四十三話総威戦
しばらく不死体からは離れちゃおう(提案)
A川君とは最近構成考えてないです←
総隊長不在の騎士団には原則として作戦活動の禁止が命ぜられている。不死体の侵入間近になるまでは、基本的に、騎士領外での作戦は禁止されているのだ。そのため、総隊長の今の聖騎士団ではこの原則により作戦停止の歯止めが利くようになっている。この規則を破ったり、新たなものに上書きする事は容易ではあるが、騎士団員の意思は、規則に準ずる、つまりは総隊長を選び出し、その名にふさわしい騎士の作戦の下に従うというものが多かった。隊長格の者達もまた、その意見に賛成し、ふさわしい者を選ぶ事にした。何より、このようにして総隊長を選ぶための行事が昔からあったため、反対する人間が少ないのだ。その、行事というのが総隊長権威戦……通称「総威戦」である。
「確か御剣先生は、総威戦を制して総隊長になったんだっけ」
特攻部隊の隊長格室で総威戦向け、電子端末アリスの画面上に表示された要項を見ていた瞬。
「能力は好きに使っていいようだが、相手を殺傷するような行為は退場のようだな」
同じく要項を見ていた静理。殺傷するほどの力を出してはいけないのは、当然だろう。そんな彼女も、新調された制服を着用している。少し胸を締め付けすぎている気がしないでもない。黒髪の長髪は頭の後ろで一つに括られ、ポニーテールを表している。凛とした彼女にはよく似合う。
「って、今回の総威戦は隊長格にだけ参加資格があるんだ」
「時間をかけるわけにもいかないのだろう。神崎、お前はもちろん出るんだな?」
もちろん、と瞬は強く頷く。瞬の腰元には、御剣の愛刀であった白雪が括りつけてある。それを見る限り、後を継ぐやる気は十分なようだ。静理はそれを、心の中で喜んでいた。
「神崎が皆の上に、か……喜ばしいな」
「そうなの?」
「ああ、新入団員としてここに乗り込んで来た時からお前を見ている私からすると、な」
だが、瞬にそんな応援をすると同時、静理も自分の事を考えている。
「とはいえ、私も出るからな。もしも直接当たった時は、加減無しで行くぞ」
「だよね……正直静理さんの速度についていけるか怪しい」
役職こそ瞬は静理の上だが、一対一で実力勝負をして、静理の抜刀術に追いつくのは難しい。下手をすれば瞬が能力を使う前には片を付けられる可能性がある。総威戦の開催は明後日。二人は、互いに高めあい、競い合う事を誓った。
瞬と静理が特攻部隊の隊長格室で話しているのと同時刻、狙撃部隊の隊長格室でも隊長の緒代と吹く隊長の如月が総威戦について話していた。
「総威戦、ですかぁ……」
如月が間延びした感じにそう呟いた。執務机で資料をまとめていた緒代が手を止め、その呟きに反応した。
「……不安か?」
如月は自分の頭に手をやり、小さくこくりと頷いた。彼女は現在の隊長格の中で最年少の十四歳だ。精神的にもまだ幼いので、色々な事が同時に起きると、不安にもなる年頃である。
「……無理に出る必要はないんだぞ」
「いえいえいえ!たいちょうが出るんです!私もがんばります~」
総隊長になるのが目的ではなく、どうやら緒代をサポートしたいだけのようだ。隊長の事を思う行動で彼女は強くなれるのだろう。
「……僕もまだ子供だ。貴様も子供だ。お互い、ほどよくやるべきである事を忘れるな」
「は、はいい!如月弥生、がんばります!」
この二人もまた、総威戦に向けての決意はできたようだ。
「……神崎、負けないぞ」
「らぁぁぁぁっ!!!!」
夕方、騎士領内にある巨大体育館に叫び声と、重量のあるものが、地面に音を立てて落ちる音が響き渡った。
「あーもう、上手くいかねえ」
嘆きを上げるのは顔中汗まみれになっている秋川だ。彼の前には黒光りしている巨大な立方体の塊。よく見てみると、体育館の床が立方体の重みで沈んでいる。
「た、拓哉、無理はよくないからね?」
地面に座り込んだ秋川に、そっとタオルが渡される。渡したのは深夏だ。さらにその隣には暇そうに宙に浮かぶ指原の姿もある。
「明後日らしいぜー」
「分かってる。……ふぅぅ、今日は引き上げるのが正解か」
秋川は立方体に触れると、一瞬で大気に還した。さらにところどころボコボコと沈んでいる体育館の床を元の通りに戻した。
「お前ら出ないんだっけ」
「私は、非戦闘能力だから……それい今のままでいいと思ってるし」
「俺は怠いからパス~」
隊長格に参加資格があると言えど、強制参加、ではない。権利を持つ騎士達の中にも、棄権する者達もいるようだ。
「ま、深夏とやっても圧勝するしな」
「それなー」
「ちょ、ストレートすぎて酷くない!?」
しかしそれが至極当然な事であるのに気がついた彼女は、これ以上何も言わないでおいた。
「ま、まあいいとして……拓哉、明日も、するの?」
「ああ、トレーニングがてら、な」
今日秋川がやっていたのは、空中に出現させた超重量の立方体を地面に落ちる前に空気圧縮するトレーニングだ。立方体を圧縮するのは瞬の能力を想定しているからだ。殺傷が禁止されている以上、隔離圧縮をできない瞬は、おそらく出現させた立方体で相手の動きを封じ、降参させるのだろう。そう考え、立方体が地面に落ちる刹那の間に圧縮して消すトレーニングをしていた。
「一応、未知の物質だから常識内の範疇でしか発揮できない物質改竄で空気に還元するのは難しい……なら立方体ごと潰してしまえばいい」
結論がそれだった。そのために空中に想像以上の重量である立方体を出現させ、圧縮破壊をするトレーニングを行なっていたということになる。目的自体は他にもあるので、秋川は珍しくやる気を出していた。
騎士領から遠く離れた場所。そこは完全な荒廃の様を視界に映す。腐敗臭が漂い、辺りに充満している。元々死んでいて、生態機能すら働かなくなった不死体は他の不死体に喰われるか、やがて微生物により分解されていくか。聖騎士団の手が届かない所では大体がそのような感じであった。
「全くこの国は……人が一箇所に集まりすぎて復興の兆しもないな」
プラチナブロンドの髪が腰下まで伸び、澄み切った蒼の瞳が、この世界における日本人、という人種からかけ離れている事がはっきりしている人間がそこにはいた。荒廃したこの場所には不似合いなその人物は騎士領ではまず見ない、異国風の衣装を身にまとっていた。
「今回はそれを手助けしにきたんですから、文句はだめですよ」
別の方から大人しい雰囲気の少女の声が聞こえた。同じく金髪で蒼い瞳、年は十五、六歳くらいの少女。全体的な容姿は二人とも似ている。
「……どうであれ、騎士領に到着するまでは私達は何もできん。早く行こう」
「はい、ではまずは正しい道を選ぶことから始めましょうか」
騎士領から遠い場所にいたのは、道を間違えていたかららしい。
―二日後―
騎士領は総威戦一色で染まっていた。城下では様々な屋台が立ち並び、まるで一種の祭りのような雰囲気まで感じさせ、各騎士団の専門施設においても出場騎士のグッズなどの販売が行なわれている。開会式が行なわれるのは騎士領の教会。出場する騎士は巨大な剣のオブジェの前に整列し、一般とそれ以外の騎士は教会内に据え置かれた椅子に座り待機する。
「あのメンバーが出るのか……」
「誰と誰が勝負をしても勝敗がわからない」
口々に小さく呟かれる言葉。オブジェの前に整列するのは、言葉通り、誰が上に行くか分からないほどの実力を持った騎士達である。
―出場騎士―
総合部隊
副隊長・緒代孤影
特攻部隊
隊長・神崎瞬
副隊長・藍河静理
狙撃部隊
隊長・緒代智影
副隊長・如月弥生
爆撃部隊
隊長・郷田甚助
交易部隊
隊長・天条遥香
副隊長・三條瑠華
製造部隊
隊長・秋川拓哉
以上の九名が総威戦の出場騎士となっていた。
総威戦とか何事…
はい、細かな説明は次話でもう一度小鳥遊君がやってくれます(適当)




