はぁ……やってられん。こんな……・」
そして、そんなサクヤのやり取りを彼女は見逃してなどいなかった。何かが何なのかを確認するために発動していた識別透視は、その力では何も見ることはできず、やり取りは終わってしまった。
「能力的な何かによる思念?でも、能力なら私の力で見えるはずよね……」
何かについては分からなかったが、理解できることが一つ。
「彼女は、敵ね」
そこにどんな良心や善意があろうとも、そのやり取りの時点でサクヤが敵だとはっきりとした。しかし、今すぐにこれを聖騎士団に伝える必要などない。何せ、サクヤを倒してしまえば、それで終わるのだから。
結局上には上がいるわけですよ。はい。
主人公がアレでは物語の展開的にファーって感じですが、ここで一旦本編から外れて、次回からは番外編を書こうと思っております。内容はズバリ冴場悠介の話!あの不良噛ませ犬にはどんな過去があるのかを、掘り返していきたいと思いますので、よろしくお願いしまする。
 




