三十七話最強の編成
―三日目・夜。後衛部隊は前衛部隊と合流するためにひたすら進み―
週末更新とか言いながらできなかったです(笑
二章も終盤!目が離せませんよ!!
―三日目・夜―
陸の後衛部隊は瞬の率いる前衛部隊との合流を目指し、危険な夜道を進行していた。先行するのは、後衛部隊を率いる総合部隊隊長の御剣。能力である消失の輝きを微弱に発動し、周囲を照らしながら皆を先導する。一応、監視部隊の後方支援もありはするのだが、その場の状況をすぐに確認できるのは、自分達自身だ。
「星が、全くと言っていいほど見えませんね」
先頭をゆっくりとした歩調で歩く御剣が、空を見上げながら、独り言を呟いた。恐らく、今はこの辺り一帯は曇っているのだろう。それもあってか、周囲はより一層暗い。
「曇っとるんじゃろうな」
「思えば、午後からすでに雲が多くなってましたから、なんとなく予想はしていました」
御剣に続いて言葉を発したのは、後ろを行くおやっさんと、作戦時の癖で敬語を使う静理。おやっさんは、言葉が終わると同時に大きな欠伸をした。それを見た静理が、おやっさんに指摘する。
「気が抜けています」
「仕方ないじゃろ。睡眠時間がほとんどないんじゃから」
おやっさんは、指摘されてもなお、大きな欠伸を吐いた。静理も、呆れたように溜め息を吐き、そのまま二人は会話を止めた。
「そういえば冴場君。訊きたいことがあるのですが……」
御剣が部隊の最後尾を歩く冴場に、声をかけた。冴場は、不機嫌そうに反応すると、会話が聞き取れないと困るので、御剣の隣まで駆けていった。
「んだよ?」
冴場が自分の隣に来たのを確認すると、御剣は微笑を浮かべながら、冴場に質問した。
「冴場君のいつも担いでいる、その大剣は、誰かからの贈り物ですか?」
「はぁ?急になんだってんだよ」
御剣の言葉に、冴場は呆れたような表情になった。てっきり、征伐者関係の質問をされると思っていたのに、まるっきり期待を外した。
「いえ、騎士領では見かけない物だったので、気になってしまいまして」
御剣の言う通り、騎士領内では冴場の持っている大剣はあまり製造されていない。と言うのも、近年は、聖騎士団の中で戦闘の武器として主として使われているのが、銃であるからだ。御剣や静理などのように日本刀と呼ばれる刀身の鋭利な長刀を使ったり、孤影や瑠華のように槍を使う騎士もその数を増してはいるが、大剣という装備は、重量もさることながら、一撃での反動が重いため、使い勝手が悪く、多く出回ってはいない。
「何か、大事な物なんですか?」
「あぁ、これは……その辺にあるガラクタだよ……価値もつけられねぇほどのな」
御剣の言葉に、冴場は不機嫌そうなまま、そう呟いた。それを後ろから聞いていた静理が静かな声で反応する。
「その割には大事そうにしているじゃないか」
静理は、作戦時の癖で、自分より立場の上な人間に対して敬語を使う。だが、冴場とは同等の位にいるので、いつも通りの口調だ。
「はん……そんな風に思えるてめぇの頭の中身を見てやりてぇな」
対抗的な冴場の反応に、静理は眉間に皺を寄せる。それを見たおやっさんが、二人の間を割いて会話に混ざった。
「武器への思いいれというのは、大事じゃからの。俺は武器は使わんが」
「だぁから、そんなんじゃねぇんだよ……はぁ……」
変に解釈してしまったおやっさんに、呆れた溜め息を吐く冴場は、不機嫌そうなまま後ろに後退していった。それと同時に、前を警戒していた御剣が手で皆を制しながら口を開く。
「皆さん、静かに。……どうやら遭遇したみたいですよ」
御剣の指差す方向に視線を見やると、そこには群れる不死体の姿が映った。前衛部隊には、そう簡単に合流できないようである。
「御剣、てめぇは下がってろよ」
冴場が、背中に担いだ大剣を抜きながら、隣で構える御剣に声をかけた。御剣は冴場の言葉に首を傾げる。
「?なぜですか?私も戦闘に……」
「何を言っとるのやら。お前は昨日消耗しとるから、休んどけい」
「そうです。あなたばかりが動いていては、私達のすることがありません」
疑念に答えたのはおやっさんと静理。おやっさんは自分の拳を合わせ、準備万端。静理も、腰の右側にくくりつけられた日本刀と、反対側のホルダーにしまわれた拳銃を抜く。御剣はそんな彼らの姿を見て、思わず苦笑を浮かべてしまった。
「わかりました……皆さん、無理はしてはいけませんよ」
逞しい隊長格の姿に、思わず苦笑してしまったのだ。
「へへ……行くぜぇ!」
冴場はそう言葉を発すると、真っ先に不死体の群れに向かって駆け出した。
「おぉぉぉぉぉっ!!!!」
大剣を両手で持ちながら体を横に回転させ、不死体の体を胴体から二つに裂く。裂かれた体から赤黒い血が次々に噴き出していくのがわかる。体内に少しでも不死体の血液が侵入すれば、即感染してしまう。だが、冴場はそんな事は気にかけない。
「動きが遅ぇ!」
一瞬で数体の不死体を切り倒した冴場。この調子ならわざわざ能力を使う必要はなさそうだ。
「抜刀斬式形態…始式・桜花!!」
体から溢れる精神エネルギーが桜の花びらのように辺りを舞い、螺旋を描きながら不死体へと向かっていく。螺旋に飲み込まれた不死体は為す術も無く体を花びらに切り刻まれ、腐った肉塊を辺りに撒き散らす。
「おい藍河!邪魔するんじゃねぇ!そいつは俺の標的だっての!!」
離れた位置にいた冴場が静理に向かって大声を挙げた。
「取り逃がしただけだろう。私の剣戟の範疇に入ったんだ。譲りはしない」
「クソ野郎が……はぁぁっ!!」
悪態を吐きながら、冴場は接近する不死体を大剣で薙ぎ払う。
「仲が悪いのう……」
二人のやり取りを、別の地点から流し目で見ていたおやっさんは呆れた顔をしていた。
「油断はするなよガキ共!!」
目の前に現れた不死体を遠慮なしに右の拳で殴り飛ばす。元々耐久力のない不死体の体はおやっさんの一撃で首ごとへし折られ、数十メートル後方へと飛んで行った。おやっさんもまた、その巨体だけで、能力を無理に使って戦う必要がないようだ。
「まぁ、戦闘に関して言えば最強と謳われてもいいメンバーですからね……」
御剣は防御態勢を崩さぬまま、一人そう呟いた。御剣の言うとおり、今ここにいる静理、おやっさん、冴場は戦闘に関しては最強の編成である。
「能力なしの状態で、彼らに勝てる隊長格は……」
能力なしで対等に渡り合えるのは恐らく、瞬や緒代程度しかいないだろう。聖騎士団第二位の実力を持つ孤影も、能力使用を一切禁じられればできる事は少なくなるので、この三人には敵わないかもしれない。あくまで推測ではあるが。
「ですが……皆さん!流石にアレを相手にするなら能力を使わなければ!」
御剣の声かけを聴いた三人は攻撃の手を止めると、すぐさま後方に退いた。アレがなんなのか、すぐに察したのだ。
「出てきやがったか……」
「準備はできています」
「おおし、始めるかの」
一向の目の前に現れたのは、察するとおり、シャドウタイプである。
「来ます!」
こちらの姿を確認したのだろう、シャドウタイプは御剣達に高速接近してきた。だが、接近したところで、静理達三人は焦りはしない。シャドウタイプの動きとは対照的に、ゆっくりとそれぞれ構え始めた。接近してきたシャドウタイプは、おやっさんよりも大きな体で突進するようだ。標的になっているのは三人の中心に立つ冴場。おそらくこのままだと横に控える静理とおやっさんは、突進時の真空による衝撃で吹き飛んでしまうだろう。
「来いよ……!」
冴場が大剣で身を隠し、防御態勢を取った。本当なら、真っ先に回避するべきなのだが、何か策があるようだ。
ヴォォォォォッッ!!
シャドウタイプが防御態勢の冴場と衝突した。鈍い音が周囲に響く。
「冴場君!」
御剣が、大剣で突進を受け止める冴場に声をかけた。だが、その言葉は冴場には届くことは無い。なぜなら、大剣の切っ先から小爆発が起きて声が掻き消されたである。
「反……衝ッ!!」
冴場の能力、爆刃によって、大剣の刀身に発火作用が付与され、面に触れた瞬間に爆発を起こす、基本的な技。冴場はこれを狙って敢えて突進を受けたのだ。爆発によって大きく体を仰け反らせたシャドウタイプに、続いておやっさんが攻撃を与える。
「うおぉぉぉぉ!!!!」
地面に思いっきり拳を叩きつけると、シャドウタイプの足下が唐突に爆発を起こした。おやっさんの能力である爆撃地帯を、シャドウタイプの足下に発動させたのだろう。拳を地面に叩きつけたのは、意識を集中させることで爆発する範囲をその場所に正確に起こせるからだ。
「次に備えてください!」
静理が爆発の中心にいる、第二形態への形態変化を開始したシャドウタイプに警戒する。三人は再び後方へと下がり、御剣もまた、愛刀・白雪を抜き、構える。静理は、皆が防御態勢を取ったのを確認すると、鞘から抜いていた刀を再び鞘に納め、腰を低くした。
「力には力をぶつけさせてもらう。三人とも下がってください!」
静理の指示に、御剣、おやっさん、冴場の三人は従った。さらに後方へと退き、静理から離れる。
「行くぞ……!抜刀斬式形態……四式・雪狼!!」
第二形態のシャドウタイプが巨大な腕を振り下ろしてくるのと同時、静理の全身から雪のように白い光が溢れ出る。そして、腕が振り下ろされる直前に、静理が、体同様に光の溢れる鞘から刀を抜刀した。すると、振り下ろされた腕と抜刀された刀が激しくぶつかり、光を帯びた刀から狼のような姿をした波動が放たれた。その波動は、巨体の腕を食い千切り、シャドウタイプをそのまま地面に倒れさせ、隙を作る。
「おぉぉぉっ!!」
出来た隙を狙って、冴場が大剣をシャドウタイプの頭上から思いっきり振り下ろす。振り下ろされたその瞬間に、戦闘は終了した。
「御剣先生~!」
少し離れたところから、聞き覚えのある声が聞こえて来た。戦闘を終えた後衛部隊の四人は、その声の主が誰なのか、すぐに察し、安堵の溜め息を吐く。
「神崎君……なんとか合流できましたね」
声の主は、御剣達と合流するために待機していた瞬。見る限り、特に心配するところはなさそうだ。瞬の後ろには、同じ前衛部隊の孤影と瑠華。それに、一般団員の騎士の様子も。こちらも、見る限り問題なしのようだ。
「はい。前衛部隊、問題はありませんでした」
「同じく後衛部隊も、問題ありません」
お互いに報告を済ませたところで、静理が瞬に駆け寄ってきた。
「隊長、遅くなってすいません。もう少し早く合流するはずだったのですが」
静理は、自分よりも上の人間に対して、作戦時のみ、敬語を使う。それは、たとえ普段からよく話している瞬であっても変わらない。
「いや、いいんだよ。急な提案だったし、ある程度遅れるのは」
「甘いなぁ……」
瞬の言葉に、冴場が小さくそんな事を呟いた。
「ははは……皆無事っていうのがまず嬉しいからさ」
そうだ。何はともあれ、陸の調査部隊は全員そろって無事に合流することができたのだ。それだけでも、瞬にとっては大きな成功になる。冴場も、そこまでは察し、薄く笑みを浮かべて短く息を吐いた。後は、この部隊にいる騎士で共同して周辺の調査をし、帰還するだけである。
「無事合流できたし、拠点を張って今日は休む事にしよう」
瞬の提案に、反対する人間は誰一人としていなかった。
サブタイがあんな感じですけど、実際能力なしだと誰が一番強いんでしょうかね。一応、騎士領での強さの基準は能力によって判断されていますから、そこは曖昧で、作者自身あまりわかっていません(おそらく神崎君なのでしょうが)
―こんなことがあっていいのか。それは誰にも判断できない―




