四十話あれから……
すいません。本当にすいません一文目からすいません。ごめんなさい。
更新がだいぶ遅れてしまいました。多分更新停止だと誤解したかたもおられるかと思いますが、そんなことはありません!!三章、本気で始まります!
―騎士領・城下―
聖騎士団がその作戦行動を停止させてから半年が過ぎた一月。城下は以前のような活気も無くなってしまい、今では、何もすることのないまま日にちが過ぎていくだけであった。彼女、特攻部隊の副隊長を務めている藍河静理は、街を見回りながら、活気の無さに溜め息を吐いていた。その溜め息はひょっとすると、活気の無さだけが原因ではないのかもしれない。
「……」
この半年間で、聖騎士団では問題となる事が起きていた。それは、騎士団の隊長格数人が、その役職を辞めてしまった事だ。監視部隊からは隊長である緒代智影が辞職。爆撃部隊は副隊長の冴場悠介、援護部隊副隊長の鷹山昂大、製造部隊の秋川拓哉と副隊長の指原秋人、交易部隊は隊長である天条遥香と副隊長の三條瑠華の両名がその職を辞した。また、一般団員のその半数近くも聖騎士団を抜け、現状、騎士団にはほとんどの騎士がいない。
「今日も熱心にパトロールですかね、藍河さーん」
街道を歩いている途中、背後から声をかけられた。静理はその声に対して、ゆっくりと向き直る。声の主が誰かはある程度わかっている。
「何だ秋川。からかいにきたのか」
製造部隊の元隊長である秋川が、静理に声をかけたのだ。秋川は、静理の鋭い視線に少し身を引き、構える。
「よせよせ、俺はただ街中を歩き回ってただけだぞ?それとも、騎士様は一般市民に手を出すのか?」
秋川の言葉に静理は迷いなく腰に括りつけた鞘から刀を抜刀する。その刃は秋川の首元にそっと添えられ、いつでも頚動脈を断ち切れるようになっている。
「構わない。相手がお前なら遠慮はしないぞ」
「俺ならって……まあいい。仕事に順ずるのもいいが、これだけは言わせてもらっとく」
「む?」
小首を傾げた静理に、秋川は冷徹に一言告げる。
「聖騎士団はもう無理だ。早いうちに辞めたほうがいい」
「な……何を言っている」
静理はとりあえず刀を鞘に納め、感情を抑える。だが、秋川の言葉にまたしても反応した。
「お前は何かを知ってるみたいだが、俺の推測をするとだな、辞めておいたほうがいいぞ。騎士を」
そう告げた秋川に、静理は顔を俯かせた。秋川はそんな静理に構わず、一言告げるとそのまま去っていく。静理は、何かを言いたげに顔を上げるが、上げたときには、すでに秋川の姿もすでに遠のいていた。
「おかしい……すでに限界が来ているのか……?いくらなんでも……」
―監視部隊・隊長格室―
あの作戦失敗以降、仕事も減り、活動しているいくつかの部隊の資料まとめに時間を費やしていた監視部隊隊長の細波誓歌は、自分以外に誰もいない隊長格室の寂れた雰囲気に、深く溜め息を吐いた。と言っても、別に副隊長の小鳥遊凛は辞職したわけではなく今日はいないだけである。寂れた雰囲気なんて表現は、今の聖騎士団の事を表しているのかもしれない。
「はぁ……交易部隊も製造部隊も日常生活で重要だと言うのに、なんで隊長格がいないのかしら……」
御剣が死んでからすぐに聖騎士団を辞めたのが秋川と指原。二人が言うには、指揮者のいない集団の下にいても何もできない、との事。細波は一度は説得に行ったのだが、二人は話を聞こうとはせず、無駄に終わった。
「特に、天条さんと瑠華が辞めた理由は理解できないわ」
問題なのは、遥香と瑠華の辞職の理由だ。秋川達が辞めた後すぐに
彼女達も辞職の届けを提出し、辞めてしまった。細波が理由を聞きに広大な敷地を持つ天条家に行って聞いたところ……
「わかりませんの?活動停止の騎士団など、いるだけ時間の無駄なんですのよ。無駄な時間を過ごすくらいなら、わたくしはわたくしなりの時間を過ごしますわ。もちろん、瑠華も」
との事であった。
「つまりは、自由な時間を過ごしたいだけって事じゃないのよぉぉぉ!!」
細波の叫びが隊長格室内に響き渡った。財閥令嬢というのは、いつでもマイペース過ぎて困るものだ。
「いや、天条さんが辞めた理由は、本当はそんな理由ではない……」
本当にそんな理由で辞めてしまうのなら、そもそも聖騎士団に入る意味自体がない。彼女が辞めてしまった理由として最も考えられるのは一つしかない。
「瞬が姿を見せないからよね……」
あれから、特攻部隊隊長の神崎瞬は人前に姿を現していない。だが消えたわけではない。ただ、寮にある自室から出てこないのだ。あの瞬間、御剣を殺したのは瞬の能力と酷似したもので、周りにいた数人もそれを見た。なにより瞬本人が目の前で目にした光景なので、絶望するのも無理はない。おそらく遥香は部屋から全く出てこない瞬を見損なって、聖騎士団にいる意味をなくしたのだろう。
「やってられない、とは思わないけれど、やっていられるのか、と思ってしまうわ」
艶のある黒髪を両手で押さえて頭を抱える。どうにかして再興させるべきだと、そう思考する細波であるが、不安しか心に募らない。
ドンッ!
勢いのある音とともに監視部隊隊長格室の扉が開け放たれた。唐突な音に驚き肩を震わせた細波は、扉の方向を鋭い視線で睨んだ。扉の方向には、赤を基調とした色彩のブレザーに、同系色の長ズボンを身に着けた若い男。そう、つまりは聖騎士団の騎士がいた。
「ちょっと、いきなり無礼じゃないかしら?」
冷静さを取り戻しつつ男に声をかけた細波。そんな細波に男は真っ直ぐに歩み寄り、上から見下ろす形で言葉を発した。
「監視部隊の隊長さんよ~。今日からここは俺の部屋だから、そこんとこよろしく」
「は?」
わけの分からない言葉に、細波は思わずそんな反応をした。
「何を言っているのかしら?ここは監視部隊の―」「うるせぇ」
言葉を制した男は執務机ごと細波を突き飛ばすと、飛ばされた細波の腕を強引に掴んで立たせる。
「痛っ!!やっ、何するのよ!離しなさいっ!」
言葉虚しく、細波は腕を掴まれたまま扉まで連れて行かれる。抵抗しようと体を動かすが、思ったよりも男の力は強く、全く振り解けそうにない。
「黙って出て行け!でねぇと、どうなるかわかってんだろうな……?」
不適な笑みを浮かべた男に細波は寒気を感じ、振り解く力を増して、全力で男から離れた。後方に退き、能力である識別透視を発動する。発動した理由は、能力による動体視力の上昇を促すためだ。多少ではあるが、これで動きが早くなるかもしれない。
「おいおいおい、俺一人だと思ってんのか?」
男がそう言うと、隊長格室に次々に制服を着た騎士達が入ってきた。細波は驚きの表情を浮かべ、しかしそれでも低く身構える。数は五人といったところ。どうにかいけるはず。
(全員男なの……?一人の女性に対してそれはあまり好めない状況ね)
「もういいんじゃないんすかね。やっちまいましょうよ」
一人の男がそう言った。それに同調した周りにいる人間も続いて頷く。その反応が決め手になったのか、最初に入ってきた男が細波にゆっくりと近づいてきた。右手を強く握り、腹部に一撃入れるだけでも十分だ。
「どうせ騎士団も終わりなんだよ」
男の迷いの無い手が細波の華奢な体を掴み、そのまま押し倒そうとする。が、その男の腕を、横から割って制する者が現れる。
「無理やりってのは面白くないな」
「あ、あなた……」
男を制したのは、街中を当てもなくふらついていた少年、秋川拓哉であった。
「な、なんでこんなところに来てるのよ?」
秋川は、余裕そうな笑みを浮かべたまま、細波の言葉に反応することなく、腕を掴んだ男に声をかける。
「お前ら、最近こういうの流行ってるんだろ?なんでもかんでも手ぇ出していいわけじゃないぜ?」
「て、てめぇは、まさか秋川……!」
秋川だと把握した騎士達は空気の微弱な震動を感じた。秋川がこの辺りの空気を操り何かしようとしている事を察したのだ。
「行くぞ!」
男達は、あせがってさっさと隊長格室から出て行った。
「もう一度聞くけれど、なんであなたがここに来ているのかしら?」
男達が出て行ってすぐに、細波が同じ質問を秋川にぶつけた。秋川は、今度こそ細波のほうに向き直り、質問に答える。
「あ?ああ、分からないか?今のやつらみたいなのが街中荒らしてて大変なんだよ」
秋川の言葉に、細波は耳を疑った。街中が荒れている、そんなのは今ここで初めて聞いた。というか、監視業務を行なっている自分が、そういう街での出来事を見逃しているはずはない。
「私が城下を見ていた限り、そんな事は……」
「お前なぁ……たかが監視カメラ程度、今時誤魔化せないわけないだろ?」
そう、監視をしているとは言っても、細波自身が能力を使ってやっているわけではなく、あらかじめ設置されていた監視カメラで行なわれているので、能力を持った人間なら、映像を操作できるのだ。
「そんな……」
「最近、聖騎士団の制服を着た騎士が街で暴挙を働いてる。それを防ぐために、藍河含め残ってる連中が見回ってたんだが……今の連中はどうにも裏切った奴らだな」
細波は、その目に悲しみの色を浮かべていた。心なしか、かなり元気がなくなってしまったようだ。
「仕方ない事だろ。緒代妹だって、あれから姿を見せていない。神崎は部屋から出てこない。隊長格は多数辞職……正直今の聖騎士団の状況だと荒れるのも……」
「そんなに気がけるのなら、何故あなたは騎士団を辞めたのよ!?」
声を荒げる細波に、秋川は少し肩を揺らした。だが、彼女の言葉に何か言い返そうとはしないまま、隊長格室の入り口へと歩を進めた。そして、部屋を出る直前に立ち止まり、静かに告げる。
「……藍河にも言った事だが。これ以上聖騎士団にいても意味は無い。早く辞めるんだな」
言われた事がまさにその通りで、核心的だった。それから来る言いようの無い苛立ちに、髪を無茶苦茶に掻き毟る事しか彼女にはできなかった。
か わ り す ぎ
半年過ぎて、なんだか状況が変わりまくりですね。どうしましょー!




