三十五話『目的』
―二日目、不死体の大量発生が確認された。神崎瞬は何故夜には出てこなかったのかという疑問を抱きながら戦闘開始の指示をだす―
お久しぶりです!更新です!いえい!!
―二日目―
陸の部隊は初日の夜に、交代で監視を怠らずに行っていた。しかし、周囲には警戒すべき程の不死体は出現せず、交代後の団員はそれぞれ安眠できていた。当然、夜活発になるはずの不死体がおとなしい、という事に違和感を感じた瞬は、自分一人、休眠なしで監視に立ち続けていた。同行している孤影と瑠華も、一般団員より多くの監視のシフトにつき、瞬を出来るだけ手伝っていた。
「結局、夜の間には不死体はそんなにでなかったな」
朝方、鈍い太陽の光を受けながら、瞬がそう呟く。一睡もしていないので、多少の疲れは溜まっているものの、そこまで気にかけるほどのレベルではないようだ。
「……安全だという事なら、神崎君、少し休んだほうがいい」
瞬の隣で地面に体操座りをしている孤影が、静かな声で瞬に休憩を促す。だが、孤影の言葉に瞬は笑顔を浮かべるだけで、休憩をする気はそもそもない、そう告げているようにも思えた。孤影は無表情のまま小さく頬を膨らませるが、その動作は、どうにも小動物らしくて、瞬はこれにも笑顔を向ける。
「……何がおかしいの?」
「はいすいません」
無表情な彼女が放つ感情の無い言いようには、特攻部隊隊長であっても、萎縮するほかない。というか、下手に何かすると、簡単に闇に飲み込まれてしまうかもしれない。
「ところで、瑠華はどこに行ったんだ?」
先程から、孤影と同じくらい物静かな皆のメイドこと、瑠華の姿を見かけていない。日が昇る前までは、瞬と孤影とともに監視行動を行っていたが、いつのまにかいなくなっていた。
「……多分、どこかで朝ごはんを作ってる」
「あ、なるほど。全く、こんな時まで皆の面倒見るなんて、凄いな瑠華」
改めて、瑠華には尊敬の念を抱く。彼女にとってはいつもの事であるかもしれないが、それでも周りからしてみると、凄い事である。
『おはよう』
孤影と二人、太陽を見ていた瞬の胸ポケットから、ツンとした声音の女性の挨拶が聞こえてきた。当然、その人物の正体は分かりきっている。
「細波。うん、おはよう」
瞬は、胸ポケットに入れている電子端末、アリスに向かって挨拶を返した。細波は、瞬の声を聴くと、次に孤影へと声をかけた。
『孤影ちゃん、おはよう』
「……」
だが、細波の挨拶に対して孤影は反応しない。
『つれないわね。挨拶はどんな人にでも返すべきよ?』
「……ょう」
小さく聴こえた孤影の言葉。完全に聞き取れはしなかったが、恐らくおはよう、と返したのだろう。その言葉を言った後、孤影はその場から離れてしまった。
「あ~……で、何の用?」
『本題をズバッと言わせてもらうわね。周囲に大量の不死体反応よ』
それを先に伝えてくれと、瞬は呆れた様子で戦闘準備を開始した。
「正面に三、右方向に四、左方向に一!加減無しで一気に叩く!」
瞬が、自身の周囲にいる不死体の数を言うと同時に駆け出した。それが口火となり、瑠華と孤影、一般団員が戦闘を開始した。周りにいた騎士達は、瞬から離れ、戦闘の邪魔をしないようにする。今数えた数を、瞬は的確に倒しに行くので、邪魔は許されないのだ。
「隔離能力で戦おうとは思ったけど、多方向からくる不死体相手じゃ、厳しいかな」
瞬は腰元のベルトの左右にくくりつけた拳銃に手をかけ、二丁の銃を構える。最近は能力中心の戦闘ばかりだったので、この二丁の銃を手に取るのは久しぶりである。
「よし、行くぞ!」
颯爽と地を駆け、まずは正面にいる三体の不死体を標的にする。
「頭を、狙う!」
右手に持った銃で最も近い位置にいる不死体の頭を撃ち抜く。その動作と同時に、左手の銃で二体目に一発の弾丸を撃つ。さらに、一体目を仕留めてフリーになった右手の銃で二体目にもう一発。間髪入れずに最後の一体の体を蹴り飛ばし、三発の弾丸を撃ち込んだ。
「右方向……」
休んでいる暇はない。自身の右側から迫る四体の不死体に体を向け、振り向き様に二発撃ち、一体を仕留める。本来ならば、ここでこのまま残り三体を倒すべきだが、瞬はそうはしなかった。
「後ろ!!」
戦闘開始時、左側に見えていた一体の不死体。今は方向が変わり、後方にいる事になるのだが、その不死体が、瞬に限りなく近づいてきていた。瞬は方向転換する際に、近づいてきた不死体にも目をやり、攻撃順を考えたのだ。
「あと、三体」
しっかりと仕留めた瞬は、改めて残り三体に向き直る。今度は、手にしていた二丁の銃をホルダーにしまい、腕を前に突き出し、構える。
「隔離圧縮ッ!」
三体の不死体を、虚空から出現した隔離壁が隔離した。そしていつものように、視界から確認できないほどまでに圧縮され、赤黒い血との噴出とともに、消え失せた。
「よしっ」
結局、周辺に発生した大量の不死体は瞬達の連携によりあっという間に殲滅させられ、周囲は落ち着きを取り戻した。また、御剣が率いる後衛部隊の活動場所でも不死体が確認されたが、御剣が消失の輝きを使った事ですぐに倒したようだ。細波の識別透視で不死体を確認したところ、全てオリジナルタイプである事も確認されている。
「何かが、おかしい……」
瞬は、野宿するための簡易テントの中で、顎に手を当てて、唸っていた。
「なんで夜には姿を見せなかった不死体が、昼に……」
唸りの理由は、昨日から今日にかけての不死体の出現について。普通の不死体とはまるで行動基準が違うため、瞬は違和感を感じざるを得なかったのだ。
「シャドウタイプやインフィニティみたいな新種だとすれば、警戒レベルをあげないと……」
そう思うのだが、瞬は簡易テントの外に出る事ができない。その理由は、孤影と瑠華である。
「ここから出るなって言われても……」
不死体の殲滅が完了した後、瞬は昨日通り監視活動に徹しようと思ったのだが、孤影と瑠華が体を大事にするべき、と瞬を簡易テントに押し込んだ。出ようとすると、外から漆黒の槍と、真紅の槍が突き立てられて、外に出るなと言わんばかりである。
「はぁ……しばらく寝るべきかな……」
諦めて、瞬は簡易テントの中に敷かれた薄い布団に、寝転がって、目を閉じた。
(どの道、俺がこの作戦でやろうとしてることには、関係ない)
頭に思い浮かぶのは、あの日の出来事。今はもう、鮮明に思い出せる。
(でも、なぜああなったのかは、まだわからない……だから、この作戦が終わったときには、必ず……)
強い意思と共に、瞬の意識は深い眠りへと落ちていった。
「……崎様っ!神崎様っ!」
自分を呼ぶ声に、ハッとなって目を覚ますと、眼前に困惑した表情の瑠華がいた。
「おおう……!る、瑠華。どうしたの?」
「あ、あの、細波様から、アリスで通信が入りました……」
瞬は未だ困惑したままの瑠華に首を傾げる。緊急の通信だったのは急ぎようからして把握できるのだが、その割に、瑠華は言いにくそうにしているのだ。
「通信って……何があったんだ?」
「それが……」
瞬は次の瞬間、瑠華からとんでもない話を聞くことになる。
秋川拓哉率いる空の調査部隊が、道中発見された浮遊城にて、征伐者と名乗った生存者に襲撃され壊滅。生き残った秋川と指原は、能力の使用が困難な状態に。よって、空の調査部隊の作戦は失敗となった。
「どういう……ことだ……」
瞬からすると、細波から入った報告は有り得ない話であった。聖騎士団物理系統最強の能力を所持する秋川と、それに並ぶ力を持った指原が率いる空の調査部隊が壊滅……
「ほ、細波に通信を!」
動揺を隠し切れない瞬は枕元においてあったアリスに手を伸ばし、細波に通信を入れる。数回のコールの後、細波の声が聴こえてきた。
『あなたの聴きたい事は分かっているわ』
「秋川達がやられたって……本当なのか?」
瞬の言葉に、細波はアリス越しに重たい溜め息を吐く。そして、少しの間をおいた後に、ゆっくりと言葉を連ねた。
『……ええ。紛れもない事実よ。秋川君達は、あなたの負けた征伐者に、同じように、負けたわ』
「そんな……」
『秋川君と指原君は今、騎士領に戻ってきて療養中よ』
細波の言った事が、嘘だとは思えない。細波は、何か小さく呟きながら、瞬の返答を待たずに、通信を断った。
「か、神崎様……」
すっかりうなだれてしまった瞬に、声をかける瑠華だが、瞬は、その声には反応しない。
(なんでだ……これじゃあ俺の目的はうまくいかなくなる……より円滑にするべきなのに……)
深く溜め息を吐いた瞬は、ゆっくりと顔を上げると、小さな声で瑠華に呟く。
「……瑠華……」
「は、はい」
「作戦に、戻ろうか。失敗は失敗だ。俺達は俺達の出来ることをしよう」
一回の失敗で、足を止める必要はない。まだやれることはたくさんある。そう考えた瞬は、気を引き締め直す事にした。
(まだだ……この作戦はまだ終わってない。まだ……)
瞬の目は、かつてないほど、真剣味を帯びていた。
神崎君が一人で何か考えてますねぇ。シラナイシラナイ
さて、陸の部隊の話も、ようやく空の部隊の話に追いついてきましたが、複線バリバリでどうしよう(笑
ま、まあ、頑張りますわ
―三日目、神崎瞬の率いる陸の前衛部隊は警戒すべき敵、シャドウタイプを発見した―




