二話幕開けを告げる、その時。
やっと第二話ですよ。
おくれてすいません!!
さて、ここで時間軸の狂ったはずの今の世界で、何故誕生日や日時が存在するのかを説明しよう。
かつて起きた大規模太陽フレアの衝撃により磁場が狂った事により時間の概念が存在しなくなった地球では、日本を除いた全世界の科学者を集結させ、新たに時間を作り出すよう日々世界中のわずかな時間の誤差を調べ、再び世界に時間を取り戻させた。しかし、時間は取り戻せても日にちは取り戻せていない事から、世界は新たに暦を作る事にした。西暦に変わる新たな暦。それは、日本での聖騎士団の発足に伴い作られた暦。
即ち、聖暦である。
そして今は、その聖暦四十九年六月十七日の時刻午後四時半。
先程の実践訓練及び昇格試験で圧倒的実力差を見せつけ勝利した瞬は、聖騎士団内にある隊長格の集まる部屋である部隊長室へと赴いていた。その理由は、先程の戦闘の報告をするためだ。扉をノックして、入室確認をする。
「特攻部隊隊長、神崎瞬。戦況報告に来ました」
「どうぞ入ってください」
中から、優しげのある男性の声がした。瞬は少しだけ扉を開け、顔を部屋の中に覗かせた。
「あ、先生。もう来てたんですか」
「神崎君の実践訓練ですから、一刻も早く報告を聞きたいのですよ」
背中辺りまで伸びた銀髪を特にとめようともしていない髪型で、周りの騎士団員とは違う服を着用している物腰の柔らかい男性。
御剣幸人。身長178cm体重60㎏、誕生日不明26歳。物腰の柔らかさだけでは全く分からないかもしれないが、一応聖騎士団の総合部隊隊長を務める、最強の人物。総合部隊とは、その名の通り、聖騎士団の中でもトップクラスの人間の集められた部隊で、つまりは、そこの部隊長という事だから、実質聖騎士団の総隊長とも呼んでいい存在。だから、聖騎士団の全ての決定権などは、彼にある。彼の基本武器は日本刀と、少し時代が遅れていそうな武器だが、握らせれば、まず右に出るものはいない。戦闘スタイルは近距離で、前線に出てくる場合は彼を筆頭に攻撃を仕掛けるパターンが多い。そのため、御剣の出撃時は、特攻部隊もあまり特攻ぽくなくなるわけだ。当然ながら、彼のランクはSSS。
「そんなこと言ったって、もう結果は知ってるんですよね?」
「ははは。確かに、すでに藍河さんから聞いていますよ」
御剣が柔らかい笑みで部隊長室の奥にあるソファーに鎮座している静理の方へ顔を向けた。瞬が確認するように完全に部隊長室へ体を入れると、御剣は自分の近くにある椅子へと瞬を案内し、腰掛させる。
「静理さんが報告してくれたんだ。ありがとう」
瞬は座ってすぐに静理に礼を述べる。静理はその言葉に反応すると、すぐに瞬の下にやってきて隣の椅子に座る。
「何を言っている?副隊長として当然の事をしたまでだ。礼はいらないさ」
「あっはは……」
静理の言葉に、乾いた声で笑う。ちなみに、静理は一応瞬の年上であるので、訓練時以外は敬語で喋らない。逆に訓練時は絶対に瞬に対して敬語(位が上なので当たり前ではある。)を使う、と言った複雑な事をしている。
「さて、神崎君。今日の実践訓練に伴って行われた昇格試験の結果ですが」
「もちろん。昇格間違いなしでしょ!」
自身満々に胸を張る瞬。それを見た御剣は微笑しながら答えを伝える。
「神崎君。君の昇格試験の結果は……」
そんな風に自身満々の装いでいられたのは、ついさっきまでだ。
「だあぁぁぁぁ!!!なーんで昇格じゃないんだぁっ!!」
瞬の叫び声が響き渡る教室。時刻は午後六時丁度。
聖騎士団では、不死体との戦闘のための訓練とは別に、未成年以下が一般的な学習を積む、研修棟がある。そこでは、十二歳から二十歳までの若き騎士団員達が週に三回六時間の授業を受けている。その内容は、国語、数学、科学、日本史、世界史、地理、英語、体育の八教科と部隊別に分かれた専門教科がある。聖騎士団にある部隊は、特攻部隊、狙撃部隊、救護部隊、援護部隊、爆撃部隊、製造部隊、交易部隊、監視部隊、そして総合部隊の、計九部隊が存在する。
そして、それぞれの部隊に、それぞれの専門教科があり、部隊に所属するものはそこで自分の部隊適応能力を上げ、戦いに備える。逆に、どの部隊にも所属していない団員は六時間の授業の後、寮へと帰宅する。つまり、部隊は、部活と捉えてもいいのだ。
そして、それぞれの目的の為に誰一人いなくなった教室で、瞬は昇格しなかった悔しさを大声で叫んでいた。
「落ち着け、神埼。次があるだろう?」
「そりゃそうだけどさ……」
いや、正確には瞬と、静理、そしてもう一人がいるだけだ。
「……あ、あの……だ、大丈夫です、よ……」
「宮間……ありがとう」
宮間深雪。身長160cm、体重50㎏、4月17日生まれ十五歳。肩につくくらいまでの茶髪ショートヘアーの救護部隊に所属する若干気弱な少女。瞬とは同じ時期に聖騎士団に入団した、いわば幼馴染と言っていい感じの存在。異性との接し方が良くわからず、男性の前であたふたしている事が多いということで、男共に人気がある。そして、彼女のスタイルの良さもまた人気の1つだ。静理に負けるとも劣らない豊満な胸、しっかりとラインを描く括れ、それに続くむちむちとしたお尻。その魅惑のボディが思春期真っ盛りの男子や、おじさん軍団に大人気。当然、そういう輩は全力で避けているが。救護部隊と言うことで戦闘に向いていないため、武器は入団した際に渡される常時持ち歩かなければならない拳銃のみとなっているが、万が一戦場へ赴く場合には緊急救護用具一式を持ち歩くようになっていて、その場で傷ついた団員の救護が出来る。なお、この救護用具一式を持ち歩くのが許されているのは救護部隊の人間のみとなっていて、それはそれで凄いことである。ランクはB。
「……い、いえ……どう、いたしまして……」
瞬の感謝に、頬を赤らめ応える深雪。なんだかいい感じの二人の間に静理が入る。
「わ、私にはないのかっ!神崎!」
そんでもって、ヘッドロック。瞬の頭を脇に挟んでがっちりホールド。
「ちょっ痛いからっ!静理さん!あ、あああ後、当たってるから」
身動き不能な瞬は情けない声で痛みを訴える。そして、それと同時に制服越しに感じるふにふにとした感触についても訴える。
「!!なっ……お、お前!謀ったな!!」
言葉の意味にすぐさま勘付いた静理がヘッドロックを解除し、瞬から一歩退く。その顔は真っ赤だ。恐らく、怒りと恥が混じっているんだろう。まるっきり逆効果である。
「は、謀ってないから!だから刀を抜かないで!」
「ううううううるさい!断ち切ってやる!」
携えていた刀を抜き、瞬に切っ先を向ける静里。瞬は慌ててそれを抑えにいこうとする。
が、無論そんな思惑が通るわけもなく……
「んお!!」
椅子の脚に片足を引っ掛けて体勢を崩す。その衝撃で静理の方へ倒れる。
つまり、倒れる瞬を遮るものは何もないわけであり、それに素早く反応した静理は刀を投げ置き、瞬を支えにいこうとしたものの思った以上に勢いがあったもので、そのまま瞬が静理を押し倒す形となり……
「いってて……静理さん、大丈夫って、んなっ!?」
「うぅ……か、神崎こそ、大丈……夫……な!?」
状況を説明しよう。
まず、押し倒された静理。そして、押し倒している瞬。これは理解できるであろう。
次に、瞬の右手。まあ、皆さんの想像通り静里の豊満な胸を鷲掴んでいる。左手は、静理の顔の真横にあり、上半身はそんな感じ。
「ご、ごめん!今離れるから!」
「ば、馬鹿!今、動いたら……ひゃあ……!」
瞬が離れようとすると、急に静理が甘い声を出した。その声の原因は、下半身だ。
「なななななな!?なんて体勢だ!?」
二人の両足はがっちりと絡み合っていて、訓練後で、薄着になっている静理は素足なわけで、そのむちむちとした両足で、同じく半ズボンの瞬といかがわしくも絡み合っているので、当然動こうとすれば、肌と肌が擦れ合い、妙な声も出るわけで。
「………………」
無言の怒りは、静理の顔を見なくとも分かるほどである。さて、どうしたものか。
「し、静理さんっ、ほんとごめん!!わざとじゃない」「神崎……」
言葉の途中に名を呼ばれた。
「はひ!!」
そのあまりの静かな怒りに、思わず声が裏返って反応する瞬。
「…ろす…」
「え?」
「殺すっ!!!!!」
「のはぁっ!?」
次の瞬間吹き飛ばされた瞬は、吹き飛ばされている間にも、何発も腹に蹴りを入れられた。なので、吹き飛ぶ飛距離は伸びていき、教室を飛び越え、廊下の窓から外へと落ちる。
ん?落ちる?
「うああああああああ!!!!ここ、三階だぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
と、こんなことは日常茶飯事である。あ、いつもこんないかがわしい事がある、ということではない。いつも吹き飛ばされている、という意味である。
「ふっ・・・・・・甘いぜ静理さん!!」
隔離能力を甘く見てはいけない。こうやって落ちていく間にも、自分の下に底辺をイメージし、そのまま引き伸ばす!
が
瞬の飛んできた廊下の窓から、なにやら人影らしきものがこちらに向かって一直線にやってくる。
「嘘でしょ!?静理さんそれは聞いてない!!」
「何度も何度もその手が通じると思うなぁっ!!」
引き伸ばす直前まで来た隔離を無視し、静理は宙で瞬に乗っかり、落下速度を速める。
「いやいやいや!!いくらなんでもそれは痛いってば!!」
「ふん。下になるのは神崎、お前だ。だから私は、無傷」
冷ややかな笑みを浮かべた静理の、その言葉を、瞬は、永遠に忘れなかった。
「ぎゃあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
そんな訳で、三階(二十五メートル)から落ちた、いや落とされた瞬は救護部隊である深雪の手当てを受けて、なんとか立ち直り、食堂へと向かっていた。
「生きてる自分に、まじでびっくり」
少し、虚ろになりかけていたが。
「……か、隔離がなかったら、危なかった、です……」
隣を歩く深雪は、おとなしめの声で、そう言った。
「全くだな……ほんと、自分の力に感謝。あと、手当てしてくれた宮間にも、感謝」
「そ、そんな……!わ、私は別に……こ、これぐらいしかできないですから……」
もの凄く謙虚な深雪に、瞬は笑みをこぼす。はあ、もっとこういう女の子が増えればなぁ、と思ってしまう。
ちなみに、静理は瞬に一撃を決めた後、大股でどこかに行ったため、行方知れず。探しても殺されそうなので、探しには行かない。
「とりあえず、飯食べるか」
「は、はい……」
二人は並んで、いつの間にか目の前に迫っていた食堂へと、足を踏み入れる。聖騎士団は全寮制なので、当たり前だが食堂ほか施設は揃っている。だが、疑問が生じるではなかろうか。なぜ、この絶望溢れる日本で、当たり前のように食糧があるのか、と。
実は、この莫大な敷地を誇る聖騎士団領内では、外界、いわゆる不死体達のいる外からの影響を受けていない聖騎士団内で完全に生成された食物や、生物が存在しているのだ。なぜ、そのようなものが存在しているのかというと、それは、聖騎士団で今も謎の研究及び食物栽培を行っている製造部隊所属の天才科学者のお陰でもあるのだが、面倒なのでいちいち説明したりしない。
「緒代はいないのかな」
食堂の中は、大体人が二、三百人ほど入る広さである。聖騎士団のメインカラーでもある赤を基調とした色合いのシックな内装である。基本的なメニューは食券自販機での販売であるが、ある一定のメニューを頼む際は直接注文したりする可能性もある。
食堂を見渡し、緒代を探す。だが、それらしい姿は見当たらない。どうやらすでに食事を終えたらしい。と、そこで深雪が思い出したように声をあげる。
「あ……」
「どうした?急用でも思い出した?」
当然、声をあげた深雪に対し、瞬は反応する。
「……そ、そういえば、緒代君は、き、緊急出撃に備えておくって……」
「あーそういやそんな事言ってたような……」
最近、聖騎士団領付近の不死体の数が増しているらしい。なので、いつ緊急出撃がかかるかも分からない状態なのである。そのため、警戒心の強い団員達は早めの食事を済ませ、寮の自室などで待機している。
「あいつも、緊急事態に備えてるのかね。お勤めご苦労様ってな」
「は、はい……」
そんな警戒状態の中でもこうして食堂にいるのは、恐らく直接戦闘に関わる事のないランクC以下の団員達だろう。そう考えると、瞬達が今この時間にここにいるのはあまりにも警戒心の無い態度に見える。
「ここにいるのは、出撃なしの騎士、か……」
「は、はい……なんだか、き、気まずい、です……」
そんな感じで、少し遠慮がちに食券自販機へと向かう二人だが、食堂の団員達は、特に気にしていない様子で二人へ駆け寄ってくる。
「お、神崎。こんな時間に飯かぁ?」
団員の一人が瞬にそう言った。瞬はそんな団員の優しい態度に、微笑を浮かべる。
「あ、まぁ、ちょっと色々あってね」
「ほほう。色々ってのは、その隣にいる我らが深雪姫と何か関係しているのか?」
と、覗き込むように顔を近づけてきた団員。なぜだか、若干の怒りオーラを感じてしまう。
「うーん、宮間は関係ないかな」
本当かぁ、と疑問ありげに言ってくるその団員に、ほんとほんと、とあしらう瞬。あしらうと言っても、本当に深雪とは何もなかった訳なので、あしらいでもなんでもない事実なのだが。
「まあいいや。いつ出撃命令かかるかわからねぇから、しっかり食っとけよ」
ぽん、と瞬の肩に手を置いた団員はその場にいた他の団員達と共に、瞬と深雪の間を通り抜けていった。
そのちょっと後に、瞬は自分の肩に、カツカレーの食券が置いてある事に気付いた。そして、深雪もさっきまでは何もなかった自分の足元に、食券が置いてあることに気付いた。
「なんか……俺達が気にする事は、何も無いみたいだな」
「は、はい……!み、皆さん優しいです……」
聖騎士団メンバーの、ちょっとした気遣いに、心の中で感動した二人。
「せっかく食券も貰った事だし、いただくとするか」
「はい」
カウンターに並び、そこにいる救護部隊のおばちゃんに食券を渡す。おばちゃんはそれを受け取ってから、大きな声で厨房にメニューを伝える。
「おばちゃん。今日も頑張ってるねー」
おばちゃんはその言葉に、このくらいなんともないさ、と笑顔で言った。
程なくして、二人の頼んだ物はカウンターに届いた。それを受け取り、近くの二人用テーブルに腰を下ろす二人。
「よし。そんじゃ食べるか」
「……い、いただきます……」
二人一緒に合掌し、ご飯を口に運ぶ。
ウゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!!!
突如、大音量の警報音が食堂に響き渡る。
「んわ!!な、なんだ!?」
丁度口にカレーを入れたばかりの瞬は背中をビクッと震わせ立ち上がった。
「はわわわっ!!!……な、何事でしょうか!?」
無論、深雪も驚き、瞬につられて立ち上がる。
「まさか……」
まさか、瞬の考えている通りの事が食堂内に放送で流された。
『警告!警告!聖騎士団付近で、大量の不死体の姿を確認!!総合部隊、特攻部隊、狙撃部隊、爆撃部隊のBランク以上の団員は至急、教会に集合!!繰り返す。聖騎士団付近で、大量の不死体の姿を確認!!総合部隊、特攻部隊、狙撃部隊、爆撃部隊のBランク以上の団員は至急、教会に集合!!』
「おいおいまさかとは思ったけど召集かかったか!!」
食堂を出て、広い敷地を駆ける瞬。深雪は救護部隊での指令が別に発令されている為、食堂でそのまま別れた。
「まだカレーも食べ終わってないっていうのに……ああくそ!!」
全力で駆ける瞬はそんな悪態をつきながら、制服の中に手を伸ばし、ある物を取り出す。それは、団員同士での連絡を取る為に絶対的に必要になる、薄くて持ちやすいタブレット型に造られた製造部隊オススメの連絡機器、通称アリススタイル・タイプタブレット。名称が長いため、団員からはアリスと呼ばれている。ちなみに、なぜアリスという単語が入っているのかは、判明していない。
「あいつは出るかな……」
減速する事なく走りながらアリスのアドレス帳を開き、目的の人物に電話をかける。数回のコール音の後、その人物は電話に出た。
「ああもしもし、緒代か!?」
『……遅いぞ!!早く来い!!』
話は続く事無く向こうから断ち切られた。
「ああ!!もう集まってるのか!」
走るのも面倒なので、瞬は頭の中にイメージを作り出す。
(ちょっと負荷がかかるかもだけど、仕方が無い!!)
立ち止まり、自分の足元に底面を描く。正方形の底面を描いた後に、高さを決め、それを引き伸ばす。ただ、純粋に高く底面を引き伸ばし、立体にする。あとはカタチにするだけだが、これだけでは意味がないので、次にその立体から跳躍する。そして、宙に自分の足場を造る。さらに、跳躍した勢いでその足場を蹴る。宙を高速飛行する形となった瞬はそのまま教会へ向けて宙に足場を造っていき、高速移動する。
するとどうだろうか。
「ふぅ」
一瞬で、教会の目の前へと、降り立った。教会前に人の姿は無い。恐らく、すでに瞬以外の全員が集まっているのだろう。急いで巨大な扉を開け、中へ入る。
聖騎士団に建設された巨大な教会。特に宗教があるわけでもないのだが、無所属の団員がシスターとなり、この世界をいつか神が救ってくれると信じ、御剣に請願して、ここ二、三年の間に建てられた物だ。中は食堂の何倍もの広さを測っており、内部の最奥には巨大な十字架が威風堂々と立てられてあり、それだけで圧巻だ。付け加えて言うと、聖騎士団内での婚約の誓いなどは、全てこの教会で行われている。
「部隊の皆、どこだろ……」
たくさんに人の中を掻き分け、奥へと進む。特攻部隊は戦線でも前衛となって戦う部隊なので、大抵こういう場合は他の部隊より前に集合しているはずだ。
(神崎!こっちだ!)
しばらく進んでいると、唐突に制服の袖を引っ張られた。
(遅いぞ!)
引っ張った主は、数十分ほど前に瞬に止めを刺した藍河静理だ。彼女は強引に瞬を人混みから引きずりだし、人一人分ほどの間隔のあいた場所へ誘う。
(ごめん!遅れちゃった!)
(全く何をしていたんだ?)
(あっはは、夜飯食べてたー)
(緊張感のない奴め)
と、二人が小声で話していると、御剣がどこからともなく皆の前に現れた。その瞬間、騒然としていた団員達は一気に静かになる。
「皆さん。お集まり頂きましたか?」
御剣は現在の状態であっても至って冷静な態度である。団員は先程まで焦りの表情を浮かべていたが、御剣の冷静な態度に少し落ち着きを取り戻す。
「総隊長!先程の警告は事実なのですか!?」
少しおじさん染みた団員が大声をあげてそう聞いた。御剣はやはり冷静に、はい、と一言告げ、補足するように続きを言い始めた。
「先程の細波監視部隊隊長の警告は事実です。現在、聖騎士団領付近において多数の不死体が確認されています。このまま放置しておけば、やがて聖騎士団内に侵入してくる恐れがあります」
御剣の言葉に、教会内が再び騒がしくなる。
「まじかよ……」
「侵入されたら大変だよねぇ」
「あの能力があればそんなことはないだろうが……」
瞬と静里も多少の焦りをその顔に浮かべていた。
「し、侵入って……対応が遅くないか?」
「ああ。数も相当なようだし、なぜこんなに遅いんだ……?」
段々と騒然さを増していく教会内を、御剣は少し声を上げ、制した。
「落ち着いてください!確かに、このままでは危険なのかもしれませんが、よく考えてみてください。今、現時点で確認されている不死体の数はおおよそ三百。その数がこの領内に侵入しようものならば、状況は絶望的になります」
ですが、と一言前置きをし、御剣は続きを話し始める。
「逆手にとって考えてみてください。三百もの数を相手にし、殲滅する、ということはそれだけ、不死体の勢力を減らせる、と」
団員達が一斉に納得した。
それから、数分も経たない内に聖騎士団の主力は外界に出るための、巨大城門の前へ足を踏みそろえていた。無論、瞬も静理も緒代も、総合隊長の御剣でさえも。
「久々の奴らとの戦闘だな」
「……足を引っ張るなよ」
「何を仰る。神崎隊長はそんなにヤワではありませんよ」
静理は、いつも通り喋り方を敬語にしていた。御剣は愛刀・白雪を掲げ、前に出る。
「……皆さん、準備はよろしいですか?」
御剣の質問に、団員達は威勢よく雄叫びを上げる。
「我ら聖なる騎士団は、その名においてこの絶望した世界を救済する!!聖騎士団、出撃ぃぃっ!!!!!!」
彼の合図とともに、城門は開かれた。そして、始まるのだ。
彼らの、本当の戦いが。
読んでいただきありがとうございます。
次回から、本格的なものになるのでは、と思っている所存です。
乞うご期待!!