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Knights VS Undead  作者: 神崎
第一章 東京隔離
23/54

二十話終わりは恐らく始まりになるのであろう

―絶対防護領域の再発動が始まる。神崎瞬他、出撃隊長格は騎士領へと一旦退避することになるのだが、帰り際に襲撃を喰らう。何事かと視線を向けると、そこにいたのは不死体ではなく―

久しぶりです。二週間ほど空かしてしまいました。すいません。

フヘヘヘヘ……見たかA川君!ちゃんと書き終えたぞっ!少しは日焼けしろよっ!

六月二十二日―

作戦第二フェイズは、援護部隊隊長の津田さやかの能力、絶対防護領域による不可侵領域拡大で、終わりに近づいている。御剣からの、突然の指令に、瞬と遙香は驚きを隠せずにいた。また、二人とは違いこの事を知っていた隊長格も、いきなりの展開に戸惑いを見せていた。しかしながら、一時帰還、という指示が出た以上は帰還しなければいけないので止むを得ず彼らは帰還する。強い雨が、何の前触れもなく振り始めた。時期が時期であるから、仕方がない。ぬかるむ大地を駆ける隊長格は、真夜中の雨に、なんとも言えない不安を抱いていた。別に、具体性があるわけではないのだが、それでもどこか心の奥に、そんな気持ちを抱かせるのであった。


「何かあるのかと思えば、全く予想通りでしたわね」

「そうだな。全く、御剣先生は何を考えてるんだか」

瞬と遙香は驚きを隠せないまま、だが、呆れたように同調していた。しかも、他の隊長格走って帰還しているというのに、ゆっくりと肩を並べて歩いて帰還してるのだ。

「どうしますの?一応は、指示に従うべきかと思うんですけれど」

「うん。絶対防護領域の影響範囲拡大なら、何度も出来ることじゃないし、とりあえず急いで帰ろうか」

はい、と遙香は小さく頷いた。その様子は、どこか気品に溢れていて、恐らく他者が見てもこの少女がお嬢様だというのは分かるだろう、と感じることができた。

「少し走ることになるけど、天条は大丈夫?」

駆け出そうとする直前に瞬が遙香に振り向きながらそう聞いた。遙香は、心配されているのか、と頬を紅く染めながら答える。

「だ、大丈夫ですわよ。万が一奇襲を受けるようであれば、風の魔術で飛ぶ事も可能ですし」

遙香は言葉が終わると、手のひらに術式を出現させ、そこから小さな風を生み出す。つまるところ、余裕なのであろう。

「そうか……なら、わざわざ走らなくとも大丈夫かな」

瞬が、楽観的に微笑みながら意味深な事を言った。遙香は最初、何を言っているのか分からず、頭の上に疑問符を浮かべる。

「まさか……わたくしの風魔術で、い、一緒に飛びたいんですの?」

先程よりもなんだか顔を赤くした遙香が恐る恐るそう聞いた。

「いや。天条は一人で飛んでて構わない。俺は、隔離壁を使って高速移動するから」

「あ、ああ!そうなんですの!分かりましたわっ」

合点がいったように、遙香は両手を合わせる。何かを期待していたかのような感じのテンションに一瞬だけなった気がしたのだが、勘違いだとアレなので、瞬は敢えてそのことには触れずにいた。

「よし、行こう」

瞬の言葉と共に、遙香が風を体全体に纏った。もちろん、そのままでは風でスカートが捲れてしまうので、加減をしながら宙に浮遊する。一方の瞬は、足下に隔離壁を出現させ、それをある程度の高さまで引き伸ばしてから、飛び降り様に体を翻し、新たに出現させた隔離壁を蹴って、一気に移動する。

「い、意外と速いんですのね……!」

その思ったよりも速かった移動速度に置いていかれぬように、遙香も風魔術で移動する。


しばらく進んでから、瞬は不意に止まると、後ろをついてきていた遙香に体ごと向き直る。が、あまりに急すぎた上に、辺りが真っ暗だったため、遙香は反応が遅れて瞬に激突する。

「ひゃんっ!」

「のわっ」

可愛らしい悲鳴が聞こえる。瞬は、倒れないようになんとか彼女を抱きとめ、ゆっくり体勢を立て直す。風魔術が中途半端に止まり、二人の周りで風が吹いた。

「ご、ごめん!」

「はぅ?はっ!?も、ももも申し訳ありませんわ!前方不注意でしたわ」

顔を真っ赤にしながら、遙香は瞬の体から離れようとする。が、瞬は、彼女の肩に手を置いたまま、彼女を離そうとしない。何事かと、遙香は全力で焦ったような表情を浮かべる。

「ど、どうしましたのっ?ダメですわ!こんなところじゃ……!」

「いいから、少し静かにしてくれ」

瞬のいつになく真剣な声質と

に、遙香はドキッとして、思わず動けなくなってしまう。まさか、彼がこんなところで……

「で、でもっ早く帰還しなければ、い、いけませんわよっ」

「それが出来ないからこのまま動かないんだ」

言って、瞬は段々と顔を近付けてくる。遙香は、最大限、彼の行動を止めようとしたつもりであったが、彼の顔を見ると、自分が何を言っているのか分からなくなる。頭が真っ白になりかけたところで、彼女はか弱い抵抗をやめた。もう、好きにされても構わない。何故、今このタイミングでかは分からないが。

「……神崎、様……」

「天条……」

遙香は、瞳を閉じてその行為を待つ。いつでも受け止める準備は出来ている。なんだったら、それ以上の事だって、今はやってもいい。

「ど、どうぞ、その、優しくしてくださいまし……」

と言って、待つ。のだが、予想していた行為はいつになってもやってこない。変わりに、耳元から瞬の小声が聞こえてくる。

(誰かが俺達をつけてる。どこから来るか分からないから、ばれないようになんらかの術式を展開させてくれ)

「へ……?」

瞬の言葉で冷静さを取り戻した遙香は、(まぶた)を開けて雨の降る周囲をゆっくり見回す。一見、何もないようにしか見えないが、落ち着いて静かに気配を探ると、瞬の言葉通り、自分達の後方に何かの気配を感じる。

(雷魔術だと、雨で自分たちにも感電するかもしれない。火魔術だと、雨で消える。そこのところを考えてくれ。相手が動いた瞬間に術を放つんだ)

「わ、分かりましたわ」

遙香が頷くと、瞬は遙香から身を離し、腰にくくり付けられたガンホルダーに手をかける。万が一遙香が動きに失敗したとき、そのカバーを行うためだ。

「ほう……この暗闇と雨音で気配、匂い、音、影すらも消していたつもりであったが、気付いたか」

不意に、後方から男の低い声が聞こえてた。瞬は、暗闇の中に浮かんできた人影をはっきりと確認すると、存分に警戒しながら声に対して反応する。

「お生憎(あいにく)、気配を察知する訓練でかなりしごかれてるからな」

「ふ……」

声の主は薄く笑ったかと思うと、次の瞬間-

「魔術を使っての迎撃か……?それまでは良かったが、動きについてこれていないぞ」

「な……!?」

遙香の真後ろに出現した。その動きに、驚愕の表情を浮かべた遙香が、焦って展開していた術式を発動する。

「きゃっ……!」

暴風が、真後ろの敵に向かって牙を向くのだが、焦って展開してしまったため、制御が利かず、瞬と遙香も同様に吹き飛ばされた。

「うわっ」

数メートルほど吹き飛ばされた瞬は、遙香を下敷きにしないように自分から地面を転がった。そのお陰で、遙香自身は外傷もないようだが、下敷きになった瞬は、体を強く打って痛めたようだ。

「いてて……だ、大丈夫か、天条?」

「は、はい……なんとか。って、それよりも神崎様は大丈夫なんですの!?」

脇腹を押さえる瞬はなんでもないような表情を作り取り繕うが、遙香はそれでも心配そうな表情を浮かべる。

「申し訳ありませんの……背後を取られて焦ってしまい……」

シュン、と金髪のツーテールが(しお)れる。瞬は、気にするな気にするなと言いながら再び立ち上がり、雨の中で敵を探す。

「どこに隠れてる?出て来い……!」

声を荒げようとしたところで、肋骨(ろっこつ)辺りに痛みを感じた。どうやら、何本か折れているらしい。

「む、無理してはいけませんのっ」

遙香がよろめく瞬を支えに入る。遙香の言葉は、確かにその通りではあるが、瞬にとっては違うようで、瞬は支えられている体を遙香から離し、視線を鋭くしたまま辺りを見渡す。

「無理も何もないよ。あいつは、明らかな殺気を俺達に向けてる。無理しないと、殺されるだけさ」

おもむろに二丁の銃を暗闇に発砲する瞬。

「ふん……女の方はともかく、貴様は少なくとも実力があるようだな」

瞬が銃弾を撃った方向から黒い影が近寄ってくる。本当にその方向から来たのであれば、今頃は瞬の銃弾を確実に受けているはずなのだが……

「だが、その程度の玩具(がんぐ)では通用しないな」

はっきりと、姿を確認した。身長は瞬よりも十センチほど高く、髪は短く、ウルフヘアに近い感じと言ったところか。そのような髪型。着ている服までは判別がつかない。

「ふぅ……細波、現状は理解できてる?」

瞬は、通信状態のオンになったままのアリスを使い細波を呼びかける。数秒としないうちに、細波から返事が帰ってきた。

『もちろんよ。識別透視を使ってみたのだけれど、体内にウィルスを発見できない上に、中身は人間とそう変わらないわね。つまり-』

「生存者、か……」

だが、今目の前にいる敵は、とてもじゃないがそんな希望に満ちた存在ではないことが分かる。全身から滲み出る殺気。それだけで、やるべき事は決まった。

「細波」

『分かっているわ。相手の力が未知数な以上は、防戦になるけれど、せめて撃退まで持ち込んで頂戴』

それだけのやりとりで、細波からの通信は途絶えた。絶対防護領域の発動まで、時間がない。目の前にいるのは、間違いなく、作戦を阻止するために現れた襲撃者である。ならば、殺しはしなくとも、せめて範囲外に追いやる程度の事をやらなければいけない。瞬は銃をホルダーになおし、敵に意識を集中させる。遙香もまた、術式を展開させ、魔術の発動準備をする。

「ほう……?あくまで無謀に挑むというのか」

せせら笑うかのように、低音の声が聞こえる。瞬は、余裕そうな笑みを浮かべながら、小声で呟く。

「隔離圧縮……」

一瞬にして、目の前にいる敵は隔離空間に隔離。そして圧縮させられた。血が、雨に紛れてしぶく。

「は、速い……ですわ……」

遙香が、あまりの速さに驚きを隠せないようである。が、それと同時に、どこか瞬の事を慕う者ような瞳をしている。瞬はそれに気づく事はなく、身を翻してさっさと帰ろうとする。

「急ごう。再発動まであと少し-」

ドスッ!

瞬の言葉を遮るが如く、何か人の体(・・・・・)を貫いた時に(・・・・・・)聞こえてくる(・・・・・・)鈍い音がした。見てみると、瞬の下腹部を、後ろから黒い塊が貫いていた。


「そ、んな……」

自分を貫いている黒い塊を見ながら、瞬は驚愕していた。敵は、確実に隔離圧縮したはずだった。圧縮した感覚もはっきりと手に残っていたし、大量の血が噴き出したのも目視した。

「お、まえ……圧縮したはず……」

ろくに言葉を並べる事もままならず、瞬はその場に倒れこんだ。遙香は瞬を貫いている黒い塊を除去しようと、倒れている瞬の体に寄るが、焦りで何を考えればいいのか分からず、結局何もできない。

「か、神崎様っ!しっかりしてくださいまし!神崎様!」

フッと、全身に凍えるような寒気を感じた。雨の中、冷淡な瞳をした男が自分達を見下ろしているではないか。遙香言いようのない恐怖に顔に冷や汗を浮かべ、瞳から無意識に涙を流す。そして、その場に尻餅をついてしまい、動くことも出来なくなった。

「う、嘘……?こんな、こんなのって……」

「どうした?殺したはずの私が生きていることに、そんなに驚いているのか?」

殺したはずの男は、全くの無傷で、綺麗な体のままに、二人を見下ろしているのだ。その手に、瞬を貫いた塊と同じかと思われる、黒い塊を持ちながら。

「か、神崎様の隔離圧縮で、か、確実に仕留めたはずです、のに」

「あぁ、あの脆弱(ぜいじゃく)な技か」

男は、冷淡さの中に、どこか嘲笑を浮かべた感じで独り言のように呟く。

「悪いが、そもそもその技は私には通用しない」

一瞬だけ、男の背後に暗闇よりも暗い、影が見えたのは気のせいか。

「あの程度で、私を殺そうと思うのは、少しばかり浅はかではないか?」

そう言うと、男は黒い塊を天に掲げる。ドガァッ!という轟音と共に、雷が塊に向かって落ちた。普通なら、即感電死するところなのだが、どうやら男には関係ないらしい。

「さて、作戦とやらは失敗だな。恨むなら自分の弱さを恨むのだな」

男が、無情にも、一切の希望も残さずに、塊を振り下ろした。遙香は、黙って顔を伏せ、斬られるのをただ待つだけであった。


「おーいおいおい……いくらなんでもおかしいんじゃねぇの?」

ガキィン!!

という乾いた金属音が響いたのと同時、周囲に激しい火花が飛び散った。

「……?」

死を覚悟していた遙香は、いつまでたっても振り下ろされない黒い塊と、聞き覚えのある不良じみた声の主を確認するため、ゆっくりと瞳を開けた。

「あ、あなたは……」

「よぉ。随分情けねぇ(ツラ)してんなぁ、天条遙香ぁ」

眼前に立ち、黒い塊から瞬と遙香を守っていた声の主は、出撃命令もなく、騎士領に待機していたはずの爆撃部隊副隊長、冴場悠介であった。

「ん……?貴様は……」

「やっぱりテメェか。なんでこんな所にいやがる?」

冴場は、男を知っているようだ。顔見知りと言ったところか。とはいえ、二人の交わらせる視線には穏便さが一切ない。むしろ、過去に何かよくない事があったかのような感じだ。

「答えねぇって事は、理由を口には出来ねぇって事か?」

「そうだな。今はまだ理由を口にする必要がない」

冴場の言葉に、男はつまらなそうに反応した。

「だったら邪魔すんじゃねぇ!」

冴場は、大剣を一気に振り払い、黒い塊ごと男を吹き飛ばした。だが、宙を飛ばされながらも、男は余裕そう態勢を立て直した。そして、ゆっくりと上空に上がっていくと、見えるか見えないかのギリギリの辺りで止まり、冷たく言葉を告げる。

「冴場悠介。もう私達は準備を始めている。近いうちにもう一度現れる。その時まで、せいぜい崩壊しないように気をつけることだな」

「……さっさと失せやがれっ!!」

男の周りで何度も小爆発が起きる。冴場の能力、爆刃による爆発である。

「くそったれが!」

どうやら、男にダメージを与える事ができずに、逃がしてしまったらしい。冴場は全力で悪態を吐くが、その声は届く事なく消え失せた。その場に残ったのは、下腹部を貫かれ苦しそうに呻く瞬と、その場で絶望の表情を崩す事なくうなだれる遙香、そして、既にいなくなった男がいた宙を見上げる冴場だけであった。


程なくして、瞬達の帰還が完了する前に、絶対防護領域の再発動が始まった。敵襲があった事を、騎士領にいる騎士団のほとんどが既知としていたが、冴場を除いた誰一人、救援に向かう事ができなかった。その理由はやはり、再発動までの時間が関係する。細波は、瞬が敵と遭遇したその瞬間の様子も全て把握しており、救援を送るように御剣に請願した。だが、その要望は無情にも却下され、彼女は心の中でかなりの焦りを抱いていたようだ。そんな彼女の心を知ってか知らずか、冴場は無断で外界へと出た。しかも、遭遇した敵と、何故か顔見知りであるかのような態度だった。作戦は無事に終わりを告げたのだが、それが果たして次の制圧作戦のスタートダッシュになるかどうかは、怪しいところであった。




さて、いよいよ第一章も終わりへと近づくわけですが、ただひたすら毎回読んでくれる皆様、どうでしょうか?いい加減、てめぇの地の文疲れるわ!とか言いたくなったのではありませんか?ねぇ、そうですよね?えぇ、自負しておりますとも!

ふぅ、落ち着いたところで、第一章最終回の予告を。

-不可侵領域が展開され、東京都は完全に制圧・隔離された。安堵の表情を浮かべる騎士団員だが、大怪我を負い、救護施設で治療を受けている神崎瞬は、何かを思いつめていた。そして、彼の見舞いに訪れた天条遙香と、通話越しの藍河静理も-

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