九話大規模作戦提案
更新がもの凄く遅れてすいません!!
今回は短めの内容で書き上げましたが、何卒よろしくお願いします!
御剣の言葉により、いよいよ隊長格会議の本題に入る。議題は勿論、昨日の不死対駆逐作戦の詳細についてである。その中でも特に重要となるのが、作戦時に突如として現れた巨大な人型の不死体、通称影だ。影の姿を目の前で視界に収められたのは、あの時直接的に影と戦闘を繰り広げていた瞬と静理、そして孤影のみであるため、戦線に出てきていた隊長格のほとんどは全容を知らない。しかし、孤影の口頭での外見説明と、聖騎士団の科学者達による姿のシミュレートにより影の姿は再現された。
「これが……昨日神崎達が戦ってた奴か」
始めにディスプレイに表示された影の姿を見て、爆撃部隊副隊長の冴場が口を開いた。当然、机の上に足をのせたままである。
「はん。随分と醜い姿じゃねぇか」
冷徹な物言いは、彼の外見にぴったり合っていてまるで違和感を感じられない。そんな彼の言葉に、隣に座る援護部隊副隊長の昂大が静かに反応した。
「姿などどうでもいいだろう」
その言葉に、冴場が鋭い視線を向けて、同様に反応した。
「あぁ?いちいち反応してんじゃねぇよ」
「だったらいちいち口を開かない事だな。独り言は頭の中で言っておけ」
昂大の的確な言葉に、冴場は目つきをさらに鋭くした。だが、別に掴みかかるつもりはないようで、舌打ちした後二人の会話は終わる。周りにいる隊長格達は特に気に留めていない様子で、ディスプレイに映る影について各々口を開く。
「……ある程度見えていたとは言え、実際はこんな姿だったのか」
緒代が無表情を崩す事なくそう言った。
「…………え!?」
数秒の沈黙の後、隣に座る瞬が、驚いたように緒代の方を見た。そして、席を立ち上がってから勢いよく緒代の両肩を掴み顔を見る。
「お前、見えてたのか!?照明弾も消えかかってたあの暗闇!」
両肩を掴まれた緒代が不機嫌全開の表情で、瞬の腕を振り払う。
「……触れるな気持ち悪い。というか、僕を誰だと思っている?見えるに決まっているだろうあの程度」
それもそうである。緒代はれっきとした狙撃部隊の隊長なのだから、視力が悪いわけ無い。加えて、確定射撃を発動していたのなら尚更それは高まる。そうだよな、とすっかり意気消沈した瞬様子の瞬は、肩を落として自席に戻る。緒代に気持ち悪いと言われたのが、相当ショックだったのだろう。
「それよりも神崎、傷はもう大丈夫なのか?」
自席に座った瞬に、向かい側に座る静理が声をかける。瞬は長机の上で頬杖をつくと、どこか嬉しそうに表情を明るくした。
「うん、大丈夫。直接的な体へのダメージは小さかったから、ゆかりんの治療ですぐに回復したよ」
何故か明るくなった瞬は、右手でガッツポーズを作りながら答えた。ちなみに、ゆかりんとは救護部隊の隊長の大館の事である。何故そう呼んでいるのかは、またいつの日にか説明しよう。
「そ、そうか。それは良かった。というか、いきなり元気になったな」
「まあね。静理さん、クイズ大会でそういうこと言ってくれなかったし、嬉しいんだよ」
瞬が、満面の笑みでそう言うと、静理は頬を赤くして俯く。どことなく、二人の間に良い雰囲気が訪れる。が、そんな事を許すほど、甘くないのが現実だ。
「二人の世界を展開させている所失礼だけど、瞬」
真後ろから、細波の声が聞こえた。
「ん?何だ、細波?どうして俺の両肩を経験した事の無い握力で掴むんだ?」
声に反応し、振り向こうとしたのだが、どういうことだろう首が回らない。加えて、細波から掴まれているであろう両肩が、圧縮されるかのような痛みが――
「痛い痛い痛いっ!!」
悲鳴を上げて、彼女の腕を肩から離す。そして、一言文句を言ってやろうと振り向き様に立ち上がると、そこには、全てを凍てつかせる様な冷たいでこちらを見る細波がいた。その圧力に負けて、おとなしく再び座る。
「な、なんでしょうか細波さん?」
細波は、腕を胸の前で組んで冷徹な声のトーンで言葉を発する。
「アリスに影の詳細が届いているから、確認して頂戴」
言われて、胸元のポケットに入っている電子端末であるアリススタイル・タイプタブレット、通称アリスを取り出し、その画面を点ける。すると、画面に映し出された多様なメニューアイコンの内、「騎」と書かれたアイコンが点滅していた。それを右手だけで軽くタップすると、画面が切り替わり始め、すぐにアプリが起動した。トップページには、聖騎士団、と書いてあり、瞬はその下にあるメンバーログインと書いてある所をタップする。
「相変わらず読み込み速いなー」
と、その間にもログインは終了していて、瞬のユーザーページへと入る。そのユーザーページに、新着メッセージが届いているというお知らせがあり、さらにそこをタップすると新たなタブが開き、そこから何かのダウンロードが開始された。これは恐らく、影の詳細データであろう。一方で、同じ作業を行っていた静理は、両手でアリスを持って操作しているようだが、その表情は固い。
「むぅ……!ど、どうやったら出来るんだ!?」
つまりは機械音痴だと言う事だ。
「静理さん、貸して」
瞬は苦戦する静理のアリスを優しく取ると、先程同様に、メインメニューから「騎」をタップしようとするのだが、瞬の手にアリスが渡った瞬間に静理が全力でそれを奪い返した。
「はう!?か、かかか神崎!これは見るな!絶対見るな!」
かなり同様した静理は、奪い返した拍子にアリスを落としかけそうになる。が、もちろん落としはしない。その様子を目にした静理の隣に座る如月が驚き肩を震わせる。
「ふわぁ!?ど、どどどうしたんですか、藍河せんぱい!?」
神崎はその如月の心配の呼びかけでさえ警戒し、アリスを座ったまま腰の後ろに隠す。如月は、警戒されたのがショックであったためか、涙目になってしまう。静理はそれを見て、手は後ろに回したまま如月を慰める。
「す、すまない如月!そういうわけではないんだ!これはあくまで、思わず驚い」「……ひょい」
そんな彼女の後ろに、小さな人影が静かに現れ、腰に隠したアリスをあっさりと取り上げる。
「……あ、神崎君が待ち受――」
当然、その小さな影の正体は総合部隊副隊長の孤影である。静理はそれにさえも高速反応し、再びアリスを取り戻す。孤影の言葉は、その静理の動きで遮られた。その後、普段は無表情な孤影は、珍しく残念そうな顔をする。
「うわぁ!み、見るな見るな!」
「……残念かも」
しかし、孤影の言葉の一部はしっかりと瞬の耳に届いており、さぞかし興味深そうに静理の顔を見る。
「え?俺が待ち受け……って、え?」
興味深そうと言うより、明らかに動揺していた。
「い、いや神崎!違うんだ!これは、その……」
静理が顔を赤くしたまま俯いてしまうと、瞬もまた、ばったりと机に突っ伏した。細波はもの凄く呆れた顔で肩をすくめて自席へと帰っていった。孤影も、何事も無かったかのように自分の席へと着席しているのであった。
しばらくしてから(皆が大体影の詳細を自身のアリスで確認し終わってから)御剣が再び口を開いた。
「今回出現した影の詳細は皆さんのご覧の通りですが、ここで、改めて今までの不死体と何が変わったかを確認したいと思います」
影の全容を理解出来ている隊長格達は、一様に頷いたり返事を返したりする。先程まで二人の世界を展開させていた瞬と静理も、真剣な顔で頷く。それを見た御剣は、おもむろに立ち上がると、後ろにあるディスプレイへと足を運んだ。
「はい。では、今まで私達が確認出来ていた不死体の詳細を振り返ってみましょう」
言葉が終わると同時、ディスプレイには今まで戦闘の時に倒していた、瞬達とあまり身長は変わらない人型の不死体が映し出された。
「この不死体は、皆さんが知っているタイプの不死体です」
ディスプレイに映ったヒューマタイプ、クローンタイプ、オリジナルタイプの不死体は、普通の人間の三十倍以上の腕力、数キロ先までの音が聞こえる聴力、視覚嗅覚共に無し、加えて低知能な、ゲームやらアニメなどに良く出てきそうな、そんな感じの不死体である。
「ですが、「影」はその不死体と大きく違う点がいくつもあります。例えば、まずはその全長です」
影が巨体である事は、その場にいる全員のアリスから確認できる。大体の普通の不死体の全長を160~180cmだとすると、影の全長は、なんとその約五倍の大きさである。まず、この時点で普通の不死体とは大きく違う。
「かなりの巨体である事が分かりますね。ですが、それよりももっと通常の不死体とは異なる点があります。それが、形態変化です」
形態変化、その言葉に、隊長格達はそれぞれ多様な表情になった。興味深そうになって、ディスプレイを凝視する者や、怪訝な表情になる者、はたまた最初からどうでもよさそうな顔をする者など、ばらばらの反応を示した。
「形態変化、と言いますと・・・・・・具体的にどういったものですの?」
ふと、紅茶的なものを啜っていた交易部隊隊長の天条遙香がその具体性について聞いてきた。この疑問に対して答えたのは、御剣ではなく瞬だ。瞬はゆっくりと立ち上がると、冷静に解説を始める。
「まず初めの形態の時、全長は2m弱だったんだ。だけど、俺が隔離圧縮で圧縮したその時、隔離能力を打ち破る力で、影は再び姿を現した。それも、全長は何倍になって、な。それが形態変化だ」
「つまり、一度殺したにも関わらず、生き返って体に変化を及ばしたってことだよな」
瞬の解説に対して反応したのは、天条ではなく、製造部隊隊長の秋川であった。秋川の言葉に、瞬は静かに頷くとまた座る。
「神崎君の言ってる事からすると、そうなるわね」
救護部隊副隊長の深夏が、秋川の言葉に同意する。それに続くように、他の隊長格も同意の意を表していた。そこで形態変化についての話が終わると、御剣が落ち着いた雰囲気で話を再開する。
「神崎君の言っている通りです。そこが、今回議題に挙げられた影についての最もな詳細、即ち形態変化。そして、私達の今後の行動を大きく動かす事象です」
ディスプレイに表示されていた影が消え、さらにディスプレイ自体も黒画面となり消えた。御剣は、自席に座ると、咳払いを一つしてから話を切り替える。
「新たなタイプの不死体、影、そうですね、シャドウタイプと呼びましょうか。そのシャドウタイプが現れた事で、外界に大きな変化が起きている事が分かりますね?恐らく、このままではいずれ今よりも強力な不死体が生まれるかもしれません。そこで、私の方から一つ大掛かりな作戦を考えさせて頂きました」
御剣の言葉に、皆の表情が張り詰めたものになる。きっと、これから御剣が提案する作戦は、とてつもなく重要になるものだと察したのだろう。御剣も、それを確認すると、静かな声で提案した作戦を告げる。
「外界を、ここを開始拠点に制圧していきたいと思います」
御剣の提案した作戦、騎士領をスタート地点として外界を制圧していくというもの。これはつまり、聖騎士団の活動範囲及び領土を拡大し、大幅な勢力拡大をするためのものであった。それに加え、シャドウタイプの不死体が外界にいることを知った今、それよりも断然上の存在さえもあるかも知れない可能性も出てきたので、そのような不死体がさらに力をつけるのを防ごうという意思のもと立案されたのだ。当然、この作戦にはかなりのリスクとコストが伴う。まず持って、領土拡大をする事はその分騎士領全体の面積を広くすることなのだから、不死体からの格好の標的になってしまい、狙われる可能性が大きくなる。加えて、一回の作戦実行でかなりの戦力を消費する上に、作戦間隔はもの凄く開いてしまう。あまり利益を感じられないと考える者も隊長格の中にはいる。
「……不利益だな。僕は反対するぞ」
今まで押し黙っていた緒代が真っ先に反対の声を出した。その言い方は、趣旨を理解するつもりなど最初からないかのような言い方である。
「残念ですけど、私もはんたいです~」
続くように、緒代の向かい側に座る如月がおずおずと言った。つまりは、狙撃部隊は前面反対だと言う事だ。一方で、瞬と静理の特攻部隊二人はそれと違う反応を示す。
「う~ん、確かに危険な気もするけど、でも別に一気に色々やるわけじゃないんだよね?」
「うむ。間隔を開ける事が前提なのだから、団員も疲れを溜めずに作戦に集中出来ると私は思うが」
特攻部隊は二人とも賛成意見なようだ。これに加えて爆撃部隊のおやっさん、冴場も賛成意見を示した。
「面白そうじゃのう。俺は大いに賛成じゃ」
「外界で直接死体を根絶やしに出来るんだったら、おもしれぇじゃねぇか」
しかし二人の賛成意見は、どう見てもリスクやらコストやらを考えていない自己的な意見だ。いかにも爆撃部隊らしい。御剣は皆の反応を確認してから再び口を開く。
「皆さんそれぞれの意見があると思います。私もそれを予想してこの作戦を持ちかけました。皆さんの話を聞く限り、明らかに賛否両論。そうなる事は分かっていました。そこで、両者の意見をどちらも取り入れられるように実行計画を考えました」
つまり御剣が言いたいのは、リスクとコストを押さえられる上に、戦闘は確実に行い作戦を遂行するという事である。
「確かに、この作戦は勢力拡大をしていくのと同時に、不死体に狙われやすくなり、加えて一回の作戦実行での戦力消費も激しいです」
緒代が無表情のままゆっくりと頷いた。御剣は、ですが、とさらに言葉を続ける。
「こういうのはどうでしょうか。制圧作戦を、何分割もしてから少しずつ遂行していくというのは」
「分割……?どういう意味だぁ?」
最初にこの提案に反応したのは冴場であった。なにやら不機嫌そうな彼は、長机の上で足を組んだまま、冷たく問う。しかし御剣はそんな事を気にはせず、彼の疑問に優しく答える。
「はい、分割というのは、簡単に言えば、私達が騎士領の領土としている東京二十三区の内の三区、ここを最初に言った通り拠点として、そこから手始めに、残り二十区を一区ずつ制圧していくという事です」
要約すると、騎士領外部の二十区を一区ずつ制圧して、とりあえず東京を手中に収める、という事だ。御剣の言った言葉に、静理が納得の言葉と、そこから見出される効率の良さを口にした。
「なるほど……つまり、都市そのものを制圧するのではなく、その内側から少しずつ制圧するんだな。こうすれば、リスクもコスト押さえられるわけだ」
静理の言葉に、隊長格達は一斉に理解する事が出来た。否定した緒代と如月も、それならば、と同意の意見を口にする。
「……それならば、問題はないだろう」
「たいちょーの意見に同意します~!」
他の隊長格も一様に同じ反応を示した。確かに、この作戦ならばリスクもコストも押さえられる。加えて、確実に作戦を実行できるのだから、不死体が増殖しすぎる事もない。
「この制圧作戦が、私達聖騎士団のこれから、つまり未来を決める事となります。必ず成功させられるように頑張りましょう」
どうやら、最終議決を取る前に、御剣の中では作戦決行となったようだ。この言葉に、隊長格は各々苦笑を溢す。初めて、この隊長格会議内の空気が緩んだ気がした。もちろん、その後にちゃんと隊長格達は返事をする。
「……おー」
ちょっと遅れて、孤影が静かに手を挙げて反応した。座ったままの状態だと、普段よりも小さく見える彼女のその様子はとても可愛らしかった。
次回は隊長格会議が終わった後の瞬達のいろいろなやりとりを書きたいと思います。更新急ぐのでよろしくお願いします!




