三十六話あなたよりも上
―三日目、神崎瞬の率いる陸の前衛部隊は警戒すべき敵、シャドウタイプを発見した―
二次選考に向かって順調に書き進んでおります!イェイ!今回はシャドウタイプとの再戦ですね。前より彼らは強くなっています!
―三日目・昼―
瞬の率いる陸の前衛部隊は活動場所を大きく進み、騎士領から二十㎞ほど遠く離れた地点まで移動していた。一方、御剣の率いる後衛部隊は瞬達が道中の拠点としていた場所から離れた地点に再度拠点を設置し、さらに入念な調査をする。また、細波からの提案で、騎士領から三十㎞圏外まで前衛部隊が調査を完了した時点で、二つの部隊を合流させ、そこからは共に作戦を行うということになった。
―後衛部隊―
新たに拠点を設けた後衛部隊は、各々、しばらく休憩することになっていた。昨日、突如確認された不死体の群れを、消失の輝きを使って仕留めた御剣は、全身に少なからず疲れを感じていた。
「はぁ……調子に乗りすぎました」
消失の輝きは、現時点での聖騎士団最強の能力というだけあって、体にかかる負荷は相当なものだ。いくら長年能力と共に生きてきた御剣であっても、能力の影響範囲を拡げると、かなりの負荷が体にかかるようだ。
「全くじゃ。お前さんが使わんでも、俺が爆撃地帯でも使えば一瞬じゃろうに」
御剣の呟きに反応したのは、簡易テントを設置しようと地面に杭を打ち込んでいたおやっさんこと郷田甚助。相変わらずの巨体である。
「そうは言いましても、久しぶりの戦闘ですから、私も頑張らばなくてはと思って……」
苦笑する御剣。おやっさんは微妙な表情で杭を打つ作業を再開した。
「そんなこと言って、ヤバくなっても知らんぞ~」
「そこまでの無理はしませんよ……それに、藍河さんも、冴場君もいるんです。私が危機に陥っても大丈夫でしょう」
「あの餓鬼はちゃんと戦うじゃろうか」
そう言って、おやっさんはまた作業の手を止め、地面に座って不機嫌そうな表情をしている冴場に視線を移した。冴場は、いつも背中に担いでいる身の丈以上の大剣を地面に突き立てている。
「征伐者が……また現れたそうじゃの」
「はい。秋川君の率いる空の調査部隊が、壊滅したそうです……」
冴場は、最初に瞬が襲撃されたとき、自分の事を元征伐者だと言っていた。そして、今回もまた、征伐者によって襲撃を受けたとすると、元征伐者である冴場は、御剣から疑われてしまう。当然、御剣と冴場しか知らない事実なので、他には誰も知る人間はいないのだろうが、恐らく、おやっさんは勘付いている。
「不安そうな顔をするな御剣。大丈夫じゃ、俺は何も知らんから」
「郷田さん……ありがとうございます」
御剣は、おやっさんのさりげない気遣いに、感謝するのであった。
―前衛部隊―
後衛部隊と合流する三十㎞地点を目指す前衛部隊は、移動開始してすぐに、警戒すべき敵と遭遇した。
「大体予想はしていたけど、まさかここにもいたとはね」
「……絶対に勝つ」
「頑張りましょう」
三人の視線の先には、不死体の中でも、警戒レベルの高い敵、シャドウタイプが。運のいい事に、こちらには気付いていないようなので、先手を打つことが出来る。
「今の所は一体だけだけど、油断していると数が増えるから気をつけていこう」
「……了解」
「わかりました」
返事とともに、孤影は闇の波動に包まれ、姿を消した。瞬間的な攻撃を加えるために潜んでおくのだろう。また、瑠華は聖装騎士を展開し、真紅の装備を纏って槍を構えてその場に待機する。この三人以外の一般団員は、防御態勢をとり、他の不死体が出現した時に対応できるようにしておく。
「行くぞ!」
瞬が腰元の二丁の銃をホルダーから抜き放ち、シャドウタイプに向かって駆け出す。シャドウタイプとの戦闘では、いきなり隔離能力を使う事はよくない。なぜなら、それはシャドウタイプの行動速度と、シャドウタイプが持つ形態変化があるからだ。初めてシャドウタイプと交戦した時に、瞬はそれを学習した。
とは言っても、一度破られた隔離能力は、それ以降破られなくするために成長するので、いきなり隔離圧縮という手も悪くはないが。
「はぁぁっ!」
狙い通り、シャドウタイプが気付く前に先手として銃弾を放つことが出来た。瞬の身長倍以上の敵だ。改めてみるとかなりの巨体。だが、怖気づく事は無い。しっかりと足下に銃弾を数発撃ち込んだ。
「孤影!」
唐突な足下の攻撃に態勢を崩し、前のめりになるシャドウタイプ。瞬はその隙を見逃さずに孤影を呼ぶ。
「……刈り取れ、黒鎌」
シャドウタイプの頭上から、孤影が漆黒の鎌を手に出現し、その鎌を振り下ろす。迷いなく振り下ろされた鎌はシャドウタイプの頭を確実に裂き、腐った肉塊を辺りに撒き散らす。
「瑠華!」
裂けた頭から肉塊が噴出し、赤黒い血を流す。恐らくもう形態変化を開始している。なので、形態変化よりも先に瑠華が動く。
「緋鋭の槍っ!」
初動神速と称される技で、何度もシャドウタイプの体を貫く。だが、瑠華の突きよりも早くシャドウタイプは形態変化をしていた。
「瑠華!下がれ!!」
肉塊は凄まじい速度で肉体を形成し、第二形態への変化を促す。瞬の指示に、瑠華は即座に反応し、退いた。孤影は瑠華が下がったのを確認すると、闇の中から出現させた鎖でシャドウタイプの体を拘束し、動きを封じる。
「神崎隊長!周囲を不死体に囲まれてしまっています!」
そんな一般団員の声が聞こえて来た。この一瞬で、不死体が何かに誘われて集まってきたのだろう。
「瑠華、シフトチェンジだ。一般団員の加勢に入ってくれ」
一般団員は防御態勢でいたので、攻撃準備は出来ていない。そう分かっている瞬は瑠華に加勢指示を出す。
「了解致しました」
瑠華は一度頭を下げると、そのまま一般団員の加勢に駆けていった。それと同時に、孤影が瞬の下に降りる。
「孤影、ありがとう。助かった」
「……当然よ。それよりも、闇鎖が限界」
第二形態への形態変化を終えたシャドウタイプは、スピードを失う。が、その代わりに異常なまでの力を得る。孤影の闇鎖はすでにその力で引きちぎられそうである。
「こいつをさっさと片付けよう」
「……ええ」
瞬は隔離圧縮の構えを取る。形態変化後は隔離圧縮だけで充分倒せるから、問題はない。だが、そんな瞬を孤影は制した。
「……あたしがやる」
本当か、と瞬は訊くが、孤影は何も答えず前に出る。その手に持つのは、漆黒の鎌。それも一本ではなく二本。両手に持つ。
「無理するなよー?」
孤影は闇の波動を全身から溢れさせ、一瞬で視界から姿を消した。
「……幻想演舞」
刹那。シャドウタイプの体が突如切り刻まれた。それも、一度ではなく二度も三度も。その理由はすぐにわかった。
「さすがのスピードだな」
幻想演舞。以前に一度だけ見たことのある、孤影の闇の力を応用した技。闇の波動での高速移動とともに斬撃を幾度となく加え、そのまま切り刻んでいく。そして、しばらくの時間も経たないうちに巨体の肉は切り刻まれ、形をなくす。
「……終わった」
「お疲れ様。大丈夫か?」
瞬の心配に、孤影は不満そうに頬を膨らませた。
「……一応確認しておく。あたしは総合部隊の副隊長で、神崎君よりも強い。こんな事で心配しないで頂戴。だいたい、なんだか今の神崎君は普段よりも上から目線で、正直あたしのこと子供扱いして……少し喋りすぎたわ」
「は、はい」
なにやら凄く不機嫌な孤影。瞬は申し訳なく思い、頭を下げた。
「……ふん」
瞬と孤影がシャドウタイプを倒している間に、瑠華達の方の戦闘も無事に終わり、前衛部隊はしばらく移動した後、三十㎞地点まで到着した。とりあえず、周囲には不死体の反応は無かったため、後衛部隊が届くまでの間待機拠点を設け、前衛部隊は活動停止した。後は、後衛部隊がこの拠点まで辿り着けば、作戦終了に間に合う。空の調査部隊は作戦に失敗してしまったが、それでも、陸の部隊と海の部隊が成功すれば結果は良い方だろう。
「…………」
夕方、簡易テントの中で、瞬は一人考え込んでいた。
(十年前を知っている人……御剣先生とおやっさん、静理さん。聞き出そう。幻想黙示録について)
今自分が知りたいことはただ一つ。失っていた記憶の一部分を聞き出すこと。自分が思い出した話と照らし合わせて、真実を導くのだ。
(母さん……俺は十年前、母さんを……)
記憶を思い返すと痛む頭に、最早反応することさえ無い。
(騎士領に帰ったら、あいつとも話をしないと……)
―後衛部隊―
前衛部隊との合流を目指す後衛部隊は前衛部隊の残した最後の拠点を通過し、合流を前にしていた。
「抜刀斬式形態……参式・紅葉!」
静理が、剣術を放つ。抜刀斬式形態の三式・紅葉は、抜刀した刀から衝撃波を飛ばし、落ちてくる葉を一枚一枚斬るように何度も衝撃波を飛ばす剣術。能力ではないのだが、原理は能力と似通っている。体内の能力エネルギーを刀に宿して技を放つ。想像するのは容易いが、これが中々に難しい。
「藍河さん、ナイスです!」
「まだ油断してんじゃねぇよ。次が来るぞ」
御剣が静理に声をかけると、冴場が不機嫌に呟いた。
「面倒じゃのう」
おやっさんは迫る不死体を足下から爆発させながらぼやいた。
「まさか囲まれるとは」
前衛部隊に追いつこうと順調に歩を進めていた後衛部隊であったが、知らぬ間に、周囲を不死体に囲まれていた。辺りを制圧していきながら進んでいく彼らだが、特に支障はないようだ。
「夜が更ける前には神崎君達と合流しましょう」
御剣の声と共に、戦闘の勢いは増した。
次回は後衛部隊が前衛部隊と合流するお話ですね!
そして私思いました。抜刀斬式形態て……長い!(笑
まあ、そんなこんなで陸の部隊のお話…もとい第二章も終盤ですから、活目せよ!
―三日目・夜。後衛部隊は前衛部隊と合流するためにひたすら進み―




