一話その男、神崎瞬
プロローグからの第一話です。
主人公若干チートですが、そこは見逃してあげてください!!
推定時間午後二時頃、実践形式訓練はスタートした。騎士団員の溢れかえる体育館では、訓練出撃メンバーが早くも銃撃戦を開始している。とは言っても、本物の銃弾だと命に関わる場合があるので、コルク栓での打ち合いになる。
「皆、やる気満々だな……俺も遅れを取られないようにしないと」
彼もまた、このメンバーの内の一人だ。今日に備えて、昨日からずっと気を張らしている。これは、別にいつも通りの事だ。彼は実際、実践訓練よりも重要な事でずっと気を張っているのだ。
それが、昇格試験。彼には昇格試験以外どうでもよかった。試験さえ乗り越えられればそれで、問題はなかった。
さて、彼の周りも騒がしくなってきた。いよいよ始まる、彼の銃撃戦が。
神崎瞬、身長172cm体重59kg六月十四日生まれ十七歳。若くして聖騎士団の特攻部隊隊長を務める期待の星的存在。基本武器は二丁銃、近接戦闘時も二丁銃を駆使して戦い、マルチなスタイルを持っていることから特攻部隊の隊長に任命された。ランクはなんとS。
「やっぱり、俺を狙ってる奴ばっかりいるのか……!」
四方から飛んでくるコルク栓をかわしながら、瞬は体育館に造られたステージを駆ける。砂埃のせいで、周りはよく見えない。
「視界が優れない……これじゃいつか直撃してゲームオーバーだ。」
この実践訓練の勝利条件は、相手にコルク栓を当てるだけの単純な条件だ。だが、単純だからこそ難しいものがあって……
「くっ!人がどこにいるかわからないじゃないか!」
ランクSの彼でも、この場合は銃撃するのが困難になる。残弾を数えてみると、次の六発で切れるのが分かった。つまり、若干のピンチである。
「どうしたもんかな。そろそろ一斉に撃って来る可能性があるからな……」
立ち止まり、思考。その間も、コルク栓は飛んでくる。当たりそうで当たらない微妙な感じだ。遠回しに逃げ場はないぞ、といっているのだろう。
砂埃の向こうから声が聞こえてきた。
「神崎瞬は既に勝負を諦めている。撃つなら今だ!!」
数人を従えているであろう人物が砂埃で見えない所から声を発しているのだ。凛と通るその声の主は恐らく女性だ。
「って、こんな大人数で一人を狙うなんて、どんな趣味してるのかなっ」
やれやれという感じで瞬は肩をすくめた。しかし、声の主はまるで聞いていないかのように自分の言葉を続ける。
「ランクSだからと言って恐怖する事はない!撃ちぬけっ!!」
同時に四方からの発砲音。瞬は、確実に逃げ場を失った。だが、彼はそれだけでは終わらなかった。
「甘いね!」
懐から取り出した短刀を声の主めがけて投擲した。対象はすぐに刀を振り抜き、その短刀を弾く。だが、それだけで終わりではなかった。刀を弾いた直後、彼女の視界には、一発のコルク栓が。
「はぁぁぁっ!」
力の限り、振り抜いていた刀をコルク栓の軌道に持っていく。そして、勢いを保ったまま、コルク栓も短刀同様に弾いた。そして、彼女はここまでで油断してしまった。
「よし、防いだぞ!」
目の前に、先程までは目視することの出来なかったもう一発のコルク栓が姿を現していた。当然、この動きに反応できない彼女は、胸の中心に、コルク栓を受ける事となる。
「なんだと……!?いや、だが隊長自身は弾を喰らっているはず……」
一連の流れで起きた砂埃が晴れていく。あわよくば相殺までは持っていけるはずであったが、砂埃が晴れた光景を前にして、彼女は驚愕した。
「まず最初の攻撃である短刀の投擲、これは、次に撃つ弾を誤魔化すための囮、だけど、弾を弾かれる事を最初から俺は想定していた。だから、一発目の弾と全く同じ軌道に乗るように、もう一発隠し弾を放った」
そこまでが、彼女に対する攻撃の流れ。これは、彼女自身もしっかりと理解していた。だが問題なのは、一気に弾を撃たれて脱落が確定していたはずの瞬に、一発たりとも弾が近付けていないことだ。全ての弾が、彼の周りに規則的な並びで転がっている。まるで、彼の周りに正方形を成しているようだ。
「まさかとは思うけど、俺の能力を忘れたわけじゃないよね、藍河静理さん?」
藍河静理。身長169cm体重53㎏四月二十四日生まれ二十四歳。凛とした声とスタイルの良さから女性男性問わず人気を持つ特攻隊副隊長の女性。基本武器は左に銃と右に日本刀と、独特なタイプの戦闘スタイルで、瞬と同様遠近どちらの戦闘法も利用できる。ランクはA。
「くっ……」
隔離能力。
瞬の持つ異能力で、その強さから騎士団内では人目置かれる能力である。主な能力の概要は、指定空間を切り離す、と言った感じだ。巨大な立体を空間に作り出し、その立体の中を外界から完全に遮断するため、まず、A~D地点までの四角形を底面として脳内でイメージする。次に、それを立体に引き伸ばすためにE~H地点までを底面の上に重なるようにイメージし、後は、好きな高さまで引き伸ばすだけ。するとイメージした通りの立体が指定空間に現れ、その空間を切り離す。立体の中は外からのどんな衝撃も受けず、今のところ破壊するのは不可能と言われている。瞬はその力を駆使し隊長となり、ランクSまで登りつめたのだ。
「……やはり流石ですね隊長。私では、到底及ばないようです」
静理は凛とした声のまま、しかしどこか優しげのある声で瞬に微笑みかけた。その目からは、既に戦意は失われていた。
「何を言ってるんだか。俺に異能力を使わせた人の言う事なの?凄いと思うよ、静理さん」
いくら、敗北したとはいえ、瞬に力を使わせた事、それは充分すぎるくらいの成果だった。瞬もしっかりその点を称賛する。
「ふ……訓練時くらいは呼び捨てで構いませんよ?」
「だったら静理さんも、訓練時でも同じ喋り方にしてよ。違和感ありまくり」
二人は敵対感の無い、とても連携の取れた隊長副隊長として聖騎士団では有名だった。
「では、退かせてもらいます……あ!隊長、周りには気を付けたほうがいいですよ。私だけが撃たれたわけではありませんから」
そう言って、外部へと外れた静理。彼女の言葉の意味など、すぐに理解できた。だから、すでに手は打ってあったのだ。
「安心しろよ。もう終わってるから。な、緒代?」
瞬の影から、スナイパーライフルを手にした少年がにゅっと現れる。
「……ああ、全員撃ち終わっている」
「狙撃部隊隊長、緒代智影……ですか。とんでもない協力者がいたようですね。誤算でした」
緒代智影。身長162cm体重44㎏、十一月三日生まれ十五歳。聖騎士団史上最年少で狙撃部隊隊長を務めている黒髪の少年。その実力は瞬とほぼ互角で、やり合えば終わらないくらいに壮絶な戦いをするという。普段は影の如く静かな少年で、周りからたまに存在を忘れられるほど。基本武器はスナイパーライフル、別名スネイクショット。飛距離と弾のスピードは騎士団内随一。ランクは瞬と同じS。そして、彼の能力は……
確定射撃。
狙った標的は確実に撃ちぬく、上位能力。その力の大部分は彼の右目に集中している。彼の右目はそれこそまさに、標的をオートロックする戦闘機のシステムを兼ね備えている。距離、角度、勢い、全てを計算し、確実に仕留める事からつけられた能力の名前。その力を使い、瞬の周りを取り囲んでいた騎士団員を全て撃ち抜いたのだ。
「悪いな、静理さん」
「いや、流石の私もこんな誤算があったとは……恐縮です」
これで完全に、瞬を狙う者はいなくなった……いや、一人いた。瞬の真横に。
「おおっと。忘れちゃいけないな。緒代が残ってるよって!いきなり撃ってきた!?」
言葉の途中に、三発ほど撃たれた。しかし、すんでのところで回避し、距離をとり体勢を整える。
「……忘れるな。僕も、貴様を狙って、この実践に参加したんだ。おとなしくやられろ」
緒代からの連射。それを隔離で見事に弾く。しかし、銃弾の数が意外と多く、何発か当たりそうになる。
「そういう訳にも、行かないんだよっ……こっちは昇格がかかってるんだから」
「……それは、僕も同じだ。だから負けろ」
自分に向かって一直線に飛んでくる銃弾を、右手に持った銃から放った弾で弾く。これは中々に素晴らしい。これで、残り四発。
「悪いが、そう簡単には負けないよ!」
「……偶然だ」
瞬が地面を駆け、緒代との間合いを詰める。緒代は素早く反応し、スネイクショットでそれを薙ぎ払おうとする。しかし、瞬はひねりを入れながら跳躍し、両手の銃に二発ずつ詰め込んだ銃を緒代に向ける。
「……何!?だが、ここまでは読んでいた!」
緒代はスネイクショットを再び瞬に向ける。どうやら本当に読んでいたらしく、先程の薙ぎ払いはあまり力を入れていなかったようだ。動きが早い。交差する二人の視線。まるで時が止まったかのような感覚だ。一瞬の差で、この戦闘は終わる。瞬の放つ四発が緒代に被弾するか、それとも、緒代の放つ弾が瞬に被弾するか…………
そして、その中で、瞬は真剣な眼差しのまま、冷静に問う。
「これで、終わりか?」
「……どういう意味だ?」
怪訝そうな顔をする緒代に瞬はこう告げた。
「なら、この戦闘は俺が勝ちだ……」
瞬間、緒代の眼前に、立体の底面が現れた。緒代の放った銃弾は、その底面に直撃し、砕け散るだけで、瞬には届いていなかった。
「……何……!?」
反応出来ていない緒代の横から、瞬が飛び出してきた。その右手に短剣を携えた状態で。瞬は緒代のスネイクショットを叩き落とし、飛び出した勢いでそのまま緒代を押し倒して、その切っ先を喉元に添える。
その瞬間、彼の実践訓練は、幕を閉じた。
『そこまで。実践訓練Bグループ、勝者、神崎瞬』
「特攻部隊隊長を舐めてもらっちゃ困るな」
瞬の勝利を告げる放送が聞こえてから、体育館内は一気に騒がしくなった。
「うおお、すげー!!」
「流石、神崎隊長だね!!」
訓練を観戦していた騎士団員は口々に瞬の事を言う。
「……ふん。今回は負けを認めてやる」
瞬は倒れたままの緒代に手を差し伸べ、立たせてやろうとする。緒代は、その手を掴もうとする。その時、瞬はこう言った……
「改めて、俺の名前は神崎瞬。聖騎士団の特攻部隊隊長とは、俺の事だよ」
その顔に、圧倒的自信を浮かべた表情で…………
君達は真面目すぎる!
先生に言われた時は笑ってやりましたよ。
自分の立場分かってんのかーー!
ってね。お陰でうちのクラスは不真面目ですよ。ええ。そりゃもうすごいくらいに。
なんでこんな事を言っているのかって?
あとがきはそういうもんだろ!!
ってなわけで、どうでした?
ゾンビ物を書こうって言ってる割に、一話で敵がでていないという・・・・・・
いや、仕方ないさ!!
まぁ、物語は序盤ですし、期待しちゃってくださいな。
では、さようなら~