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Knights VS Undead  作者: 神崎
第二章 首都圏隔離
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三十話私はそれを知っていた

―深い深い溝の底。鷹山昂大は落ちた事を特に気にせず周囲を見渡したりしていた。そんな中、ふとした気配を彼は察し―

※天条さんの出番があると頑張る作者とは僕のことですよ

深い深い溝の底にて、昂大は自分がなかなかに馬鹿な事をしていたことに気がついた。足下が安定しているからと言っていきなり全力疾走してみた意味がよくわからなかった。というか、絶対に自分では理解できない。まさか、今まで自分達が歩いていた場所が、ただ純粋な岩盤だったとは、暗闇の中へ落ちるまで気づく事もあるまい。しかも、かなり深い溝なのか、自身の体でさえ、見えないくらいに辺りは暗い。とりあえずは、黙って待つのが安定している。そう判断した昂大はその場に静かに佇むだけであった。


「まったくもう、自分勝手に走っていかれると困りますわっ!!だいたい、鷹山さんは、朝の時点で既におかしかったのですわ!まるで真面目にやる気がないかのようにぶつぶつ……」

「て、天条隊長……」

遙香が怒りで止まらないのを気にかけてか、団員の一人が遙香に声をかけた。

「なぁんですの?」

「いえ、なんでもありませんでございますぅ」

どうやら、かなりの怒気のようだ。下手に刺激したら海の中で雷魔術を使って暴走しそうなので、今は関わらないほうがいい。そういうことである。

「とにかくっ!皆さん準備はいいですのっ?行きますわよ!!」

溝の中へと、遙香は颯爽と落ちていった。


「弱ったものだな……」

あれから数分間、実際に全く動かずその場に座り込んでいた昂大は、そんなことを呟いていた。

「どうやらかなりの高さから落ちたようだな……」

冷静に計算した結果がそうであった。

「いや待て、まず考えなければいけないことは、何故あのタイミングで走り出したのか、ということか」

結論は容易く出た。それは、つまり、自分が馬鹿であることだ。昂大はその事が分かって、内心少し喜んでいた。

「さて、これからどうしようか。……ほう」

もう歩き出そうか、と言うタイミングで、昂大はふと気付いた。辺りは一面真っ暗闇で、ほんの数センチ先も目視できないほどなのだが、確かに感じる。これは間違いなく、他の存在がいる(・・・・・・・)気配だ。

「俺の落ちてきたこの溝は、どうやら正解のようだな」

昂大は、その気配が明確になったところで、何度か地面を踏みつけて、下が、砂であるかを確認した。もちろん、先程までのように岩盤にいるわけではないので、砂の感触が足下にしっかり伝わる。

「フゥッ!!」

昂大が地面をゆっくり殴りつけた。その次の瞬間、足下が不安定になった。

「飛ぶっ……!!」

おそらく周囲を、巻き上げられた砂が舞っているのであろう。そう考えた昂大は、迷わずに足に力を入れて、脚力の限界を突破させて、その場から、高く飛び上がった。今の、地面を殴りつけて巻き上げた砂で、自分以外の存在の動きに制限をかけ、自分自身は高く跳躍する。このまま先程までいたところに飛び上がれれば完璧だが、そうともいかないだろう。

「く……無理があるか……ん?」

上昇が終わりかけ、段々と再びの落下を開始しようとしたその時、上の方から、光が降りてきた。この光は、間違いない、遙香のものだ。光が、自分に対して向けられる。

「鷹山さん!!あなたは何をやっているんですの!!」

「天条か。随分遅かったな」

「随分遅かったな。じゃありませんわ!!」

落ちてきた遙香にそのまま腕ごと持っていかれ、再び溝の底へと。

「な、なぜまた溝の底に……」

「決まっていますわ。鷹山さんとは違う別個体の存在を探知したんですもの。いかないわけにはいかなくってよ!」

昂大は微妙な表情をするほかない。こう見えても、脱出のために下を荒らしてきたのだ。

「すでに近くに反応あり。水の中を自由に泳げるようになっているんですのね。いいですわ、お相手して差し上げますの!」

海底に着地するころには既に、遙香は術式を展開させていた。この状況で使うのは果たして何の魔術だろうか。火炎魔術は、まずもってこの海の中では発動しない。必要な空気がないからである。雷魔術だと、自分も含めて、皆がその場で感電して全滅する。ということは、創意魔術において使えるのは、水魔術と風魔術、それと、光魔術と闇魔術だ。

穿(うが)て水球、スプレッド!!」

遙香が展開したのは水魔術だ。遙香が暗闇に向けた手のひらから、術式が展開され、水で出来た球が真っ直ぐに、数発放たれる。何か手応えを感じたのか、遙香は薄く微笑み、次の魔術の術式を展開した。その時、光魔術、ルクスがはっきりと周囲を照らし出し、その時初めて、敵の存在を確認することができた。

「うっ……美しくない見た目ですわっ!!」

遙香が異物を見るような目で、その姿を(けな)した。


元々の体の作りは、普通の人間、不死体(アンデッド)と同じ。ただ、部分部分でそのパーツが少し変化しているのだ。まずもって目に映ったのは、手の形である。普通に見たときの手と違い、今目の前にいる敵は、指と指の間の水かきのようなものが生えており、水を掻く事に特化しているのがすぐに分かった。他にも、足はほぼ水かきになっていたり、体の形が頭に行くにつれ、少し流線型になっているところなどがある。呼吸のほうは、そもそも内臓などは機能していないので、特に何もないようだ。

「まったくもって予想通り過ぎる見た目で、少し物足りないですわ!!」

次々と水球を不死体(アンデッド)に放つ遙香。一つの球が被弾するたびに、腐った肉塊が水の中に海中に飛び散り、もはやただ黒いだけの血が海水に混じる。

「俺も手伝おう」

遙香一人にやらせるのもなんだか気に障るので昂大は戦線に協力しようと前に出た。だが、遙香はそんな昂大を制した。

「下がってくださる?ここはとりあえずわたくし一人でどうにかしてみせますわ」

「だが、どうすると言うのだ?」

いいから、と、遙香は昂大と、そのほかの団員に風魔術の効果を付与させ、上へと上昇させていく。

「そのまま上で待っておくといいですわ~!すぐ片付けてきますわよ!!」

「おい、天条!!」

昂大の言葉虚しく、上へと上昇していくだけであった。

「ふふ……さあ、やりますわよ」

遙香は一人になったところで、周囲を確認する。ルクスの光で見渡せる限りでも、自身の周りにいる不死体(アンデッド)の数は数十以上。だが、遙香は物怖じすることなく、体の周りに大規模な術式を展開した。

「螺旋の水流よ、わたくしに従うといいですわ!スパイラル・ウェイブ!!」

遙香を中心にして、螺旋状に回転し、広がっていく水魔術が発動された。螺旋の水流は、不死体(アンデッド)を巻き込むと、その回転速度で一気に砕き、粉々にしていく。それだけでは、終わらず、最初に周囲に発動された螺旋の水流に幾重にも同じ魔術が展開され、何度も何度も不死体(アンデッド)の群れを巻き込む。

「周りに人がいますと、どうしても巻き込む危険性があって、こうやって皆さんを上の方に逃がしておけば、大いに扱えるというものですわね」

気が付けば、周囲一帯の不死体(アンデッド)は一体残らず螺旋の水流に飲み込まれ、粉々になっていた。遙香は一瞥すると、そのまま上のほうへと浮上していく。


「上の方に、不死体(アンデッド)は行ったりしていませんわよね?」

溝の底から、ゆっくりと浮上してきた遙香が上がり様に昂大にそう聞いた。岩盤の岩肌を触っていた昂大は、遙香の質問に答える。

「ああ。俺達がここにくるまでの間にはそれらしきものは何も」

「そうですの。下のほうは大方片付きましたわ。……今日は一旦引き返したほうがよさげですわね」

遙香は、もう一度、暗闇に包まれた溝を見下ろす。そこは相変わらず、暗いというだけでその他には何も見えない。改めて見直すと、なんだか気味の悪い光景であった。

「深入りしすぎると、危険ですもの」

遙香は上品に歩き出し、来た道を辿って騎士領を目指す。昂大と団員達もそれに続いていく。当然その間警戒を怠る事は無かったが、騎士領に着くまでに、周囲に不死体(アンデッド)の反応が探知されることはなかった。


騎士領の海岸にて、海の調査部隊は各々テントなどを設置し、そこで一旦の休息を取ることにした。遙香達が海面から顔を出した時にはすでに、日が沈みかけており、ここまで時間が経っていたとは知らず、遙香は今日は作戦を終わらせることにした。

「わたくしは一度細波さんの所へ行って、不死体(アンデッド)の情報を提供してきますわ。皆さんは明日に備えてゆっくりと休んでおいてもらっていいですわ」

それだけを告げて、遙香は細波のいる監視部隊の専門施設へと向かった。


―監視部隊専門施設・隊長格室―

「失礼致しますわ。交易部隊長天条遙香、本日の状況報告をしに来ましたわ」

「どうぞ、入るといいわ」

隊長格室の入り口から真っ直ぐ向かった所にある、作業机。そこに細波は座っていた。机の上には、液晶が数台並べられていて、ここで自身の監視作業を行っていたことがわかる。

「監視施設のほうでお仕事をなされていると思ったのですけれど、ここにいましたのね」

「集中して作業をするには丁度いいのよ。それよりも、その状況報告って、何なのかしら?」

細波は立ち上がり、窓際に備え付けられたソファーに座る。遙香も、それに合わせて、細波の向かい側に座った。

「海中にも、予想通りというか、不死体(アンデッド)はいましたわ」

遙香は今日目撃した海中での光景を一通り話し、そして、騎士領の周りに巨大な溝があることも伝えた。

「海中にいた不死体(アンデッド)のほとんどは、恐らくその溝の中で生活していると思いますの」

「なるほど。水棲(すいせい)系の不死体(アンデッド)……敵の脅威は陸地だけには収まらないというわけね」

「長年誰も海へと近づいていなかったことが、不死体(アンデッド)への、海中に対する形態変化を促し、そのようになったのかと思いますわ」

遙香は、神妙な顔つきで、そう言った。細波はその事に疑問を抱く。

「何か、他にも言いたいことがありそうね。いいのよ?相談に乗ってあげるわ」

「いえ、相談というより、あの、細波さん」

何かしら、と細波は大人びた笑みを浮かべながら反応する。遙香は、凄く言いにくそうにしてから、それでもちゃんと言おうと、言葉を発する。

「この作戦に、わたくしはどこか得体の知れない不安を感じていますの。別に、神崎様の事を言っているのではなく、なんというか、全体的な雰囲気が、不穏な気がして」

細波は、その言葉を聞いて、どこか悲しそうな表情を浮かべた。それはまるで、その先に何があるかを既に知っているかのような表情で、とても、重いものだった。

「……そうね。私も、そう思うわ。嫌な予感、というのかしら……でもそれは考えすぎよ。予感なんて、そうなると感じてしまうから現実になるだけであって、どうとでもいいと思っていればどうにかなるはずよ」

「細波さんは、そのように考えられる何かを、経験したことがあるんですの?」

遙香の言葉に、細波は小さく横に首を振った。

「あくまで私の理論というだけよ。……ほら、あなたもそろそろ休んできなさい。明日も大変なんでしょうから」

「わ、わかりましたわ。それでは失礼致しましたの」

遙香は言われるがままに退室し、そのまま海岸にある自身のテントに帰っていった。人の気配が完全に無くなったところで、細波は作業机に再び座り、液晶を覗く。そこに映っているのは、空の調査部隊の調査中に現れた謎の浮遊城だ。

「そうやって、また同じ事を繰り返し、私とあなたは何をしようというのかしら」

彼女は、その浮遊城で起こる全ての事象を、知っていた。



魔術とは、厳密に言えば能力とは違います。言ってしまえば、世界が崩壊する前から、天条家の人間は魔術というものを扱えていましたからね。って、ここで話すことじゃないか

―二日目の海の調査部隊。しっかりと準備をしなおし、部隊は再び溝の底へと落ちていった―

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