外伝1・気休めクイズ大会《2》
気休めクイズ大会の後半部です。
一週間がかりなのが失礼ですが、頑張ります。
第何回か分からない聖騎士団内クイズ大会がコマーシャル間の休憩を取って、再開されようとしていた。ゲストメンバーである、静理、孤影、細波も、各々自席へと着席し、ある程度身なりを正してから準備する。如月も、台本に書いてある自分の台詞を再確認し、始まりからのペースについてカメラマンを含めたアシスタントなどと話し合っている。それは、瞬も同様である。彼は、自分の服装などを良く確認し、髪を手先で軽く弄って整えてから、自分の準備を手早く済ませると、再スタートのカメラの位置などを細かく指示し、万全の態勢を整えた。しかもそれだけではなく、回答者三人のほうにも行き、緊張を解そうとラフな気持ちで話しかける。普段はざっくりしていて大雑把そうに見える彼でも、こんな時、周囲にちゃんと気配りできるほどで、そう言った場面を知っている人々が聖騎士団には数多く存在している。肝心の瞬は、自分自身のそういった良い所に気付いていないので残念ではあるが。
コマーシャルも終わりを迎えていよいよ番組が再開される。ステージ上に一台、観客席に一台、スタンド席に一台、天井から一台の、計四台のカメラの内、ステージのカメラが静理に向けられた。静理は、む。と一声上げると、微笑しながら自分の言うべき台詞を言う。
「クイズ大会、再開するぞ!」
陽気な音楽とともに、クイズ大会が再開される。今の静理の微笑で、観客皆の興奮度がMAXになった事は言うまでもない。言葉が終わると、如月が続いて、観客席のカメラに向かって話し始める。
「それじゃあ第二問です~!」
デーデン!という音の後、ディスプレイに問題が出題される。そして、瞬はその問題を軽々読み上げる。
「第二問!特攻部隊隊長で有名な神崎瞬君ですが、そんな彼が愛してやまないものはなんでしょう?」
「だからなんでお前に関する問題なんだ!?しかも問題の意味が理解できないぞ!?」
またも、出題直後に静理から突っ込みを受ける。しかし今度は、安易には立ち上がらない。先程のカメラ位置を警戒し、抑え目に突っ込む。瞬は、少々残念そうな顔をして、第一問同様に言葉を綴る。
「だから、俺が作ったんだから許してよ」
静理はもう全開の呆れ顔で溜め息を吐く。これ以上何を言っても、瞬には通用しないとわかったのだろう。
「ほらほら、フリップに答えを書いて!」
しまいには急かされる始末だ。最早番組優先でしかないということを分からせてくれる。果たしてさっきまでの気配りはどこにいったのやら。
「くっ……!」
心底悔しそうにしながらも、答えを書いていく。というか、この問題の答えを書けるという事自体、凄い気がする。あと、細波がしっかりと起きている事に、瞬は若干の感動を覚えている。
「……簡単」
「簡単ね」
「以外に簡単ではないか」
なんと、三人は詰まる事なく、さらさら答えを書いていくのだ。果たして、瞬が愛してやまないものとは一体なんなのか。
「皆分かってるのか……?ふ、当ててみるがいいさ」
ついに、制限時間が終わり、如月が合図をする。観客達は、早く早くと言わんばかりな視線を回答者三人に向ける。その視線を受けた三人は顔を見合わせ、頷き合う。どうやら、答えが三人一致するほどの自身があるようだ。瞬はそんな彼女達を見て、思わずドキドキしてしまう。もちろん、やましい意味でのドキドキではなく、焦る方のドキドキである事は言うまでもない。
「はいどーぞ!」
ジャジャン!と、陽気な音が体育館内に響き渡る。それと同時に、彼女達のフリップはめくられる。そして、三人は声を合わせて答えを言う。
「聖騎士団だな!」
「……女性」
「私かしら?」
全く一致しないばらばらの答えを、だが。
「っておい!なんて答えだ!?」
一瞬、全ての刻が止まったかのように会場が白けたかと思うと、数秒遅れて瞬が大声を上げる。はっとなった会場全体は、何事かというように、ざわざわと騒然となっていく。正直、この場面で正しい答えを述べているのは静理ただ一人だけである。瞬は静理の下へ行きそこにあるフリップを取ると、答えを指で指し示しながら話し始める。
「あのね!静理さんは大正解だよ!いやもうほんといい答えだよ!」
次に、孤影のフリップをやや強引に奪うと、そのままの勢いで言葉を続ける。
「孤ー影さん!?いい加減に誤解を招くような答えは止めようね!?」
孤影は一切合財びくともしない。至って冷静。落ち着きまくっている。いやもうむしろ眠っているのでは?という疑問さえ浮かび上がりそうなくらいに静かである。無論、起きているが。
「……違う?神崎君は女の子、嫌い?」
「いやいやそういうことじゃないから!とにかく不正解!」
瞬は全力否定しながらそのフリップを破り捨てる。孤影は少し残念そうだ。次に、細波の下へと駆け寄る瞬。対する細波は、フリップを抱きかかえるようにして、眠っている。全く皆のお姉さんはわがまま少女である。彼は、短く溜め息を吐くと、引っぺがそうとする。が、細波は対抗せずに、そのままフリップにくっつくようににして、瞬の胸元へと飛び込む。
「うわぁ!?」
「きゃっ!」
そして細波はわざとらしく声をあげて、テーブル越しに瞬とぴったりくっつく。瞬は、一瞬それをいなそうとしたが、本気でテーブルから細波が落ちるのは若干困るので、支えるほかない。
「な、なんだよ!?」
それでも、急な行為に驚いた瞬は、慌てて体を離そうとする。だが、細波はむしろ体を密着させてくる。そして、小声で囁く。
(私じゃ嫌なのかしら?やっぱり……胸は大きいほうが好み?)
その言葉に、つい細波の胸元を見てしまう瞬。いつの間にか、細波の着ていた騎士学校の制服はブラウスの第三ボタン辺りまで開けられていて、決して胸があるとは言えないが、それでも形を成す細波の谷間が視界に入ってしまう。
(私は、いつでもいいのよ?瞬が、望むのなら)
妙に妖美なその顔に、瞬はつい、囚われてしまう。皆のお姉さんは、別の意味でお姉さんになっている事は、分かっていても言っちゃあいけない。
「はっ!?しまった、油断した!!」
瞬が、声を上げて自我を取り戻す。そして、慌てて細波を引き剥がすと、先程の勢いを再び蘇らせ、答えに対して突っ込みを入れる。
「あのな!そんな事あるわけないだろ!大体なんだよ今のは!?誘ってるのか!?」
細波は残念そうな顔をしながら瞬を離れる。瞬は、深く溜め息を吐くと、カメラが自分の後ろにある事を即座に察し、今のやり取りを、誤魔化すかのように満面の笑みを向ける。ただし、向けた相手がカメラであったかは定かでないのだが。
「あ、あれ~?おっかしいなー?カメラさーんカメラさーん!」
「どうしたんだ、神崎?何故私から目を反らす?」
皆さんのお察しの通り、静理がそこにはいました。
「り、理不尽だ……」
それでは番組を再開するとしよう。当然、何があったのかは聞いてはいけない。もう一度言う。聞いてはいけない。
「さ、さっきの問題は、藍河せんぱいの大正解です~!」
如月が何もなかったかのようにカメラに笑顔を向ける。それと同時に、ディスプレイに映された静理の得点は一から二へと変わる。加点終了だ。しかし一方の細波と孤影は、相変わらず無得点。このままでは、前半部分を静理がリードするだけである。というかそもそも、答えがめちゃくちゃすぎる。
「時間もないからぱぱっと第三問!」
瞬は、加点が終わると、先程の答えの解説を飛ばして次の問題へと移行する。三問目は、流石に自重したのであろうか、聖騎士団の戦闘部隊所属総団員数についての問題であった。細波と孤影も、さすがにこの問題は分かるらしく、静理も含めて三人見事に正解であった。ちなみに答えは760人
だ。解説はまたいずれ別の機会にすることになるであろうから、今はしない。三人にそれぞれ一点ずつ加点され、これでようやく孤影と細波に点が入った。
「それじゃあ第四問ですー!」
如月がコールをかけた。ということはつまり、第四問は如月から出題されるのであろう。それならば少々まし問題になるだろうと、静理は安堵の表情になる。
「問題!聖騎士団の日常をおもに支えている部隊である、製造部隊、交易部隊、救護部隊ですが、この三つのうち、いちばん優先されるべきだと言われている部隊はどこでしょー!!」
満面の笑みで元気いっぱいに出題する如月に対して、観客(主にロリコ……なんでもない)はその興奮度を増す。スタンド席の一部では、法被を来た眼鏡の太り気味な男が、妙なダンスを踊り声を上げながら場を盛り上げる。当然、他の客から非難を浴びたが。
「優先順位か……ならば考えられるのは……」
「……えと、なんだっけ?」
「ふうん。基礎中の基礎ね」
それぞれ、フリップに思う答えを書いていく。皆スラスラと書き終わり、制限時間が来る前にあっという間に全員がペンを置いた。
「お、皆終わったね。それじゃあ各回答を確認しようかな」
瞬の合図で、静理から順にフリップをめくる事になる。静理は、もう一度自分のフリップに書いてある答えを確認すると、カメラに向かってフリップをめくる。
「救護部隊だな。やはり、聖騎士団領内全体に大きく関わっているし、優先されるべきだと私は思うな」
瞬はうんうん、と強く頷く。この頷きは別に、正解だから頷いたわけではなく、説明が説得力あるものだから頷いているのだ。静理はそんな瞬を見ると、僅かに顔を赤らめて、小さく頷く。もちろん、周囲にはばれないように、だ。
「……あたしの答えは、交易部隊」
静理の次に、孤影がフリップをめくった。静かに告げられた答えは、静理のものとは大きく異なる、交易部隊であった。その真意を孤影は小さな声で話し始める。その様子に、思わず会場の空気も静かになる。ちなみに、孤影の衣装は休憩を挟んだにも関わらず、ゴスロリから変化していない。だが、敢えて誰もその事について触れてはいけない。
「……聖騎士団全体を常に見渡せる部隊は三つの中でここだと思う。普段から物の流通を把握できているし、妥当かも」
これまた、説得力の強い説明である。観客は様々な感嘆の声をあげる。また、先程の回答者である静理も
孤影の説明に納得したような顔を浮かべる。孤影の回答が終わると、次に細波が答えを発表する。
「ふうん?中々力のある説明ね、納得だわ。でも、私の答えはこれよ」
そう言って細波がフリップをめくる。そこに書いてあった答えは、静理と同じ救護部隊であった。細波は、皆が解説を待っている事に対し、あしらうように肩をすくめ、やる気のなさそうに呟く。
「解説なんか待たないでよね?それに関しては静理と内容は同じなんだから」
彼女の言葉は、決して嘘ではない。なぜなら、彼女の学力は騎士学校に属していた時から、静理よりも遥かに上だったからである。成績は常に学校トップで、運動も出来る、まさに文武両道才色兼備だったのだ。彼女が監視部隊を務められている理由の中にも、恐らくこの事が含まれているだろう。
「むしろ、私よりも正確な解説が誓歌には出来るんだろう?」
「は、はぁ!?そ、そんな訳無いわっ!言いすぎよ、静理」
静理の言葉を、細波が顔を赤くしながら否定する。カメラはすかさずその顔を写しに動きにかかるが、細波は高速でそれに反応し、右手で顔を覆いながら(当然、全部隠れるわけ無い)左手でカメラのレンズを塞ぎこむ。
「映さないで頂戴……!」
至極残念な事に、番組視聴者はおろか、観客者や他の回答者、如月や瞬にもその顔は一瞬しか視界に入れる事は出来なかった。滅多に見ることの出来ない細波の照れ顔が視界にうまく収まらなかった事を少し残念そうに表情に表しながらも、答え合わせを開始する。
「それじゃ答え合わせするよ。正解は製造部隊でしたー」
「な、なんだと!?」
「……?」
「あら残念」
三者同一の反応を見せた。力説ある中、誰一人として正解する事は不可能であったのだ。付け加えて、基礎中の基礎などと発言していた細波は顔を伏せていた。それ即ち、赤面した顔を隠そうとしていると言う事であろう。瞬はそんな事は差し置いて、解説を始める。
「皆、よく考えなよ。普段の皆の生活に最も近い部隊が優先されるわけなんだから、それを下に考えると、この聖騎士団領内で一番活動範囲が広いのは製造部隊だ」
瞬の言葉に続くように、静理が言葉を発する。
「つまり、騎士領から城下、上層部に、外界勢力まで、至る所に手が届いている製造部隊が優先されるわけだな」
そういうこと、と瞬が先程同様に強く頷く。そして静理もまた、先程と同じように僅かに顔を赤らめる。しかし今度は細波がしっかりと二人の様子を見ていたため、冷徹な突っ込みを入れる。
「そこ、二人だけの世界に入らないでくれるかしら?」
『すいません』
声を合わせて二人で謝罪する。息がぴったり合っている二人をみて、細波は溜め息を吐きながら肩をすくめるだけであった。
「それじゃあ~今回は皆さん無得点で、加点なしです~」
ディスプレイには、何の変化も生じる事はない。ここまで全問正解の静理は、加点されくて、少し残念そうな顔をする。細波は、少し伏せていた顔を上げると、同じく残念そうにする。孤影は、例によって無表情であった。
結局その後、第一ステージは静理が四点、孤影が二点、細波が二点のまま第五問を終了する。五問目の内容は、割愛。
「それじゃ第二ステージに入るからな!第二ステージは最初に言った通り、早押し問題!」
「皆さんの動体視力がひつようですー!」
瞬と如月の台詞のもと、クイズ大会は第二ステージを迎えた。得点は第一ステージからそのまま継続なので、実質このステージで孤影と細波が四問以上正解しなければ静理が優勝する事は確定されるだろう。その為、静理は二問先取で確定される勝利を目の前に、一層やる気が出る。
「よし、優勝して神崎と」「デートにでも行こうじゃないか、なんて言うつもりかしら?」
言葉の途中、細波に先を越された。いや、別にそういう意味では無かったのだが、言われてしまったので、反応しないわけにはいかない。だが、わかってほしい。これはあくまで見栄えを良くするための反応なのだ。
「ち、違うぞ!?そんな事は言ったりしないからな!」
静理の否定に、細波は特に深入りする事も無く、それ以上は言いはしなかった。ただし、あくまで静理の事は言わないだけであって、自分の事は言うのである。
「ふうん。それなら私は瞬とデートするきっかけを作りたいから本気出しちゃおうかしら」
意味深な発言に、静理は首を傾げる。どういう意味か聞き出そうとしたのだが、如月の指示により、問題が出題される直前だと言う事で、聞き出すことは出来なかった。
「それじゃ~いきますよ~!!」
ついに、第二ステージは幕を開ける。このステージで静理は二問先取し、優勝賞品を獲得してから、自分の考えを実行しなければいけない。その思いは、他の二人よりも圧倒的に大きい。先程言いかけて細波に遮られた言葉。もし細波が遮らなかったとしても、自分は同じように言葉を連ねていたかもしれない。思い出すと、少々恥ずかしくて顔が熱くなる。なんとなく、話題に出ていた瞬の方をちらりと見やるが、向こうは他所を見ていて目が合う事はない。何故だろう、今このタイミングで目が合わなかった事を安心している自分がいる。
(駄目だな、私は……)
小さく溜め息を吐いた静理を、クイズ大会が待つ事などない。軽快の音がなったと同時に、如月から問題が出題される。
「第一問!この聖騎士団は」
ピンポン!
と、誰かのボタンから音が聞こえた。予想はしていたが、まさかたったこれだけの文章で回答者が出ると思わなかった如月は、ひゃっ!と一声上げて硬直してしまう。それだけではなく、ボタンを押した人間以外の会場全体も一気に静寂に包み込まれた。
「ど、どうぞ……!」
如月が回答者に回答指示を出した。あれだけの文章で答えを導き出せるような、とんでもない力の持ち主。それは、紛れも無く、監視部隊隊長の細波であった。
「答えは三ね」
あくまで冷静に、静かに答えを告げる細波。その顔は余裕に満ちている。そして同様に、硬直の解けた如月がその答えに対して対応をする。
「せ、せいかいですー……」
如月の言葉と同時に、会場全体が静寂から大きなどよめきへと変化した。何故あれだけの文章で答えが分かってしまうのか、観客や、静理達には全く理解出来ていないのだ。細波は、まるで最初から文章を知っていたかのように、問題を完全に読み上げる。
「今の問題は、この聖騎士団は東京二十三区を切り拓いて出来ているものですが、では一体、その内何区を現在の活動拠点として持ち構えているでしょうか。よね?」
如月はそれを聞いて、呆気に取られた状態で頷く。どうやら、如月の台本に書いてあった文章と、完全一致しているのだろう。驚きのあまりに、会場は段々騒然としてくる。当然ながら、静理と孤影も驚いたような表情になる。
「……誓歌、凄い」
「す、素晴らしいな!あれだけで分かってしまうなど、普通、考えられないな」
皆がそうやって感嘆の声や驚きの声を漏らす中、ただ一人、この男だけは一瞬たりとも驚きを表す事が無かった。
「細波、ちょっといいかな?」
「あら、何かしら?」
この男とはつまり瞬の事だ。瞬は、腕を組んで誇らしげに座る細波の下へと駆け寄り、呼びかけた。細波は、余裕に溢れた表情で、その呼びかけに反応する。
「顔、よーく見せて」
と、言い終わる前には細波の眼前に瞬の顔が迫ってきていた。細波は、その勢いに驚き、赤くなりながら顔を反らそうとするのだが、瞬が両肩を掴んで首を固定する。
「な、何よ?そんなに凝視しないでくれる?」
瞬は、細波の言葉を聞く間もなくどんどんと顔を近付けていく。流石に、周りの人間も止めに入ろうとするのだが、その直前に、瞬は静止する。
「こんな公衆の面前で無理やりだなんて……どんな思考してるのよ?」
顔の赤い細波は、若干緊張しているのか少しだけ荒い息をしている。瞬は、ゆっくりと力を抜き、細波から離れると、大きな溜め息を吐いて、その後に言葉を発する。
「はぁぁ……細波、お前識別透視発動してるだろ?」
瞬の一言で、会場全体は再びどよめきを起こす。それと同時、細波がビクっと肩を揺らし、仰け反る。しかし、仰け反ったかと思うと、今度は小悪魔的な笑みを浮かべて、瞬の疑問に対抗意識を表す。
「そ、そうね。確かにそうよ。私は識別透視を発動しているわ。でも、それが何か問題なのかしら?」
「いやいや、問題ありだって」
当然ながら、瞬はそんな細波に対しさらに対抗する。
「お前の事だから、如月の持ってる台本を透視して、問題文を読み終わる前に答えを出したんだろう?」
瞬は、細波が識別透視で行った事を的確に口で説明していく。観客はそれを聞いて、細波は卑怯な事をしていないか、という思考を頭に浮かべ始めるのだが、細波は心外そうに両手を挙げて弁明を始める。
「確かに瞬の言うとおり、私は弥生の台本を透視したわ。でも、履き違えないで頂戴。私が透かしたのは、あくまで問題文であって、答えじゃないの。これは卑怯な事かしら?早押しは、問題文を聞いていく中で、答えが頭に浮かんだらボタンを押して回答をするもの。なら、私はちゃんと問題文を聞いた上で回答したのだから卑怯ではないと思うのだけれど」
立派な屁理屈に聞こえるかもしれないが、生憎と、細波の言っている事に間違いは無い。それどころか、彼女はこのステージの模範的回答法を使っているため、誰もなんとも言えない。加えて、本当に答えを透視していないか如月の台本を見たのだが、そこには問題文しか書いておらず、正答は細波達からは見えない死角の位置にあるカンペから出される事と、細波がカンペの位置を知るはずが無いことも瞬が知っていたため、尚更問題が無い事になる。
「はは……言ってる事もやってる事も本当に正しいから何とも言えないな」
「確かにそうだな」
「……油断した」
「如月せんぱい、頭がいいですよー」
細波の言葉に、圧倒的な説得力を感じた瞬達は、満場一致でそれを認めるしかなかった。
結果、残りの問題も全て細波の識別透視応用法で勝ち取られ、優勝は一番やる気のなかったはずの細波がクイズ大会を制する事となった。静理は、細波の意味深な発言の意味を深く理解し、心底悔しそうな表情をしていた。孤影もまた同様に、小さな息を吐いて、肩を少しだけ落として残念そうな瞳をする。あくまで、顔に直接出したりはしない。一方の細波はと言うと、優勝した事をまんざらでもないような顔をしながらも、僅かに頬を赤く染めながら余裕ぶっていた。
「最初のやる気の無さはどこに行ったんだろうな?」
「べ、別にやる気が無かったわけじゃないわ!ただ、睡眠時間を必要としたかっただけであって、多少なりともやる気はあったわ」
瞬はからかうように細波に言葉をかけ、細波はさらに頬を赤く染める。見事なまでに押しに弱いツンデレガールであることが分かる。お姉さん(別の意味で)として、自分から攻めに走る彼女も、逆に押されると、焦ってツンデレ化してしまうのか。と、観客達は勉強した。
「そ、それよりも瞬」
そろそろ番組を終わらせようかと色々な諸作業を行い始めようとした時、不意に細波が瞬を呼ぶ。瞬は、行こうとしてまた戻ってきて、反応をする。
「何かな?」
聞こうとしたところ、細波が再び顔を赤くする。瞬は疑問に思い、段々と近づくのだが、細波が片手を挙げてそれを制した。
「え、えと、折角証券も獲得した事だし、その、いつか近い日にでも、城下に一緒に行くのはどう……かしら?」
恐る恐る、瞬の方を見てみる細波。静理に言った時は軽い気持ちだったのだが、いざ誘うとなると、やけに緊張する。心臓の鼓動も早い。振られたらどうしよう。不安だ。何せそもそも、異能力を使って問題文を先読みしてから回答するというあまり褒められた手ではない勝利をしたのだし、断られる可能性は大だ。さて、どうなるのだろう。
「ああ、うん。何の予定も無い日なら別にいいよ」
「そ、そうよね。無理よね。ええ、分かってるわ……って、いいの!?」
瞬の返答に、思わず彼を二度見するほど驚いた。そして、もう一度聞きなおしてしまう。瞬は、そんな細波に対し、優しく頷く。
「うん。細波がいいんなら、俺はもちろんいいよ」
「そ、そう?分かったわ。それじゃ近い内に行きましょ。あ、それと先に言っておくけど……」
二人のいつの日かの予定が決まり、瞬がいよいよ行こうとした時、細波が最後に一言告げる。
「別に、あなたと行きたくて誘ったんじゃないんだからっ!暇だからどうせならと思っただけなんだからねっ!」
そっぽを向きながら、ツンとした言葉を放つ細波を、瞬は微笑しながら承諾した。
「了解」
かくして、第何回目か分からない聖騎士団内クイズ大会は細波の異能力逆転優勝で幕を閉じた。番組終了後には、一斉回答で使用したフリップに各回答者がサインを書き、会場内抽選を行って直に観客に渡したり、視聴者プレゼントの応募内容を発表したりしていた。観客達は、様々な隊長格クラスの団員の滅多に見ることの出来ない素顔を間近で見れて、満足した様子で帰宅していった。この様子ならば、視聴率も中々に高いはずだと、瞬達は達成感溢れた顔で、夕方からの隊長格会議に向けて各自自宅へと帰宅していった。だが、忘れてはいけないのは、スイッチの切り替えだ。あくまでこれは気休めであって、おふざけではない。帰宅後の瞬達は、番組内とは違う張り詰めた表情になるだけであった。
細波を責めてはいけません。
彼女は正攻法を使っていたのですから、悪い事はありません。どうか、彼女のツンデレ+お姉さん属性でお許しを。
次回は、全隊長格の登場話となります。
よろしくお願いします!




