十七話天条遙香、興奮……ではなく。梅雨の日の雨
―第二フェイズが始まる。作戦出撃メンバーに選ばれた団員達は各々の意思を見せる。はずなのだが、神崎瞬との共闘に興奮した天条遙香は―
今回は遙香が一人で興奮しまくるお話です。お嬢様キャラは最強なのだよ!
「ふふ……ふふふふ……ついに、ついにやってまいりましたわ」
城下にある周りとは比べ物にならないくらいに大きな敷地を持つとある財閥家の屋敷。その屋敷内にある一人部屋で、キングサイズのベッドに寝転がりながらアリススタイル・タイプタブレット、通称アリスの画面を見る少女。メール画面を見ると、そこには愛しき少年とのメールの送受信履歴。はっきり言って感無量。
『作戦頑張ろうな』
とか
『あんまり無理しないように。いい?』
とか
『ピンチになったら手伝ってくれ』
とか。もう最高。ああ、早く会いたい。会いたくて会いたくてたまらない。
「はっ……わたくしったらなんてはしたない!で、でも仕方ないですわよね!だって、だってだって……おーほっほっほ!!」
「あの、遙香様?」
「ふぇ!?い、いましたの!?」
「ええ、ずっといましたが……」
自分専用で仕えるメイドが部屋にいたことなど完璧に忘れていたため、普段は絶対に有り得ない姿は、間違えなく最初から見られていたのだろう。とてつもなく恥ずかしい事をしていた。天条遙香は最高にハイテンションであった。第一フェイズが終わり、作戦に全く関与していなかった自分が何故か隊長格室に呼ばれたので、何用かと優雅に向かってみれば、なんとそこには第二フェイズ参加のメンバーが集結していた。しかも、よく見るとまさかのあのお方がおられようとは。なんとも最高。それでもいつもの雰囲気を乱すことなく優雅に紅茶を啜ったりしてみたが、正直今すぐ飛びつきたくなってしまった。と、言ったところで爆撃部隊の副隊長と口論になりかけてしまい醜態をさらす。作戦概要が話され解散となった後は、話す暇もなく帰宅。
「それでも……完璧ですわ!!」
それでも、家に帰宅してからすぐにアリスで
『共闘ですわね。よろしくお願いしますわ』
と即打ち。何時間経っても返事が来ないものだから無視されたのかと思って絶望していたのだが、粘り強く待っていたら夜遅くに返信が。当然目が冴えまくっていたので返信するのも最高のテンション。高揚感に満ち溢れていた。
作戦第二フェイズ開始のその一日前の昼、遙香は交易部隊での隊長活動を一通り終え、自分専用のメイドである三條瑠華とともに、城下の街中を歩き回っていた。彼女が着ている騎士制服は、品が出るように作られていて、完全なオーダーメイド。胸元から伸びる真っ赤なリボンが特徴的で、体のラインが少しよく現れるタイプの制服。スカートは決してフリフリしたものではなく、令嬢らしいおとなしい柄で、膝上までの裾。そのすぐ下まである黒のニーソックス。まさに、淑女らしい服装であった。
「瑠華、瑠華!これを見て下さいまし!」
「いかがなさいました?遙香様?」
遙香の陽気な呼びかけに、あまり見たことの無い赤を基調とした色合いのメイド服(と言っても、細部は普通のメイド服とあまり変わらない)を着た瑠華が落ち着いた雰囲気で反応した。
「か、神崎様ですわ!」
街中にある家電製品を販売しているある店の、そのショーウィンドウの中に据え置かれた液晶テレビ的なもの。それに映っているのは、特攻部隊の専門施設内にある演習場で騎士団員に訓練を施す瞬の姿。
「あ、そういえば今日は特攻部隊の演習をドキュメント化した番組あったのでした」
それを見た瑠華が、両手を合わせて思い出したようにそう言った。
「なぜに、それをわたくしに伝えないんですの!?ろ、録画予約していませんわ!」
「申し訳ありません。私としたことが、遙香様が本日午後より神崎様にお会いになることで気分が高揚していたのに便乗してしまったせいで伝え忘れていました」
飛び掛りそうな勢いの遙香に対して瑠華がなかなか長文な説明をした。ちなみに、天条家には、普通の城下の住民の財力では絶対に手に入らない見逃し番組のタイムシフト再生機能を持つテレビ的なものがある。正直なところ、見逃してもそれを使えるから問題はない。
「よく分からないですわ!はっ……!というか、今から神崎様の下へと行く予定でしたわね。忘れていましたわ!」
「遙香様、おっちょこちょいでございます」
「あなたに言われたくはないですわよ!」
瑠華のペースに、ことごとく引き込まれていく遙香であった。
「ふむ。なあ、神崎」
特攻部隊専門施設部隊長室において、救護部隊から送られてきた、今月の救護施設使用頻度中間集計に目を通していた静理が、ふと、ソファーでのんびりしていた若干だらしのない状態の瞬に声をかけた。瞬は、上体を起こして、自分を呼んだ静理のほうへと顔を向ける。
「どうしたの?」
静理は、集計用紙片手に、瞬の下へと歩み寄っていき、それを彼に見せる。
「救護施設の中間集計なんだが、お前、これを見てどう思う?」
「ん~?どれどれ……っておい」
静理が持っていた集計用紙を受け取り、その集計結果に目を通すと、中々におもしろい集計が出ていた。今月の特攻部隊の救護施設の使用者、最も多かったのは隊長の瞬であった。瞬は、集計用紙から視線を外し、静理をちらりと見やる。
「じー……」
かなりのジト目で見られていた。
「ま、まあほら、今月は作戦がかなり多いし、戦線に立つことも多かったわけだし!仕方ないよな!」
ちなみに今日は六月二十一日。通常ならば中間集計はもう少し早くに出されるのだが、瞬の言葉通り、今月は例月に比べて作戦遂行回数が多く、聖騎士団全体が忙しい雰囲気に包まれているようだ。静理は呆れたように溜め息を吐きながら瞬の額を指で弾いた。
「いたっ……!ちょ、何するのさ?」
「馬鹿者。どんな事があれ、隊長ならばもっとしっかりするんだ。大体、お前はなんで通常職務時間中に仕事を副隊長に任せて自身はソファーでくつろいでいるんだ?」
「うぐ……それは、その~」
瞬はゆっくり立ち上がり、未だジト目を変えない静理に背を向け、部隊長室から外を見ることのできるガラスの窓へと歩んでいき、外を見渡しながら、茶色がかった髪をかき上げる。そして、そこで視線を静理に向けてこう言った。
「今日は、天気がいいね」
言った直後に、一気に距離を縮めてきた静理に腹を殴られたが。
「理不尽に痛いんだけど!」
瞬は殴られた事に対して猛抗議した。静理は眉間にしわを寄せながら、右手に力を入れもう一発殴るための構えを取った。
「誤魔化そうと無駄だ。さあ、働いてもらおう」
「あ、あんたは鬼か!っていいい痛い痛い!分かりました。分かりましたから!仕事しますから!」
瞬の言葉を最後まで聞こうともせず、静理は瞬の右肩にとんでもないくらいの握力をかけた。瞬はあまりの痛さに仕事を渋々承諾。部隊長室にある自分の教卓に向かいそこに置いてある資料に目を通した。
『製造部隊より~装備品製造に関する予算決議~』
『救護部隊より~アレの使いすぎはだーめ~』
『狙撃部隊より~特攻部隊に対する愚痴集め~』
製造部隊のものはギリギリ許容範囲ではあるが、下の二つに関してはツッコミどころのありすぎる内容であった。
「そもそも、アレってなんだよ?てかおい、狙撃部隊!愚痴を資料化すんなよ!資源は大切にしてくれ」
一体誰であろうか、愚痴集めなど制作したのは。いや、考えるまでもなかった。該当者は間違いなく狙撃部隊のあの人だろう。
「緒代だな。分かりやすい」
「はいそこ、答えを軽々発言しない!」
静理があっさりと答えてしまったため、考える暇すらも無かったであろうが、あえてもう一度遠回しに言っておこう。愚痴を資料化したのは、狙撃部隊のあの人だ。
「はははは……」
弱々しく瞬が笑うと、外から巨大な地鳴りにも似た音が、突如ドォォン!と響いてきた。
「なんだ!?」
静理が即座に反応し、窓の外を見やる。恐らく、外界から何かが強襲してきたと思ったのだろう。が、別になんらかの強襲を受けた為に響いたものではないことはすぐ分かった。
「雨だね。時期的にも梅雨だし」
外を改めて見てみると、強い雨が外で降りしきっているのが見て取れた。先程の地鳴りは恐らく、雨が降り始めてすぐに落ちた雷だろう。
「六月の天気は、あまり好めないな。なんだかじめじめしていて、どんよりしている」
静理は窓の外で激しく降り注ぐ大粒の雨に、目を細めながらそう言った。その様子からしても、彼女があまりこの季節を好んでいない事は分かる。瞬は、そんな静理に対して、いつもの楽観的な感じの声で声をかける。
「静理さん静理さん」
「む……なんだ?」
心なしか、先程よりも元気のなくなっている彼女は小さく反応した。瞬は薄い笑みを浮かべながら、静理の見ていた雨の景色を自分も同じように見る。外は雨によりすっかり暗くなっていて、いきなりの雨でかさを持っていなかった城下の住民らしき人物が街を駆けて行くのがわかる。
「雨もさ、悪くないと思うよ?雨ってさ、なんか、心を洗い流してくれるって言うか、そんな感じがしない?」
瞬の優しい言い方に、静理はあわせるように微笑を浮かべた。全く、彼の心には見上げるものばかりある。あまつさえそう感じてしまう。
「あくまで俺の主観だから、気にする必要はないけどね」
「いや、実に神崎らしい考え方だ。全くお前は凄いな」
静理が素直に自分を褒めてくれたので、瞬は若干顔を赤くしながら静理から視線を反らしてしまう。静理も、そんな瞬の顔を見て目を少し見開いてその後俯く。
「そ、そうだ……!早いとこ仕事を終わらせようぜ。多分もう少ししたら―」
コンコン
何かを言いかけた瞬を遮るかのように、扉が軽くノックされた。
「し、失礼しますわ。天条遥香ですの。神崎様はおられまして?」
ドア越しに聞こえてきたのは、交易部隊隊長、天条遥香の甲高い声。瞬はドアに駆け寄り、木製のドアノブに手をかけた。
「よう、天条。早かったな」
「え、ええ。雨が降ってきたので、濡れないように急いで来ましたわ」
遥香を部隊長室へと促す。すると、遥香に続いてメイドの瑠華も入ってきた。瑠華は瞬に上品に一礼する。
「失礼いたします」
「はは。そんなに固くならなくてもいいよ。気軽にどうぞ」
「って……あ、藍河さん!?なぜあなたがここに!?」
天条は入って早々静理を見つけるなり、彼女に指を指しながらそう言った。また、天条を見た静理も怪訝そうな表情になり、二人の間に何か因縁があるのが理解できた。
「天条遙香……お前、何の用があってここに……?」
「わ、わたくしは神崎様に呼ばれてここに来ただけですわ!」
二人の視線がぶつかり合い、火花を散らすものなので、瞬は見ておられず二人を制そうとした。
「ま、まあ落ち着きなよ二人とも」
「神崎は黙っていろ!」「神崎様はお黙りになって!」
「はい」
恐ろしい剣幕の二人に、何もいえなくなった瞬はその時点で引き下がった。この二人、本気でやりあえば街一つ崩壊させそうな勢いだ。
「いいですこと?わたくしはあくまで、神崎様と明日の第二フェイズについて話し合うために来たんですの」
「何を言うか。神崎がお前と肩を並べて戦うわけないだろう。そう胸を張るな」
誇らしげに言った遙香に対して、至極冷静に言い返す静理。
「へ、へ~……よく言いますわね。第二フェイズに参加すら出来ないあなたが!」
「ふん。私は総隊長から直々に戦力温存のための不参加と申し付けられている。つまり、私はお前よりも遥かに上だということだ」
「ぐ……で、でも、わたくしだって第一フェイズには参加していませんし!戦力温存でしたし!」
「ほう……確か私が聞いた話によれば、三條と天条のどちらかしか出撃できないとのことでくじ引きをしたところあっさり待機札を引いたのが天条だったと聞いたが?」
静理の言葉に、遙香はツーテールをぴょんと跳ねさせながら仰け反った。実際に、第一フェイズの参加団員最後の一枠を決める時、瑠華と遙香でくじ引きを行い、遙香はあっさりとはずれを選んでいた。
「ひ、卑劣ですわよ!そうやってありもしない捏造話を話すなど!」
遙香はそれでも抵抗の姿勢を見せた。はっきり言って、普段の優雅さはどこにも無かった。そんな遙香に対して、隣で静かに待機していた瑠華がとどめの一撃を加えた。
「遙香様。残念な事に、あれは事実でございます」
「る、瑠華!?なぜそのような事を言うんですの!?」
遙香が、庇ってもらえなかった事に対して、今度は瑠華に牙を向けると、瑠華はなんの迷いも無い明るい瞳でこう言う。
「私は騎士でございますから、嘘はつきたくありません」
遙香がアウェーな状態に陥ったところで、今まで黙らされていた瞬が三人を止めた。
「それで、天条はなんで俺の所に来たんだ?」
もう少しで、剣術に関する集団演習があると言う事で、静理は部隊長室から出て行った。静理は聖騎士団にある最高剣術、抜刀斬式形態と呼ばれる剣術の担い手で、その現最高剣術者である。そのため、彼女は演習(というよりは剣術指南)監督をしなければいけない。まあ、演習は外であるので、現時点で大雨の中、どうやって演習するのかは分からないが。
「そ、そうでしたわね。藍河さんとのやりとりで時間を食ってしまいましたわ」
瞬が先程まで寝転がっていたソファーに座った遙香が思い出したように、両手を合わせる。そして、自分の着ている制服の胸ポケットに手を入れ、その中から一枚の紙を取り出す。
「神崎様、これを見て下さいまし」
瞬はその紙を遙香から受け取り、机を挟んだ向かい側のほうのソファーに腰を下ろす。綺麗に四つ折りされた状態から広げ、紙面に注目する。
「えーっと……第二フェイズ遂行に伴うお知らせ……?」
そこに書かれていたのは、明日の第二フェイズに関する一般市民の行動についての概要であった。書いてあるのは、簡単な話、城壁付近に近寄らない事と、必要物資は今日までに全て買っておく事。特に当たり障りもない瞬達には関係のないお知らせであった。
「これがどうかしたのか?」
「何か気付きませんの?」
そう言われてもう一度紙を見直す。だが、特に何も違和感を感じないし、やはり気になることはない。
「ん……?紙……?」
いや、ひとつだけあった。
「なんでいきなりこんなものを作ったんだよ?第一フェイズの時は何も無かったのに」
感じる違和感はそれである。何故いきなり、一般市民宛てにこのようなものを作る必要があるのか、瞬は理解できなかった。
「あくまで、わたくしの私見ではありますが、もしかすると今回のこの第二フェイズ。かなり大掛かりな事をするのではないかと思いますの」
遙香が腕を胸の下で組み、そう言った。
「そもそも、なんで今このタイミングで制圧作戦を仕掛けたのか、そこがあまり理解できませんわ」
「え、それってアレだろ?シャドウタイプの出現が前倒しになって、そこから丁度スタートできるからじゃないの?」
遙香はツーテールを揺らしながら首を横に振る。
「わたくし、昨日調べましたの。そしたら、シャドウタイプ、と称される不死体が、十年ほど前にも出現していた事が分かりましたの。もちろん、違う名前で、ですけど」
瞬が驚愕の表情を浮かべた。シャドウタイプは既に確認されていた不死体。しかも、出現したのは、インフィニテイと同じ十年前。
「また……十年前、か……」
インフィニティが出現した。シャドウタイプが出現した。先代の隊長格達がその時何をしていたのか。そして、何故、一度確認された不死体の事を公表していないのか。十年前に、何があったのか。様々な疑問符が頭に浮かび、ぶつかり合う。何か、大切な事を忘れているような気がする。
「また……?」
「いや、何でもない。ところで天条、その情報はどこから仕入れたんだ?」
話を誤魔化す瞬。遙香はそんな彼を疑わしく見つめるが、なんだかあまり触れてはいけないような感じだったので、あえて話には触れなかった。
「情報のソースは、大図書館にある書物から、ですわ」
大図書館とは、大財閥天条家が所有する騎士領最大の図書館で、敷地は騎士領体育館と同じくらいの広さある。貯蔵冊数は十万冊弱あるが、聖騎士団の過去についての書物などはあまり多く存在しておらず、一冊見つけることさえ至難である。
「なあ、天条、もしよければ俺にそれ貸してくれないか?」
と、瞬が言うのだが、言葉が終わる前にはもう、瞬の目の前には一冊の古ぼけた本が置いてあった。
「そう言うと思っていましたの。本当は持ち出しは禁止なのですけれど、特別ですわ」
遙香が上品にツーテールを揺らす。金髪ブロンドが輝いて見えるのは気のせいではないだろう。
「ありがとう。感謝するよ!」
「べ、別にお気になさらないで頂戴。わたくしの権力を以ってすれば、このくらい簡単なことですもの」
頬を赤らめた遙香は、素直に感謝された事に若干の驚きを表し、顔を反らす。その様子を隣で見ていた瑠華が微笑を浮かべた。
「そ、それでは今日は失礼いたします―って、きゃっ!」
そそくさと出て行こうとソファーから立ち上がり、出て行こうとする遙香だったが、急ぎすぎたがために足をもつれさせて転びそうになる。が、瞬がそれに対して素早く反応し、遙香が倒れこまないよう優しく肩を抱きとめた。その衝撃からか分からないが、鼻腔を甘い匂いが刺激した。優しい感じの匂いが瞬を包み、思わずドキッとする。
「大丈夫か、天条?」
「え?え、はわっ!わわわわたくしとしたことが、こ、こんな!やっ、し、しし失礼しましたの!」
遙香が顔を真っ赤にしながら瞬の体から離れる。正直、今の状態、かなり顔も近かった。全力でパニック状態に陥る彼女は両手で顔を覆い、今度こそ出ていこうとする。
「え、えとえとえと!ほ、本日はわざわざ感謝いたしみゃすわ!はわっ!し、失礼いたしましたのー!!!!」
思わず噛んでしまったのだが、それがなんだか可愛く見えてしまう。と、思ったところで遙香は颯爽と部屋から出ていってしまった。部屋には未だ静かに佇む瑠華と瞬一人。
「瑠華、天条にありがとうって伝えといてくれ」
「はい。了承しました。それでは失礼いたします」
了承の合図を取ると、瑠華もまた、部隊長室から出ていった。一人になった瞬は、机の上に置いてある古い本を手に取り、ページをめくってから、なんとなく目を通す。古い書物なら、寮室にもあるのだが、それとは違う感じの本だ。本の裏を見てみると、そこには本が書かれた日であろう日付が記されていた。
「聖暦三十九年十二月二十九日……十年前の、年末……」
頭の中で、まずひとつ確定的な疑問が浮かんだ。
「間違いなく、十年前に何かがあったんだ……」
雨音が、妙に耳に残り、彼の頭の中で強く響いた。そういえば、昔、同じような雨音を聞いたことがある気がする。外で、自分は雨に打たれていて、それ以降が、思い出せない。地鳴りにも似た雷が落ちるのと同時、何かが一瞬だけ脳内に映された。だが、やはりそれすらもなんなのか分からない。
「幻想、黙示録……」
瞬が最後に呟いた言葉に、演習が終わって、部隊長室に丁度帰ってきたばかりの静理が目を見開いて立ち尽くしていた。
段々と、聖騎士団の黒い部分が現れてきましたね。十年前に何があったのか、そこが、今後の話に大きく関わることとなるでしょう。
さてさて、話は変わりますが、もう少しで第一章、東京隔離が終わりますよ!いやー長い長い。一期が2クールあるアニメ並に長いですよ。とはいえ、第一章なのだからしかたないでしょう!では、次回予告を。
―今度こそ始まった第二フェイズ。神崎瞬は心に疑問を抱いたままに戦地へ赴く。過去にあったとある事件。幻想黙示録。十年前に、一体何が―




