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Knights VS Undead  作者: 神崎
第一章 東京隔離
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十四話孤独な影

―作戦終わり、一旦隊長格室へと向かう事となった神崎瞬とその他出撃メンバー。第一フェイズが正式に終わりを迎える中、緒代孤影は、秘密裏に言い渡されていた指令のため、一人外界へと向かう。それを知った神崎瞬は―

え、あの孤影が!?

みたいなお話です。

少女は何を思い、そこに立つのだろうか。たった一人で、何を考えているのだろうか。いや、少女の事だ。何も考えてはいないのだろう。常に無表情で、感情を表に出す事が無いのだから、基本的には何も考えていないのかもしれない。

「…………」

ただ、少女が一つだけ意識している事がある。そう、考えるのではなく、意識している事だ。

「…………」

まるで息をしていないんじゃないかと思わせるぐらいの静かさで、暗い闇夜に立つ少女が意識する事、それは、

「……あたしのやることは、命を完遂すること。それ以外は、どうでもいい」

与えられた自分への指令を完全に達することが、少女の意識。頭の中に、ただ一つ浮かぶモノ。それ以外は、真っ黒な闇に包まれている。だが、別に自意識でそれ以外を闇に包ませているわけではない。自分自身でさえも、闇の中にそれ以外を包み込んでしまっている理由が分かっていないのだ。いや、分かっているのだろうが、少女は、閉ざしたのだ。あれ以来からずっと。


帰還が完全に終了した。制圧終了したそれぞれの地点には、最も作戦範囲外付近に壁を建て、それ以上外からの攻撃を受けないようにした。さらに、秋川の物質改竄能力で壁を形成している物質(おそらくそこまで強度のない鉄物質)を、その数万倍の硬度を持つ物質に変換し、壁の強度を跳ね上げた。この時、瞬の隔離能力を利用しない理由は前回緒代が言っていた、誤った計算により、隔離圧縮する際に制圧地点まで間違えて圧縮しないようにするためである。

「……随分と苦戦したな。神崎」

総合施設にある隊長格室に帰ってくるなり、緒代から皮肉そうにそんな事を言われる。緒代は自分の席に座ったまま、室内に入ってきた瞬に見向きもしない。入ってきたのが瞬だと、最初から分かっていたかのようだ。

「……死人まで出したのか。情けないな」

「悪かったな。色々と不具合があったんだ」

瞬は真っ直ぐに自分の席まで行き、椅子を引いてゆっくり座る。悪態を吐かれているのに、あまり食いつかないところを見ると、相当に疲れているのだろうか。

「他の隊長格の人達は?」

席に着いてから、瞬は隊長格室を大雑把に見渡す。隊長格室に今現状でいるのは、瞬と緒代の二人に加えて、自席できらきら光る石をずっと眺めている秋川、その向かい側でアリスを操作する指原、優雅に紅茶的なものを啜る遙香、その横に静かに立つ瑠華、そして、腕を組んだままどっしりと自席に座るおやっさんと長机に両足を乗せている冴場の八人だ。緒代は、首を小さく振ると、興味なさそうに呟く。

「……知らんな」


それっきり、緒代は黙り込んでしまう。反応に困った瞬は、辺りを見回すが、どうにも、隊長格室内は静かすぎる。思わず、瞬自身も言葉を発せなくなった。

「神崎様。わたくしの推測ですと、ここにいるのは今回の出撃団員と、第二フェイズの出撃予定団員だと思いますわ」

不意に、遙香が口を開いた。瞬は、遙香のほうを向き、会話の対象を遙香に移す。遙香は、手にしていたティーカップを机上に置くと、瞬の方向を体ごと向く。

「まあ、とは言いましても、まだ全員が揃っているわけではないようですわね」

言い終わってから、ちらりと、瞬の向かい側の席を見やる。本来そこにいるべきは、第一フェイズに参加していた、藍河静理なのだが、今はまだ姿が見えない。

「そう言えば、静理さんがまだ来てないな……」

普通なら、静里が瞬より遅くなることはあまりないのだが、今回は瞬のほうが早かった。

「はっ……どうせ、死者の弔いだとか言って、わざわざ死人の身内の所に謝罪でもしに行ってんだろ」

両足を長机に乗せたままの冴場が静かにそう呟いた。その言い方はまるで、死人をなんとも思っていないような言い方で、周りにいる隊長格達は、一様に冴場の方向を見やる。だが、肝心の当人は目を閉じているため、それには気付いていない様子だ。

「行ったところで何が変わるんだっての。死人は死人だろうが。死んだ後にどうしようと、なおさらそいつと深い関わりを持った連中は悲しむだけだろ」

「あら、あなたのような下賎な殿方でも、一応は考えておりますのね?意外ですわ」

冴場の言葉に、遙香が挑発的に言葉を()しかけてきた。冴場は伏せたままのまぶたをゆっくりと上げ、気品の漂う顔で自分を見る遙香を思いっきり睨みつける。

「んだよ?人の事過小評価しずぎだなぁ、オイ。これだから箱入りのクソ女は困るんだよ」

冴場も、遙香と同じくらいに挑発的に言葉を返した。これを聞いた遙香が、ゆっくりと立ち上がり、長机に自分の手を叩きつける。バァン、という大きな音が発せられ、同室の隊長格は一斉に遙香のほうを見た。

「あなた、わたくしが誰だかわかっていて?あなたとは天と地の差もある格上の存在ですのよ?」

「知らねぇな。いちいちテメェに興味なんか示すかよ」

完全に怒り全開の遙香がいよいよ冴場のほうへと、歩み出そうとした時、隊長格室のドアが開けられる音がした。今度はそちらに視線を送る皆。

「何かあったのですか?皆さん」

入ってきたのは、総合部隊長の御剣であった。御剣はいかにも物腰の柔らかそうな表情で室内の雰囲気の悪さについて聞いてきた。瞬は、慌てて立ち上がり、何でもないですよ!と、ごまかす。同時に、一触即発の空気で冴場を睨みつける遙香も席につく。冴場は、完全に勝ち誇ったかのような笑みを浮かべた。遙香は、相当に悔しそうな表情で席につくのであった。


「出撃団員の皆さん、まずは、第一フェイズ終了お疲れ様でした」

御剣は、自席につく前に一礼してみせた。出撃団員であった瞬とおやっさん、遙香と瑠華、秋川と指原

そして冴場は続くように一礼した。

「あまり時間がないので、第二フェイズの詳細は端的に説明させて頂きます」

御剣の言葉に、アリスを弄っていた指原が疑問符を浮かべて反応した。

「んー?なーんで時間がないんでーすか?」

指原の疑問を推測していたかのように御剣は即答する。

「この作戦には、多大な時間をかけるわけにはいきませんからね。フェイズの間隔は狭めていきたいと思います」

「なーる。なんとなく理解したー」

指原は再びアリスを弄り始め、完全にコンタクトを断ち切った。御剣は、指原との会話を終えると、第二フェイズの詳細を話し始めた。

「第二フェイズは明後日、第一フェイズの制圧完了地点から開始します」

制圧完了地点というのは、秋川の能力で建てた壁がある地点の事である。御剣は、それだけを告げると、颯爽と隊長格室から出ていこうとする。

「ちょ、御剣先生!もう終わりですか!?」

一瞬遅れて、瞬が見剣を止めにかかる。御剣は、特に驚くような表情も見せず、優しい笑みを浮かべながら瞬を振り向く。

「はい。端的に、詳細を説明させて頂きましたよ?」

「あー……」

まさに、御剣の言葉通り、端的(・・)に詳細は説明された。おそらく御剣の事だ、今ので完全に説明を終える事が出来た。そう思っているのだろう。瞬も、うなだれるしかなかった。

「出撃団員くらい教えろ、馬鹿総隊長が」

冴場が、思いっきり悪態を吐く。すると、御剣は、合点がいったように両手を合わせ、そして自席の前に戻り、一つ咳払いをしてからもう一度第二フェイズについて話し始める。

「ええと。第二フェイズの出撃団員ですが……」

御剣の口頭から、第二フェイズの出撃団員が告げられた。


~第二フェイズ出撃団員~

総合部隊

副隊長・緒代孤影

特攻部隊

隊長・神崎瞬

狙撃部隊

隊長・緒代智影

副隊長・如月弥生

爆撃部隊

隊長・郷田甚助

援護部隊

副隊長・鷹山昂大

交易部隊

隊長・天条遙香

副隊長・三條瑠華

その他

救護部隊より大館ゆかり、宮間深夏を前線での救護に回し、隊長格のみでの編成とする。


聞いた瞬は、その顔に若干の驚きの様子を表していた。

「あれ?御剣先生、静理さんは?」

瞬の驚きは、隊長格以外の出撃がないことに対してではなく、戦闘において絶対的な戦力となるはずの静理が、出撃団員に含まれていないことに対してのものであった。

「彼女には次回の作戦で、外れてもらう事になりました」

「え?何でですか?静理さんはかなりの戦力ですよ?」

瞬は、御剣に歩み寄りながら静理が外された理由を問う。御剣は、優しい表情を浮かべたまま、やはり優しい口調で優しく答える。これぞまさしく優しいの三冠王。

「大丈夫ですよ、何も彼女を戦力外にしたわけではありませんから」

「?どういう意味ですか?」

正直なところ、この状況で静理が外されたのは、瞬にとっては戦力外を受けて外されたと考えるほか思い浮かばない。

「藍河さんは、作戦における重要戦力ですから、第二フェイズでは温存して、続く第三フェイズでもう一度戦線に参加してもらいたいと思います」

瞬は、その言葉を聞き、一安心した。戦力故に戦場を一旦離れるのであらば、それでいいではないかと、瞬は自分の事でもないのに喜んでいるようであった。秋川と指原についても、戦力温存という形で戦線から外すらしい。だが、それに対して、静理達と同じく出撃団員に入っていなかった冴場が怪訝そうに眉をひそめた。

「自分の事でもねぇのに、なんでそんなに嬉しそうに出来るんだっての」

瞬は、皮肉を言われても過剰に反応はせず、いつも通りの楽観的な口調で言葉を返した。

「自分以外の人に良い事があって、それを喜んだら駄目か?」

瞬のその言葉を聞き、冴場は呆れ返ったかのように溜め息を吐いた。だが、それは決して嫌悪に溢れたものではなく、どこか和んだ感じの溜め息であった。ただ、その次に聞こえてきた言葉は嫌悪に満ち溢れていたが。

「……ふん。そんな事だと、いずれ自分を(おとし)めていく一方だろうな」

「緒代……それでも、それでも俺は皆と意思の共有をしたい」

下らんな。そう一言告げ、緒代はまた黙り込む。瞬はそれでも、怒りを見せたりはしなかった。そしてそれを見て、遙香が一人、まさに大人の対応ですわ。と感嘆の言葉を呟いていた。


とりあえず、第二フェイズの大まかな詳細を話し終わったところで、集まっていたメンバーは解散となった。結局最後まで静理は隊長格室に来ず、また、呼ばれていたであろう如月も来ることは無かった。各々が帰り支度をしている中で、御剣と共に最後に室内を出ようとしていた瞬が、ふと御剣に声をかけた。

「そういえば御剣先生」

「はい、何でしょうか?」

室内の電気が全て消えているかを確認し、疑問を問う。

「孤影はなんで来てないんですか?」

隣にいる御剣は、押し黙り、言葉を発さない。返事がすぐに来ないものだから、瞬は部屋を出てすぐに御剣を振り向く。瞬が自分を見たところでようやく、御剣は小さく口を開く。

「孤影さんは、来ませんよ……」

「え?」

瞬が驚きの声を上げた。御剣は廊下から見える外の景色にちらりと目を見やり、夕日に赤く照らされた騎士領の城下(アンダー)の街々を見下ろしながら言葉を続けた。

「この事を、あまり公には出来ないのですが、神崎君には話しておきたいと思います」

「は、はい」

真剣な声質で話し始めた御剣に対して、瞬は思わず身を強張らせた。肩に力を入れて、気をつけの姿勢をとる。公にさらせない何か、それは、孤影がここにいないこととどう関係しているのだろうか。公にさらせない何かを、瞬は秘密裏(・・・)に聞かされた。


「……貫いて、黒槍」

漆黒の槍を投擲し、いくつもの影をまとめて貫く。槍に貫かれた影は、身動きを取る事もなく、そのまま死する。だが、いちいち完全に死んだかどうかを確認する暇などない。敵を捉えたと確認したらすぐに、他の対象に攻撃の矛先を変える。こうしなければ、手数が足りない。手数が足りないのだ。この状況で、一人で闘うには手数が足りなさ過ぎる。

「……多すぎるかも。手数、大丈夫かな」

闇鎖を出現させ、相手にしていない対象外の影の動きを拘束する。少女―孤影は、あまりもの敵の数に人形のような顔を若干不機嫌そうに歪める。

「……砕いて、黒渦。邪魔、動かないで」

出現した黒渦により、周りにいる大量の影、もといシャドウタイプの不死体(アンデッド)は動きを封じられる。さらに、先程の闇鎖の拘束も一段と強度を増す。

「……刈り取れ、黒鎌……!」

漆黒の鎌で、前方にいる数体のシャドウタイプの胴体を断ち切る。体が真っ二つになったシャドウタイプの体内から、スライム状の肉塊が溢れ出し、第二形態への形態変化を始める。

「……駄目。そんなこと、させない」

いつも通りの無表情に戻った孤影は、第二形態を形成していくスライムをそれごと黒渦で砕き、形態変化を防ぐ。だが、その作業だけには集中できない。動きを封じていた他のシャドウタイプも、体に自由を取り戻していき、拘束から逃れ、孤影めがけて拘束の突進をする。孤影は、悔しくもその動きに反応を遅らせてしまった。

「……きゃっ!」

~教会~

「孤影さん、あなたに秘密裏にお願いしたい事があります」

不適な笑みを浮かべた御剣は表情を崩すことなくそう言ってきた。孤影もまた無表情を崩さずにそれに反応する。

「……なに?」

御剣に背を向けていた孤影は、顔だけを僅かに向け、反応した。どうせこの男の言う事だ、たいした事ではないだろう。

「第一フェイズが行われている間に、あなたには、別の事をやってもらいたいと思います」

「……別の事?」

孤影は訝しげに御剣を見据えた。

「はい。これは極秘の情報なのですが、細波さんからの情報で、シャドウタイプの巣窟を発見したというのをお聞きしました」

「……」

無言の孤影を特に気に留める事もなく、御剣は言葉を続ける。

「そこで、孤影さん……秘密裏にこの巣窟を殲滅してもらいたいと思います」

「……必要性はある?」

「大いにあると私は思いますよ。先に叩いておけば、後の制圧作戦が効率よく進むでしょうし」

つまりは、後を楽にするために、先遣として巣窟に向かえ。こういうことであった。しかし色々考えたところで、孤影には関係の無い話であった。

「……わかった。やる」

「いいのですか?簡単に了承してしまって」

「……あたしは、下された命を必ず遂行する」

孤影は、純粋に命に忠実であるがため、与えられた使命を果たす以外に他の事を考える必要などないのだ。孤影の言葉を聞いて、御剣は優しく微笑んだ。だが、孤影はその表情に目もくれなかった。

~シャドウタイプ巣窟~

「……く……一回しか、当たってない」

黒鎌を持ち直し、シャドウタイプに構える。そして、背後から出現させた闇の中へと身を翻す。これは別に撤退するわけではない。

「……こっち」

高速移動するシャドウタイプよりも速く、その背後に回り斬撃を加えるための動作である。と、説明通り、少し離れた地点にいる一体のシャドウタイプの背後に闇が出現したかと思うと、その闇の中から孤影が現れ、背後から鎌の一閃を入れる。音も無く現れた孤影の一閃にシャドウタイプは悲鳴を上げることすら出来ずに崩れ去る。

「……いい加減、消えて」

形態変化を防ぐために、黒渦で完全に肉塊を砕く。そして、次の標的へと目標を定める。

「……駄目。間に合わない」

が、一体倒したところで、孤影に感付いた他のシャドウタイプが高速突進してくる。孤影は闇の中に身を投じ、かろうじて回避するものの、その反動が大きすぎて、思わず動きを止めてしまう。そしてその瞬間であった。

「……しまっ……!」

シャドウタイプの高速突進が確実に孤影の小柄な体を捉える軌道に入っているのを目にした。まずい、とそう思った時にはすでに遅く、目の前まで、黒い影が迫った。さすがに、避けきれないと、孤影は瞳を閉じる。

「…………?」

瞳を閉じてしばらく、自分の体がシャドウタイプに吹き飛ばされてはいない。それどころか、何とも無い。恐る恐る、瞳を開ける。するとそこには、見覚えのある(・・・・・・)()があった。

「……これって」

「隔離壁だ。孤影、助けに来たよ」

聞き覚えのある声が聞こえてきた。その声が聞こえてきた方向をゆっくりと見やると、暗闇の中には、いつもとは大きく違う真剣そのものの表情をした瞬が、立っていた。





お久しぶりです皆さん。受験&合格発表が終わってようやく周りが落ち着いてきた松本です。さてさて、今回はあの孤影がやられてしまうという嫌なお話でしたが、どうだったでしょうか。いえ、気にしくてもいいのですよ。えぇ、はい。

孤影の名前の由来、お分かりいただきましたか?いえ、大丈夫ですはい。

―緒代孤影の窮地に神崎瞬が現れた。無数のシャドウタイプを目の前に瞬は明らかな怒りを表す。一方の孤影は助けに来た事などどうでもいいように戦闘へと舞い戻った。瞬はその後ろをやれやれとついていく―

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