十一話作戦第一フェイズ・その1
東京制圧作戦第一フェイズその1です。
長めの内容になりそうなので、何分割かで今回の作戦の話を展開させていきたい所存です。
よろしくです
六月二十日正午過ぎ。教会にて、改めて制圧作戦の詳細が話された。当然、その前にも全団員には連絡をしていたが、教会で話されたのは実行日である本日の細かい動きに関してである。一昨日に深夏の言っていた、救護部隊への指示については、予想通りというかなんというか、あまり触れられなかった。細かな作戦の概要は、先日行われた駆逐作戦と同様に、部隊を何分割もしてから、東西南北に建てられた巨大城門を開始地点として数百メートル圏内の範囲だけで行われる。これを作戦の第一フェイズとして扱い、以降、東京を完全制圧するまで作戦は続く。
今回のフェイズで出撃するのは、特攻部隊と爆撃部隊に加え、一部の隊長格のみだ。一見すると人数が少ない気がするが、第一フェイズ自体がそこまで大規模にならないので、最前線で戦える一部の団員のみで行えるのだ。作戦開始は午後三時、出撃予定の団員は、それぞれ準備をする。
「第一フェイズ開始まであと少しだ。皆、準備は出来てる?」
電子タブレット、アリススタイル越しに一斉連絡を行っているのは、出撃メンバーの中でも最重要となる人物、神崎瞬だ。
『おう!準備万端じゃい!!』
瞬の言葉に真っ先に大声で応えてきたのは、爆撃部隊隊長のおやっさんこと郷田甚助。大声過ぎて耳が痛い。
『うっせぇよ。ちょっとは落ち着きやがれ中年親父』
おやっさんの大声に突っ込んだのは、爆撃部隊副隊長の不良少年冴場悠介だ。発せられた罵声は、本当の意味で冷たさを感じる。アリス越しの文句からして、おやっさんと冴場は離れた地点いるようだ。
『まーやる気が出てる証拠だろ?許してやれ冴場』
『そうだよーそんな事でいちいち反応してたらこの先やってけないよー』
次に反応したのは、出撃メンバーに選ばれた隊長格の、秋川と指原だ。先に反応したのが秋川である。彼らは、前文の通り、隊長格から出撃メンバーに抜擢された内の二人であり、今回の配置では同じ場所からのスタートのようだ。余裕綽々の会話内容からして、準備は万端のようだ。
「よし、離れてる皆のほうは準備万端かな」
ある程度、皆の会話を聞いていた瞬が、アリスを胸ポケットにしまってから、自分のいる場所のメンバーの方向へ振り向く。ちなみに、アリスでの通信は繋がったままである。
「ここの皆は、準備出来てる?」
この開始地点にいるのは、特攻部隊の一部の団員と副隊長である静理、それに加えて、隊長格から抜擢された、交易部隊副隊長の三條瑠華だ。お嬢様である遙香のほうは、今回出撃しない。
「隊長、私の準備は既に整っています」
静理は、いつものように敬語で反応する。他の団員と違って、彼女はひどく落ち着いて見える。これが、普段からクールである者の訓練前かと、改めて実感できる。
「神崎様。私も戦闘準備は完璧です」
静理に続いて言葉を発したのは、紅の色をした髪をポニーテールに結った清楚そうな少女、瑠華だ。こちらも、かなり落ち着いた様子だ。
「今日は天条の出撃はないんだな」
ふと、瞬がそんな事を言った。
「はい。遙香様は今回出撃なしだそうです」
瑠華がかなり残念そうに肩を落とす。それというのも、今までどんな作戦においても遙香と瑠華が別々で作戦を遂行したりする事がなかったので、彼女にとってその場に主人となる遙香がいないのは嫌な事なのだろう。
「でも、私は一人でも頑張りますっ……!」
小さくガッツポーズを作ってやる気満々の意を表する彼女だが、そんな彼女に瞬は優しく訂正を入れた。
「一人じゃないからな?俺達もいるからな」
「はっ……!?そうでした、失礼しました。では皆で一緒に頑張っていきましょう」
若干顔を赤らめた彼女は、微笑を浮かべながらそう言った。瞬も、それを見て微笑する。
「隊長、少しいいですか?」
コホン、と咳払いを一つした静理が、瞬を呼んだ。瞬はそれに反応すると、すぐに静理に駆け寄る。
「どうしたの?」
「もう作戦が始まるようです。今一度、団員の士気を高めるべきかと」
どうやら、作戦開始時刻になったらしい。均等な制圧作戦が強いられるこの作戦では、開始時刻を合わせなければどこかが突出する可能性があるのだ。静理は、アリスの時計を見て、瞬にそれを伝えた。
「了解。皆、作戦開始時刻になった!これより、外界制圧作戦第一フェイズの開始を宣告する!!」
瞬の言葉と同時、四方位の城門は同時に開け放たれた。
~騎士領東門付近~
東に配置されているのは、爆撃部隊の団員数名と、おやっさんだけである。ここは、他の配置地点と比べて極端に人が少ない。その理由はもちろん、おやっさんの異能力である爆撃地帯の大規模発動のためだ。あれを発動するのに大勢の団員は必要ない。
「おらおらおらぁぁっ!!!!不死体ども、かかって来い!!!」
凄まじい爆発音が、辺り一帯に響き渡る。おやっさんは、瞬の作戦開始宣告と同時に一目散に駆け出し、外界にいる大量の不死体に爆撃地帯の爆発を味合わせていた。開始早々に数十体の不死体を倒したお陰で、東方向は最早完全に制圧している。だが、この男は止まる事を知らないのか、範囲外から迫ってくる不死体に対しても攻撃を加えていた。
「弱すぎるんじゃい!!もっと強い奴はおらんのかぁぁ!?」
爆発音は、さらに音を大きくさせる。騎士領からそこまで離れていない場所で爆撃地帯を発動しているため、いい近所迷惑である。
「隊長ーーーー!!細波監視部隊隊長から伝令でーーーーーすっ!!!!」
一人の若い団員が、大声でおやっさんに呼びかける。おやっさんは、なんだぁ?と、顔を不死体に向けたまま反応した。
「やりすぎだそうでーーーーす!!!!」
「あ……」
ようやく落ち着いたおやっさんであった。
~騎士領西門付近~
ここに配置されているのは、爆撃部隊の団員数十名と、副隊長の冴場だ。
「どうしたどうしたぁ!!そんなんじゃ俺には勝てねぇぞ!!」
冴場は、身の丈程の大きさの大剣を華麗に振り回しながら、不死体に一閃を浴びせていく。明らかに重量のある大剣を軽々と扱う冴場は高速で戦場を駆け抜ける。もちろん、指定範囲内だけだ。
「は!遅っせぇな!!俺には止まってしか見えねぇ!」
目の前に現れた一体の不死体の心臓付近に、深々と大剣を突き刺す。さらに、それを抜き放ってから、後ろに迫っていた別の不死体に振り向き様に一閃。その不死体の体が二つに断ち切られる。大量のドロドロとした血が吹き出すが、返り血を浴びてもなんとも無い様子で、冴場は次の標的を探しに行く。
「んだよ。歯ごたえねぇ連中ばっかりだな。シャドウタイプってのは出て来ねぇのか」
そう言った矢先、まるで、その言葉を待ちわびていたかのように、走る冴場の前に、黒い影が現れた。
~騎士領南門付近~
この地点では、隊長格から抜擢された秋川と、同じく指原が特攻部隊の団員とともに戦闘を繰り広げていた。二人は、拳銃しか装備しておらず、かなりの軽装状態で、戦地に立っている。
「こいつら、昼間だってのにやけに活き活きしてるなぁ……!」
銃弾を放ちながら、秋川はそんな文句を漏らす。額には汗を掻いていて、明らかに体力が付いてきていない感じの様子。
「ばんばんばーん!動きが遅い~♪」
一方で、肩を並べてともに闘っていた指原は特に疲れを見せる様子も無く、余裕な表情で不死体を撃つ。
「なんでそんなにお前は余裕そうなのか知りたい」
「え?教えないけど?」
秋川の質問に対し、指原は軽く受け流す。秋川はそれにイラッときたのか、敢えて指原の近くに銃弾を発砲した。それに素早く反応した指原は後方に飛びずさり、同じく秋川の足下に銃撃。
「何故俺を狙ったのか教えてもらーう!」
「断固拒否だ。その前に俺の質問に答えろ」
「だが断るっ!!」
何度か言葉を交わしてから、今度は二人が確実にそれぞれの眉間を狙って発砲した。このままなら、互いに眉間に風穴が開いてしまうところなのだが、そうもいかない。同じ角度、同じタイミングで放たれた銃弾は真っ直ぐに突き進むのだが、その銃弾は彼らの元へと辿り着きはしない。なぜなら、二つの銃弾は軌道が少しずれた所で互いに僅かに掠めあい、そのまま左右へと角度を変えて飛んでいったからである。左右に弾け飛んだ銃弾は軌道をずらしてもなお勢いを保ったままだ。しかも、その銃弾が飛んでいった先には、まるで最初から分かっていて撃ち合ったのかと思わせるかのように、不死体がいた。そして、二つの銃弾はそれぞれの不死体の眉間を、真っ直ぐに貫いた。
「指原、次行くぞ!」
「了解っ!!バンバン行くよー」
撃ちぬかれた不死体に見向きもせずに次の標的を倒しに行く二人。まさに、息がぴったり合った動きである。しかし、そんな彼らの前にも、黒い影は現れた。
~騎士領北門付近~
北に配置されたのは、特攻部隊の団員数名と、隊長の瞬、副隊長の静理。そして、隊長格から抜擢された交易部隊副隊長の瑠華である。瞬はいつものように二丁の拳銃を巧みに扱いながら不死体を撃ち抜いていく。
「体に異常は無し!調子は絶好調かな!!」
その様子を傍目に、静理も目の前の不死体に一太刀入れる。さらに、左手に持った拳銃で、その体を撃ちぬき完全に止めを刺した。
「……はぁっ!!隊長無理は禁物ですよ?また影が現れた時の戦力は温存しておいて下さい」
凛とした声で指摘しておく静理に、瞬は遠くから了解了解ー!と、反応を示した。正直言って不安だらけなのは自分だけなのか、と静理は心の中で思ったとかそうでないとか。
「そう言いつつも、静理様も中々飛ばしていますね」
二人の様子を別の場所から見ていた瑠華は、小さく微笑みながら不死体に相対する。現状、彼女は武器を所持していない。武器を持っていなければ、状況的にはかなりまずいが、彼女にとっては大して問題にはならない。
「天条家に使える者として、加減は致しません」
向かってきた不死体に対して、軽く跳躍。瑠華は今、黒と白を基調としたメイド服を着用しているのだが、そんな事は意にも介さず跳躍して見せた。
「能力無しでの殺生は私向きではございません。しかし、動きを封じる程度の事は可能です」
とん、と不死体の首の付け根を叩く。すると、不死体はばったりとその場に倒れこみ、動かなくなる。いや、正確には動けなくなる。
「やはり、こう言ったところは人間とあまり変わりませんね。失礼しますが、少々お眠りしていて下さい」
メイド服のスカートの裾を摘み、上品に礼をする瑠華。それは、彼女が元お嬢様である事を良く分からせてくれる。すると、離れて戦闘を繰り広げていた瞬と静理が瑠華の下へと駆け寄ってきた。
「どうかいたしましたか?」
瑠華は二人に対しても同じように礼をする。
「瑠華、シャドウタイプが他の場所に出現してるらしい。もしかしたらこっちにも現れるかもしれないから、念のため能力を発動して構えといてくれ」
瞬が手短に用件を話した。隣にいる静理はいつ不死体が来てもいいように、周囲に警戒の目を向ける。そして、話し終わった瞬と、それを聞いていた瑠華に、静かに告げる。
「来ます……」
他の騎士団員は目の前の敵に夢中で一切気付いていないようだが、静理達は完全に気付いていた。というか、分かるのだ。シャドウタイプの出現前に起きる、周りの変化が。
「了承しました。迎撃します」
「皆、構えるんだ……来る!!」
~騎士領西門付近~
「がぁっ……!」
冴場はシャドウタイプの高速の動きから来る攻撃を真正面から受けて、後方に大きく吹き飛ばされていた。地面を何度も転がり、数十メートルは軽く吹き飛ばされる。さらに、不死体は冴場が地面を転がるその先に先回りし、転がってきた冴場の頭を鷲掴みにする。そして、別の方向に再び投げ飛ばす。先程よりも勢いは無いものの、冴場はまた地面を転がっていく。
「がっ……!?クソったれが。何度も何度も投げ飛ばされるかっての!」
地面を転がる際に、冴場は身を翻し、地面に大剣を突き刺してから大剣で地面を削りながら、踏み止まり、態勢を立て直す。
「はん!そんなもんかよ死体!!」
大剣を持ち直した冴場は一気に駆け出し、不死体の目の前に高速で移動する。
「断ち切ってやんよ!!」
縦に一閃、大剣の刃を振るった。だが、その一閃をものともしないのか、不死体は仰け反りもしない。それどころか、冴場を見下したかのように顔を冴場に向け、そして、グパァ、と大きく口を開く。これは即ち、先日孤影に放った粒子光線の前兆だ。
「あぁ?伝わるかよ……無能野郎がぁ!!」
冴場は、大剣を不死体の大きく開いた口に突き刺した。そのまま、冴場は動かない。下手をすれば、粒子光線を真正面から受けて、塵となって消失する可能性もある。このままでは危ういのだが、冴場は、何やら不適な笑みを浮かべる。
「馬鹿が、そのままだと後悔するぞ」
言葉と同時、冴場と不死体を中心にとてつもない光を放つ爆発が起きた。周りで戦闘を繰り広げていた団員達は、その光に目を眩ませる。もしも粒子光線が冴場に直撃しているなら、冴場はもうこの世界から消失する事になる。だが、そんな不安など吹き飛ばすかの如く、光と爆発が収まると、そこには大剣を突き刺したままの構えで笑みを浮かべる冴場と、体のほとんどを爆発で失ったのであろう不死体がいた。
「言ったろうが、後悔するって……なぁ!!」
大剣を構え直し、大きく後方に飛びずさる冴場、飛びずさってから大剣の切っ先を崩れ落ちた不死体に向けて笑みを崩さずに見下したかのようにその名を言う。冴場の、異能力の名を。
「爆刃……俺が持つ能力の名前だ」」
爆刃。爆撃部隊副隊長、冴場悠介が持つ異能力。体の中心部から伝わる発火作用のエネルギーを全身を通じて解き放つ能力で、彼の場合は所持した大剣の刀身にそのエネルギーを集中させる事が多い。
「今のは、突き刺した切っ先に爆刃の発火作用を付与した、最も基礎的な能力の使い方だ」
冴場の言葉の途中で、シャドウタイプはまるでスライムが一つにまとまって形を成していくかのごとく、形態変化していった。だが、冴場は形態変化には一切の興味も抱かず、不適な笑みを浮かべたままゆっくりと不死体に向かって前進していく。
「形態変化ぁ?興味ねぇよそんなの」
巨体化したシャドウタイプは歩いてくる冴場に対して、何倍もの太さになった腕を振り下ろした。巨大な腕は、巨大だからこそ振り下ろされる速度が増大し、一瞬で冴場を殴り潰した……はずなのだが、その腕は、冴場の大剣によって防がれている。一瞬遅れて、周りの地面が一気に削れ、衝撃波を生んだ。
「おいおいおい……この大剣には今触れないほうがいいぜ?」
次の一撃を入れようとしていた不死体が腕を引こうとした瞬間、再び爆発が起きた。今度は、不死体の巨大な右腕が弾け飛んだ。その痛みか、怒りか分からないが、絶叫を響かせる。
「今のは反衝。大剣に触れたその時に爆刃を発動して、触れている面を爆発させる技だ。」
それで、と冴場は絶叫を挙げる巨体の目の前に高速で移動し、大剣を地面に突き刺してから両腕に力を込める。
「こいつが、最速の攻撃だ!」
一発、腹部に拳を殴り込む。すると、そのまま目にも止まらぬスピードで高速で巨体の腹部を殴り続ける。驚いたのは、不死体に一撃入る度に、その部分が小爆発を起こしている事だ。
「おらおらどうしたぁ!!的がデカ過ぎてもろにダメージ入ってんぞぉぉっ!!」
何度も何度も殴り続けると、やがて、爆発により不死体の腹部に穴が開いていく。そして、連撃を止めた冴場は地面に突き刺さっている大剣を抜き放ち、目の前で動きのとれない不死体に縦に一閃加える。
「最速の攻撃である爆連。これは、拳に発火作用を付与してから殴ることで、殴る度に小爆発を起こす高速連撃。今まで避けられた事はねぇ」
言葉を言い終わるのとほぼ同時、冴場は不死体に背を向けた。一閃を加えられた不死体は未だ動かず、まるでそこだけの時が止まっているようだ。
「んで、最後の一閃が、断ち切った標的の体に直接発火作用を付与させてから爆発させる、爆刃一閃だ」
冴場の後方で、肉塊が崩れ落ちる音が聞こえる。それが聞こえて来たかと思うと、すぐに大規模な爆発が起きた。
「制圧完了……この程度かよ。シャドウタイプってのは」
西門の制圧は最速で終了した。
今回は冴場メインの話でしたねー
爆刃。珍しく四文字ではない能力です。しかも、シャドウタイプをものともせずに撃破するという・・・・・・
神崎君の面子丸潰しですね(笑
さてさて、作戦第一フェイズはまだまだつづきますよー
よろしくでーす!




