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Knights VS Undead  作者: 神崎
第二章 首都圏隔離
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二十六話この空間、秋川の物。

―飛行する不死体との戦闘は思った以上に秋川拓哉を苦しめた。だが一方の指原秋人は余裕の表情で―

一日目の後半戦。秋川達空の部隊はわっきゃわっきゃと戦闘を。秋川君(笑)

―上空五千メートル―

敵が増えたようだ。秋川達空の調査部隊は空中での慣れない戦闘に自由な動きが取れず、苦戦を強いられている。大量に飛来する鳥のようなモノを、秋川は触れるたびに大気に(かえ)しているのだが、それでも、大元となる飛行する不死体(アンデッド)の数が多いので、きりがない。一方の指原はというと、特に辛そうな表情を浮かべるでもなく、呑気に敵と戦っている。

「秋川ー。早く飛行に慣れろーい」

「うっるせ!こう見えても、慣れたほうだっての!!」

ちなみに、大気の薄くなる上空での酸素供給源は秋川が全て担当している。数十人連れてきている騎士団員全員に酸素を供給しなくてはいけないので、秋川はそちらのほうで辛そうにしている。

「ん……?指原よ。一つ訊きたいことがある」

全ての動きを一度中断した秋川が指原に対し、声をかけた。「んー、何ー?」と、呑気な対応をする指原。

「お前は能力で酸素という物質をこの薄い大気内でも爆発的に大きくできるんじゃあないのか?」

「さぁー。なんのことだろ」

明らかに、そうできると知っていたようだ。

「さぁぁぁしぃぃぃはぁぁぁらぁぁぁっ……!!」


―空・一日目―

というわけで、秋川達空の調査部隊は指原からの酸素供給も加わり、なんとか動きを円滑にしていった。だが、それでも敵の数は変わらない。近づけば、翻り、回避され、遠距離から狙えば、胴体から出てくる鳥のようなモノから阻まれ、大元に近付けない。

「あぁー!!うざいうざいうざい!!酸素酸素酸素ぉ!!」

半ば投げやりになりながら、秋川は鳥のようなモノに触れてどんどんと酸素に換える。

「指原!なんか打開策はないのかよっ!」

「んー。打開策ねー。あるよ」

「あるなら早く出せ!」

秋川は指原の下へと近寄り、その打開策がなんなのか訊く。

「秋川が本気だせば一発じゃねー?」

気の無い言い方で、指原がそう呟いた。秋川はそれを聞いて、同様にどこかやる気のなさそうにうなだれた。

「いいか指原。端的に言うぞ」

「おうよ」

「こんな奴らにわざわざ本気とか出してたら、後々出てくるであろうボス的存在の奴と戦うとき、新鮮さがなくなる」

つまりは、もっと強い敵が出てくるまでは自身の隠している力を使わない、ということらしい。なぜそのように、強い敵が出てくると予測できるのかはよくわからないが。

「秋川は面倒だー。じゃ、俺がやっていいかーい?」

「よかろう」

許可をもらった指原が、秋川と入れ替わるように前に出た。

「むっふふ……見ーせてやろーう」

言い回しが気持ちが悪かった。


―騎士領・監視部隊専門施設―

「どうなのかしらね、秋川君達」

専門施設から秋川達空の調査部隊の動きを監視していた細波は、真剣な表情でそう呟いた。

「まあ、私としてはあの子達にとっていい経験になると思うのだけれど……」

そう言い、彼女は室内に大量に設置された液晶画面に目を据えた。そこに映るのは、各調査部隊の騎士団員。空は、秋川達の交戦状況を複数のカメラから映しており、海のほうは、準備に取り掛かる遙香と昂大の様子を映している。そして、一際大きな液晶に映し出されているのは、ひたすらに陸を歩き続ける、陸の調査部隊だ。道中に何度か不死体(アンデッド)との戦闘もあったようだが、主力が固まっているということもあり、余裕であった。

「本当、あなたの能力って便利よね」

「そ、そうですかね?僕はあんまりそうは感じないですけど……」

細波の隣でアリスを持って座り込んでいる少年、監視部隊副隊長の小鳥遊(たかなし)(りん)が言葉を返した。

「僕の能力は非戦闘能力ですし、あんまり実践的じゃないですよ」

「かなり実践的だと思うのは私だけかしら……」

謙虚な彼に、細波は短く溜め息を吐く。

「頭の痛くなりそうな能力なのよね」

「はい」

彼の能力、特異電子操作(とくいでんしそうさ)は、物質が持つ電子を、物質の効果を保たせたままに移動させ、別の物質に付与させる能力だ。例えば、カメラが持つ電子をカメラの「記録する」という効果を持たせたままに他の物質に付与させると、その物質がカメラとして機能するのだ。後は、カメラとして映像を映す媒体(つまり液晶)さえあれば、効果を付与させた物質がカメラと同じ効果を発揮する。今、凛が行っているのは、適当に選んだ監視カメラが持っていた電子を空中を漂う電子の中に紛れ込ませて、その電子を辿って液晶に映像を飛ばす、という、言ってしまえば訳のわからない作業だ。ただし、この能力は電気を通す物質(電子を持っている物質)にしか作用しない。

「私の能力より遥かに上な気がするのだけれど」

「うーん。そうですかね……」

顎に手を当てて思案する凛。

「隊長って、本気出してないですよね?」

眼鏡を光らせてそう問う凛であったが、細波は何も知らないと言った風にとぼける。

「何の事かしら?私にはさっぱりだわ」

「隊長、副隊長!お話中失礼します!」

細波が凛に踵を返すと同時、監視部隊の団員である男が駆け寄ってきた。細波は背を向けたまま動かないようなので、凛が代わりに対応する。

「どうしたんですか?」

「秋川隊長率いる空の調査部隊が交戦中なのですが……これを見てください」

団員が大きめの液晶画面を取り出し、そこに映しだされた映像を凛が覗き込む。

「え……これって……」


―上空五千メートル―

「はぁ……はぁ……指原てめぇこのやろう……!結局いつも通りじゃねぇか……」

息を大いに荒らした秋川が怒りを全開に指原を睨みつける。

「そー言われてもねー。俺の本気って見せる前に敵が勝手に小さくなるだけだしー」

「それがお前の能力だからな」

指原は、自在形成という能力で、触れた物質を自分の意思した好きな形状に変化させる事ができる。従って、指原の言う本気とは、この能力の出せる最大限の力を解放することなのだが、つまりそれでは触れる対象となる不死体(アンデッド)に能力が作用するので、自在形成の本気の力を発揮できないのだ。

「それならそれで……能力作用の対象を大気そのものに変えてみるとか考えつかねぇのかお前は!」

「自分馬鹿なので」

あっさりと開き直った指原に秋川の右の拳が飛んでいったのは言うまでも無い。

「にしても……ちゃんと減ってるのかよ」

周囲を見渡す秋川。交戦する団員と空を飛ぶ不死体(アンデッド)。目視できるだけで、六体の敵。だが、六体と言っても、体内から吐き出す鳥のようなモノがいることを考えると、もっと数は多いことになる。

「はぁ……ああ、ああ分かったよ。俺がやるしかないんだろ。はいはい。理解理解」

秋川は肩をすくめて溜め息を吐いた。表情から、明らかにめんどくさそうな感じである。秋川の呟きを耳に入れた指原は、まるで最初からこれを狙っていたかのようにガッツポーズをした。

「指原ぁ。あとで覚悟しとけよ……」

「あ、あい……」

殺気だけは、人一倍やる気満々の秋川である。

「どーなっても……知らないからなっ!!覚悟しとけ!死体共!!」

一瞬の出来事であった。秋川が叫びを上げると同時に、その場の空間全体が歪にねじれ始めた。

「なぁ……知ってるか?触れた物質を別の物質に変換するこの物質改竄能力が、空間そのものを好きに操る事ができるって」

一呼吸おいて、彼は額に滲んだ汗を服の袖で拭き取る。

「そして、空間を操る事によって、その空間に存在する物質に間接的に触れることができるんだぜ……」

言葉の途中で、飛行する不死体(アンデッド)は秋川に狙いを定めた。鳥のようなモノを体から出現させるわけでもなく、ただ、多数の不死体(アンデッド)が一斉に秋川へと攻撃を仕掛けようとする。

「少々めんどくさいから、敢えてやらなかったんだが、まあ、いつまでもこんな感じじゃ、むしろめんどくさい。だからよ、七割の力ってのを見せてやる。特別だぜ?ほら、来いよ」

秋川の目の前に翼を広げて現れた不死体(アンデッド)。胴体が裂け、鳥のようなモノを吐き出す準備をする。また、それにともなって、自身も大きく口を開いた。束になって、喰らうつもりだ。

「た、隊長!下がってください!!」

身動きを取らない秋川に、騎士団員が声をかける。だが、空間のねじれに巻き込まれて思うように動けない上に、空気の振動によって伝わるはずの声でさえも、掻き消されている。それを目視した指原はゆっくりと騎士団員に近づき、「大丈夫だーから、ゆっくり見とけ~」と、呑気に伝えた。

「馬鹿が。この空間はもう俺の手の中にあるんだよ」

ヒュッと、一瞬で何もかもが元に戻った。歪な空間はねじれを無くし、情景は全てを取り戻し、そして、不死体(・・・)は消えてしまった(・・・・・・・・)

「まあ、良く考えてみると、最初からこうしておいたほうが楽だったかもな」

つまるところ、不死体(アンデッド)は全滅しているということだ。

「一日目の収穫は……空を飛ぶ化け物のお出ましって情報かな」

「なーなー。秋川ー」

間延びした言い方で、指原が秋川を呼ぶ。

「なんだ指原」

「周り、見てみー」

言われて、自分の周囲を確認してみると、今目の前の光景を見ていた他の団員が、呆気に取られて立ち尽くしていた。何が起きたのか理解できていないご様子だ。秋川は、深く溜め息を吐き、頭を掻きながら現状説明を始める。

「えー。俺の持つこの物質改竄能力ですが。空間そのものを操る事ができるんです。どう?チートでしょ?凄いでしょ?あっはっは」

もう投げやりだった。疲れているのである。

「指原……なんかむかつくからお前を殺す」

「おいおいおいー!それは理不尽って奴だぜ秋川ー。俺は今、なーにもして……ない?」

秋川の魔の手から逃れようと上昇していく指原が言葉の途中、何かを発見したようで、言葉を詰まらせた。それを見た秋川は、冷たい目のまま、指原に近づき、視線を合わせる。

「何だ?空の上に天空の城的な奴でも見つけ……は?」

二人の視線の先、自分達より少し上の空には、巨大な(・・・)純白の(・・・)天空の城(・・・・)的な(・・)浮遊物(・・・)が静かに浮いていた。




七割の力ってのを、見せてやる

出ましたよ。チート。ええ、出ましたよ。何も言う事ありません(笑)

さてさて、なにやらフラグが建っておりますが…決してラ〇ュタ的な城ではないですからね。いやっほう。

―秋川拓哉達の前に現れた城。そして、その中から現れた、まさかの生存者。為すがままに連れて行かれた空の部隊はそこで―

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