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Knights VS Undead  作者: 神崎
第二章 首都圏隔離
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外伝2秋川拓哉の憂鬱《Ⅱ》

前回より引っ張って、秋川拓哉君の話です。A川君よォ、これで充分だろ!?もういいよね!?出番無くても大丈夫だよね!?

午後六時―

俺こと秋川拓哉は宮間深夏と祭りを見て回るということで、待ち合わせなるものをしている。とはいえ、連絡をしてから約一時間、深夏は一向に来ない。なんだ、待たせるのかこいつ。俺はこう見えてせっかちだ。いや、せっかちというか理論重視というか、とにかく、理論付けられた事にしか物事は捉えない。自慢ではないが、論争しても論破される自信はない。これは最早哲学的なものだろう。俺、凄い。

「にしても……遅い。あいつはあれか。人は待たせるけど別にいい思考の人間か」

周りには祭りを一通り楽しんだのであろうカップルが。くそ。爆発しやがれ。って言っても、俺だって深夏と付き合ってる。これは騎士領にいる殆どの奴が知ってるだろうな。まあ、付き合っているからと言って何もないが。いやほんと。なんにもしてねぇし、したいとも思わない。

「はぁ……たまのデートだってのに、遅れてんじゃねぇよ……」

それからすぐして、深夏は浴衣姿で現れた。


「ごめーん!着付けに時間掛かっちゃって!」

なんだよこいつ。あんまり遅いから帰ってやろうかと思ったぜ。

「浴衣なんて、よく仕入れたな……」

それはそうと、浴衣を手に入れてるなんて凄い。浴衣ってのは、あくまで資料での知識だが、どうにも昔日本人がよく着用してた伝統的な衣装なんだと。たまたま古ぼけた雑誌なるものを発見して、そこに載ってたから再現したら意外にもうまくいった。でも、制作までに色々と時間が掛かるから、騎士領ではあんまり作られてねぇんだと。それを持ってるってことは……

「今日のために特注したの。お金かかったんだから」

やっぱりか。いくらしたのか考えたくもねぇな。あ、言い忘れていたが、聖騎士団(ガンナイツ)にもちゃんと金がある。これもまた昔の知識を引用したらしい。まあ、どうでもいいが。

「高かったろうに……」

「うん。でも、折角拓哉とお祭りだよ?久しぶりだし、いいじゃん」

どうにも、金の事は気にしていないらしい。なんというか、女ってわからない。っと、ここにいつまでも立ち往生ってわけにもいかねぇな。

「行こうぜ。色々周りたいだろ?」

「う、うん……」

自然と手を出す。俺がな。深夏は頬を赤くしてから、おずおずと俺の手を握る。ちっ、可愛い。ああ、あと、ちゃんと言わないとな。

「その浴衣、似合ってるぞ」


―街外れ―

ここで、ある男は密かに計画を立てていた。

「ふっふっふ。夏だ夏だ夏だ。まったく、すっかり忘れてたぜー」

ふう、と一息。男―指原秋人は不適に笑みを浮かべながら手元にあるブツを撫で回す。

「これがあれば、騎士領は騒然とするだろうなー」

何を考えているのかよく分からないが、とにかく不適だった。


「さっき手を出してくれた時は少しカッコイイって思ったんだけどさ」

「言うな。言うでない。言うんじゃない」

この女、俺が凄いクールに手を引いてやったのを馬鹿にしやがって。ああ、分かってるよ。ええ、分かってますとも。どうせ俺は、手を引いたまでは良かったが、どこに行こうかってのを考えてなかったですよ。

「あっはは。行き先ぐらい考えてリードしてよ」

「うるせぇなー。勢いだよ勢い」

手を離してやろうかと思って、力を抜いたら、今度は深夏のほうが力を入れて握ってきやがった。離さない気だな。

「このまま手、繋ご。いいでしょ?」

なんで自分から手を握ってきて赤くなるんだよ。初心(うぶ)か。なんてことは言わないで、俺はもう一度優しく手を握ってやった。深夏は嬉しそうだ。

「で、どこ行くんだよ?お前は、行き先考えてんだろ?」

「うん。流石拓哉。分かってるね」

深夏は待ってましたと言わんばかりに俺の手を引っ張り、誘導する。おいおい、これじゃ俺がリードされてるじゃねぇか。

「お、おい。待てよっ」

「早く早く~」

ったく、強情な奴だ。仕方ねぇから、引っ張られてやるよ。どうせ、お前の行く所なんて決まってんだ。

「んっと~。どこかなぁ」

「あれだろ。お前が探してるの、なんか食べ物がある屋台だろ?」

俺がそう言うと、深夏は嬉しそうにはにかんだ。

「す、凄いね拓哉。なんで分かっちゃうの?」

おおう。やっぱ合ってたか。

「ま、まあ。なんとなくだよ」

「なんか嬉しいな」

そんなあからさまに嬉しそうな顔するなって。こっちが照れくさくなるだろ。

「と、とにかく。どこに行く?焼きそばか?たこ焼きか?」

慌てて取り繕うが、深夏は悪戯っぽく笑う。んで、そのまま俺を連行。だからあんまり引っ張るなってば。

「ほら、拓哉!あったよ」

「お、もう見つけたか。何の屋台だ?」

深夏はしばらく歩いてすぐに目的としている屋台を見つけたようだった。俺は、少し息を荒げながら(意外に体力使った)その屋台を見上げる。そこにあったのは……

「ここだよっ」

「お、おう。……は?」

屋台にはのれんが架かっている。無論そこには、その屋台の名前があるわけだが、のれんに書いてある屋台の名前を見て、俺はさぞかし驚いた。いやてか、驚くだろうな普通。

「えっと、『しゃてき』?」

「うん!」

ちょっと待てぇい!俺は思わず声を上げてしまった。周りの喧騒に紛れて、声は響かなかったが、それでも深夏にははっきりと驚きが伝わっていた。深夏は、「どうしたの?」とか疑問符を浮かべていやがる。俺が聞きてぇよ!

「ここは、射的ではないのですかね?」

恐る恐る訊いてみると、深夏は満面の笑みを浮かべてこう言った。

「うん。そうよ!」

あなたの心中がまったく理解できません。

「訳分からねぇぞ!なんでそうなるんだよ、お前の目的は食べ物ではなかったんですかこのやろう!?」

「だから射的なの。ほら、よく見てみてよ」

そう言われて、射的屋の中に置いてある景品を覗く。並んでいるのは、ありきたりなぬいぐるみとか、女性騎士団員の生写真とか(いいのかこれ?)その辺なんだが、よく見るとなにやら食べ物らしき景品もある。

「お、あれって……おい、ありゃ綿菓子だろう」

「そう。綿菓子。食べたいんだ~」

待て待て、綿菓子なんぞ、普通に他の屋台で買ったほうがいいだろうに。なんでわざわざ射的で取るんだよ理解できねぇよ。

「なあ、だったら普通に他の所で買わないか?いちいち買う必要―」

「分かってないなぁ。普通に買ったら三百円なんだよ?でも、射的だと一回三百円なのに加えて三回チャンスがあるの。どうせなら、おまけ付いたほうがいいでしょ」

ああそうですか。俺が綿菓子を落とすのは前提なのですか。加えて他にも景品取るのも当たり前の事だと。って、無理じゃ。

「いやいや、取れなかったらどうすんだよ?」

「取れるよね」

「でもな、俺は銃の扱いはそこまで自信ないし」

「取れるよね」

まあ、そりゃ確かに、指原が撃ってきた銃弾を銃弾で掠めて軌道を反らしたりしたけども。

「やっぱ、こういうのはもっと凄い奴が……例えば緒代とか」

「と・れ・る・よ・ね」

はい。分かりました。何も言いませんから笑顔の殺気を抑えてくださいお願いします。俺は、渋々金を払って(もちろん自費だ)射的用の長銃とコルク栓を受け取る。屋台の主であろうおっさんは、なんだか楽しそうにこちらを見物。助けろよ。

「頑張れ拓哉♪」

応援されてもねぇ。体の乗せる台からルール違反にならない程度まで景品のある台に銃を近付ける。その距離おおよそ二メートル。ふむ。若干遠いな。何はともあれ狙いを定める。一発目を確実に落として、続く二、三発目でも他の景品を狙う。やばくなったら、能力使って銃弾を空気圧操作して無理やり景品にぶつける。あんまり合法じゃねぇがな。

「ふぅ……」

行け。俺のワンチャンス必中弾丸!!

ドォンッ!!

我ながら完璧な一発だぜ。何の調整もなしに景品を落とすとは……あっぱれ俺。

「ちょ、ちょっと、なに今の音……?」

「あ……?」

なんだか周りがガヤガヤしてるな。なんだ?もしかして、何か俺凄いことしたのか。

「た、拓哉っ」

「うお」

深夏が俺の服の裾を掴んできた。何事かと思ってよく周りを見ると、祭りに来ていたのであろう住民や、騎士団員がなんだか混乱している様子。と、次の瞬間―

ドォンッ!!

とてつもなく鈍い音が響いた。さっきと同じ音か。初めは襲撃かと考えたが、それはない。なにせ、この辺は不死体(アンデッド)も完全に討伐してるし、なにより、この音は騎士領の内部から聴こえてくるんだよな。

「まあ、祭りだし、なんとなく何の音かは想像つくけど……」

確か、打ち上げは規則として厳禁なはず。てかそもそも、製造すらされてないはず。

「あぁ……あの大馬鹿副隊長か」

間違いねぇ。指原だ。あの馬鹿野郎が、花火を打ち(・・・・・)上げやがった(・・・・・・)

「製造部隊秋川隊長とお見受けする!」

どっからか、騎士団員が駆け寄ってきた。まあ、製造関係は俺の監視下にあるし、そりゃ真っ先に俺を探すよな。

「いかにも。用件は?」

「この事態はどういうことなのか?と、細波(ほそなみ)監視部隊隊長から(おお)せつかっております」

「指原の責任だから俺知らない。伝言よろしく」

承知しました!と言って団員は走り去って行った。細波は手を回すのが早いな。しかも、それが製造部隊の仕業だと一瞬で悟ったか。信用されてねぇ証拠じゃん。

「さて、深夏。ちょっと行ってくるわ」

以前、俺の服を掴んだまま震えている(あるいは恐がっている)深夏から体を離し、颯爽と行こうとする。なんだよ、心配そうに見つめるなよな。危険ではないのだし。

「だ、大丈夫?」

おう。そう言って俺は駆け出した。


―街外れ―

人の殆どいない真っ暗な場所。普段はあんまり人はいない。花火らしきものが打ちあがった音は、この辺りから聴こえたようだ。いや、ここから中心部に聴こえるように打ちあげたのだ。

「これで街の中心部は驚きに溢れてるだろーなー」

夏なのだ。ちょっとくらいテンション上げてもいいではないか。という思考から、この男、指原秋人は花火を打ち上げた。もちろん、制作は自信の手で、だ。半ばヤケクソ混じりなのは自分でも分かっていた。周りにいるカップル共は脇目もふらずにラブラブしているのだ。なんだかムカムカしてきた。そんな奴らを驚かせてパニックに陥れ、おどおどしている彼氏をよそに、自分が颯爽と事件解決。

「完璧だぁー。これで騎士領の女子共々俺のものになるー」

なんともまぁ、自分勝手な思考であった。当然、このような独り言を呟いていた彼には、鉄槌がくだるのであるが。

「ほーう。それで、打ち上げ厳禁の花火を打ち上げたと?」

「ギクギクギクッ!」

指原が背筋を凍らせて、後ろを振り向く。勿論、この声の主が誰なのかは分かっている。指原はしまった、と思った。いつもはこんな事でいちいち動きそうにないこの男が、怒りを(あら)わにしているということは……

「あ、秋川~、まさか……いたの?」

指原の問いかけに、秋川は肯定も否定もしない。十中八九図星であることが分かる。と、乾いた笑みを浮かべていると、急に息苦しくなってきた。

「うぐ……!?ちょ、秋、川……おま、酸素……」

「あぁ?聞こえねぇなあ」

いやもう、わざわざ知る必要もない。秋川は、指原の周囲にある酸素を全て別の物質に改竄しているのだ。それにより、指原は呼吸困難。喉を押さえて苦しそうにする。

「はな、話、を……聞い、て」

「はぁ。分かってるよ。今のはただの脅しだよ」

フッと、息が軽くなる。指原は荒れる息を、肩で呼吸しながら落ち着かせ、むせながら秋川を睨む。

「この野郎ー。ゆるさんぞー」

「なんだって?」

「なんでもありません」


話の概要を聞いて、俺は心底呆れた溜め息を吐いた。いやもう、凄いくらいに。

「お前は自分の欲を満たすために聖騎士団(ガンナイツ)の規則を破るのか。相当な、馬鹿だな」

「し、仕方ないだろー。周りには幸せそうな男女が……それに、夏だぜ?花火上げようぜー?」

ポカリ。指原の頭を一発殴る。いや、昔日本にあったという清涼飲料水とかではない。それにしても馬鹿だ。こんなことをしたって、女は振り向かないというのに。しかも、夏だからそれ=花火っていう発想をどうにかしてくれよ。あと、こんな事をする大前提に……

「お前には彼女がいたんじゃなかったっけぇ?」

そう。指原には、ちゃんと彼女がいる。誰なのかはわからないが、これは間違いない事実だ。それなのに女を求めて街を放浪するとは、聞き捨てならないな。

「そ、そりゃいるけどさー。向こうは忙しいんよー」

時間の食い違いによる不仲は、別れる原因だぞ。と言っても、こいつらめちゃくちゃ仲がいいらしいが。

「だからってなぁ……やっていい事と悪い事くらいあるだろぉが!!」

締めの一発を頭上から叩き落してやった。当人はそれをくらった瞬間に昏倒しましたが。俺からすると、これくらいの天誅が必要だ。なにせこいつは馬鹿だから。

「はぁ……(おさ)めに行くか」


城下(アンダー)中心部―

俺は、ひとまず混乱を治めるためにステージに立った。とりあえず騒がしかったので静粛にさせたあと、マイクを手に話す。

「えぇっとー。今回の禁止規則である花火打ち上げの犯人はウチの馬鹿な副隊長の妄想により生まれたものでござんすー……そんなわけで、こっちから処分は下したので、皆さんは残りの時間を再び楽しんで下さいなー」

どうっだ!完全な棒読みだぜ!こんな面倒な事はささっと終わらせて、俺は深夏の所に行かねぇとな。

「それじゃさよならまたいつか!!!!」


かくして、秋川拓哉の七月二日は幕を閉じた。


周囲の酸素を変換させるとか……僕の昔書いていた某有名小説の二次創作物で考えたネタなんですケド。秋川無双とか絶対させないんだからねっ

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